大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Dell、中国・成都のデスクトップPC生産拠点「CCC6」を公開

~将来的には年間700万台規模の生産が可能に

 中国・成都で2013年6月6日から稼働したDellのPC生産拠点「CCC6」を取材する機会を得た。CCCは、「チャイナ・カスタマー・センター」の略称であり、中国国内で6番目の拠点であることを示すCCC6では、欧州市場および米国市場向け、中国西部向けのデスクトップPCを生産しており、現時点では、月産数千台規模の水準だが、中国や欧州、あるいは北米での需要動向に併せて、今後の拡張次第で、最大で年間700万台のデスクトップPCを生産できるだけの規模を持っているという。Dellが開設したCCC6はどんな製品拠点なのか。その様子を紹介しよう。

 Dellは、北米、欧州、南米、マレーシア、中国に、PCの生産拠点を有している。中国では、中国南西部の廈門(アモイ)に、中国市場向けのPCやサーバー、ストレージなどを生産するCCC2と、アジア市場向けにPCやサーバー、ストレージなどを生産するCCC4をすでに稼働している。2011年には、1998年に中国での生産(当初は委託生産)を開始して以来、累計5,000万台の生産を達成した実績を持つ。

 CCC1およびCCC3は、もともとオフィスとして利用していた拠点だったが、1昨年には、高層ビル型の新たなオフィスビルとしてCCC5を設置して、ここにオフィス機能を集約。奇数番号がオフィス、偶数番号が生産拠点という形になっている。

 日本向けのPCは、CCC4で生産されており、今回、初めて報道関係者に公開されたCCC6は、北米および欧州、中国西部の市場を対象にして、新たに開設した生産拠点となる。CCC4のデスクトップPC生産を維持したまま、新たにデスクトップPCの生産拠点を開設したのは、中国内陸部での需要拡大とともに、将来、シルクロードを通じる新たな鉄道路線の開通が計画中であることも大きな要因。これによって、欧州への輸送コストおよび輸送納期が、大幅に削減できるとの見通しがあるからだと言えよう。

中国・成都で2013年7月から稼働しているデスクトップPCの生産拠点である「CCC6」
CCC6のゲートの様子。厳重に管理されている
Dellのロゴが見えるのは正面から1カ所
建物の正面入口の様子
正面入口はビジター専用となっている

 CCC6は、3万平方mの敷地を持ち、XPS、Latitude、Inspironといった同社デスクトップのすべてのブランドを、混流で生産することになる。生産ラインは、「スーパーマーケットエリア」と呼ばれる部品在庫および部品のピッキング工程、組立を行なう「アセンブリエリア」、各種試験およびソフトウェアのインストールを行なう「バーンテストエリア」、梱包を行なう「ボクシングエリア」、仕向地向けに仕分けを行なう「スタギングエリア」で構成される。

 スーパーマーケットエリアでは、サプライヤーから入庫した部品を在庫し、ここから、1台の組み立てに必要な部品を1つの箱に取り揃えることになる。部品在庫は、Dellの工場内に搬入される直前までは、部品メーカーの資産となっており、部品倉庫に置かれた時点で、Dellの資産となる。部品は約2時間分がストックされており、2時間ごとにサプライヤーから供給される仕組みだ。

 また、CCC6の中には、保税エリアがあり、輸入部品に関する課税などもこれを活用することで効率的な運用が可能になる。特に、CCC6では、欧州および北米への輸出が中心となることから、輸出品には課税しない保税エリアの存在は大きいといえよう。

 組み立てに必要な部品は、トラベラーと呼ばれる仕様書に記載されており、これを元にして、バーコードで管理しながら、部品を人手でピックアップすることになる。ピックアップされた部品は1つの箱の中にすべて収められ、アセンブリエリアに投入される。アセンブリを行なうラインには、7人の作業員が並ぶ。部品が入った箱を横に置き、筐体に各種部品を組み込んでいくリーン生産方式を採用。自分の作業が完了すると、コロコンラインの上に置かれた筐体と部品箱を手押しで隣の作業員にスライドさせて、次の作業者が、担当する次の組み立て作業を行なうという仕組みだ。12のリーン生産ラインが稼働しているが、まだまだ拡張は可能だ。

 組み立てが完了したデスクトップPCは、6台単位でバーンテストエリアに運び込まれる。バーンテストエリアでは、ネットワークを通じて、それぞれのPCごとに異なるソフトウェアがインストールされるとともに、試験プログラムを動かす。試験状況は、それぞれのPCごとにディスプレイに表示され、バーンテストがスタートしているものは緑、パスしたものは白で表示。また、テストに失敗したものは赤で表示される。

 バーンテストが完了すると、電源を入れて動作を確認する「HiPot」、外観の細かい傷がないかを確認する「MCI」、最終品質を確認するための「EQM」を経て、ボクシングエリアに運び込まれる。

 ボクシングエリアでは、デスクトップPCをアーム型の機器で持ち上げ、梱包材などを装着。アームに吊られた形で、そのまま梱包箱に入れられる。その後、マニュアルなどの付属品を入れて、梱包する。

 ここまでの工程で組み立ては完了となる。機種によって異なるが、50~90分で1台が完成することになる。

 梱包が完了したデスクトップPCは、欧州および北米市場向けに仕分けされ、これらは、上海を経由して船便で輸出されることになる。現在、船便で欧州まで輸出すると約40日かかるというが、もし鉄道路線が開通すれば、21日間で欧州エリアにまで届けることができ、低コストで輸送できるようになると見込んでいる。

 CCC2やCCC4あるい北米、欧州の工場などでは、スタギングエリアにおいては、大規模なベルトコンベアシステムを採用。仕向け地ごとに、自動で仕分けする仕組みとしているが、CCC6では、これを採用していない。同社では、「北米向け、欧州向けといったように、仕向地の数が少なく、シンプルである。そのため、全自動で仕分けするほどの投資が必要ない。ユーザーに対して不良品が届かないようにするなど、安心する部分に投資することを優先したい」としている。

 完成したデスクトップPCは、手作業によって仕向地ごとに分類されて、出荷を待つことになる。

 CCC6は、基本方針としては、グローバルで展開している同社標準の生産ラインの仕組みを採用しているが、アセンブリ工程ではセル方式ではなく、ライン方式を採用していること、梱包後の仕向地向けの切り分け作業では、全自動仕分け用ベルトコンベアを採用せずに人手で行うなど、独自の仕組みとなっている部分もある。CCC6における新たな取り組みが、他の拠点に、今後どう波及するのかも注目しておきたい。

7人で生産するリーン生産方式を採用
アセンブリラインではディスプレイに仕様を表示。それに従って組み立てる。ここでの端末にはWyseを使用していた
バーンテストエリア。6台単位で棚に入れてテストを実施する
バーンテストエリアではネットワークを通じてソフトウェアもインストールする
HiSpotの様子。電源周りのチェックを行なう

 CCC6には、Dellの社内向けシステムのデータセンターも設置している。1,312平方mのエリアに、サーバーおよびストレージを設置。同社社員が日常業務で利用するデータなどを格納しているという。

 同データセンターでは、従来に比べて、35%の消費電力を削減した運用が可能なこと、UPSによりゼロダウンタイムを実現すること、OCSと呼ぶ最適化技術を採用し、冗長性を持たせていること、リモートでのモニタリング環境を実現していること、そして、Dell on Dellとして、自らの製品を自ら活用していくという観点でも重要な役割を果たしているという。

 「CCC6のデータセンターでは、全製品の95%がDellの製品で構成されている。これまでは、ネットワーク機器には、シスコやジュニパーを活用していたが、CCC6では、Force10を始めとしたDellネットワーキングの製品群を採用しており、それもDell製品の利用構成比を高めることにつながっている」としている。ストレージにはコンペレント製品を導入しているという。

 また、データセンターのエネルギー効率を表すPUEに関しては、1.6~1.8を実現としており、「中国のデータセンターでは、PUEは平均で2.2になっているが、それを大きく下回ることになる」とした。

 成都への生産拠点としての進出は、4年ほど前から検討が開始されていたというが、社内オペレーションの拠点としても重要な役割を果たしていることが分かる。

(大河原 克行)