Hothotレビュー

10nmプロセスで高性能になったJasper Lake搭載タブレット「Hi10 Go」の実力

Hi10 Go

 CHUWIの「Hi10 Go」は、プロセッサにIntelの省電力コア採用の“Jasper Lake”を採用した10.1型のWindowsタブレットだ。7月末に直販サイトで発売予定で、価格は、本体+専用カバー+専用キーボード+デジタイザペン「HiPen H6」付きで319ドル(約3万5,000円)、クーポン「HG20PR」利用で20ドル割引の299ドル(約3万3,000円)となり、かなり安いのが特徴だ。

 この製品はもともと4月に発売予定で、SoCにはCeleron N5100という4コアCPUが採用される予定だったが、急遽キャンセルされ、2コアのCeleron N4500となって7月発売に変更された。変更になった理由は不明だが、最新のJasper Lake搭載であることに変わりはない。

 PC WatchでJasper Lake搭載機をレビューするのは、実は初めて。2コアで最下位モデルとは言え、同世代の性能をある程度垣間見えそうだ。Atom系列の末裔が、どのような性能を見せてくれるのか楽しみである。

10nmプロセスに微細化されたJasper Lakeとは

 Jasper LakeはIntelが1月に発表した省電力プロセッサ。Intelではこれを「教育向け」としてリリースしているが、つまるところは一般のユーザーが使うような5万円超クラスのPCではなく、昨今のGIGAスクール構想のような、義務教育の段階で使用するPCに適した性能と価格帯(5万円切り)をターゲットにしたモデルだと捉えた方が良さそうだ。

 Jasper LakeではTremontと呼ばれる、2019年に発表された省電力コアが採用されている。Gemini Lake世代のGoldmont Plusコアと比較して、平均で30%超のシングルスレッド性能強化が図られているのが特徴で、10nm化やアーキテクチャ改善に伴うクロック向上も合わせて、性能が向上している。

CHUWIのホームページでもJasper Lake採用による性能向上が謳われている

 特に、上位のCoreプロセッサと同クラスの分岐予測が可能になったほか、1サイクルで最大6命令までデコード可能なアーキテクチャなどが、IPC向上に一役買っていると言えるだろう。

 加えて、GPU側もIce Lake世代と同じアーキテクチャとなり、性能が向上した。最新のIntel Xe世代ではないところが残念だが、それでもグラフィックス性能に関しては従来から78%向上したという。

 Gemini Lake世代では、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット(フルHD)を超えた途端、Windows 10の普段のUIを含めてもっさり感があり、例え4K出力が可能であったにしても、正直あまり実用的ではなかったのだが、GPU性能の向上でその改善に期待したい。

確かにGemini Lakeより性能は高く、2コアで4コアに肉薄

 Hi10 Goは、このJasper LakeことCeleron N4500を搭載したタブレットである。主な仕様は下表の通りだが、メモリ6GBでストレージは128GBというスペックは、Windows 10をストレスなく使う上での最低ラインだと言っていい。

【表】CHUWI Hi10 Goの主な仕様
CPUCeleron N4500
メモリ6GB(デュアルチャネル)
ストレージ128GB eMMC
液晶1,920×1,200ドット表示対応10.1型
OSWindows 10 Home 20H2
インターフェイスUSB Type-C×2(うち1基は電源)、micro HDMI出力、microSDカードスロット、3.5mmミニジャック
無線Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)、Bluetooth 5.1
本体サイズ243.9×162.6×8.5mm(幅×奥行き×高さ)

 早速ではあるが、注目のベンチマーク結果を紹介したい。今回はエントリー向けということもあり、高度な3Dゲームは省き、PCの総合性能をテストするのに最適な「PCMark 10」に加え、CPU性能を計測できる「Cinebench R23」、ならびに「3DMark」、「ドラゴンクエストXベンチマークソフト」、「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」を用意した。

 プリインストールされていたWindows 10 Homeは20H2であったので、このまま執筆時点で最新の6月のパッチを当てた状態にしてある。比較参考用としてTENKUのCeleron J4115搭載機「SlimBook 14」のスコアを以前の記事から流用した。

【表】ベンチマーク結果
機種Hi10 GoSlimBook 14
CPUCeleron N4500Celeron J4115
メモリ6GB8GB
ストレージ128GB256GB
液晶1,920×1,200ドット対応10.1型1,920×1,080ドット対応14型
PCMark 10
PCMark 10 Score1,7531,666
Essentials4,6154,567
App Start-up Score4,7134,860
Video Conferencing Score4,4644,477
Web Browsing Score4,6734,378
Productivity2,4572,610
Spreadsheets Score2,5362,667
Writing Score2,3822,555
Digital Content Creation1,2921,054
Photo Editing Score1,4511,083
Rendering and Visualization Score843740
Video Editing Score1,7651,464
3DMark
Time Spy193129
Fire Strike617401
Wild Life1,4651,007
Night Raid2,0711,657
Cinebench R23.200
CPU(Multi Core)9011,111
CPU(Single Core)516380
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
1,280×720ドット 標準品質(ノ-トPC)1,6651,705
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト
1,280×720ドット 標準品質3,0032,265
1,280×720ドット 最高品質2,4881,833
CドライブをCrrystalDiskMark 8で計測
1M Q8T1 シーケンシャルリード286556.51
1M Q8T1 シーケンシャルライト146.8466.56
1M Q1T1 シーケンシャルリード274.4455.72
1M Q1T1 シーケンシャルライト142.85390.46
4K Q32T16 ランダムリ-ド53.61121.99
4K Q32T16 ランダムライト26.91100.72
4K Q1T1 ランダムリ-ド22.9315.81
4K Q1T1 ランダムライト28.4350.83

 まずPCMark 10の結果を見ると、Celeron N4500は、2倍多い4コアでなおかつTDPが高いCeleron J4115の結果を上回るスコアを示した。正直、これは素晴らしいというほかない。10nmに微細化しつつ、アーキテクチャが大きく改善されたTremontコアによるところも多いのだが、Ice Lakeと同じ世代になったGPUの面目躍如といったところだ。

 特に、PCMark 10のContent Creationの項目では、本来CPUコア数もある程度重要視されるのだが、GPUも活用されるため、2コア分のビハインドを補えるだけの能力を兼ね備えていることが分かる。これなら、CPUコアもGPUの実行ユニット数も2倍となる上位のPentium Silverの結果が楽しみだ。

 Cinebench R23.200の結果でも、CPUアーキテクチャ改善による効果が如実に現れている。単純なスコア計算では、シングルコアで約36%もの向上だ。合計コア数が半分のため、Multi Coreのスコアは8割程度に留まっているが、それでも2コアだけだと考えればすごい。

 3D関連のベンチマークのスコアを見ると、ファイナルファンタジーXIVを除いても、ざっくり3割~5割増という結果。Celeron J4115のGPU実行ユニット数は12基のため、単純な数でもCeleron N4500が上回っているが、その数の差以上に性能が向上しているのも、やはりGPUアーキテクチャの改善によるところが大きいといったところだ。

 一方、ストレージの速度を計測するCrystalDiskMarkの結果は芳しくない。本機はSSDではなくeMMCが採用されているため致し方ないところだ。とは言え、PCMark 10の結果から分かるとおり、大きく使用感を損なうほどのものでもない。eMMCと言えどもHDDと比較してランダムアクセスの性能が遥かに優れているので、普段遣いなら十分だ。

スコアは素晴らしいが、実際の使用感は?

 ベンチマークの結果は上々なのだが、では実際の使用感はどうか? と言われると、利用シーンによる、というのが正直な感想。例えばWindows 10の一般的な操作感やレスポンスはCeleron J4115以上。スタートボタンを押した時に現れるスタートメニューのレスポンス、通知の表示、ウィンドウの移動や最大化/最小化操作、画面のスクロール、タッチキーボードの表示などはキビキビしていて気持ちいい。

 特に長いWebページを超高速スクロールした場合、SlimBook 14だとたまに空白が入って、表示されるまでに時間がかかる時があったが、Hi10 Goだとその時間がより短く感じられ、ほとんど気にならないレベルにはなる。

 その一方で、バックグラウンドで何かが動作しているとフォアグラウンドが重く感じられるのはHi10 Goである。特にWindows Updateなどが裏で実行されていると、Hi10 GoではCPU使用率が100%張り付きになり、「OSが頑張ってリソースをフォアグラウンドアプリに割り振り、プリエンプティブマルチタスクを実行しているな」感はある。Windows Updateのタスクの優先度は低いので、使用感の低下は最小限に抑えられているのだが、タスクマネージャーで眺めているとやはりSlimBook 14の方に余裕があることが分かる。

 よってHi10 Goを快適に使いたいなら、Windows Updateが動き始めたらとりあえず終わるまで一息するか、暇な時に手動でWindows Updateを当てておくといった運用法でCPUリソースの不足を補うようにしたい。そこは価格とのトレードオフだ。

 バッテリ駆動時間は、輝度50%の状態でPCMark 10のModern Officeで計測したところ、残り20%まで4時間6分駆動した。公称値では6時間とされているので、こんなところだろう。充電はUSB Type-Cで、最大24W給電に対応しているため、ヘヴィユースでなければ困ることはない。

付属のACアダプタはUSB Type-Cだが、相変わらず12V/2A出力のみ。ほかのデバイスで使用しないように

液晶は高品質。そのほかも及第点

 最後にタブレットとしての使い勝手を見ていく。筐体は安価なタブレットにありがちな2ピース構造で、一部は上部はプラスチックとすることで電波の通りを良くしていると思われる。背面の大部分は金属製で剛性が高い。ダークシルバー色でサンドブラスト加工されており、質感はなかなか良いと感じた。

 左側面は電源ボタンと音量調節ボタン、上部はマイクとスピーカーの穴、右側面はUSB Type-C×2(中央のほうは給電対応)、Micro HDMI、microSDカードスロット、3.5mmミニジャック、下部はキーボード接続用ポゴピンと位置合わせ用ノブと、かなり整理されている。個人的にはボタンとインターフェイスを逆にしてほしかったところ。

 電源ボタンと背面のWebカメラの周囲には赤いアクセントが用いられており、このあたりはCHUWIの一部製品のチャームポイントにもなっている。

本体背面。ほとんどは金属で、手にするとひんやりして質感は高い
底面にはキーボード接続用のポゴピンを搭載
左側面には電源ボタンと音量調節ボタン
上部はマイクとスピーカー
右側面はUSB Type-C×2、Micro HDMI、microSDカードスロット、音声入出力。Type-Cのうち中央寄りのポートのみ充電をサポート
特徴的なWebカメラ

 液晶は1,920×1,200ドット。視野角はかなり広く、色味も正しい。一般的な安いタブレットに使われている液晶よりは随分と黒が締まって見える印象で、安っぽさは感じられない。できれば、照明を落として映画を鑑賞する際にもう少し暗くできるとベターだったが、明るい部屋で使うぶんには不自由ないだろう。

液晶最大輝度はそれなりに明るく、明るい屋内でも不足はない
最低輝度はスマートフォンほど落とせないが、暗い場所で眩しくは感じないレベルにはなる
液晶は黒が引き締まっている印象。視野角も広く、価格を考えればかなりいい部類だ

 スピーカーは低音が不足する印象だが、音量を50%まで設定すればボリュームは十分。ヘッドフォン出力はホワイトノイズを多めに感じるものの、低域/高域のバランスはよく、ボリュームは十分確保できるだろう。Webカメラは前面が屋内で問題なく映るレベル、背面はこの手のタブレットにしては頑張っている印象である。

 仕様紹介のところでは特に触れなかったが、本機の無線LANはRealtekの8821CEが用いられている。そのため規格的にはWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)止まりとなる。プロセッサのパワー的にはこれで十分という判断だろう。

 セットとなるカバーは、背面と四隅を覆う形。このカバーは背面がキックスタンドになっているのがポイント。足はかなりの角度まで倒れるようになっており、実用性は高い。厚みがあるので、Webカメラが出っ張らなくなるのもいい。事実上必須の装備だ。

カバーは四隅でホールドするもの。キックスタンド装備で自立できる
スタンドはかなりの角度まで倒せるので、ペンで筆記の際は重宝する

 一方でキーボードは英語配列のもの。ストロークはそこそこ深く、わずかに硬めだがしっかりした打鍵感だ。キーピッチは主要キーで17.5mmとやや狭いが、ほとんどのキーのピッチが均一なので、戸惑うことは少ないだろう。弱点はファンクションキーがFnと数字の同時押しになっているところで、日本語入力などで多用する場合は少しネックになるかもしれない。タッチパッドは85×52mmというスペースで、快適に利用できた。

 ちなみに重量は本体単体が518g、カバー付きが732g、キーボードまで含めると969g。軽量とまではいかないが、ポータビリティは悪くない。一式含めてもサブノート感覚だ。

キーボードは英語配列。主要キーのキーピッチは17.5mm程度となっているが、意外にも狭くは感じない。ファンクションキーはFnと数字の同時押しなので、人によってはネックになるだろう
本体単体での重量は518gと平均的な部類
カバーだけを取り付けると732gとなる
キーボードまで含めると969g。軽い13.3型ノート程度だ

 本機はさらに「HiPen H6」にも対応している。Micro USBで充電でき、替芯も利用可能、筆圧は4,096レベルといった仕様。実際に試してみたところ、ややレイテンシが大きい印象だが、ポインティング自体の精度は高いため、ちょっとしたメモ書きや、アイディアをペンでまとめるといった用途には十分といったところだろう。

HiPen H6に対応。Micro USBで充電できるので便利だ
ポインティング精度は高いが、遅延がちょっと気になる

GIGAスクール狙いだろうが、サブ機にも好適

 10.1型という手頃なサイズ、そこそこの性能、6GBメモリに128GBストレージという困らない容量。そしてキーボードも使え、ペン入力も対応。それでいてセットで購入しても4万円を切る価格は、明らかにGIGAスクールのニーズを踏まえたモデルだ。確かに子供用の端末としては過不足なくまとまっている印象で、自分の子供用としても欲しい1台だ。

 その一方で、Webブラウジングや動画視聴、オンラインでドキュメントを編集するといった、一般ユーザーのサブ機としても活躍できそうではある。特に、次世代のWindows 11ではタッチ操作がより快適になるため、これまで以上にタブレットが活きそう。それを見越して買ってみるのも面白いだろう。