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iMacの2倍以上の性能を発揮する8コア「iMac Pro」はじつはお買い得なプロ向けマシン
2018年2月27日 11:00
最大18コアのXeonプロセッサを搭載し、「これまででもっともパワフルなMac」とアップルが謳う「iMac Pro」は2017年12月14日に発売された。それから約2カ月が経過した2月中旬にメディア向けの貸し出しがついに開始され、PC Watchでもシリーズの最小構成モデルとなる8コアのXeon Wプロセッサを搭載するiMac Proを借用できたので、今回は本製品の実機レビューをお届けする。同時にiMacの最上位CPU搭載モデルも借用しているので、両者の性能差もチェックしてみたい。
最上位構成ではなんと159万円!
iMac Proは、iMacの一体型デザインにワークステーションクラスの性能を詰め込んだプロフェッショナル向けモデル。今回借用したのは、CPUに「Xeon W-2140B」(3.20~4.20GHz、8コア16スレッド)、外部グラフィックスに「Radeon Pro Vega 56」、メモリにDDR4-2666 ECC SDRAM 32GB、ストレージに1TB SSD(Apple SSD AP1024M)を搭載した最小構成モデルだが、それぞれ下記のように構成を変更可能だ。
カスタマイズ可能なパーツ構成
・CPU:8コアXeon W(3.2~4.2GHz)/10コアXeon W(3~4.5GHz)/14コアXeon W(2.5~4.3GHz)/18コアXeon W(2.3~4.3GHz)
・外部グラフィックス:Radeon Pro Vega 56(8GB HBM2メモリ搭載)/Radeon Pro Vega 64(16GB HBM2メモリ搭載)
・メモリ:32GB/64GB/128GB DDR4-2666 ECC SDRAM
・ストレージ:1TB/2TB/4TB SSD
ちなみにCPUに18コアのXeon W、外部グラフィックスにRadeon Pro Vega 64、メモリに128GB、ストレージに4TBを選択し、「Magic Trackpad 2 – スペースグレイ」を追加した最大構成の価格は1,478,600円(税込み1,594,728円)となる。ちょっとした小型車と同じぐらいの価格になるわけだ。
筐体形状はiMacを踏襲、インターフェイスを強化
大幅な性能向上を図ったiMac Proだが、本体色にスペースグレイが採用されているものの、筐体形状はiMacから基本的に変更されていない。サイズ/重量は、iMac Proが650×516×203mm(幅×高さ×奥行き)/9.7kg、iMacが650×516×203mm(同)/9.44kgと重量がわずかに増えているぐらいだ。
しかしiMac Proにはプロフェッショナルユースを想定し、おもにインターフェイスを中心に細かなアップグレードが図られている。まずThunderbolt 3(USB Type-C)ポートがiMacの2ポートから4ポートに、有線LANポートがGigabit Ethernetから10Gb Ethernetに変更されている。Thunderbolt 3(USB Type-C)が4ポートに増えたことにより、2台の外部ディスプレイで5K/60Hz/十億色表示、4台の外部ディスプレイで4K UHD/60Hz/10億色表示または4K/60Hz/数百万色表示が可能となった。
また、SDXCカードスロットもUHS-II対応にアップグレードされている。ディスプレイ上部のWebカメラが、iMacのFaceTime HDカメラから1080p FaceTime HDカメラへ変更され、解像度と暗所性能が向上している点も注目ポイントだ。
内部的には、第2世代カスタムMac半導体である「Apple T2チップ」が採用されている点が大きなトピック。これはほかのMacに搭載されているシステム管理コントローラ、画像信号プロセッサ、オーディオコントローラ、SSDコントローラなどを統合したチップで、セキュアなOSブート、ストレージの暗号化、1080p FaceTime HDカメラのトーンマッピングの強化/露出制御の改善/顔検出に基づく自動露出と自動ホワイトバランスなどに利用される。
また高性能なプロセッサを一体型デザインの筐体に搭載するにあたって、デュアルブロワー、大容量の放熱板、追加の通気構造など新たな熱アーキテクチャーが採用されている。アップルによればエアフローが約75%、システムの熱容量が80%増加しているとのことだ。
ディスプレイは、27インチiMac Retina 5Kディスプレイモデルと同じく、5,120×2,880ドットの27インチRetina 5K P3ディスプレイ(輝度500cd/平方m、P3対応)が採用されている。カタログスペックに変更はない。
1つ残念な変更点はユーザーがメモリを増設、換装できなくなったこと。メモリにアクセスするための「メモリコンパートメントドア」がiMac Proでは廃止されてしまった。iMac Proの透視図を見るとソケットは用意されているが、背面から見て左寄りに設置されている。アップルの美意識として、メモリコンパートメントドアを目立つ場所に開けたくなかったのだろう。
シリーズ名 | iMac Pro |
---|---|
CPU | 8コアXeon W(3.2~4.2GHz)/10コアXeon W(3~4.5GHz)/14コアXeon W(2.5~4.3GHz)/18コアXeon W(2.3~4.3GHz) |
メモリ | DDR4-2666 ECC SDRAM 32GB/64GB/128GB |
ストレージ | 1TB SSD/2TB SSD/4TB SSD |
GPU | Radeon Pro Vega 56/Radeon Pro Vega 64 |
ディスプレイ | 5,120×2,880ドットの27インチRetina 5K P3ディスプレイ(輝度500cd/平方m、P3対応) |
インターフェイス | Thunderbolt 3(USB Type-C)ポート×4、USB 3ポート×4、10Gb Ethernet、SDXCカードスロット(UHS-IIに対応)、3.5mmヘッドフォンジャック、IEEE 802.11ac/a/b/g/n、Bluetooth 4.2 |
サイズ/重量 | 650×516×203mm(幅×高さ×奥行き)/9.7kg |
同梱品 | 本体、スペースグレイMagic Keyboard(テンキー付き)、スペースグレイMagic Mouse 2、Lightning - USBケーブル、電源コード ※スペースグレイMagic Trackpad 2(オプション) |
価格 | 558,800円~ |
iMac譲りの高品質ディスプレイ、強化されたサウンド機能
前述のとおり、iMac ProにはiMacと同じく、5,120×2,880ドットの27インチRetina 5K P3ディスプレイ(輝度500cd/平方m、P3対応)が採用されている。実際にiMac ProとiMacのディスプレイを見比べてみたが、明るさはもちろんのこと、発色の傾向にも違いは感じられなかった。
また、カラープロファイルをディスプレイキャリブレーション機器「i1Display Pro」で作成して、色度図を作る「ColorAC」で確認してみたが、下記のとおりiMac ProとiMacの間で個体差、経年劣化、計測誤差以上の差は見られなかった。iMac Pro、iMacともにP3(Display P3)の色域が謳われており、実測で98.90%という高いDisplay P3カバー率が今回確認できている。視野角はとくに公表されていないが、斜め60度の角度から見ても、一定の明るさ、階調は保たれている。元々iMacがプロ品質のディスプレイを採用していたので、あえてiMac Proで新たなディスプレイを搭載する必要がなかったわけだ。
【表2】実測した色域 | ||
---|---|---|
iMac Pro | iMac | |
sRGBカバー率 | 100.00% | 100.00% |
sRGB比 | 137.00% | 136.80% |
Adobe RGBカバー率 | 88.30% | 88.40% |
Adobe RGB比 | 101.60% | 101.40% |
DCI-P3カバー率 | 98.90% | 98.90% |
DCI-P3比 | 101.10% | 100.90% |
Display P3カバー率 | 98.90% | 98.90% |
Display P3比 | 101.10% | 100.90% |
一方、サウンド面についてはたしかな進化が感じられた。実際に簡易騒音計でYouTubeに公開されている「前前前世 (movie ver.) RADWIMPS MV」を最大ボリュームで再生したさいの音圧レベルを計測してみたが、iMacが最大88.4dBAのところiMac Proが最大90.5dBAと音圧レベルが2.1dBA高くなっていることを確認できた。
もちろん単に音量が増しているだけでなく、iMac Proのサウンドには容量が増えたかのような音の伸びやかさが備わっている。音作り専門の現場ではスタジオ品質のアンプ、スピーカーを当然使うだろうが、音楽鑑賞や、動画編集時の簡易的なサウンドチェックであれば、iMac Proは十分なサウンド品質を備えている。
キーボードとマウスはiMac用と機能的には同等、Webカメラ画質は飛躍的に向上
キーボード、マウスについては、カラーが本体に合わせてスペースグレイになっているだけで、とくに仕様や打鍵感に変更はない。スペースグレイMagic Keyboard(テンキー付き)が実測365g、スペースグレイMagic Mouse 2が実測97.5gと軽量なので取り回しは良好だ。Magic Keyboardのフラットな底面は4つのゴム足で宙に浮いているが、剛性は非常に高い。
しかしプロ仕様のキーボードとマウスかというと正直疑問符がつく。iMac Proにふさわしい質感を備えているし、単体ではスペースグレイのアクセサリは入手できないのでプレミア感は高いが、デザイン性を優先させすぎてキーストロークが浅いため、打鍵感はいかにもノートPC的だ。マウスも昨今の多ボタンマウスと比べると効率的とは言えない。
キーボードとマウスは直接ふれる部分なので好みは人それぞれだが、もし筆者がiMac Proを購入したとしたら、スペースグレイ色のMagic KeyboardとMagic Mouse 2はコレクターズアイテムとして大事に仕舞っておいて、手に馴染んだキーボード(HHKB)とマウス(Logicool G700s)を利用したいと思う。
カメラ画質についてもふれておこう。iMac Proには新しい1080p FaceTime HDカメラが搭載されており、解像度が1,080×720ドットから1,616×1,077ドットに向上しているが、それ以上にApple T2チップのトーンマッピングの強化/露出制御の改善/顔検出に基づく自動露出と自動ホワイトバランスにより、暗所でも自然な明るさ、色調で撮影できるようになった。もちろんビデオ通話の画質も大幅に向上している。新しい1080p FaceTime HDカメラとApple T2チップが、ほかのMacシリーズに搭載されることを強く期待したい。
最小構成の8コアでもiMacの最上位CPU搭載モデルの2倍以上の性能を発揮
最後にベンチマークスコアを見てみよう。今回はベンチマークアプリの計測は数を絞り、実際のアプリケーションでどの程度の性能が発揮されるかの検証に重点を置いた。
今回借用している最小構成の8コアiMac Proの比較対象機種としては、最新iMac(Retina 5K, 27-inch, 2017)で最上位CPU「Core i7-7700K(4.20~4.50GHz)」を搭載するモデル。このiMacには16GBのメモリ、512GBのSSDが搭載されているが、最小構成のiMac Proに合わせて32GBのメモリ、1TBのSSDにアップグレードすると407,800円となる。iMac Proの最小構成モデルが558,800円だから、両者の価格差は151,000円にまで縮まる。ベンチマークの結果次第では、購入時の比較対象となりうる価格差だ。
さて、使用したベンチマークプログラムは下記のとおりだ。
・CPU、OpenGLのベンチマーク「CINEBENCH R15」
・「Adobe Lightroom Classic CC」RAW画像の現像時間を計測
・「Adobe Premiere Pro CC」4K動画の書き出し時間を計測
・「iMovie」4K動画の書き出し時間を計測
・「Final Cut Pro」4K動画の書き出し時間を計測
下記が検証機の仕様とその結果になる。
【表3】ベンチマーク結果 | ||
---|---|---|
iMac Pro | iMac | |
CPU | Xeon W-2140B(3.2~4.0GHz)、8コア16スレッド | Core i7-7700K(4.2~4.5GHz)、4コア8スレッド |
GPU | Radeon Pro Vega 56 | Radeon Pro 580 |
メモリ | DDR4-2666 ECC SDRAM 32GB | DDR4-2400 SDRAM 16GB |
ストレージ | 1TB(Apple SSD AP1024M) | 512GB |
OS | macOS High Sierra バージョン10.13.3 | macOS High Sierra バージョン10.13.3 |
CINEBENCH R15 | ||
OpenGL | 117.76 fps | 127.36 fps |
CPU | 1677 cb | 899 cb |
CPU(Single Core) | 177 cb | 188 cb |
Adobe Lightroom Classic CCで50枚のRAW画像を現像 | ||
4,912☓3,264ドット、自動設定 | 41秒44 | 1分47秒91 |
Adobe Premiere Pro CCで実時間5分の4K動画を書き出し | ||
3,840×2,160ドット、29.97fps(H.264) | 6分36秒28 | 10分59秒62 |
iMovieで実時間5分の4K動画を書き出し | ||
3,840×2,160ドット、29.97fps(最高(ProRes)、品質優先) | 2分43秒24 | 6分39秒62 |
Final Cut Proで実時間5分の4K動画を書き出し | ||
3,840×2,160ドット、29.97fps(Apple ProRes 422) | 2分1秒04 | 4分25秒08 |
CINEBENCH R15のスコアは予想の範疇だが、驚かされたのはやはりFinal Cut Proの4K動画のエンコード時間。なんと実時間の約4割の所要時間で書き出しが終わってしまった。もちろんトラック数が増えればそれに応じてエンコード時間は長くなるだろうか、カット&ペーストで動画をつないだうえで、最低限のテロップやエフェクトを追加するぐらいなら大きく所要時間が延びることはないはずだ。
筆者は仕事でも動画編集する機会が多いが、使用するマシンの目安が実時間以下でエンコードを終えること。iMac ProとFinal Cut Proの組み合わせでこれだけ快適な4K動画編集環境が実現するのなら、動画編集用マシンとアプリの乗り換えを真剣に考えたくなる。
一体型デザインと高性能を両立!
アップルは最高レベルの性能とアップグレード可能なデザインを目指す次世代Mac Proを開発中。Mac Proのリプレースマシンを望んでいるのなら、この次世代Mac Proを待つべきだ。
しかしiMac ProはCPU、メモリ、ストレージをアップグレードすれば価格は跳ね上がるが、最小構成モデルであればiMacと比べて理不尽に高価なわけではない。むしろ2倍以上の性能が手に入るのなら、喜んでプラス約15万円を支払いiMac Proを手に入れたいという方も多いはずだ。
一体型デザインと、4K動画を実時間の4割で書き出せる高性能の両立を望む方には、iMac Proは大きな満足を与えてくれるマシンと言える。