大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
米沢事業場に初の外国人社長が訪れて感じたこと
~NECパーソナルコンピュータ・ラピン社長の幹部巡回に密着
(2013/12/21 06:00)
2013年12月19日、NECパーソナルコンピュータ米沢事業場に、同社社長のロードリック・ラピン氏が訪れた。同社初の外国人社長であるラピン氏が、幹部巡回として米沢事業場を訪れるのは、今年8月に続いて2回目。今回は、社員との直接対話を実現するラウンドテーブルのほか、実際に生産現場を見学して、NECパーソナルコンピュータの先進的なモノづくりを目の当たりにした。ラピン社長は、「米沢事業場を訪れる度に驚きがある。米沢工場の文化は改善の連続であり、成熟市場における生産拠点として、レノボグループにとっては重要な拠点」と語る。米沢事業場でのラピン社長の幹部巡回に密着した。
土日返上での増産体制を敷く米沢事業場
12月の米沢事業場は、すでに雪の中にあった。
JR米沢駅から、NECパーソナルコンピュータ米沢事業場までは、歩ける距離にあり、その間は、すべて除雪作業済み。雪がない時期と同じように、10分かからずに、米沢事業場に到着することができた。
今、米沢事業場は過去最高の生産台数を維持し続けている。
Windows XPからの移行や、消費増税前の設備投資の増加などにより、国内の企業向けPCに対する需要が旺盛で、その主力拠点となる米沢事業場では、前年比3割以上の増産体制を敷いているところだ。
現在、ノートPCで40ライン、デスクトップPCで22ライン、外部に8ラインの合計70ラインのセル生産ラインを持っているが、今年夏以降は土曜日返上や連日の残業に加えて、12月は土日返上で対応するという状況だ。
そうした中でも、生産性向上、作業者の多能工化、現場の声を反映した改善活動などにより、増員を極力抑えて、増産に対応。さらに来年1月以降も増産体制が継続されることから、それに向けた準備にも取り組んでいるところだ。
今回の幹部巡回は、増産対応の中での生産革新に対する取り組みについて進捗状況の確認とともに、社員との直接対話の場を持つのが狙いだった。
午前中から3つのラウンドテーブルが行なわれ、ロードリック・ラピン社長や高塚栄相談役、山越弘二郎執行役員常務、留目真伸執行役員常務、横田聡一執行役員常務などの同社幹部が参加。社員と対話を行ない、米沢事業場の現状や改善策などについて意見を交換した。また、午後3時45分からは、ロードリック・ラピン社長をはじめとする幹部社員が、約1時間に渡って、生産現場を見学し、これまでの改善活動の成果と課題について、生産ラインの担当者から直接報告を受け、実際に生産ラインの治具を体験。また、疑問点については逐次、担当者に質問し、米沢事業場の生産ラインについて理解を深めた。
ラピン社長は、「NECパーソナルコンピュータの社長に就任する前から、何度も米沢事業場を訪れているが、毎回訪れる度に驚きがある。米沢事業場の文化は改善の連続である。これは米沢事業場の一番の強みである。日本にあるさまざまな業種の、数ある生産拠点の中でも、米沢事業場の文化は優れていると考えている。1、2秒の改善でも、これだけ多くの生産量があると、大きな影響が出てくることになる。そうしたところにフォーカスをして、改善している点には毎回驚く」としたほか、「生産拠点を成熟市場に置いている企業はほとんどない。成熟市場に生産拠点を置き、維持するには、イノベーション力や生産性、効率性は重要になってくる。それを米沢事業場の従業員は理解し、世界で戦おうと考えている。だからこそ、改善を続け、現在の競争力を出していくことができる」と評価した。
さらに、「米沢事業場は、日本市場向けだけの製品を生産する拠点であるという点で、レノボグループの他の生産拠点とは異なっている。他の拠点ではさまざまな国に向けて生産を行なっている。米国や中国から、米沢事業場を訪れて、ノウハウを学ぶといったことが行なわれているほか、米沢事業場で働いている人が、米国や中国を訪れることもある。すでにレノボグループの生産体制の一員として組み込まれており、レノボグループ全体として学ぶところも大きい。今後も重要な役割を果たすことになる」とする。
つまり、ラピン社長は、米沢事業場における日本のモノづくりを、レノボグループとして継続的に推進していく姿勢を見せた。
治具の開発、無駄とりなどで生産革新が相次ぐ
生産現場の見学ではいくつかの新たな生産革新の様子が説明された。
梱包の際に使うダンボールの緩衝材の組み立てには、これまでは1個あたり13秒かかっていたが、これが新たに開発した治具ではわずか3秒で組み立てが行なえるようになった。この組立作業は、ラピン社長自らが実際に体験してみた。
またエージング工程では、ノートPCのヒンジ角度が平らにならない機種に関して、テーブルを引き出し、エージング作業時に必要となるケーブルを差し込んだ後、テーブルを回し、ヒンジ角度にあわせたスペースを確保しながら数多くのノートPCを一斉にエージング検査できる装置を開発。これによって、5%の生産性向上が図れたという。
部品在庫ラインでは、部品入庫時に使用されるダンボール箱の梱包材を効率的に取り外す「ヘラクレス君」と呼ぶ治具を開発。作業員2人で1日2,000個もの箱を扱う中で、25%の効率化が図れたという。
さらに、在庫するエリアのレイアウト変更により、ピックアップのために移動する距離を20m削減。従来のバーコードによって仕様を確認しながら部品をピックアップする作業を、RFIDを活用することにより、読み取り時間を従来の6秒から1秒に短縮できたという。
また、女性スタッフによる改善活動の取り組みについても説明。50項目にのぼる無駄取りや、生産ラインにおける80cmの間締め、新たな治具の開発などに成果が出ていることなどが説明された。
変化が常態化している姿勢に強い関心
生産現場を見学しているラピン社長は精力的だった。最前列で熱心にノートにメモを取る姿が、どの説明の場でも見られたのは印象的でもあった。
見学後に、ラピン社長に聞くと、この1時間弱の間だけで、5ページもメモを取ったという。
「提示された改善項目のデータはすべて書き留めた。米沢事業場が本気で改善に取り組んでいることを理解できた。米沢事業場のように、変革することが常態化している企業は、ほかには見られない。私は、『Change or Die』という本を題材にして幹部社員に話すことが多いが、これは、すべてのものは変わらなければ死んでしまうということを意味する。米沢事業場は、なにを、どう改善しているのかということに対して、大変高い関心を持った。だからこそ、多くのことをノートに書き留めた。日本の企業の中においても、変革することに常に取り組んでいる企業の代表と言えるのではないか」と自己評価する。
特に、ラピン社長が注目したのが、不良部品や余剰部品を返却する際に使用していた伝票を、このほどデジタル化したことだ。「30年間使い続けてきた伝票を廃止するという説明を聞いた。ずっと使い続けてきたからやり続けてきたが、気がついて改善したら、年間で13,000ドルも削減できることが分かった。市場が変わる中で、我々も変わって行かなくてはならない。そうした取り組みを示す好例である」とした。
ラピン社長にとって、今回の見学は大きな影響を与えたようだ。
「私にとっても、インスピレーションを生むという点でも刺激になる」と、ラピン社長は米沢事業場の見学後にコメントした。
培った基礎体力が柔軟な生産体制を生む
一方、NECパーソナルコンピュータの幹部も、今回の幹部巡回に関して次のようにコメントする。
NECパーソナルコンピュータの山越弘二郎執行役員常務は、「米沢事業場の生産ラインの方々は、夏以降、増産に次ぐ増産に対して、休日返上で対応してもらい、生産台数の記録更新が続いている。忙しく、厳しい環境の中でも、ラインが整然と、乱れることなく、稼働しているのは、長年に渡って行なってきた生産革新で培った基礎体力によるものだと捉えている。緊急時への対応にも自信を持つことができる。そして、さらなる作業効率の改善を進め、増員せずに増産体制を敷き、高い品質を維持できることに対しても心強く思っている。女性視点での改善への取り組みのほか、従業員全員が連携して、最大のシナジーを出しているからこそ、今の米沢事業場がある」などと述べた。
留目真伸執行役員常務は、「訪れる度に、新たな工夫が見られ、大変頼もしく思っている。そして、増産対応にも感謝している。ノートPCのヒンジ角度を変更することで、生産現場に与える影響があるということを改めて理解した。こうしたことをフィードバックし、連携する体制を強化したい」と語った。
また、横田聡一執行役員常務は、「増産しなくてはならないということがトリガーとなって、効率化がさらに促進しているのではないだろうか。1秒単位で工程を縮めていくことに努力しており、それが数万台という単位になれば大きな成果になってくることを改めて感じた。女性視点での改善への取り組みは、料理する際に、皿や調味料がどこにあった方が使いやすいといった家庭での視点も反映されているのではないかと感じた。ダイバーシティとも言える多様化した見方ができる体制があり、さらに新たな発見が生まれることに期待したい」と語った。
米沢事業場における国内生産にこだわるNECパーソナルコンピュータは、依然として進化を遂げている。そして、来年3月までは確実に見込まれる増産体制にも柔軟に対応できる強みを発揮している。
そうした強みが改めて浮き彫りになった今回の幹部巡回だったと言えるのではないだろうか。