実録! 重役飯

「日本のために」NVIDIA日本代表の大崎氏が語るリーダー論とAI時代

いつもご愛顧をありがとうございます。PC Watchは2026年をもって30周年を迎えました。30周年を記念し、20周年の際にも実施した「重役飯」を復活させました。この企画では、PC・IT業界を代表する企業のトップの方にインタビューを行ないます。特別企画ということで、通常であれば企業の戦略や製品について伺うところ、今回はインタビューに対応いただく方の行きつけやお勧めの料理店にて会食を行ないながら、その方の趣味や考え方など人となりに焦点を当てた質問を行ないました。この企画を通じて、企業の経営を担う人の個性や考え方などを知っていただければ幸いです。聞き手はPC Watch編集長の若杉です。

NVIDIA日本代表 兼 米国本社 副社長の大崎真孝氏

 30周年記念の重役飯、第3回のお相手はNVIDIA日本代表 兼 米国本社 副社長の大崎真孝氏。会食の場としては、和牛割烹の「椿」を選んでいただいた(以下、敬称略)。

笑いとスポーツ、そしてサーフィン。関西で育った「平凡な学生」の素顔

――20周年の「重役飯」の時にも大崎さんにお話を伺いましたね。今回の企画では10年前と同じ企業さんに多くお声がけしているのですが、出演いただく方自身まで同じなのはおそらく大崎さんだけです。なので、10年経って考え方とか取り組み方など、変わった点も変わらなかった点もあると思うので、その辺は気にせずにお答えいただければと思います。

大崎:分かりました。10年経っても私はあまり変わっていないかもしれませんが、よろしくお願いいたします(笑)。

――まずは、本日この店を選んでいただいた理由を教えてください。

大崎:5~6年前にパートナー企業の方に連れてきてもらいました。1日1組限定の「和牛割烹」で、女将(おかみ)さんの腕前もサービスもすばらしく、招待したお客さんが100%リピーターになるほど心地よい空間だからです。ネットには載っていなくて、お店の前には看板すら出ていない隠れ家的な点も気に入っています。

和牛割烹「椿」
女将(おかみ)さんの野坂奈紡えさんが自ら調理する

――どんな子ども時代を過ごされましたか?また、どのようなことに熱中していましたか?

大崎:関西生まれなので、吉本新喜劇などの「笑い」が大好きで、みんなを笑わせることに一生懸命でした。中学までは剣道、バスケットボール、バレーボールなどスポーツをずっとやってまして、高校生からはサーフィンを始めて40歳過ぎまで続けていました。

 学生時代は決してエリートではなく、どこにでもいるような平凡な学生でした。バブル時代を客観的に見ていた記憶がありますね。

――初めてコンピューターやゲーム機に触れたのはいつ頃ですか?

大崎:最初に触れたのは小学生の頃で、ピンポンとかができるテレビゲームの走りのようなやつでした。また、子どもたちだけでスキーツアーに行った時なんかに、携帯ゲーム機をみんなで遊んだ記憶が残っています。学生時代にはファミコンでも遊んでいましたよ。

――学生時代、テクノロジーは生活の中にどれくらいありましたか?

大崎:僕は社会人になったのが1991年で、学生の時はまだワープロやフロッピーディスクの時代でした。最初の就職先はTI(テキサス・インスツルメンツ)で、就職後にインターネットが普及し始め、東芝「Libretto」にアナログモデムをつないで使っていました。

 テクノロジーの会社だったので、インターネットは普通に仕事で使っていました。PDA(携帯情報端末)もはやっていて、アメリカでは「Palm Pilot」が出ていたんですが、僕はシャープの「ザウルス」の方がすごいと思っていたので、胸を張って愛用していました。

「やらなかったことによる後悔」はしない。部下の幸せが自身の成功に直結する

――TIに入社したきっかけは?

大崎:深い理由はなくて、バブル期の就職活動の中で、日本企業よりもTIの社風が合うと感じ、自分の五感を信じて決めました。

――これまでのキャリアにおける大きな転機は?

大崎:3つあります。1つ目はTI時代にアメリカへ転勤させてもらえたこと。2つ目は40歳の時に、社会人大学院に通って勉強し直したことで、これが1番大きかったかもしれないですね。3つ目は、46歳の時にNVIDIAへ転職したことです。

――NVIDIAへの転職を決めた理由は?

大崎:もともと「将来は社長になりたい」という思いがありました。そんな中、NVIDIAから声を掛けてもらいました。NVIDIAは以前はTIの競合でしたが、競合だった事業をTIがやめたので新天地で挑戦することを決めました。

――仕事で一番大切にしていることは?

大崎:これは社内でも言っているんですけど「日本のためにやること」です。アメリカのためでもなければ、上司のためでもない。何のためにやっているかと聞かれた時に、日本のためにやろうと常に言っています。

 もう1つは、「部下のために仕事をすること」です。これは新しくマネージャーになった人たちによく伝えているんですが、部下のために仕事することが、自分自身の成功にも直結すると考えています。

 もちろん、しっかりとやりたい仕事ができるように、上司も大切な存在です。でも、1番のウェイトは部下のために何ができるのかを考えることだと思います。

――意思決定で迷った時の決め手は?

大崎:「あとから後悔しないか」を考えることにしています。もちろん、やった結果で失敗しての後悔はたくさんあります(笑)。でも、「やらなかったことによる後悔」だけはしたくないです。

――若い世代と接して、自分たちの世代と違うと感じることは?

大崎:NVIDIAは中途採用がメインなので社内には若手がそんなに多くいないのですが、大学で講義をすることもあり、今の学生は非常に真面目だと感じます。また、将来に対して危機感を持っていて、AIなどの最新ツールを使いこなしている印象です。

――僕は、若いプロゲーマーの子たちと仕事で会うことも多いんですが、仕事としてのゲームへの取り組み方などを聞いていると、すごくしっかりしていてプロフェッショナルだなと感じることがしばしばです。

大崎:学生で起業している子たちとも接点があるんですけど、彼らもしっかりしているし、我々が学生の頃にはありえなかったほどみんな社会に対して敏感になっているんだと思いますね。

――若い世代へのアドバイスはありますか?

大崎:仕事の愚痴を言う人とは付き合わない方がいいです。愚痴は心をむしばみます。それよりも「次はどうするか」という建設的な話ができるような仲間と一緒になった方がいいです。また、ビジネスパーソンもアスリートのようなものだと思っています。次の日の朝に頭がクリアで、体が元気でないといい仕事(運動)はできない。そのためには健康のことを考えたり、ストレスをどうやって減らすかなど、体調を整えることも重要だからです。

――心身を整えるためのルーティンはありますか?

大崎:ジムでの筋トレなどは毎週通っています。また、僕なりのやり方ですが、寝る前に夜風に当たって「座禅」を組むんです。

 もっと悩んでいる時などは、これまで手帳に書き出してきた本の引用を読み直します。15年以上続けているんですが、本を読んで感銘を受けた言葉にまず付箋を貼っておき、それを年に1度書き出しているんです。

――悩みがある時は誰に相談しますか?

大崎:1人でできることには限界があるので、課題を共有して信頼する部下たちに相談するようにしています。また、会社で相談できないことについては、妻に相談しています。全く違う視点でのアドバイスをしてくれますね。

AIが進化するほど問われる「人間性」

――AIによって自身の仕事のやり方は変わりましたか?

大崎:劇的に変わりました。ものすごく情報収集のスピードが上がりましたし、いろんな客観的意見がすぐ手に入るようになった。幅広くいろいろなAIのサービスを使っていて、現在は5つほどのAIアプリをスマホに入れて活用していますが、最先端ではこういうのもエージェント的なAIが全部まとめてくれますよね。個々のサービスを単体で使っている時点で、僕もまだ1歩遅れています。

大崎氏のスマホ

――今年のCOMPUTEXでのジェンスン・フアンCEOの基調講演も正にそういったAIが「エージェンティック(自律型)」になっていくという話がテーマになっていました。今後のAIの進化をどう見ていますか?

大崎:この半年くらいで「エージェンティックAI(自律型AI)」が劇的に進化しましたね。そして現在は「フィジカルAI」が来ており、進化のスピードがどんどん加速していると感じます。

――AIなど技術の進化の中心にいつもNVIDIAがいることに驚かされます

大崎:NVIDIAというよりはジェンスンがすごいんじゃないですかね。NVIDIAの中心にはいつもジェンスンがいるので、社内にいても驚くようなことばかりです。

――AIが進化しても人間にしかできないことは何だと思いますか?

大崎:AIが進化するほど、これまで人間の内面に隠れていた「倫理観」や「道徳心」などがどうなるべきかが表に出ざるを得なくなる時代に入っている。人が作り出したAIが逆に人に対して問うような時代になっているからこそ、逆に人は自らの心など、内面を見つめ直す必要があるので、より人間的にならざるを得ない時代になると考えています。

新たに作ったホームシアターで映画音楽を満喫。ほしいものは「睡眠」

――最近、趣味やハマっていることはありますか?

大崎:家を新築したんですけど、地下室を作ってそこをホームシアターにしました。天井に6つの埋め込みスピーカーを入れて、両サイドにはサラウンドスピーカーを2つ、正面にセンタースピーカーとメインのスピーカーを2つ、ウーファを1つ。それらをAVアンプとプリメインアンプにつなげてます。プリメインアンプはフランス製、AVアンプは日本製のものを使っています。週末は音楽を聴いたり、150インチスクリーンのプロジェクターもあるので映画などもこの部屋で楽しんでいます。

 運動機器も置いているので、自宅のジム兼ホームシアターになっています。

――映画や音楽がお好きなんですね。

大崎:映画音楽が大好きで子どもの頃からカセットテープに録り貯めたりしていました。ほかにもジャズが大好きです。最近は日本の音楽も聴くようになりました。家で仕事することも多いのですが、音楽を聴きながら仕事をしています。

 バイクのハーレーに乗るのも趣味の1つなのですが、最近はあまり乗れていないです。年に何度か、直属の部下たちと軽井沢に泊まるんですが、その時はハーレーに乗っていきますね。ほかには月に4~5冊の読書です。

この日大崎氏は、NVIDIAのカフスボタンを身につけていた

――休日の過ごし方や、仕事との切り替えは?

大崎:土日のどちらか午前中は仕事をしますが、午後は家族との時間を大切にしています。高校生の息子がいるんですが、四肢に障害があるので彼の介助やパラスポーツのサポートなどもしています。以前はゴルフをやっていましたが、前職時代にやめて、今は休みの日をできるだけ家族と過ごすようにしています。

――今、一番欲しいものは何ですか?

大崎:「深い睡眠」かなぁ(笑)。ベッドで寝ている時間は6時間くらいなのですが、脳が「仕事脳」になっているのかなかなか深く寝られないので「深く健康的な睡眠」が欲しいですね。

――プライベートでのPCやスマホの活用法は?

大崎:息子は本を開いて勉強するのが困難です。なので、私が試験範囲を聞いて、それをAIに読み込ませて問題集を作成したりするのにPCを活用しています。スマートフォンは、画像解析AIを使ってワインの価格を調べたり、アメリカのニュースを聞いたりしています。安いワインも好きなんですよ。

――最近買って良かったガジェットは?

大崎:ちょっとマニアックなんですが、息子のために購入した日本製の電動車椅子です。まずデザインが美しく、健常者の人が見てもカッコいい。タイヤがジャイロになっていて移動の自由度が高いほか、バランスがすごくいい。これまで車椅子をいろいろ見てきましたが、世界に誇れる製品ですね。久しぶりに日本の斬新な製品に出会えました。

逆境の日本が30年後、再びトップに君臨する未来に期待

――10年後、自分自身は何をしていると思いますか?

大崎:10年後は68歳なので引退しているでしょうけど、僕の知見を活かせるなら、若い人が起業するのをボランティア的に支援するような活動をしたいと考えています。

――10年後のPCはどうなっていると思いますか?

大崎:今でもPCとスマートフォンの境界はあまりないじゃないですか。見た目は違うし、目にするディスプレイのサイズなどは異なりますが、中のデータは完全に連携している。この先、どちらでも同じように、さらに進化したAIが使えるようになるでしょう。そういう意味で、今とあまり変わらないんじゃないでしょうか。ただ、技術自体はこの先10年で信じられないくらい進化していると思います。

――30年後も残っていてほしいものは?

大崎:なんだろう……「日本の強さ(競争優位性)」ですかね。今は逆境かもしれませんが、日本人はそこから盛り返すのが得意なはず。もう一度世界トップクラスに君臨してほしいですね。あとは、自分や家族の「元気(健康)」です。インタビューの受け答えとしては面白くないかもしれないけど「元気があれば何でもできる」は事実ですからね(笑)。

――ありがとうございました。