大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
物体指紋認証技術を導入したNEC PC米沢事業場を見学
2017年5月5日 06:00
NECパーソナルコンピュータのPC生産拠点である山形県米沢市の米沢事業場。現在、NECブランドの個人向けPCのLAVIEシリーズ、および法人向けPCのVersaProを生産。さらに、レノボブランドのThinkPadシリーズやThinkVisonシリーズの生産に加え、米沢事業場内には、レノボブランドのサーバーやハイパーコンバージドインフラスチラクャー(HCI)、ソフトウェアデファインドストレージ(SDS)などのキッティングを行なう米沢ファクトリー・インテグレーション・センターも設置されており、国内生産、国内検査体制ならではの高い品質を実現している。このほど、NECパーソナルコンピュータ米沢事業場を取材する機会を得た。同工場の最新状況をレポートする。
米沢事業場の歴史と概要
NECパーソナルコンピータの米沢事業場は、山形県米沢市のJR米沢駅から、徒歩10分程度のところにある。
米沢事業場は、戦時中の1944年に、東北金属工業(トーキン)の疎開工場としてスタートしたのが始まりだ。主に部品の製造を行なっており、同工場を母体として、1951年に誕生したのが米沢製作所である。
だが、長年の下請け構造のなかで業績が悪化。そこにNECが約30%の資本を出資。その後、1982年にはNECが100%出資し、社名を米沢日本電気に変更した。ここから下請け構造から脱却し、NECブランドのノートPCの自主開発/生産を開始。世界初と言われるA4ノートサイズPCの「PC-8401A」に続き、「PC-98LT」や「PC-9801N」といった国内向けノートPCを相次ぎ開発してみせた。
その後NECは、国内におけるPC生産のすべてを米沢事業場に統合しており、社名は、NECカスタムテクニカ米沢事業場、NECパーソナルプロダクツ米沢事業場、そして、レノボ傘下に入った2011年からは、現在のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場へと変化したが、NECのPC事業における基幹工場としての位置づけは変わっていない。
現在、米沢事業場の敷地面積は約59,000平方m。委託を含めて約1,000人の従業員が従事。生産能力は、1日あたり最大1万台。常設ラインとしてはノートPC向けが40ライン、デスクトップPCが20ライン。さらに、ThinkPad用の専用ラインとして2ライン。繁忙時にはこれを4ラインまで拡張できる体制を整えている。
ThinkPadは、2015年3月から生産を開始して以来、これまでに累計45,000台を生産。生産現場から得られた知見をもとに、神奈川県横浜市にある大和研究所の開発部門にフィードバックする体制を構築。設計段階から、効率的な生産や品質を高めるための工夫を盛り込んだり、海外のThinkPadの生産拠点とノウハウを共有するといったことも行なわれているという。
トヨタ生産方式を採用
米沢事業場の特徴は、トヨタ生産方式をベースにした生産革新を行なっている点であり、部材をタイムリーに調達するグローバルJIT調達方式、3~4人で組立および検査、梱包までを行なうセル生産方式、基幹流通網を活用したデリバリ体制を確立。これらのすべてが30分サイクルで動いているという。
つまり、30分単位で部品を調達し、組立ラインに部品が供給される。組立が完了したものは、30分単位で出荷に向けた準備が進められ、実際に出荷されるという仕組みだ。在庫や生産などを短時間で回転させることで、部品在庫や仕掛かり在庫を少なくするというトヨタ生産方式の考え方が生きている。
さらに、RFIDを活用することで、部品の入庫から、組立、出荷までを管理。こうした仕組みをベースにして、約2万種類にのぼるBTO製品の受注から出荷までを、最短で3日間で行なうことができる仕組みを実現している。
また、細かい改善にも日々取り組んでいる。
たとえば、梱包箱の小型化により、1パレットあたりの積載台数を80台から160台へと倍増。出荷効率を高める一方で、転倒防止シートの採用により、出荷、積載、運送時の安定化をもたらすといった成果もあげている。
さらに、一体型PCの生産ラインでは、アームロボットを導入。本体背面からのネジ締めはすべてアームロボットで行なうことで効率化と正確性を実現。その一方で、キーボードの検査では、検査用のソフトウェアを使用して、正確に打鍵できることを確認しながらも、実際に人が押したフィーリングも同時に確認。機器と人による検査を融合させるといった日本生産ならではの取り組みにも余念がない。
米沢事業場で最新の設備となるのが、タブレットの組立工程に導入した自動生産ラインだ。
検査が中心となるタブレットの組立ラインで、検査のほとんどを自動化。わずか2人で、組立および検査、梱包を行なうことができる。
人手がかかるのは、組立ラインに製品を投入する際に、目視によって行なう外観検査と、最後のシール貼付や梱包などの作業、さらには一部検査におけるコネクタの接続作業など。一方で、トレイにセットしたあとは、エージング用の装置に自動的に搬送されるなど、自動化した範囲を広げている。このために、ラインにはベルトコンベアを導入しているが、米沢事業場でベルトコンベアを導入していたのは10年以上も前のことであり、小型のベルトコンベアによって、タブレットが乗ったトレイが、ライン上を自動搬送されることになる。
物体指紋認証を導入
そして、興味深いのが製品のトレーサビリティのために、物体指紋認証を初めて導入した点だ。
物体指紋認証は、NECが開発した技術で、工業製品や部品の表面に自然発生する微細な紋様をもとに、個体を識別することができるものだ。NECでは、1969年から指紋認証技術の開発に着手。1982年には警察庁で自動指紋認証システムを稼働させるなどの実績を持つ。NECでは、人の指紋と同様に、物体にもそれぞれ固有の紋様があることに着目して技術を進化。すでに、偽造品対策にこの技術を活用しているブランドメーカーもある。スマートフォンに搭載されている内蔵カメラをはじめとして、一般的なカメラを使用して認証できる手軽さも特徴であり、撮影した画像は、瞬時に認証したり、照合したりできる。
米沢事業場では、この技術を活用することで、生産するタブレットの物体指紋を取得し、これによりトレーサビリティに活用。生産ラインにおいて登録した物体指紋データと照合することで、個体を識別し、不具合が発生した際などに活用することが可能だ。
こうした新たな技術の採用にも積極的に取り組んでいるのが米沢事業場の特徴だと言える。
米沢事業場の生産ラインの様子を見てみよう。