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Core Ultra 200Hをベンチしてみたら、意外と侮れないCPU/GPU性能だった!

 Intelの新世代モバイル向けSoC「Core Ultraシリーズ2」に、開発コードネーム「Arrow Lake-H」こと「Core Ultra 200H シリーズ」が追加される。

 今回、Core Ultra 200Hシリーズの最上位モデル「Core Ultra 9 285H」を搭載するノートPCをテストする機会が得られた。競合となるRyzen AI 9 365搭載PCとの比較を通して、Intelの新世代モバイル向けSoCの実力を確認してみよう。

Arrow Lake-Hの最上位モデル「Core Ultra 9 285H」

 Arrow Lake-Hの名で開発されてきたCore Ultra 200Hシリーズは、ベース消費電力で「28~45W」のレンジを担うモバイル向けSoC。CPUコアのアーキテクチャはPコアがLion Cove、EコアとLP-EコアがSkymontで、PコアとEコアを備えるCPUタイルはTSMC N3Bで製造されている。

 Arrow Lake-HのパッケージにはNPUとGPUも搭載しており、NPUは第3世代NPU(NPU3)で、GPUはXe-LPG+アーキテクチャを採用している。これらはLunar LakeことCore Ultra 200Vで導入されたNPU4やXe2より古い設計だが、GPUコアは従来のXe-LPGで無効化されていたXMXエンジンなどが有効化されている。

 今回テストするCore Ultra 9 285HはCore Ultra 200Hシリーズの最上位モデルで、CPUコアの構成は6基のPコアと8基のEコアに2基のLP-Eコアを加えた16コア/16スレッド。GPUコアは8基のXeコアを備えるArc 140T GPUで、NPUは13TOPSのAI演算性能を備えている。電力指標のPBPは45Wで、MTPは115W。

【表1】Core Ultra 9 285Hの主な仕様
モデルナンバーCore Ultra 9 285HCore Ultra 9 185H
開発コードネームArrow Lake-HMeteor Lake-H
CPUアーキテクチャLion Cove + SkymontRedwood Cove + Crestmont
製造プロセス(CPU)TSMC N3BIntel 4
Pコア数66
Eコア数88
LP-Eコア数22
CPUスレッド数1622
L3キャッシュ24MB24MB
ベースクロック
(Pコア/Eコア/LP-Eコア)
2.9GHz/2.7GHz/1.0GHz2.3GHz/1.8GHz/1.0GHz
最大ブーストクロック
(Pコア/Eコア/LP-Eコア)
5.4GHz/4.5GHz/2.5GHz5.1GHz/3.8GHz/2.5GHz
CPU内蔵GPU (iGPU)Arc 140TArc Graphics
iGPUアーキテクチャXe-LPG+Xe-LPG
iGPUコア数8基(Xeコア)8基(Xeコア)
iGPUクロック2.35GHz2.35GHz
NPUIntel AI Boost (NPU3)Intel AI Boost (NPU3)
NPUピーク性能13TOPS非公開
対応メモリLPDDR5X-8400、DDR5-6400LPDDR5X-7467、DDR5-5600
ThunderboltThunderbolt 4 (4基)Thunderbolt 4 (4基)
PCI ExpressPCIe 5.0 x8 + PCIe 4.0 x20PCIe 5.0 x8 + PCIe 4.0 x20
PBP45W45W
MTP115W115W
最小保証電力35W35W
TjMax110℃110℃
対応ソケットFCBGA2049FCBGA2049

Core Ultra 9 285Hを搭載するMSIの16型ノート「Prestige 16 AI Evo B2HMG」

 Arrow Lake-Hのテストに用いるノートPCは、MSIの16型ノートPC「Prestige 16 AI Evo B2HMG」。16型の大画面を備えながらも重量を約1.5kgに抑えた薄型軽量志向のノートPCだ。

 テスト機は英語キーボードを搭載した海外仕様。Core Ultra 9 285Hのほか、32GBのLPDDR5X-7467メモリや1TB SSD(PCIe 4.0 x4)を搭載しており、GPUはCore Ultra 9 285HのiGPUであるArc 140T GPUを使用する。ACアダプタはUSB PDに対応で、本体背面のThunderbolt 4ポート(USB Type-C)から100Wの電力供給が可能。

Core Ultra 9 285Hを搭載するMSIの16型ノートPC「Prestige 16 AI Evo B2HMG」
筐体のカラーリングはマットな質感が印象的な「ステラグレー」
ディスプレイは16型で、テスト機の画面解像度はアスペクト比16:10の2,560×1,600ドットだった
英語キーボードとボタン一体型の大型タッチパッドを装備
本体サイズは358.4mm×254.4mm×16.85~18.95mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約1.5kg
USB PDによる100W給電に対応したACアダプタが付属
【表2】MSI Prestige 16 AI Evo B2HMG(テスト機)の主な仕様
OSWindows 11 Pro
CPUCore Ultra 9 285H (6P+8E+2LP-E/16T)
GPUArc 140T GPU
メモリ32GB LPDDR5X-7467
ストレージ1TB NVMe SSD (PCIe 4.0 x4)
ディスプレイ16型ディスプレイ (2,560×1,600ドット、60Hz)
有線LAN1GbE
無線機能Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
USBThunderbolt 4(2基)、USB 3.2 Gen 2 Type-A
そのほかのインターフェイスヘッドセットジャック、SDカードリーダ、HDMI 2.1
ACアダプタ100W (USB PD)
本体サイズ358.4mm×254.4mm×16.85~18.95mm
本体重量約1.5kg

テスト環境と比較機材

 Core Ultra 9 285Hの比較用として用意したのは、競合となるAMDの「Ryzen AI 9 365」だ。Ryzen AI 9 365はCPUにZen 5コア4基とZen 5cコア6基を備える10コア/20スレッドCPUで、RDNA 3.5世代の12コアGPU「Radeon 880M」や、50TOPSのAI演算性能を有するNPU「Ryzen AI」も備えている。

 Ryzen AI 9 365をテストするのはMSIの16型ノートPC「Prestige A16 AI+ A3HMG」。Core Ultra 9 285Hを搭載するMSI Prestige 16 AI Evo B2HMGと同一メーカーかつ同じ薄型軽量志向のノートPCで、ACアダプタの給電能力も同じ100Wとなっている。

Ryzen AI 9 365を搭載するMSIの16型ノートPC「Prestige A16 AI+ A3HMG」
筐体カラーは「アーバンシルバー」

 各ノートPCのテスト環境は以下の通り。テストはACアダプタを接続した満充電状態で実行するほか、各ノートPCが高い性能を発揮できるようにMSI独自の電源管理を「究極のパフォーマンス」、Windowsの電源モードを「最適なパフォーマンス」、同じくWindowsの電源プランを「バランス」に設定している。

【表3】テスト環境
CPUCore Ultra 9 285HRyzen AI 9 365
コア数/スレッド数6P+8E+2LP-E/16T4C+6c/20T
L3キャッシュ24MB24MB
iGPUArc 140T GPURadeon 880M
iGPUコア数8基 (Xe-LPG+)12基 (RDNA 3.5)
iGPUドライバ32.0.101.6460Adrenaline 24.12.1 (32.0.12033.1030)
NPUIntel AI Boost (NPU3)Ryzen AI (XDNA 2)
ノートPCMSI Prestige 16 AI Evo B2HMGMSI Prestige A16 AI+ A3HMG
BIOSE15A1IMS.303E159KAMS.30E
CPU電力リミットPL1=55W、PL2=115W、Tau=56秒STAPM=28W、PPT Slow=50W、PPT Fast=71W
CPU温度リミット105℃100℃
メモリ32GB LPDDR5X-746732GB LPDDR5X-7500
システム用SSD1TB NVMe SSD (PCIe 4.0 x4)1TB NVMe SSD (PCIe 4.0 x4)
電源100W (USB PD)100W (USB PD)
OSWindows 11 Pro 24H2 (build 26100.3037、VBS有効)Windows 11 Home 24H2 (build 26100.3037、VBS有効)
電源設定MSIセンター「究極のパフォーマンス」、電源モード「最適なパフォーマンス」、電源プラン「バランス」
計測HWiNFO64 Pro v8.20
室温約23℃
Core Ultra 9 285HのCPU-Z実行画面
Ryzen AI 9 365のCPU-Z実行画面
Core Ultra 9 285H(Arc 140T GPU)のGPU-Z実行画面
Ryzen AI 9 365(Radeon 880M)のCPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 今回実施したベンチマークテストは以下の通り。

・Cinebench 2024
・Cinebench R23
・3DMark
・PCMark 10
・UL Procyon
・やねうら王
・Adobe Camera Raw
・DaVinci Resolve 19
・HandBrake
・AIDA64 Cache & Memory Benchmark
・ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
・F1 24
・サイバーパンク2077
・VALORANT
・エルデンリング
・STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール
・モンスターハンターワイルズ ベンチマーク

Cinebench 2024

 Cinebench 2024では、CPUのマルチスレッド性能を計測する「CPU (Multi Core)」と、シングルスレッド性能を計測する「CPU (Single Core)」を実行した。テストの最低実行時間は「10分」。

 Core Ultra 9 285Hはマルチスレッドテストで「1,018」、シングルスレッドテストで「126」を記録し、Ryzen AI 9 365のスコアをそれぞれ約2%と約13%上回った。

Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」
Cinebench 2024「CPU (Single Core)」

Cinebench R23

 Cinebench R23では、CPUのマルチスレッド性能を計測する「CPU (Multi Core)」と、シングルスレッド性能を計測する「CPU (Single Core)」を実行した。テストの最低実行時間は「10分」。

 Core Ultra 9 285Hはマルチスレッドテストで「18,269」、シングルスレッドテストで「2,110」を記録。マルチスレッド性能は「18,499」を記録したRyzen AI 9 365を約1%下回ったが、シングルスレッド性能については約6%上回っている。

Cinebench R23「CPU (Multi Core)」
Cinebench R23「CPU (Single Core)」

3DMark「CPU Profile」

 CPU性能をスレッド数毎に計測する3DMarkの「CPU Profile」では、それぞれのCPUが記録したスコアをまとめたグラフと、Ryzen AI 9 365のスコアを基準に指数化したグラフを用意した。

 Core Ultra 9 285Hはすべての条件でRyzen AI 9 365を上回るスコアを記録。1~8スレッドでは7.5~14.4%、16スレッド以上では34.6~36.8%、それぞれRyzen AI 9 365を上回った。

3DMark「CPU Profile」
3DMark「CPU Profile」 (Ryzen AI 9 365比)

PCMark 10 Extended

 PCMark 10標準のテストの中でもっとも詳細な「PCMark 10 Extended」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hの総合スコアは「7,705」で、Ryzen AI 9 365の「7,590」を約2%上回った。

PCMark 10 Extended

PCMark 10 Application

 Microsoft OfficeやWebブラウザのEdgeを使ってパフォーマンスの計測を行なう「PCMark 10 Application」の実行結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hの総合スコアは「16,371」で、Ryzen AI 9 365の「14,623」を約12%上回った。また、Core Ultra 9 285HはOffice系のアプリケーションではRyzen AI 9 365を12~22%上回っている。

PCMark 10 Application

UL Procyon「Office Productivity Benchmark」

 Microsoft Officeを使ってパフォーマンスの計測を行なうUL Procyon「Office Productivity Benchmark」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hの総合スコアは「6,998」で、Ryzen AI 9 365の「6,125」を約14%上回った。

 Core Ultra 9 285HはOutlookでRyzen AI 9 365を約51%も上回っているが、それ以外のOffice系アプリでもRyzen AI 9 365を6~16%上回っている。総合スコアの差は不可解に低いRyzen AI 9 365のOutlookスコアだけでついたものではないようだ。

UL Procyon「Office Productivity Benchmark」

UL Procyon「Photo Editing Benchmark」

 Adobeの画像編集系ソフト(Photoshop、Lightroom Classic)を使ってパフォーマンスの計測を行なうUL Procyon「Photo Editing Benchmark」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hの総合スコアは「6,327」で、Ryzen AI 9 365の「7,078」を約11%下回った。Core Ultra 9 285Hはバッチ処理でRyzen AI 9 365を約7%上回っているものの、レタッチで約25%下回ったことが響いたようだ。

UL Procyon「Photo Editing Benchmark」

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」(CPU/GPU)

 プロセッサのAI処理性能を計測するUL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」で、CPUとGPUのパフォーマンスを計測した結果が以下のグラフ。なお、Windows MLを利用した場合と、Intel製品向けのIntel OpenVINOを利用した場合の結果を個別にグラフ化した。

 Windows ML(Float16)を利用した場合、Core Ultra 9 285HはCPU性能でRyzen AI 9 365を約2%下回り、GPU性能では逆に26%上回った。

 Core Ultra 9 285HのパフォーマンスはOpenVINOの利用によって大きく向上しており、同じFloat16での演算でCPUスコアは約2.9倍の「135」、GPUスコアも約1.8倍の「791」に上昇した。

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark (Windows ML)」
UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark (Intel OpenVINO)」

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」(NPU)

 UL Procyonの「AI Computer Vision Benchmark」で、Core Ultra 9 285HとRyzen AI 9 365が備えるNPUの性能を計測した結果が以下のグラフ。なお、Core Ultra 9 285HはOpenVINO、Ryzen AI 9 365はRyzen AIでテストを実行した結果となっている。

 Integerでの演算ではCore Ultra 9 285HのNPUが「696」を記録する一方で、Ryzen AI 9 365のNPUは約2.5倍の「1,753」を記録して圧倒している。テスト時点のUL ProcyonではRyzen AI 9 365でFloat16での演算は実行できなかったが、両者が搭載するNPU性能に大きな差があることは確かなようだ。

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark (NPU)」

UL Procyon「AI Text Generation Benchmark」

 UL Procyonの「AI Text Generation Benchmark」は、GPUを用いたテキスト生成のパフォーマンスを計測するテスト。ここでは、ONNX RuntimeとIntel向けのOpenVINOでテストを実行した。

 ONNX RuntimeでのCore Ultra 9 285Hは、Ryzen AI 9 365のスコアをPHI 3.5で約6%、MISTRAL 7Bで約19%、LLAMA 3.1で約39%、LLAMA 2で約48%上回った。

 Core Ultra 9 285HのパフォーマンスはOpenVINOの利用によって大きく向上しており、ONNX Runtime利用時のCore Ultra 9 285Hを50~76%、Ryzen AI 9 365を87~135%も上回っている。

UL Procyon「AI Text Generation Benchmark」│GPUテスト

UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」

 UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」は、画像生成AIでのGPU性能を計測するテスト。今回は512×512ピクセルの画像を生成する「Stable Diffusion 1.5 (FP16)」をOpenVINOとONNX Runtimeで実行し、ベンチマークスコアと画像1枚あたりの生成時間をグラフ化した。

 Core Ultra 9 285HのスコアはOpenVINOで「353」、ONNX Runtimeで「155」を記録。Ryzen AI 9 365がONNX Runtimeで記録した「228」を同条件では約32%下回っているものの、OpenVINOの利用時は逆に約55%上回った。

 実際、画像1枚あたりの生成時間はOpneVINO利用時のCore Ultra 9 285Hが記録した17.671秒が最速で、Ryzen AI 9 365の27.362秒よりも短時間で画像を生成できている。

UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」│ベンチマークスコア
UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」│画像1枚あたりの生成時間

やねうら王

 将棋ソフトの「やねうら王」では、ベンチマーク機能を利用してマルチスレッドテストとシングルスレッドテストを実行した。

 Core Ultra 9 285Hはマルチスレッドテストで「16,412kNPS」、シングルスレッドテストで「1,748kNPS」を記録。これらはRyzen AI 9 365が記録したスコアをそれぞれ約2%と約4%下回るものだった。

やねうら王「マルチスレッド」
やねうら王「シングルスレッド」

Adobe Camera Raw「RAW現像」

 Adobe Camera Rawで、デジタルカメラで撮影した2,400万画素のRAWファイル100枚をJPEGファイルに変換する「RAW現像」を実行し、1分間あたりの処理枚数(Frame per minutes)を比較した。

 Core Ultra 9 285Hが記録した処理速度は「134.0fpm」で、Ryzen AI 9 365の「104.1fpm」を約29%上回った。

Adobe Camera Raw「RAW現像」

Adobe Camera Raw「AIノイズ除去」

 Adobe Camera Rawで、デジタルカメラで撮影した2,400万画素のRAWファイル5枚に対して「AIノイズ除去」を実行し、1分間あたりの処理枚数(Frame per minutes)を比較した。

 Core Ultra 9 285Hの処理速度は「1.29fpm」で、これはRyzen AI 9 365が記録した「1.37fpm」約5%下回るものだった。

Adobe Camera Raw「AIノイズ除去」

DaVinci Resolve 19

 DaVinci Resolve 19では、デジタルカメラで撮影した2160p60(4K60p)動画に字幕を追加したものを、YouTube向けプリセットをベースにH.264、H.265、AV1の各形式でレンダリングした際の処理速度(fps)を比較した。なお、今回のテスト環境ではRyzen AI 9 365で出力形式でAV1を選択できなかった。

 Core Ultra 9 285Hが記録した処理速度はH.264形式で「24.8fps」、H.265形式は「25.2fps」、AV1形式が「25.0fps」。Ryzen AI 365のレンダリング速度を、H.264形式で約19%、H.265形式で約18%、それぞれ上回った。

DaVinci Resolve 19「動画の書き出し」

HandBrake

 HandBrakeでは、約1分の4K動画(2160p60)を「Creatorプリセット」でエンコードしたさいの処理速度(fps)を比較した。

 Core Ultra 9 285Hの処理速度は1080pへの変換では「83.7fps」で、これはRyzen AI 9 365の「85.7fps」を約2%下回るものだった。一方、2160pへの変換で「34.0fps」を記録したCore Ultra 9 285Hは、「32.7fps」のRyzen AI 9 365を約4%上回っている。

HandBrake「動画エンコード」

CPUコア間のレイテンシ

 MicroBenchXの「CoherencyLatency」でCPUコア間のレイテンシを計測した結果が以下のマトリックス表だ。

 Core Ultra 285HのCPUコア間レイテンシは平均56.4nsとなっており、PコアとEコアの異なるコア間は30~40ns前後、4基で一組のEコアモジュール内は20ns前後となっている様子が確認できる。また、LP-Eコアと異なるCPUコア間のレイテンシは100nsを超えている。

 ちなみに、ACアダプタに接続している今回の条件において、Core Ultra 285HのLP-Eコアは基本的にコアパーキング状態となっており、Cinebenchややねうら王などのマルチスレッド系のベンチマークテストを実行しても処理は割り振られていなかった。Core Ultra 9 285HのLP-Eコアは、バッテリ駆動時などで低消費電力動作が必要な場合に活用されるようだ。

Core Ultra 9 285HのCPUコア間レイテンシ
Ryzen AI 9 365のCPUコア間レイテンシ

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリ性能」

 AIDA64 Cache & Memory Benchmarkで、メインメモリの帯域幅とレイテンシを計測した結果が以下のグラフ。

 32GBのLPDDR5X-7467を搭載したCore Ultra 9 285Hのメモリ帯域幅は75.5~98.2GB/sで、ReadやWriteではRyzen AI 9 365(LPDDR5X-7500)を14~26%下回る一方、Copyでは逆に約20%上回っている。レイテンシに関しては133.7nsで、Ryzen AI 9 365の119.2nsより12%大きい。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリの帯域幅」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリのレイテンシ」

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュ性能」

 AIDA64 Cache & Memory Benchmarkで、CPUが備えるキャッシュメモリの帯域幅とレイテンシを計測した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hは、Lion Coveで追加されたL0キャッシュの帯域幅がRyzen AI 9 365のL1キャッシュを凌駕する一方で、L1キャッシュやL2キャッシュの帯域幅はRyzen AI 9 365を大きく下回っている。L3キャッシュの帯域幅に関してはReadでRyzen AI 9 365を約5%上回るものの、WriteやCopyでは逆に37~38%下回った。

 キャッシュのレイテンシに関しても、Core Ultra 9 285HのL0キャッシュがRyzen AI 9 365のL1キャッシュと同等で、L1~L3キャッシュのレイテンシはRyzen AI 9 365より大きなものとなっている。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「L0キャッシュの帯域幅」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「L1キャッシュの帯域幅」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「L2キャッシュの帯域幅」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「L3キャッシュの帯域幅」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュのレイテンシ」

3DMark「Speed Way」

 3DMarkのDirectX 12 Ultimateテスト「Speed Way」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hのスコアは「640」で、Ryzen AI 9 365の「349」を約83%も上回った。

3DMark「Speed Way」

3DMark「Steel Nomad」

 3DMarkのDirectX 12高負荷テスト「Steel Nomad」と、その軽量版「Steel Nomad Light」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285HはSteel Nomadで「827」、Steel Nomad Light「3,613」を記録。Ryzen AI 9 365のスコアをそれぞれ約50%と約15%上回った。

3DMark「Steel Nomad」
3DMark「Steel Nomad Light」

3DMark「Port Royal」

 3DMarkのDirectX Raytracing(DXR)テスト「Port Royal」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hのスコアは「1,972」で、Ryzen AI 9 365の「1,386」を約42%上回った。

3DMark「Port Royal」

3DMark「Solar Bay」

 Vulkan 1.1を用いる軽量なリアルタイムレイトレーシングテストである3DMark「Solar Bay」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285Hのスコアは「16,292」で、Ryzen AI 9 365の「13,446」を約21%上回った。

3DMark「Solar Bay」

3DMark「Wild Life」

 3DMarkのVulkanテスト「Wild Life」と、高負荷版である「Wild Life Extreme」を実行した結果が以下のグラフ。

 Core Ultra 9 285HはWild Lifeで「27,371」、Wild Life Extreme「7,493」を記録。Ryzen AI 9 365のスコアをそれぞれ約53%と約41%上回った。

3DMark「Wild Life」

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、フルHD/1080p解像度で3種類の描画品質でテストを実行。ベンチマークスコアと平均フレームレートを取得した。なお、DLSSやFSRは無効にしている。

 Core Ultra 9 285Hはすべての設定でRyazen AI 9 365を上回るパフォーマンスを発揮し、Ryzen AI 9 365が記録したスコアを15~21%上回った。

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク「スコア」
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク「平均フレームレート」

F1 24

 F1 24では、フルHD/1080p解像度で5種類のグラフィックプリセットをテストした。今回は、超解像およびフレーム生成技術を「Intel XeSS」にした場合と「AMD FSR」にした場合で個別にグラフ化している。

 超解像にXeSSを用いた場合、フレーム生成無効時のCore Ultra 9 285HはRyzen AI 9 365と描画品質次第で勝ち負けが別れる結果となっている。XeSS FGによるフレーム生成を行なうとCore Ultra 9 285Hのフレームレートは30~88%上昇し、XeSS FG非対応のRyzen AI 9 365を大きく上回った。

F1 24 (v1.17.1199974)│XeSS

 超解像にFSRを用いた場合、Core Ultra 9 285Hはグラフィックプリセット「超高」以外でRyzen AI 9 365を下回っており、FSR 3 FGによるフレーム生成有効時に5~22%、フレーム生成無効時に12~23%、それぞれRyzen AI 9 365を下回る平均フレームレートとなっている。

 なお、Ryzen AI 9 365を上回った「超高」での結果に関しては、フレーム生成無効で23fps、フレーム生成有効でも40fpsでしかないため、実際にプレイするのは厳しい。

F1 24 (v1.17.1199974)│FSR 3

サイバーパンク2077

 サイバーパンク2077では、フルHD/1080p解像度で5種類のグラフィックプリセットをテストした。今回は、超解像技術を「Intel XeSS」にした場合と「AMD FSR」にした場合で個別にグラフ化している。

 超解像にXeSSを使用した場合のCore Ultra 9 285Hは、グラフィックプリセット「中」以下ではRyzen AI 9 365を2~6%下回り、グラフィックプリセット「高」以上では逆に7~22%上回った。

サイバーパンク2077 (v2.21)│XeSS

 超解像にFSRを使用し、FSR 3 FGによるフレーム生成も有効にした場合のCore Ultra 9 285Hは、グラフィックプリセット「ウルトラ」以下でRyzen AI 9 365を4~17%下回った。グラフィックプリセット「レイトレーシング:低」では逆に6%上回っているが、フレーム生成有効での44.60fpsはゲームをプレイするには厳しい。

サイバーパンク2077 (v2.21)│FSR 3

VALORANT

 VALORANTでは、射撃場の中でも特に負荷の高い場所(全景が見える場所)で平均フレームレートを計測した。テストでは画面解像度をフルHD/1080pに設定し、3種類の描画品質で計測を行なった。

 Core Ultra 9 285Hは描画設定「低」で128.9fps、「中」で119.7fps、「高」でも87.8fpsの平均フレームレートを記録し、Ryzen AI 9 365を13~26%上回った。

VALORANT

エルデンリング

 エルデンリングでは、フルHD/1080p解像度で4種類のグラフィックプリセットをテストし、平均フレームレートを計測した。なお、自動描画調整機能とレイトレーシングについては無効にしている。

 Core Ultra 9 285Hは描画設定「低」でRyzen AI 9 365を約2%下回る一方、描画設定「中」以上では逆に3~13%上回った。

エルデンリング

STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール

 STREET FIGHTER 6 ベンチマークツールでは、フルHD/1080p解像度で3種類のグラフィックプリセットをテストし、メインコンテンツであるFIGHTING GROUNDの平均フレームレートを比較した。上限フレームレートは60fps。

 Core Ultra 9 285Hが60fpsを維持していると言えるのは描画設定「LOWEST」のみだが、「LOW」で約4%下回ったことを除けば、Ryzen AI 9 365に近いパフォーマンスを発揮している。

STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール「FIGHTING GROUND」

モンスターハンターワイルズ ベンチマーク

 モンスターハンターワイルズ ベンチマークでは、超解像とフレーム生成に「AMD FSR」を使用したさいのパフォーマンスを計測した。テスト時の画面解像度はフルHD/1080pで、レイトレーシングについては無効にしている。

 Core Ultra 9 285Hはすべての条件でRyzen AI 9 365を34~62%と大きく下回った。

 Core Ultra 9 285Hはもっとも負荷の低い描画設定「最低」でも40.26fpsでベンチマーク評価が「設定変更が必要です」どまりとなっており、描画設定「低」以下で「問題なくプレイできます」との評価を獲得したRyzen AI 9 365との差はきわめて大きい。

モンスターハンターワイルズ ベンチマーク (v1.000.00.00)

Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータ

 モニタリングソフトのHWiNFO64 Proで、CPUのマルチスレッド性能を計測するCinebench 2024「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータを計測した結果が以下の推移グラフ。

 ベンチマーク中のCore Ultra 9 285Hは、CPU温度が平均93.1℃(最大106.0℃)、CPU消費電力は平均55.7W(最大115.4W)となっており、平均CPUクロックはPコアが3,803MHz、Eコアは3,429MHzだった。テスト最終版に電力やクロックが低下している様子が確認できることから、長時間の高負荷動作に対してなんらかのリミットが働いていることが伺える。

 CPUが最大限に性能を発揮できたとは言い難いデータだが、Core Ultra 9 285Hを搭載するMSI Prestige 16 AI Evo B2HMGは薄型軽量志向のノートPCであり、長時間CPUをフルパワーで動かすのに適した筐体でないことは明らかだ。それでもこれだけのCPUパワーを発揮できているのだから大したものだ。

Core Ultra 9 285Hのモニタリングデータ│Cinebench 2024
Ryzen AI 9 365のモニタリングデータ│Cinebench 2024

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク実行中のモニタリングデータ

 モニタリングソフトのHWiNFO64 Proで、ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークを「フルHD/1080p、最高品質」で実行中のモニタリングデータを計測した結果が以下の推移グラフ。

 ベンチマーク中のCore Ultra 9 285Hは、CPU温度が平均86.2℃(最大105℃)、GPU温度が平均71.9℃(最大79℃)、CPU消費電力は平均47.2W(最大73.9W)、GPU消費電力が平均16.3W(最大19.5W)となっており、平均CPUクロックはPコアが3,778MHz、Eコアは2,344MHz、GPUクロックは2,335MHzだった。

 テスト中、CPUクロックは乱高下している一方でGPUは終始2,350MHzに近いクロックで動作しており、終始高いパフォーマンスを維持していたことが伺える。

Core Ultra 9 285Hのモニタリングデータ│FF14ベンチマーク
Ryzen AI 9 365のモニタリングデータ│FF14ベンチマーク

意外に強いiGPUを備えるモバイル向けArrow Lake

 最新設計のCPUコアを搭載するCore Ultra 9 285HのCPU性能は優秀なものであり、競合となるRyzen AIにも十分対抗できるだけの実力を備えている。

 少々意外に感じたのがiGPUであるArc 140T GPUのパフォーマンスだ。最新のXe2世代のGPUでこそないものの、XMXエンジンなどの有効化やフレーム生成機能(XeSS FG)への対応が功を奏し、Ryzen AI 9 365のGPU相手に優位に立つ結果も見られた。過度な期待は禁物だが、モバイルノートPCのiGPUとしてはまずまず優秀と言えるレベルの実力はあるようだ。

 Arrow Lake-Hが1kg台前半程度で持ち歩きやすいノートPCに搭載され、10万円台から選べるようになれば、クリエイティブからビジネスまでマルチにこなせるノートPCとして面白い存在となりそうだ。

Intel新最強モバイルCPU「Core Ultra 9 285H」の実力をライブ配信でもレポートします!【2月12日(水)21時より】

 Core Ultra 9 285HをPC Watch劉デスクがライブ配信で解説します。ベンチマーク結果の解説はもちろん、搭載ノートPCの使い勝手や実動デモも交えてお届け。2025年仕様の最新ハイパフォーマンスノートPCを紐解いていきます。