Hothotレビュー
10nmプロセスで高性能になったJasper Lake搭載タブレット「Hi10 Go」の実力
2021年7月12日 06:50
CHUWIの「Hi10 Go」は、プロセッサにIntelの省電力コア採用の“Jasper Lake”を採用した10.1型のWindowsタブレットだ。7月末に直販サイトで発売予定で、価格は、本体+専用カバー+専用キーボード+デジタイザペン「HiPen H6」付きで319ドル(約3万5,000円)、クーポン「HG20PR」利用で20ドル割引の299ドル(約3万3,000円)となり、かなり安いのが特徴だ。
この製品はもともと4月に発売予定で、SoCにはCeleron N5100という4コアCPUが採用される予定だったが、急遽キャンセルされ、2コアのCeleron N4500となって7月発売に変更された。変更になった理由は不明だが、最新のJasper Lake搭載であることに変わりはない。
PC WatchでJasper Lake搭載機をレビューするのは、実は初めて。2コアで最下位モデルとは言え、同世代の性能をある程度垣間見えそうだ。Atom系列の末裔が、どのような性能を見せてくれるのか楽しみである。
10nmプロセスに微細化されたJasper Lakeとは
Jasper LakeはIntelが1月に発表した省電力プロセッサ。Intelではこれを「教育向け」としてリリースしているが、つまるところは一般のユーザーが使うような5万円超クラスのPCではなく、昨今のGIGAスクール構想のような、義務教育の段階で使用するPCに適した性能と価格帯(5万円切り)をターゲットにしたモデルだと捉えた方が良さそうだ。
Jasper LakeではTremontと呼ばれる、2019年に発表された省電力コアが採用されている。Gemini Lake世代のGoldmont Plusコアと比較して、平均で30%超のシングルスレッド性能強化が図られているのが特徴で、10nm化やアーキテクチャ改善に伴うクロック向上も合わせて、性能が向上している。
特に、上位のCoreプロセッサと同クラスの分岐予測が可能になったほか、1サイクルで最大6命令までデコード可能なアーキテクチャなどが、IPC向上に一役買っていると言えるだろう。
加えて、GPU側もIce Lake世代と同じアーキテクチャとなり、性能が向上した。最新のIntel Xe世代ではないところが残念だが、それでもグラフィックス性能に関しては従来から78%向上したという。
Gemini Lake世代では、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット(フルHD)を超えた途端、Windows 10の普段のUIを含めてもっさり感があり、例え4K出力が可能であったにしても、正直あまり実用的ではなかったのだが、GPU性能の向上でその改善に期待したい。
確かにGemini Lakeより性能は高く、2コアで4コアに肉薄
Hi10 Goは、このJasper LakeことCeleron N4500を搭載したタブレットである。主な仕様は下表の通りだが、メモリ6GBでストレージは128GBというスペックは、Windows 10をストレスなく使う上での最低ラインだと言っていい。
【表】CHUWI Hi10 Goの主な仕様 | |
---|---|
CPU | Celeron N4500 |
メモリ | 6GB(デュアルチャネル) |
ストレージ | 128GB eMMC |
液晶 | 1,920×1,200ドット表示対応10.1型 |
OS | Windows 10 Home 20H2 |
インターフェイス | USB Type-C×2(うち1基は電源)、micro HDMI出力、microSDカードスロット、3.5mmミニジャック |
無線 | Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)、Bluetooth 5.1 |
本体サイズ | 243.9×162.6×8.5mm(幅×奥行き×高さ) |
早速ではあるが、注目のベンチマーク結果を紹介したい。今回はエントリー向けということもあり、高度な3Dゲームは省き、PCの総合性能をテストするのに最適な「PCMark 10」に加え、CPU性能を計測できる「Cinebench R23」、ならびに「3DMark」、「ドラゴンクエストXベンチマークソフト」、「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」を用意した。
プリインストールされていたWindows 10 Homeは20H2であったので、このまま執筆時点で最新の6月のパッチを当てた状態にしてある。比較参考用としてTENKUのCeleron J4115搭載機「SlimBook 14」のスコアを以前の記事から流用した。
【表】ベンチマーク結果 | ||
---|---|---|
機種 | Hi10 Go | SlimBook 14 |
CPU | Celeron N4500 | Celeron J4115 |
メモリ | 6GB | 8GB |
ストレージ | 128GB | 256GB |
液晶 | 1,920×1,200ドット対応10.1型 | 1,920×1,080ドット対応14型 |
PCMark 10 | ||
PCMark 10 Score | 1,753 | 1,666 |
Essentials | 4,615 | 4,567 |
App Start-up Score | 4,713 | 4,860 |
Video Conferencing Score | 4,464 | 4,477 |
Web Browsing Score | 4,673 | 4,378 |
Productivity | 2,457 | 2,610 |
Spreadsheets Score | 2,536 | 2,667 |
Writing Score | 2,382 | 2,555 |
Digital Content Creation | 1,292 | 1,054 |
Photo Editing Score | 1,451 | 1,083 |
Rendering and Visualization Score | 843 | 740 |
Video Editing Score | 1,765 | 1,464 |
3DMark | ||
Time Spy | 193 | 129 |
Fire Strike | 617 | 401 |
Wild Life | 1,465 | 1,007 |
Night Raid | 2,071 | 1,657 |
Cinebench R23.200 | ||
CPU(Multi Core) | 901 | 1,111 |
CPU(Single Core) | 516 | 380 |
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク | ||
1,280×720ドット 標準品質(ノ-トPC) | 1,665 | 1,705 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト | ||
1,280×720ドット 標準品質 | 3,003 | 2,265 |
1,280×720ドット 最高品質 | 2,488 | 1,833 |
CドライブをCrrystalDiskMark 8で計測 | ||
1M Q8T1 シーケンシャルリード | 286 | 556.51 |
1M Q8T1 シーケンシャルライト | 146.8 | 466.56 |
1M Q1T1 シーケンシャルリード | 274.4 | 455.72 |
1M Q1T1 シーケンシャルライト | 142.85 | 390.46 |
4K Q32T16 ランダムリ-ド | 53.61 | 121.99 |
4K Q32T16 ランダムライト | 26.91 | 100.72 |
4K Q1T1 ランダムリ-ド | 22.93 | 15.81 |
4K Q1T1 ランダムライト | 28.43 | 50.83 |
まずPCMark 10の結果を見ると、Celeron N4500は、2倍多い4コアでなおかつTDPが高いCeleron J4115の結果を上回るスコアを示した。正直、これは素晴らしいというほかない。10nmに微細化しつつ、アーキテクチャが大きく改善されたTremontコアによるところも多いのだが、Ice Lakeと同じ世代になったGPUの面目躍如といったところだ。
特に、PCMark 10のContent Creationの項目では、本来CPUコア数もある程度重要視されるのだが、GPUも活用されるため、2コア分のビハインドを補えるだけの能力を兼ね備えていることが分かる。これなら、CPUコアもGPUの実行ユニット数も2倍となる上位のPentium Silverの結果が楽しみだ。
Cinebench R23.200の結果でも、CPUアーキテクチャ改善による効果が如実に現れている。単純なスコア計算では、シングルコアで約36%もの向上だ。合計コア数が半分のため、Multi Coreのスコアは8割程度に留まっているが、それでも2コアだけだと考えればすごい。
3D関連のベンチマークのスコアを見ると、ファイナルファンタジーXIVを除いても、ざっくり3割~5割増という結果。Celeron J4115のGPU実行ユニット数は12基のため、単純な数でもCeleron N4500が上回っているが、その数の差以上に性能が向上しているのも、やはりGPUアーキテクチャの改善によるところが大きいといったところだ。
一方、ストレージの速度を計測するCrystalDiskMarkの結果は芳しくない。本機はSSDではなくeMMCが採用されているため致し方ないところだ。とは言え、PCMark 10の結果から分かるとおり、大きく使用感を損なうほどのものでもない。eMMCと言えどもHDDと比較してランダムアクセスの性能が遥かに優れているので、普段遣いなら十分だ。
スコアは素晴らしいが、実際の使用感は?
ベンチマークの結果は上々なのだが、では実際の使用感はどうか? と言われると、利用シーンによる、というのが正直な感想。例えばWindows 10の一般的な操作感やレスポンスはCeleron J4115以上。スタートボタンを押した時に現れるスタートメニューのレスポンス、通知の表示、ウィンドウの移動や最大化/最小化操作、画面のスクロール、タッチキーボードの表示などはキビキビしていて気持ちいい。
特に長いWebページを超高速スクロールした場合、SlimBook 14だとたまに空白が入って、表示されるまでに時間がかかる時があったが、Hi10 Goだとその時間がより短く感じられ、ほとんど気にならないレベルにはなる。
その一方で、バックグラウンドで何かが動作しているとフォアグラウンドが重く感じられるのはHi10 Goである。特にWindows Updateなどが裏で実行されていると、Hi10 GoではCPU使用率が100%張り付きになり、「OSが頑張ってリソースをフォアグラウンドアプリに割り振り、プリエンプティブマルチタスクを実行しているな」感はある。Windows Updateのタスクの優先度は低いので、使用感の低下は最小限に抑えられているのだが、タスクマネージャーで眺めているとやはりSlimBook 14の方に余裕があることが分かる。
よってHi10 Goを快適に使いたいなら、Windows Updateが動き始めたらとりあえず終わるまで一息するか、暇な時に手動でWindows Updateを当てておくといった運用法でCPUリソースの不足を補うようにしたい。そこは価格とのトレードオフだ。
バッテリ駆動時間は、輝度50%の状態でPCMark 10のModern Officeで計測したところ、残り20%まで4時間6分駆動した。公称値では6時間とされているので、こんなところだろう。充電はUSB Type-Cで、最大24W給電に対応しているため、ヘヴィユースでなければ困ることはない。
液晶は高品質。そのほかも及第点
最後にタブレットとしての使い勝手を見ていく。筐体は安価なタブレットにありがちな2ピース構造で、一部は上部はプラスチックとすることで電波の通りを良くしていると思われる。背面の大部分は金属製で剛性が高い。ダークシルバー色でサンドブラスト加工されており、質感はなかなか良いと感じた。
左側面は電源ボタンと音量調節ボタン、上部はマイクとスピーカーの穴、右側面はUSB Type-C×2(中央のほうは給電対応)、Micro HDMI、microSDカードスロット、3.5mmミニジャック、下部はキーボード接続用ポゴピンと位置合わせ用ノブと、かなり整理されている。個人的にはボタンとインターフェイスを逆にしてほしかったところ。
電源ボタンと背面のWebカメラの周囲には赤いアクセントが用いられており、このあたりはCHUWIの一部製品のチャームポイントにもなっている。
液晶は1,920×1,200ドット。視野角はかなり広く、色味も正しい。一般的な安いタブレットに使われている液晶よりは随分と黒が締まって見える印象で、安っぽさは感じられない。できれば、照明を落として映画を鑑賞する際にもう少し暗くできるとベターだったが、明るい部屋で使うぶんには不自由ないだろう。
スピーカーは低音が不足する印象だが、音量を50%まで設定すればボリュームは十分。ヘッドフォン出力はホワイトノイズを多めに感じるものの、低域/高域のバランスはよく、ボリュームは十分確保できるだろう。Webカメラは前面が屋内で問題なく映るレベル、背面はこの手のタブレットにしては頑張っている印象である。
仕様紹介のところでは特に触れなかったが、本機の無線LANはRealtekの8821CEが用いられている。そのため規格的にはWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)止まりとなる。プロセッサのパワー的にはこれで十分という判断だろう。
セットとなるカバーは、背面と四隅を覆う形。このカバーは背面がキックスタンドになっているのがポイント。足はかなりの角度まで倒れるようになっており、実用性は高い。厚みがあるので、Webカメラが出っ張らなくなるのもいい。事実上必須の装備だ。
一方でキーボードは英語配列のもの。ストロークはそこそこ深く、わずかに硬めだがしっかりした打鍵感だ。キーピッチは主要キーで17.5mmとやや狭いが、ほとんどのキーのピッチが均一なので、戸惑うことは少ないだろう。弱点はファンクションキーがFnと数字の同時押しになっているところで、日本語入力などで多用する場合は少しネックになるかもしれない。タッチパッドは85×52mmというスペースで、快適に利用できた。
ちなみに重量は本体単体が518g、カバー付きが732g、キーボードまで含めると969g。軽量とまではいかないが、ポータビリティは悪くない。一式含めてもサブノート感覚だ。
本機はさらに「HiPen H6」にも対応している。Micro USBで充電でき、替芯も利用可能、筆圧は4,096レベルといった仕様。実際に試してみたところ、ややレイテンシが大きい印象だが、ポインティング自体の精度は高いため、ちょっとしたメモ書きや、アイディアをペンでまとめるといった用途には十分といったところだろう。
GIGAスクール狙いだろうが、サブ機にも好適
10.1型という手頃なサイズ、そこそこの性能、6GBメモリに128GBストレージという困らない容量。そしてキーボードも使え、ペン入力も対応。それでいてセットで購入しても4万円を切る価格は、明らかにGIGAスクールのニーズを踏まえたモデルだ。確かに子供用の端末としては過不足なくまとまっている印象で、自分の子供用としても欲しい1台だ。
その一方で、Webブラウジングや動画視聴、オンラインでドキュメントを編集するといった、一般ユーザーのサブ機としても活躍できそうではある。特に、次世代のWindows 11ではタッチ操作がより快適になるため、これまで以上にタブレットが活きそう。それを見越して買ってみるのも面白いだろう。