大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NEC・レノボが本気で取り組む「タブレット」戦略
~両社のコンシューマ戦略を留目事業統括に聞く
(2013/12/17 06:00)
「2013年は、バックエンドのシナジーだけでなく、フロントエンドのシナジーが表面化した1年。そして、2014年は『PC+ベンダー』としての活動が、日本において本格化する1年になる」と、NECレノボ・ジャパングループ コンシューマ事業統括の留目真伸氏は語る。
留目氏は、レノボ・ジャパンの執行役員専務、そして、NECパーソナルコンピュータの取締役執行役員常務も兼務する立場だ。NECとレノボのジョイントベンチャーが2011年7月にスタートして、約2年半を経過。2013年7月にはロードリック・ラピン氏が、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社長を兼務。それに先立つ2013年4月には、マーケティング部門の連携体制の確立、また2013年7月には国内物流体制の統合など、両社のインフラやジョイントベンチャーとしての活動はさらに加速した。
11月30日に、東京・六本木の東京ミッドタウンで開催した「PC+でスマートライフ」は、両社初の共同イベントと位置付けられ、具体的なマーケティング施策において、いよいよ両社の協業が開始された格好だ。そして、2014年は、この両社の連携強化に加え、タブレット領域での展開を加速させ、同グループが掲げる「PC+」戦略が本格化することになる。
留目氏に、NECレノボグループの日本における展開について聞いた。
NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンの協業は、2011年7月のジョイントベンチャーの開始以降、着実に進展している。
まずは、レノボグループが持つ世界最大規模のPC出荷実績を背景にした調達力を活かすことで、NECパーソナルコンピュータのPC製品のコスト構造が大きく変化。これが価格競争力の創出とともに、意欲的ともいえる製品開発体制を敷くことに繋がっている。世界最軽量のUltrabookとして話題を集めた「LaVie Z」シリーズの製品化も、こうした構造改革の成果が大きいと言えよう。
その後も、国内のサポート体制において、レノボ・ジャパンがNECパーソナルコンピュータが持つインフラを活用することで顧客満足度を引き上げることに成功。さらに物流体制を統合することで、レノボ製品の迅速な納品体制や効率的な在庫状況を実現し、将来的には混載環境でも両社の製品を物流できるような改革に挑んでいる。
こうした動きの中で、2013年4月には、レノボ・ジャパンの執行役員専務の留目真伸氏が両社のコンシューマ事業を統括。NECパーソナルコンピュータの取締役執行役員常務も兼務し、グループ内におけるマーケティング施策の連携を開始していた。また、レノボ・ジャパンの大和研究所と、NECパーソナルコンピュータの技術者同士の交流が行なわれたり、生産面でも、NECパーソナルコンピュータの米沢事業場でThinkPadの試験生産が開始されるといった動きも見られた。
そして、7月には、ロードリック・ラピン氏が、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社長を兼務。経営面でも、従来のトロイカ体制から、ラピン氏に権限を集中させることで、迅速な意思決定が行なえる体制を整えた。
留目氏は、こうした動きを捉えて、「2013年まではバックエンドの統合を進めてきたフェーズだったといえる。ここでは数多くの化学反応が起こっている」とする一方で、「フロントエンドでのシナジーが、いよいよ表面化しはじめたのも2013年の特徴だった」と総括する。
ここで言う「バックエンド」とは、経営面での統合のほか、部品調達や物流統合などを指すのに対して、「フロントエンド」とは、ユーザーや販売チャネルとの接点となるマーケティング施策などを指す。
「4月以降、コンシューマ製品のマーケティングを統括し、両社の特徴をより活かした製品企画や製品マーケティングを立案できるようになった。これが迅速な意思決定にも繋がっている」と、留目氏は、両社の連携について言及する。
販売活動やブランド戦略は、それぞれに分離した形で行なうスタンスは崩さないが、マーケティング活動についてはお互いのノウハウを共有し、日本のPC市場拡大と、シェア拡大に向けて協業できるところは、両社で協業していくという姿勢が明確になったと言える。
その第1弾が、11月30日に開催された共同イベント「PC+でスマートライフ」である。PCの量販店が集中するエリアではなく、東京・六本木の東京ミッドタウンで開催することで、PCやタブレットに接することが少ない層を対象に、PCおよびタブレット市場の拡大に向けて、利用シーンの提案を狙ったものであり、それぞれの製品の特徴を背景に、タブレットの特徴を訴求してみせた。
「レノボとNECが、なぜ共同でキャンペーンをやっているのか、その理由を訴求するものではない。タブレット市場が、予想に反して成長が鈍化している中で、市場を活性化させるには、1社でやるよりも、2社で訴求する方が効果的であると考えたもの」と、留目氏は説明する。
異なる特徴を持つ製品をラインアップする2社が連携することで、他社にはできない製品の幅広さを見せることができ、利用シーンの提案にも広がりを持たせられるという判断のもとに、実施したイベントだったといえる。
コンシューマ向けマーケティング体制が一本化したことで、両社のマーケティング戦略にはいくつかの変化が見られている。
1つは、製品の位置付けが微妙に変化したことだ。
これまでの対外的なメッセージは、基本戦略として、ビジネス向けはレノボ、コンシューマ向けはNECパーソナルコンピュータという棲み分けであった。
だが、今後の位置付けは、コンシューマ向けPCにおいては、NECパーソナルコンピュータも、レノボ・ジャパンも継続的に製品を投入し、その中で両社の製品戦略を明確化していくというものだ。
NECパーソナルコンピュータでは、LaVie Zに代表される日本人が求めるPCや、安心、安全、快適といった高い信頼性を背景にした製品群を投入している特徴がある。一方で、レノボ・ジャパンでは、Yogaや8型タブレットといったグローバルで求められるイノベーティブなコンシューマ向け製品を投入している。このように両社のコンシューマ製品は棲み分けられることになる。そしてこの棲み分けは、タブレット製品でも同様だと言えよう。
留目氏は次のように語る。
「タブレットの成長速度がスローダウンしているのは、今の製品群だけでは、顧客ベースの広がりに限界があるのが理由だと考えられる。これまでのタブレットは、アーリーアダプター層の購入が中心となり、そこから先には広がっていない。低価格の外資系メーカーのタブレットしかないことや、マニュアルが少なくて不安といったことが、新たな需要層の開拓に影響しているのではないか」とし、「日本人が安心して利用できるタブレットが求められている。これによって、タブレットの需要層が広がると考えている。そこにNECパーソナルコンピュータならではのタブレット製品の意味がある」とする。
全国の販売店との太いパイプを活用した販売店教育などにおいても、NECパーソナルコンピュータには一日の長がある。これを活用して、製品だけでなく、日本人に適したタブレットの売り場提案も可能になると考えているというわけだ。
レノボ・ジャパンが投入するタブレットは、PCメーカー以外を含む外資系メーカーの製品と真っ向からぶつかる製品とし、そこでは世界ナンバーワンの調達力、生産力を背景にしたコストパフォーマンスの高さを訴求。その一方で、日本の新たな需要層を開拓するには、NECパーソナルコンピュータが提供する、「安心、安全、快適」の製品でカバーするというわけだ。
「NECブランドは裾野を広げるためのタブレットになる」と、留目氏は位置付ける。
2つ目には、六本木の東京ミッドタウンで開催した両社初の共同イベントでも明らかなように、市場拡大に向けた施策では、共同展開をしていく姿勢が明確になった点だ。
「あくまでも、市場全体を活性化させるという観点において、両社にとって共通のメリットがあるといった場合に、今後も継続的に施策を展開していくことになる」と、共同イベントの方向性を示す。
そのため、NECパーソナルコンピュータのPCを購入すれば、次にレノボ・ジャパンのタブレットを購入する際に割り引きされるといったような、販売に直結するような施策などは、現時点では考えていないという。
「国内シェアナンバーワンのグループとして、市場を活性化するという役割を担っていく必要がある。そこに共同マーケティングの狙いがある」と留目氏は語る。
そして、3つ目には、こうしたマーケティング施策を通じて、「PC+」の提案を加速させるという点だ。
レノボグループでは、グローバル展開において、「PC+」を基本戦略に据えている。PCを中心に、タブレット、スマートフォン、TVとの連動提案することで新たなITの世界を提案するというものであり、すでに中国では、すべての製品領域に自社ブランドでの製品展開を開始している。
日本では、現時点では、PC+の領域は、タブレットに限定しており、2014年はこの領域において、徹底したマーケティング戦略を展開する予定だ。
「年末商戦においては、レノボ・ジャパンにとっても、NECパーソナルコンピュータにとっても、タブレットは重要な製品となる。そして、2014年においてもタブレットは重要製品になることには変わらない」とする。
2014年に、NECパーソナルコンピュータ、レノボ・ジャパンの両社が目指すのが、「タブレットプレーヤーと言えばNEC」、「タブレットプレーヤーと言えばレノボ」というイメージ作りだ。
「NECにしても、レノボにしても、PCメーカーとしてのイメージが出来上がっていても、タブレットメーカーとしてのイメージはできていない。2014年は、この部分を徹底的に攻めていきたい」とする。
留目氏には、かつてNECが、PC-9800シリーズを擁し、日本の企業や個人の生産性を高め、日本人のパワーを高めたという様子が今にダブっているようだ。
「2014年は、NECパーソナルコンピュータが、日本人に最適なタブレットを製品化し、それによって日本の企業、個人の生産性を高めることができないだろうかと考えている。そして、レノボが提案する尖った製品は、日本のユーザーに驚きを与えられないかと考えている」。これが、日本のタブレットビジネスにおけるNECレノボグループによる「PC+」の提案となる。
気になるのはスマートフォンへの展開だが、これについては現時点では未定だ。だが、留目氏は、「NECレノボグループのPCとタブレットと、他社のスマホとを連携することで、どんな提案ができるのかといったことにも踏み出したい」とする。
つまり、スマホ領域の利用シーンの提案を含めて、「PC+ベンダー」としての動きが、日本でも本格的に稼働することになる。
いずにしろ、NEC・レノボが取り組む「PC+ベンダー」としての最優先の取り組みは、「タブレット」だ。2014年は、日本におけるタブレットビジネスの成否が、グループのフロントエンド施策の最終評価ということになりそうだ。