配信修行僧

配信から切り抜きショート動画を作りやすくするプラグイン

縦長レイアウトでの配信/録画を実現するAitum Verticalを組み込んだ筆者のOBSの画面

 配信者で、配信で盛り上がったシーンを選んでカット編集し、切り抜き動画として公開している人は少なくない。動画編集はとにかく時間がかかる作業だ。カット編集という作業は、たとえば効果音やテロップを入れたりする作業などに比べると、そこまでは時間がかからない。それでも作業をより効率化できるならうれしいだろう。今回は、切り抜き動画を作る手助けをしてくれるOBS用プラグインを紹介する。

チャプターマーカーを付与するStreamUP Chapter Marker Managerプラグイン

 「StreamUP Chapter Marker Manager」は、OBSで録画を行なっている時に、チャプターマーカーというタイムスタンプを任意のタイミングで生成できるようにするプラグインだ。配信中にこのプラグインを使うことで、切り抜き動画で使いたい盛り上がった場面でショートカットキーを押すと、タイムスタンプがチャプターマーカーとして録画ファイルに追加される。あるいは設定により、チャプターマーカーをテキストファイルやXMLファイルで出力もできる。

 これにより、うろ覚えの記憶を頼りに録画した動画から盛り上がった場面を探さなくても、すぐにその場面を見つけられる。人によっては切り抜き動画は外部の人に頼んでいる場合もあるが、そんな場合もチャプターマーカーがあれば、使う場面を事細かく伝える必要は減るし、動画編集者が動画を最初から最後まで見直す必要がなくなる。

 では、使い方を解説しよう。プラグインの公式ページに行き、「Download」ボタンを押して、ZIPファイルを展開し、実行するとインストールできる。なお、このプラグインはOBSのバージョン28以降で動作するが、動画にチャプターマーカーを埋め込むには、OBSバージョン30.2でサポートされたHybrid MP4が必要となる。そのため、埋め込み機能を利用するにはOBSのバージョン30.2以降が必要だ。

StreamUP Chapter Marker Managerのメイン画面。なお、本来は鉛筆アイコンの右に歯車アイコンが表示されるが、バグで表示されていない。ボタン自体は押すことができる

 インストールしてOBSを起動すると、メニューの「ドック」に「StreamUP Chapter Marker Manager」が追加されているので、これを選択する。すると、ウィンドウが表示される。このウィンドウはドック形式なので、OBS上の好きな場所にドックとして固定表示させておいてもいい。

設定画面

 このウィンドウで行なうことは少ないので、「歯車」アイコンを押して設定画面を開こう。「Default Chapter Name」では、チャプターマーカーのデフォルト名を指定できる。変更する理由がなければ空欄のままでいい。

 「Use Incremental Chapter Names」にチェックを入れると、チャプターマーカー名の後に数字が付与され、チャプターマーカーを追加するごとに数字が1大きくなる。ただ、筆者の環境ではこのチェックを外しても数字が増えていった。なお、数字は録画を終了すると0にリセットされる。

 「Show Previous Chapters」にチェックを入れると、メインウィンドウの方に「Previous Chapters」という領域が追加される。ここには追加したチャプターマーカーの履歴が表示される。

 「Add Chapter Trigger Source」にチェックを入れると、チャプターマーカー名の後に「(Hotkey)」といった感じで、チャプターマーカーを追加するのに利用したトリガー名が追加される。チャプターマーカーは、ホットキーで追加するのが基本だが、先のPrevious Chaptersに表示された履歴をダブルクリックすると、その名称で追加できるし、シーンの変更時に自動付与もできる。Add Chapter Trigger Sourceを有効にすると、それらトリガーの内、どれを利用したのかが分かるようになるが、多くの人が使う機能ではないだろう。

 「Insert Chapter Markers into Video File」にチェックを入れると、ホットキーを押すなどのトリガーが発生するたびに、今録画している動画ファイルにチャプターマーカーを挿入していく。

 「Export Chapter Markers to File」にチェックを入れると、チャプターマーカーをテキストあるいはXMLファイルとして保存できる。

 「Set Chapter on Scene Change」にチェックを入れると、シーンが切り替わったときに自動的にチャプターマーカーが追加される。「Set Ignored Scenes」をクリックすると、シーンが切り替わってもチャプターマーカーを追加したくないシーンを選べる。

 このプラグインは、チャプターマーカーに加えて、アノテーションを付与する機能もあるが、切り抜き動画にはほぼ関係がないのでここでは説明を省く。

 StreamUP Chapter Marker Managerの設定が終わったら、OBSのホットキー設定でホットキーを指定する。デフォルトだと「Add Default Chapter Marker(StreamUP)」という名称だ。

OBSの設定でStreamUP Chapter Marker Manager用のホットキーを指定する

縦型レイアウトで配信/録画できるAitum Vertical

 通常の切り抜き動画だけでなく、YouTubeやTiktok、Instagramなどに縦型レイアウトのショート動画を作りたい場合もあるだろう。そういう時に、Add Chapter Trigger Sourceと組み合わせると便利なのが「Aitum Vertical」プラグインだ。

 このプラグインを利用すると、通常の横長画面のプレビューに加え、縦長のプレビューとシーンが追加される。この縦向けのシーンにゲーム画面やカメラ映像など必要なソースを追加し、プレビュー画面でレイアウトを作成しておけば、縦長画面の配信/録画ができるようになる。

 このプラグインは基本的には動画制作向けというより生配信用だ。ただ、録画もできるので、配信しながら縦長レイアウトの録画をしておけば、Add Chapter Trigger Sourceによるチャプターマーカーは横長と同時に縦長レイアウトの録画にも随時追加される。

 もちろん、横長の動画を編集して後から縦長にレイアウトし直すこともできる。だが、たとえば縦長レイアウトで、ゲーム画面のみを上側に配置し、下側にカメラ映像だけを配置したいとしよう。横長レイアウトでゲーム画面にカメラ映像を重ねている場合は、カメラ映像が重なっていないゲーム画面を作ることはできない。そこでAitum Verticalを使えば、配信時点で縦長に最適化されたレイアウトの動画を録画できるようになるという具合だ。

 こちらも使い方を解説しよう。まず公式サイトで、「Download Vertical」を押し、ダウンロードしたファイルを実行してインストールする。なお、Aitum VerticaはOBSバージョン30以降に対応する。

Aitum Verticalをインストールすると、専用のプレビュー、シーン、ソースの各パネルがドックに追加される

 インストールするとAitum Verticalのプレビュー、シーン、ソースの各パネルがドックに追加される。つまり、Aitum Verticalでは、それ専用に複数のシーンと、そのシーン用のソースを設定できるわけだ。なお、Aitum Verticalのプレビュー画面の歯車アイコンを押して設定画面を開き、「General」の「Show Vertical Scenes in main scene list」にチェックを入れると、標準のシーン一覧に「Vertical Scene」が追加され、通常のシーンとして扱うこともできる。

 専用シーン/ソースを使っても、標準シーン/ソースを使ってもいいのだが、専用ソースパネルは、標準ソースパネルと少し挙動が異なっている。たとえば、標準ソースパネルだと「+」を押すと新規のソース追加となるが、専用ソースパネルだと「+」を押すと、標準シーンのいずれかで利用されているものを追加、つまり複製する形となる。また、専用ソースパネルだと、ソースを右クリックした時に表示される内容がやや少ない。

 そのため、通常のソースと同様に設定などを行ないたい場合は、「Show Vertical Scenes in main scene list」にチェックを入れた上で、標準リストに追加される「Vertical Scene」を選んで、標準のソースパネルで操作した方がいいだろう。

 まずは、ソースに必要なものを追加する。ちなみに、元々横長のゲーム画面を縦長画面の横幅に合わせるとかなり小さくなる。しかも、多くの視聴者はスマホでみることになると思うので、ゲーム画面に表示される文字などはかなり視認性が悪くなる。そのため、ゲームにもよるが、多少左右が見切れてしまっても、ゲーム画面の左右がキャンバスからややはみ出すくらい大きくした方がいいかもしれない。

設定画面の「General」

 画面レイアウトが終わったら配信と録画の設定だ。プレビューパネルの歯車アイコンを押し、設定画面を開く。「General」の「Backtrack」は「リプレイバッファ」のこと。縦画面でリプレイバッファを使わないなら何も設定しなくていい。

設定画面の「Streaming」

 「Streaming」は縦長レイアウトでの配信設定だ。録画だけでなく、配信も行なうなら「Enabled」にチェックを入れ、「Name」にその配信の設定名(YouTubeなどプラットフォーム名でいいだろう)を入れ、利用する配信プラットフォームの配信サーバーのアドレスとストリームキーを「Server」、「Key」に入力する。

 映像ビットレートや、エンコードの指定もできるが、特にこだわりや理由がなければ、「映像ビットレート」は通常の配信と同じ設定にし、「詳細設定」の「Use main OBS settings」にチェックを入れておけば、エンコーダは通常配信と同じ設定が利用される。

 なお、「Start and stop streaming when main OBS starts and stops streaming」にチェックを入れると、OBSの通常の「配信開始」ボタンを押した時に縦長レイアウトでも自動的に配信が始まり、「配信終了」を押すと自動的に止まるので便利だ。

設定画面の「Recording」

 「Recording」でも多くの設定項目があるが、基本的には設定が必要なのは「録画のファイルパス」、「映像ビットレート」のみ。録画のファイルパスについては、動画を保存するフォルダを指定し、映像ビットレートは通常の配信設定と同じ数字でいい。そして、標準で「詳細設定」の「Use main OBS settings」にチェックが入っているので、ファイル名の書式や映像エンコーダは通常録画と同じ設定になる。

 なお、これについても「Start and stop recording when main OBS starrts and stops recording」にチェックを入れると、通常の録画の開始/終了にあわせて、縦長動画も自動的に保存される。

 そして、先に書いた通り、縦長動画を録画しながらStreamUP Chapter Marker Managerで設定したホットキーを押すと、縦長動画にもチャプターマーカーが追加されるが、チャプターマーカーを追加するには縦長動画もHybrid MP4にしておく必要がある。

Hybrid MP4の問題点

 Hybrid MP4はチャプターマーカーの追加に必須なのだが、それ以外にもこのフォーマットはファイナライズが不要というメリットがある。それにより、万が一録画中にOBSやOSがクラッシュしても、そこまで録画したデータが保存され、後から再生もできる。逆に通常のMP4だと、きちんと録画終了を行なう前にクラッシュするとそのデータは再生不可能となる。

 つまり、OBSでサポートされているFLV形式のいいところ(ファイナライズが不要)と、MP4の互換性の高さ(たとえばPremiere ProではFLVは読み込めない)を両立させたのがHybrid MP4だ。

 このように基本的にはいいことずくめのHybrid MP4だが、Windowsに標準で搭載されるメディアプレイヤーはHybrid MP4に完全に対応しておらず、再生はできるが音声が鳴らないという問題がある。再生ソフトとしては、VLCメディアプレーヤーなら問題なく再生できる。また、Premiere ProはHybrid MP4に対応しているので、問題なく編集できる。

 今回の主題に関した問題点として、これはHybrid MP4の問題ではないのだが、Premiere Proはチャプターマーカーを読み込めないという問題がある(これもVLCメディアプレーヤーでは問題なく表示される)。と言うことで、ここまでHybrid MP4へのチャプターマーカー追加方法を解説しておきながら若干ちゃぶ台返し的な結論となって恐縮だが、チャプターマーカーはテキスト形式で出力するのが現実的な運用方法となる。今後、Premiere Proなどがチャプターマーカーの読み込みに対応することを期待したい。

 その一方で、Hybrid MP4自体は便利なフォーマットなので、メディアプレイヤーとの互換性が気にならなければ、使うことを推奨したい。