大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通パソコンを3,980円から購入できるサブスクとは?FCCLが開始した「FMV Prime」の狙いを聞く

「FMV LOOX」の発表記者会見は、二子玉川の蔦屋家電で行なわれた

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、2022年3月29日に行なった40周年記念モデル「FMV LOOX」の発表記者会見は、二子玉川の蔦屋家電を会場に、リアルとオンラインを活用したハイブリッド会見となった。FCCLがリアル会場で会見を開くのはコロナ禍では初めてのことだ。まだオンライン会見が多い中で、外部の施設を借りてまでリアル会場での会見を開催したところに、FCCLの力の入れ具合が伝わってくる。

 実はその記者会見の中で、FCCLはFMV LOOXとともに、もう1つ重要な発表を行なっている。それは、国内PCメーカーとしては、初めてとなる本格的サブスクリプションサービスの「FMV Prime」の提供を開始するという内容だ。

 会見ではリリースが配布され、FCCLの大隈健史社長も言及したが、時間を割いたものではなく、これを大きく取り上げる媒体もなかった。

 はたして、FMV Primeとは、どんな狙いから誕生したものなのだろうか。サービス提供から2週間の動きとともに追ってみた。

トータル費用を3割引きにできるサブスク

 FMV Primeは、3年または5年の分割払いに、各種サービスをセットにして、PCが月々の定額費用で利用できるサブスクリプションサービスである。

 FCCLの大隈健史社長は、会見において、「FCCLは、快適な生活をお手伝いするブランドとして様々な企画を考えている。その1つが、FMV初となるサブスクリプションサービスである」と説明。

 「PCに不慣れなお客様にも安心してFMVを使ってもらうために、あらゆるお客様に、快適でやさしく、美しい暮らしを体験していただくためのものになる」と位置づけている。

 現在、対象となる機種は、15.6型液晶ディスプレイを搭載したオールインワンノートPCであるLIFEBOOK AHシリーズのWeb限定モデル「LIFEBOOK WA2/F3」のみだ。Windows 11を搭載し、CPUにはCeleron 6305を採用。メモリは4GB、SSDは256GB、DVDスーパーマルチドライブを搭載したエントリーモデルとなっている。仕様の変更はできないが、Office Home and Business 2021は、ありとなしが選択できる。

LIFEBOOK AHシリーズのウェブ限定モデル「LIFEBOOK WA2F3」

 FMV Primeには、FMVのサポートや修理特典に加えて、100種類以上のPCソフトが無料で使い放題だったり、1年間の電話による無料サポートが利用できる「My Cloudプレミアム あんしんスタンダードコース」が付く。

 さらに、通常のメーカー保証では対象とならない水こぼしや落下による破損・損傷、落雷や火災による故障などの場合でも、無償で引き取り修理を行なう「ワイド保証サービス」もあるほか、PCの活用に関してリモートでサポートしてもらえ、月に何度でも利用できる「ワンポイントレッスン」を付属。これを「エントリープラン」としてサブスク化している。

 また、利用者の要望に合わせて、FCCLが提供しているオンライン英会話、囲碁ネット対局、オンライン麻雀のサービスを付加できる「各種プラン」を用意。これも組み合わせて利用できる。

 「エントリープラン」は、いずれも3年プランあるいは5年プランから選択できる。月々の定額料金は、支払期間が5年間で、Officeなしの場合には,3980円、Officeありの場合には4,480円となっている。

 英会話、囲碁、麻雀のオンラインサービスを付加した「各種プラン」において、最も価格が高いプランとなるオンライン英会話(スタンダードコース)プランでは、支払期間3年間、Officeありで、月額1万1,460円になる。

 支払期間が終わっても、PCは返却せずに、そのまま使用することができ、「各種プラン」の利用者の場合には、その後はプランの利用料だけを継続的に支払えばいい。

 なお、月々の支払いに対するキャッシュバック特典も用意しており、「エントリープラン」のOfficeなしでは、3年間では1万5,800円、5年間では2万6,600円のキャッシュバックが行なわれる。

 通常契約では、My Cloudプレミアムが月々1,016円、ワイド保証サービスが3年間で1万1,600円(5年間で2万3,400円)、ワンポイントレッスンが月990円かかるが、こうした付属するサービスの費用と本体価格、キャッシュバックの特典などを含めて計算すると、通常購入の場合よりも、3年間のトータル価格は、約3割引きで利用できることになる。

 「PC購入時にかかる費用面のハードルを、月々の分割払いを採用することで抑え、各種サポートプランを付随することによって、長い期間に渡って、快適に使うことができる」(富士通クライアントコンピューティング ダイレクト事業本部Web事業部の鈴木健太郎シニアマネージャー)と説明する。

 支払い期間終了後は、ワイド保証サービスは終了となるが、My Cloudプレミアムとワンポイントレッスンは、要望に応じて延長契約を結ぶことができる。

 ちなみに、最長5年間という設定は、PCの延長保証サービスの期間が5年間ということが背景にある。また、性能的な寿命が訪れるタイミングでもあることから、最長5年でPCの買い替えを促す意味もありそうだ。また、3年プランの設定については、独自調査をもとに多くの人が3年のタイミングで買い替えや買い足しを検討している傾向を捉えたものだという。

FCCLがサブスクに取り組んだ3つの狙い

 FCCLが、他社に先駆けて、本格的なサブスクリプションサービスを開始した理由はいくつかある。

 1つは、様々な製品やサービスが、サブスクリプションで提供されるようになる中で、PCにも同様のニーズがあると判断したことだ。

 FCCLの鈴木シニアマネージャーは、「購入のハードルが低くなるサブスクリプションサービスは、購入金額が高価なPCには最適と考えた。だが、サブスクリプションサービスを最適なものにするには、ユーザーの声を反映し、改善を積み上げていく必要がある。そこで、いち早くサービスを提供し、改善をしながらサービス内容を広げていくことを狙った」とする。

 まずは、LIFEBOOK AHシリーズの1機種に限定して、サービスを開始したのも、これをベースにして、利用者などの声を聞き、今後改善を加えていくという狙いがあるからだ。

 「FMV Primeの月額の設定においても、FMVユーザーのアンケートを実施した結果、自己啓発などに対して、月々支払い可能な価格帯としては、4,000~5,000円が最も多く、全体の55%を占めたことを反映した。今後、利用者の声を聞いたり、反応を見たりしながら、月額の設定やサービスメニューの拡大などに反映させたい」とする。

 2つ目は、FCCLが得意とする安心感や信頼感を提供する上で、サブスクリプションサービスが最適な手段になると捉えた点だ。

 「FCCLでは、My Cloudプレミアムやワイド保証サービス、ワンポイントレッスンといったように、PCを安心して利用してもらえるためのサービスを従来から提供してきた。それらのサービスを、サブスクリプションサービスとして一緒に提供できる土台があったことが、他社に先行できた理由の1つ」と前置きしながら、「サブスクリプションサービスによって、FCCLが提供するサービスをもっと活用してもらい、FCCLならではの安心や信頼性を感じてもらえることを狙った」とする。

 同社には、PC本体だけでなく、各種サービスを一緒に提供することで、他社にはないFCCLの価値が提供できるという基本姿勢がある。サブスクリプションサービスによって、この提案がより加速できると考えたのだ。

 「FMV Primeによって、お客様とつながる機会を増やし、長期的な関係性を維持したり、FMVのファンを増やしたりしたい。これによって、『人に寄り添う』ブランドとしての価値を高めたい」と述べる。

 ちなみに、FMV Primeの検討を本格的に開始したのは2021年10月頃だという。それから、わずか半年間でサービスインしたことになる。短期間でのサービス開始の背景には、WEB MARTを通じた直販体制での実績があること、サブスクに最適化した各種サービスを提供していたことが見逃せない。

 3つ目には、ユーザーがPCでやりたいことを支援する取り組みの強化だ。

 PCユーザーを対象にしたこれまでの調査で、語学の学習や趣味などにPCを利用したいというニーズが高いことが分かっていた。

 そうしたニーズに対応できるように、FCCLでは、「FMVまなびナビ」として、タイピングやプログラミング、英会話を学習することができるオンライン学習サービスを提供している。

 さらに、日本棋院が運営する囲碁のネット対局サービス「幽玄の間」や、リアル麻雀の質感や音が楽しめると話題のオンライン麻雀「Maru-Jan」などのオンラインゲームも提供してきた。これらは利用者からは高い評価を得ているサービスなのだが、残念ながら、知る人ぞ知るサービスという状況でもあった。

 FMVまなびナビで提供している「オンライン英会話」は、初めての英語学習から実力をつけたい人まで幅広いカリキュラムを用意しており、ネット対局サービス「幽玄の間」では、24時間いつでも世界中の囲碁ファンと対局でき、国内7大タイトル戦や豊富なプロ棋戦をリアルタイム観戦することが可能だ。

 また、オンライン麻雀「Maru-Jan」は初心者から上級者まで楽しむことができ、友人や知人ともネットで24時間対戦が可能になっている。

 「サブスクリプションサービスのプランの中に、学びや趣味を組み合わせたメニューを用意することで、PCでやりたいと思っていることを実現して支援できる」(鈴木シニアマネージャー)。

 FMV Primeでは、このようにハードウェアおよびそれに伴う保証サービス、サポートを提供するだけでなく、学びや趣味に関するサービスを加えることで、やりたいことをサポートする仕組みとしているのが特徴なのだ。

FMV Primeのターゲットは誰なのか?

 FMV Primeのターゲットは、誰なのだろうか。

 富士通クライアントコンピューティング ダイレクト事業本部Web事業部の谷口みゆき事業部長は、「最終的には、あらゆるユーザーに利用してもらえるサービスにしていくことを目指す」としながらも、「早期に立ち上げ、ユーザーの声を反映し、改善を積み上げていくという狙いから、まずは1機種に限定してサービスを開始した。その際に、富士通PCのシェアが高いシニア世代に対して、広く利用してもらえるものを意識した。My Cloudプレミアムや各種プランなどの月額サービスを利用しているユーザーは、シニア世代に多く、その点でもサブスクリプションサービスとの親和性が高いと考えた」とする。

富士通クライアントコンピューティング ダイレクト事業本部Web事業部の谷口みゆき事業部長

 ベースとなっているLIFEBOOK AHシリーズは、最も売れ筋となっているPCで、シニア世代の購入が多い機種でもある。また、今回のFMV Prime向けに用意したAHシリーズのスペックも入門ユーザー用であること、My Cloudプレミアムやワンポイントレッスンなどの初心者向けサービスを盛り込んでいること、囲碁や麻雀といったシニア世代向けに受ける各種プランを用意していることなどからも、シニア世代をターゲットとしていることが分かる。

 例えば、FMV Primeの中で、ワンポイントレッスンを標準で提供することを決定したのも、シニア世代や入門ユーザー層を強く意識したものだ。

 具体的には、My Cloudプレミアムでは、電話による無料サポートを1年間利用できるが、2年目からは有料になる。シニア世代や入門ユーザーでは、この点に不満を感じる利用者がいるかもしれないが、ワンポイントレッスンでは、WordやExcelの使い方、PCの使い方や困りごとなど、幅広い内容を、リモートにより、月に何度でも無料で相談できる。

 そのため、実は電話による無料サービスの期間が終わっても、ワンポイントレッスンの仕組みを使って、継続的に無料でリモート相談ができるという、いわば「裏技」が成立するのだ。

 今回のFMV Primeにワンポイントレッスンを組み込んだのも、ずっと相談できる環境を維持するためのものであり、その点でも、シニア世代や入門ユーザー層を意識していることが分かる。

2022年度上期中には世界最軽量モデルもラインナップか?

 では、FMV Primeの今後の展開はどうなるだろうか。気になるのは、やはりPC本体のラインナップの広がりである。

 FCCLの谷口事業部長は、「世界最軽量モデルであるLIFEBOOK UHシリーズをラインナップに加えることを検討している」と明かす。

 実は、今回のサービス開始に合わせて、UHシリーズをラインナップの1つとして用意することを検討していたという。だが、先にも触れたように、まずは機種を限定して、サービス改善に反映させようと考えていたことに加えて、UHシリーズでは、部品調達に遅れが生じており、納品に時間がかかる可能性があったため、新たなサービスにラインナップすることを断念せざるを得ない状況が生まれたのだという。

 この点からも、当初から、シニア世代だけでなく、幅広いユーザー層を対象にしたサービスを目指していることが分かるだろう。

 谷口事業部長は、「まだ決定はしていないが、2022年度上期中には、UHシリーズを、FMV Primeのラインナップに加えたい」とする。FMV Primeで取り扱うPC本体は、状況を見ながら順次拡大していくことになりそうだ。

 その一方で、様々なカスタマイズができるようにすることも、次のステップに向けて検討を開始している。

 現在は、PC本体は、LIFEBOOK AHシリーズの特定のスペックに限定されているが、CPUやメモリ容量、SSDの容量を自由に選択できるようにしたり、サービス内容についても選択の幅を広げることを検討していくという。ユーザーごとに、より最適な仕様やサービスを提供できるようになるほか、月額の支払い料金についても柔軟性が生まれ、選択肢が広がることになる。

 富士通PCの場合、生産やカスタマイズを、島根富士通で行なっているため、FMV Primeのメニューが拡大しても、迅速に、柔軟に、国内で対応することが可能だ。ここでもFCCLならではの特徴を生かすことができそうだ。

 さらに、将来的には、下取り制度との連動、買取保証による残価設定プランなども検討していくことになるという。

 「FMV Primeは、様々な形で進化を図りたい。申し込みの画面をより分かりやすいものに改善していくほか、販売店との連携についても模索したい」(FCCLの鈴木シニアマネージャー)とする。

富士通クライアントコンピューティング ダイレクト事業本部Web事業部の鈴木健太郎シニアマネージャー

シニア世代だけでなく、30代の購入も

 FMV Primeは、3月29日から提供を開始している。

 まだ成果を推し量るには早いが、想定通りにシニア世代の購入が相次いでいるほか、30代の購入者の例も見られているという。

 「30代の購入者の場合、進学などに合わせて子供向けに購入したという例もあった。無償で修理が可能なワイド保証サービスがあるため、子供が使っていても、安心だという点が購入の決め手になったようだ」とする。

 今後、ラインナップの広がり、メニューの選択肢が広がることで、購入層も広がっていくことになるだろう。

 「FMVの購入時に、必ずFMV Primeも検討してもらえるといったように、多くの人に認知してもらえるサービスにするのが最初の目標」と、FCCLの鈴木シニアマネージャーは語る。

 FMV Primeは、まだスタートしたばかりである。むしろ、これからどんな形で広がっていくのかが楽しみなサービスである。