イベントレポート

LenovoのヤンCEOに富士通製PCの今後やIBMから買収したデータセンター事業の戦略を聞く

Lenovo 会長 兼 CEOのヤン・ヤンチン氏

 Lenovoは、Dellと並びCESにおけるPCメーカーの主役の一人だったと言ってよい。Lenovoは新しい「ThinkPad X1」シリーズを発表したほか、WoAのデバイスとなる「Miix 630」、Google Assistant内蔵の「Lenovo Smart Display」といった新しい形のスマートデバイス(別記事参照)もリリースし注目を集めた。

 そのLenovoを牽引するリーダーが、会長兼CEOのヤン・ヤンチン氏だ。1986年にLenovoがまだLegend(レジェンド)と呼ばれ中国の小さなPCメーカーだった頃に入社したヤン氏は、2001年に同社CEOに就任し、2004年に世界をあっと言わせたIBMのPC部門の買収を主導し、その後は会長として、そして2009年からはCEOに再び就任し、現在は会長兼CEOとしてLenovoの企業戦略全体をリードする立場にある。

 そのヤン氏に、Lenovoの成長戦略、富士通とのジョイントベンチャーについてお話を伺う機会を得たので、その時の模様をお伝えしていきたい。

富士通とのJVは引き続き独立した経営を行なう

Q:Lenovoの現状について説明して欲しい。

ヤン氏:まもなく次の四半期の決算結果について発表するので、それまでに詳しいことはお話しできない。一般的なお話をさせていただくと、PCの市場は安定しており、プレミアムライン(高級機)が増えるなどにより売り上げは増えており、全体としては成長している。

 そしてこれからは商用向けのIoT(Internet of Things)が重要になり、もっともっとデータが重要になる。IoT自身がデータを生み出していくからだ。そしてそのデータを処理するためにクラウドコンピューティングの重要性がさらに増していく、データセンターのビジネスはさらに成長する予想している。

 そのアプリケーションのトップリストにはもちろんAI(人工知能)がある。ディープラーニングがさまざまに使われるようになっていき、スマートスピーカーのようなデバイスだけでなく、産業全体に広がっていくだろう。それに合わせて我々の業界自体ももっとスマートにならなければならない、たとえば製造の現場やロジスティックスにも改善していく余地がある。

Google Assistant内蔵の「Lenovo Smart Display」

Q:富士通とジョイントベンチャーをはじめたのはなぜか。

ヤン氏:PC業界は非常に成熟しており、規模を追求しなければ他社に競合できない状態になっている。新生富士通クライアントコンピューティング(FCCL)を富士通とジョイントベンチャーとして始めるのは、FCCLが小さな規模ではできないことを、Lenovoが手を貸すことによりできるようになるからだ。

 ジョイントベンチャーはわれわれが株式シェアの51%を持っていることは事実だが、今後も独立して運営していくということに変わりはない。将来はもっともっと効率を上げていき、最終的には日本のお客様の満足度を上げられるようにしていかければならないと思っている。

Q:業界ではCPUの投機実行時の脆弱性について問題になっている、それに対するLenovoの取り組みは。

ヤン氏:この問題はわれわれだけの問題ではなく、産業全体の問題だ。われわれはIntelやほかのパートナーと協力して問題を解決できるように全力で望んでいる。最終的にはお客様の満足度を上げることが大事だ。

Q:この問題はコンピュータのアーキテクチャの限界を示しているものなのだろうか。

ヤン氏:そうではない。お客様はコンピュータを必要としており、ときには今回のように脆弱性が見つかることもあるが、それにきちんと対処して解決していくことそれこそが大事なことで、正しい方向性だと思う。

Q:1月9日に行なわれた記者会見では、ほとんどはQualcommのSoCに基づいた製品で、これまで多くがIntelベースだったのに比べると、そちらにシフトしたのではと見えなくもない。

ヤン氏:Miix 630やLenovo Smart DisplayにQualcommの製品を採用したのは、顧客にとってその方がメリットがあるからだ。当社にとってIntelはいまでももっとも重要で、最大のパートナーであることに変わりはない。しかし、その一方でIntelが製品を提供できていないエリアもある。

 たとえばAlways Connected PCのMiix 630では、LTE接続と長時間のバッテリ駆動などを実現しており、現状ではArmがより優れた選択肢になっていることは否定できない。もちろんわれわれはIntelがさらに優れた製品を提供してくれるなら、それを喜んで採用するだろう、言うまでもなくIntelは信頼に値するパートナーだからだ。

Always Connected PCのMiix 630

IBM PC部門の買収成功がモデルになっている

Q:PC業界はトップシェアの会社が10年単位ぐらいで変わってきた。1990年代はDellで、2000年代後半にはHPに覇権が移り、今はLenovoがトップだ。なぜそのように変わってきたのだろうか。そしてLenovoはそれを維持できるのだろうか。

ヤン氏:2つ理由がある。1つはマーケットの変貌、そして競争力の問題だ。15~20年前にはPCはビジネスユーザー向けの製品で、Dellのダイレクトセールスのビジネスモデルが強かった。しかし、その後PCはコンシューマ向けの製品にもなり、ビジネス向けとコンシューマ向けが組み合わされた市場になって、Dellはトップではなくなった。

 LenovoがHPを追い抜くことができたことは、ThinkPadを得たことが1つの要因だし、もう1つはコンシューマ向けのLenovoブランドが向上したこと、そして会社としての効率が良くなったからだと考えている。

 われわれがトップの座を維持できるかだが、もちろんわれわれはできると考えている。しかし、継続しつつ会社としての効率を改善していく必要があると考えている。

ThinkPadのフラッグシップ製品となるThinkPad X1シリーズもリフレッシュされた。左からThinkPad X1 Carbon 6th Gen、ThinkPad X1 Yoga 3rd Gen、ThinkPad X1 Tablet 3rd Gen

Q:IBMから買収を行なった強化したデータセンタービジネスの見通しは。

ヤン氏:データセンターに関しては3つの注力分野がある。1つは従来のエンタープライズ向けのサーバー、ストレージ、ネットワーク機器だ。2つ目はHPC、スーパーコンピュータ、この市場では5カ国でLenovoはトップシェアで今後3年以内にNo.1を目指していきたい。3つ目はクラウドコンピューティング向けで、Google、Amazon、Facebook、Baiduなど向けとなる。今後はSDN(Software Defined Network)やストレージなどが伸びると考えられており、そうした市場に積極的に投資していきたい。

Q:たとえばHuaweiのようなほかの中国企業は、取締役のほとんどを中国人で固めているのに対して、LenovoはCOOはイタリアにいるジャンフランコ・ランチ氏が、そしてPCビジネスを統括するラーレイの事業所は米国人のトップにより運営されているなど、非常にグローバルな経営がされている。

 また、買収したMEDIONや過半を出資しているFCCLは引き続き独立して運営しているなど、非常にユニークな経営を行なっている。それはなぜですか。

ヤン氏:今まさにあなたが言ったとおり、Lenovoは非常にユニークな経営をしている。他社のことにはコメントはできないが、なぜLenovoがそうした経営をしているのかと言えば、1つにはIBM PCの買収を成功させたことがモデルになっているからだといえる。

 現在でも元IBMのPC部門だった米国のノースカロライナ州にある事業所は、ThinkPadなどの事業を統括する拠点として成功しており、開発は日本の横浜で行なっている。それが成功しているため、ほかの買収したビジネスでも同じようなモデルで成功している。

 ただ、その代わり、私たちもあまり得意でない英語を話す必要に迫られているのだが(笑)。しかし、グローバルな経営環境ではそれは当然のことだ。

Q:富士通にはPC部門を分離したFCCLだけでなく、スマートフォンやタブレットをやっている携帯電話部門があるが、それを買収したりジョイントベンチャーに入れることに興味があるか。

ヤン氏:現時点の最優先事項はFCCLだ。今の時点では富士通の携帯電話部門を買収することには興味はない。