大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソニーが名古屋限定で始めた新サービス「backStage」



●一歩踏み込んだ新しいサービス

 ソニーが、名古屋地区限定で、「VAIO」シリーズをはじめ、薄型TV「BRAVIA」、デジタルカメラ「α」「サイバーショット」、携帯オーディオプレーヤー「ウォークマン」などの同社製品を対象としたサポートサービスを、3月13日から開始した。

 その名も「backStage(バックステージ)」。

ソニーが提供する新サービス「backStage」3月13日にオープンしたソニーストア名古屋

 米国でVAIOユーザーを対象に実施してきたサービスを、日本の市場にあわせた形で進化。さらに、製品対象を広げて展開することになる。

 首都圏や関西圏などをサービスの対象外としているように、まだ試験的要素が強い。このサービス内容とはどんなものなのか。実際に、名古屋を訪れ、backStageの「舞台裏」を追った。

 PCメーカーのサポートは、電話やメールによる問い合わせ対応が中心となっている。だが、一部のメーカーでは対面式のサポートを充実させる動きが出ている。

パナソニックのLUMIX & Let'snote工房アップルストアのGenius Bar

 例えばパナソニックでは、東京・秋葉原に「LUMIX & Let'snote工房」を今年2月に設置。修理品を持ち込めば即日修理を可能にする体制としたのもそうした動きの1つだ。

 そして、対面型サポートを充実させている最たる例は、アップルが直営店のアップルストアを活用して展開しているサポートだといえよう。

 アップルストアでは、「one to one」と呼ばれる1対1でのトレーニングや、新しいマックをセットアップするサービスを用意しているほか、技術的な質問に対応したり、修理を行なう「Genius Bar」を設置し、ジーニアスと呼ばれる専門スタッフにより、問題解決を図る体制を整えている。さらにワークショップでは、Macに搭載されているソフトウェアの使い方を無料で学ぶこともできる。

 また、アップルストアという販売店機能を生かして、パーソナルショッピングのサービスも用意。事前に予約をすれば、スペシャリストと呼ばれるスタッフとともに、製品を試しながら、マックの購入検討が行なえるサービスも実施している。

 こうしたことから、「最も無料でサポートしてくれる場所が多いのがMacintosh」という評価がユーザーの間であがるのも当然だろう。

 3月13日からソニーが新たに開始したbackStageは、アップルのサポート体制を強く意識したものだといってもいい。その仕組みは、対面式を前提として、さらに訪問サポートも実施するなどかなり踏み込んだものとなっている。

 そして、backStageの中核拠点として、3月13日にオープンしたソニーストア名古屋を活用し、ストアの機能をフル活用している体制もこれまでにはないものだ。

●4つのサービス+割引チケット

 では、backStageとはどんなサービスなのかを見てみよう。

ソニーストア名古屋に表記されたbackStageのサービス内容backStageの概要backStageのサービスメニューおよび料金体系

 backStageのサービスは大きく4つに分かれる。

 1つめは、セットアップカウンターである。

 ソニー製品を購入したユーザーが、ソニーストア名古屋のセットアップカウンターに製品を持ち込めば、専門知識を持ったスタッフが、初期設定と基本的な使い方に関して説明をしてくれるというサービスだ。

 ソニー製品であればどの店舗で購入したものでも構わない。また、3年前に購入したものでも、まだ開封していない新品であれば、対応してくれるという。つまり、買ったばかりの新品状態で持ち込めば、このサービスの対象になるというわけだ。

 VAIOを例にとれば、付属品の確認、バッテリの取り付け、OSの初期設定、カスタマー登録、各種ソフトの設定などが対象となる。

 「ソフトの使用に関して同意を求められるところは、ユーザーに直接操作をしていただく。また、Windows 7起動後のOSのアップデートも対応する。無線LANの設定については、それぞれの家庭によって環境が異なるため、そこまでの対応は難しいが、ソニーストアのネットワーク環境を利用して、インターネットエクスプローラが動作するところまではその場で行なえる」(ソニーカスタマーサービス カスタマーソリューション部・石井隆雅統括部長)という。

 また、デジカメでは、一眼レフカメラのレンズの装着、メディアの装着、バッテリの取り付け、ストラップの取り付け、日付や解像度などの初期設定などを行ない、実際に1枚撮影して、使い方まで教えるという。

 このサービスは無料で提供されることになる。

 なお、初期セットアップに関しては、同社ホームページで「<セットアップ>動画ガイド」を提供しており、約110製品に関する設定方法を紹介。ユーザー自身が自宅で確認しながら設定できるようになっている。

セットアップカウンター。専門スタッフが対応してくれるウェブで公開されている「<セットアップ>動画ガイド」。約110種類の製品が対象

 2つ目は、パーソナルレッスンだ。

 1時間を目安に、ユーザーが所有するソニー製品を使って、1対1のレッスンを行なうものだ。薄型TVなどの持ち込むことが難しいものに関しては、ソニーストア名古屋に設置している機器を利用して行なう。デスクトップPCのように、持ち込みが難しいが輸送ができる製品に関しては、有料(料金3,150円~)で輸送するサービスも用意している。

 パーソナルレッスンでは、自分がどんなことをしたいのか、どんな使い方を教えてほしいのかを伝えて、事前に予約。それにあわせてレッスンを行なう形式となっている。

 ソニーストア名古屋の2階に、パーソナルレッスン用の3台の丸いテーブルを用意したレッスンラウンジを設置。そこでフレンドリーな雰囲気でレッスンが行なえるようにしている。

 料金は1時間3,150円となっている。

 パーソナルレッスンの延長線上として、ワークショップも用意している。これは集合型のセミナー形式のもので、「幅広いテーマから選択し、新たな趣味の発見などにつながる内容にしたい」(石井統括部長)とする。こちらは一部有料のものもあるが、基本的には無料。

 同社では、これまでにも東京、名古屋、大阪、福岡の各都市において、「ITエンターテイメントセミナー」と呼ばれるVAIOやα、サイバーショット、ハンディカムなどを活用した集合型の有料講座を行なってきたが、これをより手軽に受講できるものにし、内容も幅広く展開するものにしたといえよう。

 ワークショップのスケジュールについては、今後詳細を決めることになるが、「土日には1日に複数のワークショップを開催するといったことも視野に入れたい」(石井統括部長)として積極化させる考えだ。

 今後、ソニーストア名古屋のホームページを通じてスケジュールを公開するという。

 3つめは、ガレージである。

 使用しているソニー製品の点検、清掃、チューンアップなどをソニーストア名古屋で行なうというものだ。

 VAIOに関しては、OSのアップグレードやデータのリカバリー/バックアップ、メモリ増設などを行なうほか、デジカメでは、ローパスフィルターのクリーニングやフォーカシングスクリーンの交換なども実施する。

 ソニーストア名古屋の2階には、backStageのロゴが入った修理スペースを設置している。作業はここで行なわれるが、ガラス張りになっていることから、実際に作業の様子を見ることができる。

 このスペースでは、ソニーストア名古屋でウォークマンやサイバーショット、マウスなどの購入者を対象に行なっている刻印サービスの作業も行なわれる。

 リカバリーやバックアップ、OSのアップグレードの料金は6,300円、メモリ増設、トラブル診断、ウイルスの検索/除去、デジカメのクリーニングなどは3,150円となっている。

backStageの修理を行なう作業スペースメモリーの増設やOSのアップグレードやデータのリカバリー/バックアップ、クリーニングなどを行なってくれるガラス張りで中がみえる形になっている

 そして、4つ目がお客様ご相談カウンターである。

 ソニー製品の調子が悪い場合や、故障した場合などに相談を受け付けるカウンターで、これも2階スペースに設置されている。

 窓口には3人のスタッフが常駐。パーソナルレッスンの予約や、ガレージ利用の相談もここで行なえる。

 backStageのメニューの中には入っていないが、ソニーストア名古屋1階には、スタイリストと呼ばれるスタッフがおり、ソニー製品の購入相談に乗ってくれる体制を整えているのも特徴だ。

 VAIO・OWNER・MADEの購入相談や、複数の製品を組み合わせた利用提案なども、スタイリストを通じて行なえる。

 なお、スタイリストの名称は、ライフスタイルを提案するという意味からきている。

お客様ご相談カウンター。ソニー製品の調子が悪い場合や、故障した場合などの相談を受け付けるソニーストア名古屋ではVAIO・OWNER・MADEによって自分が欲しい仕様にするための相談にも乗ってくれる

 backStageでは、ソニーストア名古屋だけのサービスに留まらず、訪問サービスも用意している。

 ここで対象となるのは、訪問パーソナルレッスン、訪問トラブル診断、訪問メモリ増設、訪問ウイルス検索/駆除などのほか、TVアンテナの設置など。エージェントと呼ばれる専門スタッフが、直接、ユーザーの自宅に訪問して、レッスンや修理を行なう。

 これまでにもソニーデジホームサポートとして、VAIOの初期設定やレッスンを行なっていたが、これをbackStageのメニューの1つに組み込んだものだ。

 訪問料として6,300円。これにレッスン費用や修理費用として5,250円がかかる。アンテナ設置などについては別途見積もりという形になる。

 訪問サポートに関しては、「訪問して解決してほしいという声が多いが、その一方で訪問料とサービス費用をあわせると1万円を超えてしまい、割高感を感じてしまう人もいる。そこで、backStageのサービス開始にあわせて『バックステージあんしんパス』を用意して、より手軽に訪問サービスを用意してもらうようにした」(石井統括部長)という仕掛けも今回用意した。

「バックステージあんしんパス」、訪問サポートの利用の際にお得だバックステージあんしんパスの適用範囲訪問サポートに迅速に対応できるように三輪スクーターを導入。いまは1台だが、3台体制とする

 『バックステージあんしんパス』は、3,150円のチケットが4枚綴りとなった回数券。12,600円分のチケットを9,800円で購入できる割引がある。

 さらに、名古屋市内で、平日であれば、訪問料がチケット1枚、訪問パーソナルレッスンやトラブル診断がチケット1枚で受けられる、あんしんパス特別料金を設定している。

 額面上は、3,150円のチケットを2枚使用する6,300円となっているが、バックステージあんしんパスそのものの割引額を適用すると、実際には4,900円相当で利用できる。

 つまり、これまでは11,550円かかっていた訪問レッスンが、5,000円を切る価格で受けられるようになるのだ。

 まさに手軽に訪問サービスを利用できる仕組みといえよう。

 もちろん、バックステージあんしんパスは店頭でのサービスにも利用できる。

●首都圏や関西圏への導入も

 ところで、気になるのは、“backStage”という名称の由来だ。

 ソニーでは、名称の由来を次のように説明する。

 「backStage、つまり舞台裏というのは、表舞台でソニー製品を利用する人たちを、舞台裏からサポートするのが私たちの役目という意味を込めた」(石井統括部長)。

 長年、北米で指揮を執り、米国でのbackStageの展開を目の当たりにしていたソニーマーケティングの栗田伸樹社長も、「日本に導入するのにbackStageという名称が、果たして、日本のユーザーにはどう受け入れられるか心配した部分もあったが、米国での実績や我々の思いを込めるという意味で、backStageの名称をそのまま使用した」とする。

 backStageを説明するカタログには次のように書かれている。

 「あなたの毎日は、あなた自身を表現する『舞台』です。『こういうことをしたい』『こういう自分になりたい』。あなたのなりたい自分は何ですか。そんな『なりたい自分』になることを、ソニーの商品とともに全力でお手伝いするのが、舞台裏(backStage)にいる私たちです」。

 まさに舞台で演じる役者やアーティスト(=ソニーユーザー)を支える裏方(=ソニー)になるという意味を込めているのだ。

 そしてもう1つ気になるのが、backStageのサービスが、いつから首都圏や関西圏で開始されるのかという点だ。

 石井統括部長は、「現時点では具体的な時期については未定。名古屋での実績を見て、首都圏や関西圏でも展開したいという気持ちはある」と語る。

 実際、東京・銀座のソニービルでは、従来のソニースタイル銀座をリニューアルしたソニーストア銀座を、2月24日にオープン。お客様相談カウンターと連動する形で販売、サポート体制を構築。ソニーストア名古屋と同様に、backStageのための作業スペースのようなものもすでに設置されている。さらに、ソニースタイルストアからリニューアルした大阪・梅田のソニーストア大阪も、backStageの拠点として活用できる場になるだろう。

 今後、ソニーがどんな形でサポート体制を充実させていくことになるのか。まずは名古屋での取り組みが試金石となる。