大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソニータイマーはもはや過去のもの。品質で信頼を得たVAIOが目指す次の目標とは?

VAIO初のモバイルモニター「VAIO Vision+ 14」を手に持つ、VAIO株式会社 代表取締役社長の山野正樹氏

 2024年7月1日、VAIOが創業から10周年を迎えた。ソニーのPC事業から独立した際には、規模を大幅に縮小して再スタート。ターゲットとする領域を絞りながら、徐々に事業を拡大し、同社2025年度(2024年6月~2025年5月)には、いよいよ売上高500億円突破を目指すことになる。

 VAIOの山野正樹社長は「VAIOがやっと離陸できる段階に入ってきた」と語り、「個人向けPCだけでなく、法人向けPCにおいても高い評価を得ることができている。次のステージで成長するための企業体質の強化に努めていく」と続ける。

 10周年にあわせて「あなたと進化する。VAIO」のメッセージを打ち出し、信頼できるパートナーとしての役割を、より強固なものにする姿勢も示す。山野社長にこれまでのVAIOと、これからのVAIOについて聞いた。

ボリュームゾーンへの展開で2年間で約2倍の成長

――VAIOが、ソニーから独立し、10年目の節目を迎えました。今のVAIOのPC市場でのポジションをどう見ていますか。

山野氏(以下敬称略) 今、私が社内に話しているのは「VAIOがやっと離陸したね」ということです。10年前にVAIOが設立された際には、事業規模を大幅に縮小し、組織をスリム化し、まずは赤字体質からの脱却に取り組んできました。

 2021年6月に、私が社長に就任したときの課題は、ニッチに走るばかりに、縮小均衡に陥りかねない危機感があったことでした。「プレミアムニッチ」というと、聞こえはいいのですが、その分野のPCは数が売れるわけではありません。数が出なければコストが上昇し、価格が高くなる。そうなれば、かつてのVAIOファンすらも離れていきます。VAIOが「負のスパイラル」に入りかけていたわけです。

 そこで、VAIOらしさを失わずに、ボリュームゾーンにも展開し、成長戦略に舵を切りました。その結果、この2年間で売上高は約2倍に増えました。事業のステージを一段上げることができましたし、これから勝負していくことができるフェーズに入ってきたと思っています。

 だからこそ、「VAIOがやっと離陸した」と言える状況だと言えるのです。ただ、水平飛行のままでは、目の前にある山にぶつかってしまいますし、急上昇すると一気に失速しますから(笑)、着実に上昇していくことが大切であることを、肝に銘じています。

――その一方で、いまVAIOが持つ課題とはなんでしょうか。

山野 高い上空を飛んでいくには、しっかりとした機体を持ち、エンジン性能を高めていくことが必要です。今は次のステージで成長するための企業体質の強化に努めています。

 たとえば、グローバルに事業を展開する上では、さらなる環境対応が必要ですし、内部統制の仕組みや情報セキュリティへの対応、そして、コスト競争力も一段強化していかなくてはなりません。プレミアムPCであっても、お客様に購入してもらいやすい価格設定が必要ですし、そのためにはもっと販売量を増やさなくてはなりません。「正のスパイラル」をより強力にしていく必要があります。

――社長就任当時に感じていた危機感は払拭できましたか。

山野 危機感は常にあります。ただし、「このままでは生き残れない」という危機感ではありません。「負のスパイラル」から脱却し、正しい方向に向かっているという手応えはあります。今はこれからVAIOはどう戦っていくのかといった前向きな危機感を持っています。

“高いVAIO”という認識を変えたVAIO F14/F16

――2024年度(2023年6月~2024年5月)はどんな1年になりましたか。

山野 体質強化という点では、利益が当初計画以上の結果となりました。もっと数を売って、売上高を伸ばすこともできたのですが、今はそうすべきできないと判断しました。

 今後の発展のためには、しっかりと利益を確保しながら成長することを重視したわけです。急上昇すると、失速するという意味がここにあります。急激な円安の中で、原価が上昇していますから、そこで無理をして、マージンを削ってまで、事業を拡大しても、歪が出るだけです。

 それでも、売上高という観点で見れば、先ほどお話したように、この2年間で売上高は約2倍になりました。加速度がついていますから、2025年度(2024年6月~2025年5月)は、今の巡航速度を維持するだけで、売上高500億円には到達できると見ています。

――2023年6月に発売したVAIO Fシリーズなどでは、「Windows PCの定番」を目指し、ボリュームゾーンに打って出ました。この1年間の手応えはどうですか。

山野 実は円安の影響を最も受けたのが、「定番」と位置付けた個人向けの「VAIO F14/F16」、法人向けの「VAIO Pro BK/BM」でした。価格設定を変更したこともあり、当初想定の台数には到達はしませんでした。

VAIO F14
VAIO F16

 ただ、VAIOには高価なプレミアムモデルしかないという印象が払拭できましたし、個人ユーザーには比較的手頃な価格で購入できるVAIOが登場したこと、法人ユーザーではVAIOは高いので選択肢には挙がらないという状況が変化し、この領域においてもVAIOはしっかりとした製品を提供してくれるという事実が浸透しました。

 実際、新たなVAIOを購入していただいたお客様の声を聞くと、とても高い評価をしていただいています。使いやすい、格好いい、質感が高いなどといった声のほか、VAIOらしいという声をいただいたこともうれしかったですね。これらの声に、私達も自信を深めましたし、売れれれば売れるほど、VAIOの評価はより高まっていくと確信しています。

 もうひとつ、この1年間の大きな成果が、チャネルパートナーとの関係が格段に深くなった点です。日本全国を見渡すと、VAIOを取り扱っていない販売店のほうが多く、VAIOは個人向けPCだけを作っていると勘違いしている販売店の方々も、まだ少なくありませんでした。

 また、つい最近まで、定番と言える価格帯のPCをラインナップしていることを知らないチャネルパートナーの方々もいました。VAIOの場合、カタログスペックだけでは伝わらない部分が多いPCを作っていますから、ディストリビュータや販売店を対象にした内覧会を数多く開催し、実機に触っていただき、VAIOの良さを理解していただく活動に取り組みました。

 こうした活動は、VAIOの営業部門のモチベーションを上げることにもつながっています。VAIOの良さをチャネルパートナーの方々に説明すると、「こんなにいい商品があったんだ」と感動をしてもらえることが多いからです。ますます自信がつきますし、説明にも力が入りますよ(笑)。それは、設計部門、製造部門の社員のモチベーションを上げることにもつながっています。

顧客満足度で2位となったVAIO

――社長就任直後から、山野社長自らがトップセールスで駆け回っていたことが印象的でしたが、その成果はどうですか。

山野 社長就任当時は、法人向けPC市場における存在感がまったくなかったですから、私が積極的に活動を行ないましたが、現時点では、私がトップセールスを行なうフェーズは過ぎたと判断しています。

 もちろん、現場から要請があればいつでも駆け付けます。トップセールスは、私は門戸を開いただけで、後は営業部門がしっかりと提案してくれましたし、もともと製品がいいですから、自信を持ってトップセールスができました。社員の生産性を高めたり、モチベーションを高めたりするためにも、いいPCを使いたいというお客様が増えており、そうしたお客様に、VAIOが評価されています。最初は決めていただけなくても、2年を経過してVAIOを導入していただいたお客様もいます。私のトップセールスの勝率は6割ぐらいだったと思いますよ(笑)

 今、法人のお客様を対象に、安曇野の生産ラインを見学していただく機会を増やしています。VAIOのこだわりを理解し、日本のモノづくりを体感し、私達が誇る日本の技術とモノづくりのプライドを感じてもらっています。

 学生時代にVAIOを使っていた情報システム部門の役員が、安曇野に展示してある歴代のVAIOを見て、懐かしく感じてもらうなんてこともありますよ(笑)。そのVAIOが法人向けPCとして、今はここまで進化したということを説明しています。他社のPCに比べて、VAIOの価格が少し高いのは確かですが、VAIOの導入を決めていただいたお客様に共通しているのは、トータルコスト全体でみればVAIOはお得であるという評価です。

 この1年間は、個人向けPCは、国内市場全体が縮小する中で、VAIOは微増でしたが、法人向けPCは販売台数を大きく拡大しています。いまではVAIO全体の約9割が、法人向けPCとなっています。

――この1年で、法人向けPC市場における認知度は着実に上がっているようですね。

山野 確かにそうなんですが、まだまだ緒に就いたばかりです。調査すると、国内における法人向けPCのブランド想起率では、VAIOはわずか約4%です。これはVAIOの国内シェアとほぼ同じで、残念なことに最下位に近いところにあります。

 ただ、顧客満足度を測るNPS(Net Promoter Score)では、VAIOが2位となり、多くの人がVAIOをほかの人に薦めたいと回答しています。認知度はまだまだ低い。しかし満足度は高い。VAIOの法人向けPCとしての認知度が広がれば、もっと使ってもらえるということの裏付けでもあります。

「ソニータイマー」の呪いは過去のものと実感してもらえる

――VAIOでは、新たな行動理念を打ち出し、それを実行に移した1年でもありましたね。

山野 2023年4月に、VAIOの行動理念を新たに制定しました。行動理念は企業の根幹となり、長年に渡って順守するものになりますから、部長以上が参加する経営戦略会議で集中的に議論を行ない、社員の意見を反映し、社員が共感できるものとして定めています。行動理念で掲げたのは、「誠実」「敬意」「自由闊達」「プロフェッショナル」「One Team」の5つですが、社員にとっては、行動基準ができ、行動をしやすくなったのではないかと思っています。

 中でも行動理念の1つに掲げているOneTeamsは、これからのVAIOにとって、重要な言葉の1つでする。VAIOの本社は長野県安曇野市ですが、ここ数年は営業部門を強化していますから、東京の拠点での社員数が増えています。

 これはこれまで以上に、安曇野と東京の距離感が生まれやすい状況にあるとも言えます。それを解決するために、本社の設計部門と、東京の営業部門が、定期的に情報交換会を開くことにしました。

 今回は設計部門がVAIOの魅力やこだわりを伝えたとすれば、次回は営業部門から、お客様から聞いた評価はどうだったのか、どんな観点で商談に成功したり、失敗したりしたのか、現場にはどんな課題があるのかといった生々しい情報をやり取りするようにしました。

 今はこの情報交換会の対象をさらに拡張して、より多くの部門の人が参加できるようにしています。こうした取り組みを通じて、距離の制約をなくし、OneTeamsを実現しています。

 もともと、安曇野の社員はPCを作るのが仕事で、PCを売るのはソニーという仕組みでした。今はVAIOの中にある営業部門が売っています。営業部門がVAIOの良さをとことん理解し、設計部門は現場の声を反映してモノづくりを行なうことが、VAIOの成長に直結します。この数年で、お互いに深い理解が進んできたと思っています。

 さらに、行動理念に則した形で、部長以上を対象にした360度評価も開始しました。上司、部下、同僚はどう評価しているのかということを知り、自らの課題に気が付くだけでなく、それに基づいた行動計画をまとめ、部下に対して発表するという機会を設けています。これも行動理念を社内に浸透させるための取り組みであり、毎年実施する予定です。

――安曇野の工場で、専任の技術者が1台ずつ最終仕上げを行なう「安曇野FINISH」はどう進化していますか。

山野 生産ラインは引き続き強化をしています。検査工程などを中心に、自動化やAIの活用などを進めるといったことにも取り組んでいるところです。

 また、生産ラインでの作業状況を把握するため、作業内容はすべて録画し、作業の改善の余地はどこにあるのかを検討し、日々、進化を繰り返しています。録画データは、すべて保存してありますから、仮に2年前に生産したPCに不具合が発生した場合にも、生産ラインに問題があったのか、固有の製品の組立の問題なのかといったことも、すぐに検証できます。

 PCに不具合が発生したときの対応は、すべて日本でできますから、法人のお客機様からは、解析や対策が速いという評価をいただいています。設計部門においては、落下試験機や加圧振動試験機、液晶限界開き試験機、スクラッチ試験機、非破壊検査装置を始めとして、さまざまな検査機器を導入し、徹底した試験を実施しています。法人向けPCは求められる品質に耐えられるスペックを実現しています。

 かつてソニー時代に、初めて法人向けPCを発売した際、品質問題に苦労した経験があります。お客様にも多くのご迷惑をおかけし、その経験がある企業では、今でも「ソニータイマーで壊れるのではないか」と言われます。そうしたお客様にも、安曇野に来ていただき、品質へのこだわりを見ていただいています。「ここまでやっているのか」と言っていただけるほど、徹底した品質へのこだわりをお見せすることができます。品質へのこだわりは、私達の生命線だと思っています。

相棒的な信頼できるPC作りを目指す

――これからVAIOが目指すPCは、どんなPCになりますか。

山野 個人的には、PCの最終系は、映画「スターウォーズ」のR2-D2になるのではないかと思っているんです(笑)。

――えっ、R2-D2ですか?

山野 R2-D2は、宇宙船を操縦でき、機械の修理も行なう賢さや、空間に立体映像が表示できる機能などを持ち、さらに、システムをハッキングし(笑)、設計図を読み取って、保存もできます。そして、重要なのは、R2-D2は、賢いコンピュータであるだけでなく、愛嬌があり、信頼できる相棒であるということなんです。ほかのロボットにはない特徴です。VAIOのPCも、こうした存在になれるかどうか。そこを目指していきたいと思っています。

 VAIOは2023年3月に、商品理念として、「カッコイイ(Inspiring)」、「カシコイ(Ingenious)」、「ホンモノ(Genuine)」の3つを掲げました。ここにVAIOが作り出すPCの価値があるわけですが、R2-D2も、これに共通するものがあります。

 3つの商品理念を実現することで、「私のVAIO」と相棒のように表現するユーザーがもっと増えるでしょうし、「これがないと仕事ができない」というユーザーも増えると思います。

 PCは拡張頭脳であり、人間の能力ではできないことを助けるくれる道具です。R2-D2も拡張頭脳であり、信頼できるパートナーです。VAIOはその姿を目指したいと思っていますし、VAIOならではそれができます。

 なぜならば、日本のPCメーカーとして、日本のモノづくりによる質感や繊細さを実現しているからです。これは、コストや効率を重視するPCメーカーにはできないことだと自負しています。VAIOだからこそ実現できる価値をお客様に届けていきます。

人気で増産となったモバイルディスプレイ「VAIO Vision+」

14型モバイルディスプレイの「VAIO Vision+」

――VAIOでは創業10周年を迎えたのにあわせて、世界最軽量のモバイルディスプレイ「VAIO Vision+」を発売しました。「VAIOらしい」製品との評価も出ていますね。

山野 VAIOは、PCメーカーですが、お客様の理想を実現するパートナーになるために、お客様の生産性を高めたり、使って気持ちがいい環境を提供したりできる企業でなくてはならないと考えています。

 それを実現する手段として、軽量のモバイルディスプレイがあるといいなと考えました。目的は、世界最軽量のモバイルディスプレイを発売することではなく、気持ちがいい環境の実現です。

 私は、「カッコイイ」、「カシコイ」、「ホンモノ」という3つの商品理念を達成できた製品だと自己評価しています。調査によると、ハイブリッドワークに必要なデバイスとして、50%以上の人がサブディスプレイを挙げていますが、40%以上の人が持ち運びに課題を感じています。

 実際、従来のモバイルディスプレイの多くは常時携帯できるような重さではなく、どこでも自由に使えるものではありません。そうした課題を解決し、お客様の生産性を高め、気持ちよく使ってもらえるように製品化したのがVAIO Vision+です。

 VAIO Vision+では、移動時に本体を保護するカバーを工夫して、モバイルディスプレイ使用時には上下二画面配置ができるスタンドになるようにしています。これもVAIOらしいアイデアです。

 実は、最終的にこれで行きたいというカバーが出てきたときに、私は駄目出しをしたんです。VAIOが市場投入する製品として、このカバーが格好よくなかったんですよ。製品発表の約1カ月前であり、ディスプレイ本体はほぼ完成していたタイミングでした。社内からは付属品であるカバーは、これで行きたいという声もありましたし、社内にもそんな雰囲気が漂っていたのは確かです。

本来投入される予定だったVAIO Vision+のカバー兼スタンド

試作されたカバー兼スタンドの数々

 しかし、「これじゃ駄目だ」と言って、もう一度作り直しを指示しました。その結果、完成したのが、折り紙のようにして組み立てることができるカバースタンドだったのです。商品理念を形にすることができ、この結果、多くの人に感動と驚きを与えるVAIOらしい商品に仕上がったと言えます。本体の軽さで驚いてもらい、カバースタンドでも驚いてもらえる。本体にも、カバーにもこだわった商品です。

VAIO Vision+をカバー兼スタンドから取り出す様子

背面側から見た場合

――手応えはどうですか。

山野 大好評で、製品が足りない状況となり、お客様にご迷惑をおかけしています。今増産を進めているところです。VAIOはPCメーカーですが、PCだけを製品化する企業ではありません。お客様の拡張頭脳を実現するとともに、業務の環境を少しでも心地いいものにし、わくわくしたものを届けられるメーカーになりたいですね。今後も継続的に、こうした製品を投入していきたいですね。

――周辺機器事業は拡大していくことになりますか。

山野 事業を拡大していきたいとは思っていますが、数多くの周辺機器メーカーがありますし、他社と同じような製品を作っても仕方がありません。VAIOらしい領域があればやっていきたいと思います。中期の事業計画の中に周辺機器事業の売上目標は入れていません。

――VAIO Vision+による周辺機器事業の取り組み以外に、サービス事業やリファービッシュPC事業では、どんな成長戦略を描いていますか。

山野 サービス事業では、現在リモートアクセスサービスである「ソコワク」を提供しています。IDやパスワードの入力が不要で、どこからでも安全に、社内ネットワークに接続できるサービスです。順調にお客様が増えており、大手企業での採用が相次いでいます。ようやく事業として立ち上がってきた段階です。

 サービス事業の考え方は、周辺機器事業と同じで、快適に仕事ができる環境を実現するために、必要なサービスを提供しくことになります。今はリモートアクセスだけですが、「ソコワク」の機能を使えば、個体認証ができますから、それを活用して、PCごとの稼働率やバッテリの劣化状況などを可視化し、資産管理に活用したり、予兆診断などのサービスを展開できりします。ソコワクの機能を強化することで、お客様にもっと快適に使ってもらえる環境が実現できると考えています。

 一方で、VAIO認定整備済PCによるリファービッシュPC事業は、まだ本格化している段階ではありません。まだ、ベースとなる使用済み製品がなかなか集まらないという状況にあるからです。

 VAIOの法人向けPCビジネスが立ち上がったのが約2年前で、それらが更新需要を迎え始めるのが数年後です。その時点で、PCを買い取って、再整備することができるようになれば、1,000台単位で、同じスペックのVAIO認定整備済PCを市場に投入できます。ビジネスが本格化するのは、2025年以降ですね。製品を安定的に確保して、リサイクルできる仕組みが構築できれば、周辺機器事業よりも大きくなるのではと考えています。

VAIO法人採用のパンフレット

10周年記念のVAIOらしい製品が出る?

――10周年にあわせて、「あなたと進化する。VAIO」というメッセージを打ち出しました。この意図はどこにありますか。

山野 VAIOは、お客様にとって信頼できるパートナーでありたいと考えています。今やPCだけが進化する時代は終わりました。ユーザーと一緒に、VAIOも進化させてほしいという思いを込め、同時に、ユーザーにとってなくてはならない存在になりたいという意味も込めました。これは、これまでの10年間を振り返るメッセージではなく、これからの10年に向けたメッセージになります。

――10周年記念モデルと銘打ったPCは投入するのですか。

山野 10周年記念モデルという打ち出し方はしないと思います。ただ、10周年のメッセージを具体化したPCは投入したいと思っていますし、「VAIOはこれをやってきたか!」と言ってもらえるようなVAIOらしいPCを投入します。

 VAIOは、今年に入ってから、PCの新製品を出していないんです。PCの新製品投入が1台もない年なんてありませんからね(笑)。これからを楽しみにしていてください。

――今後、AI PCが注目を集めることになりますが、VAIOらしいAI PCとはどんなものになりますか。

山野 AIという切り口だけでは、VAIOらしさの実現は難しいかもしれませんね。もちろん、IntelのCPUを搭載したAI PCはどこかのタイミングで投入することなるでしょう。

 しかし、VAIOの体力からみると、どのCPUを搭載するのかといったことは絞り込む必要があると思っています。また、私自身は現時点でAIに対しては少し慎重に考えているんですよ。というのも、AIがもたらすお客様へのメリットはなにか、ということを考えたとき、今は明確な回答が得られていないからです。

 確かに、ChatGPTやCopilot+により、便利な使い方は示されていますが、本当に必要な機能なのかというと、今はそこまで到達していないと判断しています。ただ、もう少し経てば、AIを活用した便利なアプリケーションが登場することになりますから、それが登場したときに、VAIOが提供する「カシコイ」PCに、いち早く組み込むための準備はしています。

――一方で、海外事業はどう成長させていきますか。

山野 海外事業は、これから本格化させるフェーズに入っていきます。現在は、ブラジルが最大のビジネスとなっていますが、これはライセンス事業になっていて、VAIOが純正で開発したPCではなく、パートナーが開発したPCを、VAIOがデザイン監修して、販売しているという仕組みです。

 つまり、日本では販売されていないPCを、ブラジルでは販売していることになります。それでも、年間販売台数は、日本とほぼ同じで、シェアは日本よりも高いという実績があります。

 一方で、VAIOが開発、生産したPCを販売しているのが、米国と中国です。この市場には、VAIOの根強いファンがいますから、日本と同じように、法人向けPCを中心にしながら、慌てることなく事業を拡大したいと思っています。

 特に、米国市場は巨大なPCメーカーの牙城において、VAIOの良さを理解していただく必要があります。VAIOの強みをしっかりと提案することができるプロフェッショナル集団とのパートナーシップによって事業を拡大していく考えです。

 次に目指している市場が東南アジアです。シンガポールなどを中心に、今年度から新たに事業をスタートする予定です。東南アジアや中国では、進出している日系企業への提案から進めていくことになります。海外事業では、安曇野で生産しているMADE IN JAPANの強みも発揮できると思っています。

常にいいモノを作り続けるVAIOに

――これから10年のVAIOはどうなるのでしょうか。

山野 10年先を予測することは誰もできません。この数年でも、コロナ禍のような社会の大きな変化が起き、生成AIの登場といった技術進化も見られています。これらはわずか数年前には、まったく想定していなかった出来事ばかりです。

 ですから、10年先のVAIOを予測することはあまり意味がありません。ただ、2、3年先を読み、その変化にいち早く対応することは大切です。しかし、これも前に出られるのは一歩先ではなく、半歩先程度でしょうね(笑)。それだけ、今はボラティリティが高い世の中なっているのです。

 本来ならば、今年度から新たな中期経営計画がスタートするタイミングだったのですが、今回は策定するのはやめました。大切なのは、お客様に愛され、パートナーになるための活動を、ステップバイステップで取り組んでいくことです。

――売上高1,000億円という長期的な目標を打ち出していましたが。

山野 PCメーカーとしてのポジションを確立するために、将来的には、売上高1,000億円というところには到達したいとは思っています。そのためには、PC事業だけでなく、周辺機器やサービス、リファービッシュといった事業の成長、そして海外事業の着実な成長が必要です。海外事業は、まだ数%の構成比ですが、売上高1,000億円のときには、2割程度を海外事業で占めたいと思っています。

 ただ、私達が本当に目指しているのは、お客様に、「VAIOは常にいいモノを作ってくれるよね」と言っていただける会社になることです。

 今はそれを実現するために、正しい方向に向かって着実に上昇し始めたという手応えがあります。これは私だけでなく、社員全員が感じていることだと思います。10年目の節目は、次のステージに向けて、いよいよ離陸ができたタイミングになったと言えます。