Hothotレビュー
約25万円の映像プロ向けスマホ「Xperia PRO」
2021年2月10日 09:55
ソニーモバイルコミュニケーションズは、映像クリエイターや報道カメラマンなど映像製作のプロフェッショナル向けスマートフォン「Xperia PRO」を2月10日より発売する。本稿では、発売に先駈けてXperia PROの実機を試用する機会を得たので、ハードウェア面を中心に紹介する。直販サイトでの販売価格は24万9,800円。
Xperia 1 IIより大きくずっしり重い
Xperia PROのニュース記事で紹介しているように、本機はXperia 1 IIをベースとしつつ、5Gミリ波に対応するとともに、映像製作のプロフェッショナルをターゲットとして機能を強化。それにより、見た目はスマートフォンながら、製品としては一般的なスマートフォンとは少々異なる位置付けの製品となっている。
外観は、Xperia PROフォトレビュー記事でも簡単に紹介しているが、改めて見ていきたい。
サイズは75×171×10.4mm(幅×奥行き×高さ)となっている。ベースとなるXperia 1 IIと比べてみると、幅、奥行き、高さともに増えており、並べてみるとかなり大きいという印象を強く感じる。これは、側面4辺に5Gミリ波用のアンテナを配置していることや、高負荷時への熱対策などを強化したことによるものだ。とはいえ、Xperia PROよりも大型のスマートフォンも存在しており、Xperia PROがスマートフォンとして大きすぎるということはないだろう。
筐体は、Xperiaシリーズでおなじみの光沢仕上げではなく、ストーン調の加工を施しつつマットな仕上げで、カラーはブラックのみとなる。ぱっと見の印象ではそれほど高級感を感じないものの、安っぽいということもない。また、本体を手にするとストーン調のざらざらとした質感が伝わってくる。そのため、Xperia 1 IIのように滑りやすいといった印象がなく、比較的安心して持てると感じる。
重量は公称225g、実測では224gとかなり重量級だ。Xperia 1 IIは181gなので、比べると約43g重く、実際に持ち比べてみると、Xperia PROはかなりずっしり重く感じてしまう。本体サイズが大きいこともあってか、単体でXperia PROを持ってみると、そこまで重いとは感じなかったが、スマートフォンとしてかなり重い部類であることは間違いない。
5Gミリ波は、auは発売時点で対応、ドコモは発売後のアップデートで対応
Xperia PROは、Xperiaシリーズ初となる5Gミリ波対応の製品だ。利用できる5Gミリ波は、auは標準対応、ドコモは発売提供のソフトウェアアップデートで対応となり、ソフトバンクと楽天モバイルは未定となっている。
今回の試用の段階では、まだソフトウェアアップデートが行なわれておらず、今回の試用に合わせてauの5G対応SIMも用意できなかったため、残念ながら5Gミリ波への接続は確認できなかった。あわせて、Xperia PROには、5Gミリ波接続時に電波の強度や電波を受けている方向、通信速度をモニタリングできるオリジナルアプリ「Network Visualizer」が付属しているが、ミリ波に接続できなかったため、こちらの動作も確認できなかった。このあたりは、時間があれば確認できただけに、少々残念だ。
もちろん、ドコモの5G Sub6の電波は問題なく受信でき、今回試用したかぎりでは下り1,370Mbps、上り67.9Mbpsと十分な速度が発揮されることを確認した。5G対応の通信エリアはまだまだ狭いものの、少なくともエリアであればSub 6でも安定して高速なデータ通信が行なえることは十分に確認できた。
なお、ソニーモバイルに問い合わせたところ、ドコモの5Gミリ波に対応するためのソフトウェアアップデートは、2月10日15時に配布予定になっているという。購入後すぐにソフトウェアアップデートを行なえば、ドコモの5Gミリ波にも接続可能になるため、事実上発売時点で対応になると考えていいだろう。
ディスプレイは全個体で出荷前にキャリブレーションを実施
ディスプレイは、Xperia 1 IIと同等の、3,840×1,644ドット表示、アスペクト比21:9の6.5型4K OLED(有機EL)パネルを採用している。HDR表示およびBT.2020の広色域表示に対応する点も同等だが、Xperia PROでは全個体で出荷前にソニー製マスタモニターを基準とした色温度調整が行なわれるという点が異なる部分。つまり、マスターモニター同様にクリエイターが意図した発色を忠実に表示できるようになっている。
また、後ほど紹介するように、Xperia PROにはHDMI入力が用意され、入力映像のモニター表示や、入力映像のライブストリーミングなどが可能となっている。そのため、プロ用のカムコーダやデジタル一眼カメラをHDMI入力に接続すれば、Xperia PROをコンパクトなマスターモニターとして活用できる。
以下は、Xperia 1 IIに標準で保存されている画像データをXperia PROで表示し、デジタル一眼カメラで撮影したものだ。この写真ではわかりにくいかもしれなが、実際の表示映像を見ると、そのクオリティは非常に優れていると感じる。もちろんこれはXperia 1 IIも同等ではあるが、全個体で出荷前に色温度調整が行なわれることで製品ごとのばらつきがなくなるため、プロにとっても納得のクオリティとなるはずだ。
筆者のPCからは4K映像の入力が可能だった
Xperia PROの大きな特徴となるのが、上で紹介したようにHDMI入力を備えている点だ。本体下部側面中央に、蓋付きでMicro HDMI端子が用意されており、そちらにデジタル一眼カメラや各種映像機器を接続することで、Xperia PROのディスプレイに入力した映像を表示したり、入力映像をライブストリーミングできるようになっている。
このHDMI入力は、4K(3,840×2,160ドット)、HDR、60p、10bitカラーをサポートしており、プロ用の映像機器も問題なく接続できる。ディスプレイもその入力信号を本来の発色で表示できるため、映像のプロも納得の小型ディスプレイとして活用できるわけだ。
HDMI出力された映像を表示するには、プリインストールされている「外部モニター」アプリを利用する。映像機器をHDMIに接続し外部モニターアプリを起動すると、入力映像がディスプレイに表示される。
Xperia PROのHDMI入力に関しては、先の記事に紹介しているとおりだ。外部モニターアプリでは、単純に入力映像を表示するだけでなく、入力映像の明るさ調節、ピンチイン・ピンチアウトでの拡大・縮小表示、グリッドラインやフレームラインの表示、180度反転表示などといった機能も用意されている。
基本的にHDMI入力は、デジタル一眼カメラやカムコーダなどの映像機器を接続して利用すると想定していると思うが、それ以外にもPCやゲーム機なども接続可能だ。ただ、先ほどの記事にあるように、一部機器で正常に表示できないものもあるようだ。なお、ソニーとしてはPlayStation 4での動作確認が取れているとしている。
筆者もいくつかの映像機器を接続してみたところ、ゲーム機ではNintendo Switchで映像を表示できることを確認。それに対し、BS4Kチューナーは番組表や設定メニューなどは表示できるが、放送映像は表示されなかった。これはXperia PROのHDMI入力がHDCPをサポートしていないためと考えられる。
ところで、念のためPCの接続も試してみた。利用したPCは富士通クライアントコンピューティングの「LIFEBOOK WU2/E3 5Gモデル」で、用意されているHDMI出力にXperia PROを接続してみた。このHDMI出力は、Core i7-1165G7の内蔵グラフィックス機能であるIntel Xe Graphicsからの出力となる。
すると、フルHDはもとより、4K(3,840×2,160ドット)でも問題なく映像が表示された。先ほどの記事にあるように「映像機器が接続されていません」と表示され映像が映らないといったことはなく、安定して表示できた。今回試用したXperia PROは、先ほどの記事と同じ個体なので、Xperia PRO側の問題ではなく、PCの出力か、利用したHDMIケーブルに何らかの問題があったものと考えられる。
また、Xperia PROのディスプレイ表示解像度に合わせて、表示解像度を3,840×1,664ドットに変更してみたが、フル画面表示とはならず、いわゆるレターボックス表示となってしまった。ピンチアウトで表示を拡大すれば、ほぼ全画面表示も可能だが、実用度はあまり高くない印象だ。もちろん、PCのサブディスプレイとしてXperia PROを利用すること自体が全く実用的ではないが、HDMI入力があることで、いろいろ活用できることは間違いないだろう。
HDMI入力を利用したライブストリーミングも可能
HDMIから入力した映像はディスプレイに表示するだけでなく、YouTubeやStreamYard、StreamLabsなどを利用したライブストリーミングも可能。そこで今回は、StreamYardを利用したライブストリーミングを試してみることにした。
まず、Chromeを起動してStreamYardにログインし、新規でBroadcastを作成。そして配信先にFacebookを指定してライブストリーミングを行おうとした。しかし、カメラにHDMI入力となる「camera 25,facing back」を選択してもカメラとして認識せず、映像が全く入力できなかった。
次に、ブラウザをMicrosoft Edgeに変更して同様に試してみた。しかし、カメラにHDMI入力を選択した瞬間にEdge自体がクラッシュして終了してしまい、こちらもうまくいかなかった。
そして、ブラウザをOperaに変更してみたところ、こちらではカメラにHDMI入力を選択すると正常に入力映像が表示された。そして、入力映像のFacebookへのライブストリーミングも問題なく行なえた。
このように、試用機ではHDMI入力映像をStreamYard経由ライブストリーミングを行う場合にやや問題があった。ただ、この問題がXperia PRO側にあるとしたら、今後のアップデートでChromeやEdgeでも問題なく利用できるようになると考えていいだろう。
なお、Xperia PROのHDMI入力は映像入力のみの対応で、音声はHDMIから入力できない。そのため、ライブストリーミングに音声を乗せるには、Xperia PROのマイクを利用するか、オーディオジャックから入力する必要がある。
基本的なスペックやカメラはXperia 1 IIと同じ
Xperia PROのスペックについてはニュース記事で詳しく紹介しているのでそちらを参照してもらいたいが、搭載SoCやカメラなど多くはXperia 1 IIと同じとなっている。
ただ、背面カメラは本体の厚さが増えていることもあって、Xperia 1 IIのように背面から飛び出していない。逆に本体よりも低い位置にレンズがあるほどで、これならケースを装着せずともレンズには傷がつきにくいだろう。あわせて、「Photo Pro」や「Cinema Pro」といった撮影アプリもプリインストールされている。
また、Xperia PROには、HDMIに映像機器を接続したり、USBテザリングが有効の場合にかぎり、通常よりも高温になっても性能が低下しない「パフォーマンス持続モード」という機能が用意されている。これによってデジタル一眼カメラで撮影した写真をUSBテザリングで即座に転送したり、カムコーダーなどを接続してライブストリーミングを行いたい場合などでも、安定した動作が期待できる。
このほか、FeliCaやワイヤレス充電機能が非搭載となっている点も異なる部分だ。
用意されているポート類は、Micro HDMIに加えてUSB Type-Cと3.5mmオーディオジャックを用意。Micro HDMIとUSB Type-Cが別々に用意されているため、HDMI入力を利用した映像のモニターやライブストリーミングを行なっている場合でもUSB Type-C経由で電力を供給でき、バッテリ残量を気にせず利用可能。
左側面にはSIMカードトレイが用意されており、Nano SIMを2枚装着できる。また一方はmicroSDカードとの排他となっており、最大1TBのmicroSDカードも利用可能。
右側面には、本体上部からボリュームボタン、指紋認証センサー一体型電源ボタン、ショートカットキー、カメラのシャッターボタンが並ぶ。このうちショートカットキーはXperia 1 IIにはなかったもので、あらかじめ登録したアプリをワンタッチで起動できる。標準ではNetwork Visualizerが割り当てられているが、登録アプリは自由に設定可能だ。
では、簡単にベンチマークテストの結果を紹介しよう。利用したのは、UL LLCの「PCMark for Android Benchmark」と「3DMark」、Primate Labs Inc.の「Geekbench 5」だ。なお、同時に試用したXperia 1 IIでも同じテストを行ないたかったが、試用機ではベンチマークテストのインストールが不可となっていたため、Xperia PROの結果のみを紹介する。
【表】ベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark for Android Benchmark | |
Work 2.0 performance | 9770 |
Computer Vision | 6144 |
Storage | 23975 |
Work performance | 12909 |
3DMark | |
Wild Life | 3747 |
Geekbench 5 | |
Single-Core Score | 914 |
Multi-Core Score | 3411 |
OpenCL Score | 3150 |
続いて、バッテリ駆動時間だ。まずはじめに、PCMark for Android Benchmarkの「Work 2.0 battery life」の結果だが、ディスプレイ輝度を50%、無線LANをオフ、LTEに接続した状態で計測したところ、12時間48分を記録した。
ただ、Xperia PROは映像製作のプロをターゲットとしているため、そういった使い方を想定して、HDMIから入力した映像をStreamYard経由でライブストリーミングした場合の駆動時間もチェックしてみた。
測定では、Xperia PROのHDMI端子にPCを接続して筆者が撮影した動画を再生しつつ、StreamYard経由でFacebookにライブストリーミングを行った。配信映像は720p、ディスプレイの輝度は50%に設定。また、屋外での利用を想定して、ネットワークは無線LANをオフにし、LTEに接続。そのうえで、ライブストリーミングを1時間行ない、その時点でのバッテリの減りを検証した。
結果は、25%のバッテリ消費だった。このことから、今回のテスト条件では4時間程度のライブストリーミングが行なえると考えられる。ただ、モバイルネットワークで5Gに接続したり、配信の解像度をフルHDや4Kなどより高解像度に設定すれば、消費電力が高まり駆動時間はもっと短くなりそうだ。
ターゲットを絞った尖った仕様はソニーらしさ満載
Xperia PROは、Xperia初の5Gミリ波対応端末ということから、昨年の開発発表以来、多くのユーザーから登場が期待されていた。そしてXperia PROは、5Gミリ波に対応するだけでなく、他にはない機能を盛り込んだ映像製作のプロ向けスマートフォンとして登場した。そのため、期待していたユーザーにとっては、ちょっと違う方向の製品になったと感じる人もいるかもしれない。
事実、機能面もそうだが、約25万円というかなり高価な価格と合わせて、気軽に入手できるスマートフォンとは言えないだろう。ただ、ターゲットとする映像製作のプロなど特定ユーザーにとっては、かなり魅力的な製品となっていることは間違いなさそうだ。そして、プロ用機材として考えると、ソニーのマスターモニター同等の表示性能を備えるディスプレイを搭載する点と合わせて、価格面でも十分に競争力があるはずだ。
Xperia PROは、特定ユーザーに絞った機能を搭載する、非常に尖った製品に仕上がっている。そのため、万人にお勧めできるスマートフォンではないものの、ある意味ソニーらしさが強く感じられる製品と言える。