実録! 重役飯
40歳を前に二輪免許を取りハーレーを購入。趣味は子育て~NVIDIA日本代表 大崎真孝氏編
2016年9月26日 06:00
いつもご愛顧をありがとうございます。PC Watchは2016年をもって20周年を迎えました。20周年を記念し、PC・IT業界を代表する企業のトップの方にインタビューを行ないました。特別企画ということで、通常であれば企業の戦略や製品について伺うところ、今回はインタビューに対応いただく方の行きつけやお勧めの料理店にて会食を行ないながら、その方の趣味や考え方など人となりに焦点を当てた質問を行ないました。この企画を通じて、企業の経営を担う人の個性や考え方などを知っていただければ幸いです。基本的に全ての方に同じ質問をしていますので、みなさんの違いも面白いのではと思います。聞き手はPC Watch編集長の若杉です。
第9回目のインタビューお相手はエヌビディア(NVIDIA)日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏です。会食の場として選んでいただいたのは、「永田町黒澤」です。
--:本日はよろしくお願いいたします。まず、こちらのお店を選ばれた理由を教えてください。
大崎:こちらは映画監督の黒澤明さんともゆかりのあるお店で、私が映画好きということと、会社も近いということで、お客様をよくお連れしています。雰囲気も良く、外国人のゲストの方にも喜ばれます。食べ物ではしゃぶしゃぶが定番で、牛と豚がありますが、豚の方がお気に入りです。
エンジニア出身で営業に転身。TIで23年勤務し、NVIDIAに
--:20年前は何をしていましたか。
大崎:20年前は28歳でした。TI(Texas Instruments)に入社して6年目で、大阪営業所で営業を担当していました。取引先はシャープさんやパナソニックさんなどの大手のほか、東大阪の中小企業も任されていました。まだ、当時、脂がのっていたのかは分かりませんが、他社との情報の取り合いや、いかにお客さんと仲良くなるか、あるいは商社の人と動いていたのでその人たちとの人間関係を築いたりといった仕事が楽しくてしょうがない時期でした。今から思い返すと、幼稚なことだったと思いますが(笑)。また、当時の上司からはいろいろと教えてもらい、ようやく大人の世界に入り、社会人として一人前になり始めたころでした。
--:28歳で6年目と言うことは、TIが最初の会社ということですね。
大崎:そうです。私の転職歴は今まで1度だけで、TIには23年いました。TIには最初DSPのエンジニアとして入社し、一部FPGAのアプリケーションサポートもやっていました。2年後に技術営業になり、その後、完全な営業になりました。おそらく当時の上司が、私はエンジニアより営業が向いていると感じ取ったんだと思います。
その後1997年に、米国の本社に異動になりました。最初はトレーニングだったのですが、1年半ほどして正式に本社に直接所属する形で、TIがマーケティングと呼ぶビジネス開発の仕事をしていました。期間はたった3年間でしたが、それが僕のその後のキャリアの土台を作ることになったと思っています。
--:もともとは理系だったのですね。
大崎:理系なんですが、大学ではあまり勉強せず、会社に入って知識を学んでいきました。そんな中、40代になってから、勉強したいという思いが強くなり、大学院に入り直し合計5年間勉強しました。博士号を取るための論文は書いていないんですが、書く資格はあるので、ビジネスキャリアが終わった時に、それまでを見直す意味で、論文を書いて博士号を取得したいなと思っています。
--:大学院は働きながら行っていたんでしょうか。
大崎:そうです。週末や平日の夜間を利用して通っていました。周りには大学を出たての人ももちろんいましたが、8割くらいは社会人で40代、50代の人もいました。最初の2年間がMBA(Master of Business Administration)で、最後の3年間がDBA(Doctor of Business Administration)でした。社会人になってから既に20年くらい経っていたので、自分の経験をアカデミックに検証することができたというか、それまでと違う形で自分の脳を使う事ができ、同じようにビジネスを経験してから大学院に来た人や、ビジネスマンを経て教授になった先生方もいて、いろいろと議論したりするのが気持ちよかったですね。
--:TIで23年働いた後に、NVIDIAに転職しようとしたきっかけはなんだったのでしょうか。
大崎:最初はヘッドハンターから話がきたんですが、その時はあまり興味がなかったんですね。理由は2つあって、1つは、NVIDIAがTIの競合だったということ。TIもプロセッサなど手がけていますし。2つ目は、TIが非常に心地よく、仕事も楽しく、周りの人たちも素晴らしいという環境だったからです。
ただ、お話しをいただいて調べてみると、実はすでにNVIDIAはTIの直接の競合ではなくなりつつあったんですね。また、CEOのジェンスン・フアンと六本木のホテルで会い、直接話を聞いた時に、彼のパワーに圧倒されました。
--:非常にパワフルな人ですからね(笑)。
大崎:そこで2時間くらい話をして、彼に魅了され、一度の人生で冒険も必要かなと思い、妻もそれを応援してくれたので、飛び込んでみました。
--:ジェンスンのラブコールが最終的なきっかけだったわけですね。NVIDIAでは最初から、今の日本代表という地位だったんでしょうか。
大崎:はい、そうです。入社は2014年の6月です。
--:話が戻りますが、20年前の趣味を教えてください。
大崎:いろいろスポーツをやっていましたが、高校生後半からずっとサーフィンをやっていました。40代手前くらいまで続けてました。まったく上達しませんでしたが、真剣に打ち込んでいました。今、思い返すと、それ以外にももっとやっておけばなぁと思いますが。
--:理系だけど、スポーツもこなされてたんですね。
大崎:ある意味、典型的なバブル時代の学生ですね(笑)。
--:これまでの人生で、絶体絶命と思ったことはありますか。
大崎:20年以上働いていると、何度も死にそうと思うことはありますよね。社内から反対されて、お客さんとやっていたプロジェクトのはしごを外されたりということもありましたが、今考えると絶体絶命というほどではないですね。
外資系企業に勤めていると、海外に本社があり、日本に子会社があり、そのパートナーがいてという仕組みの中で、効率的にやり、きちんと結果を出すにあたり、バランスが大事ですね。例えば自分とパートナーさんとの間がうまくいっていなければ結果は出ないですし、お客さんとうまくいっていたとしても本社との調整がうまくいってなければダメですし、本社とうまくいっていても、日本法人の中で仲間や部下とうまくいかないと裸の王様になってしまいますし。そういうことを客観的に俯瞰できる能力が必要だなと日々感じています。
--:振り返ると絶体絶命ではなかったとのことですが、当時はそう感じられた事もあると思います。その時はどうやって乗り越えましたか。
大崎:確かに、部下がお客さんのところから数日間帰って来れないとか、米国が怒ってしまったとかありました。でも、僕はラッキーだったのかもしれませんが、一所懸命やり、きちんと事実を周りに伝え、自分が信念と熱意を持って取り組んでいると、自然と解決されてくるんですね。逆に、そこで事実や信念を曲げたりすると、その場では一時的に解決したように見えても、根本的には解決しません。やはり、正面から愚直に突き進む、あるいはブレイクスルーすることが大事だと思います。そうしないと次に進めません。また、ブレイクスルーするためには、周りを巻き込んで取り組むのが重要です。そのためには、きちんと伝える必要があります。もしかしたら失敗するかもしれないけど、これが最善の策であると、嘘偽りなく説明することで、納得してもらえます。ちょっと熱くなってしまいましたね(笑)。もしかしたら、今でも自身で消化しきれていない何かがあるのかもしれません(笑)。
--:失敗があってこそ、ブレイクスルーするための方法を考え、それが成長に繋がっていったと感じられますか。
大崎:はい、私が若い人たちに対して常に言っているのは、修羅場をどれだけ乗り越えたかでビジネスマンとしての厚みが出る。だから、例えそれが地獄のような状況だったとしても、逃げずに乗り越えようと。そういう積み重ねがあった人こそが、後に活躍していると思いますし、そういう危機を乗り越えていなかったら、今の僕もなかったと思います。とは言え、今でもそういう峠に立ち向かっているのかと自問自答することが日常です。
--:アメリカには3年間いらしたということですが、そこでの苦労話などありますか。例えば、言葉の面ですとか。
大崎:英語は当時しゃべれませんでした。
--:そうすると、仕事だけでなく普段の生活にも苦労したと思いますが。
大崎:当時、営業部から米国に赴任していた日本人は僕だけだったんですね。また、海外にも日本人コミュニティは存在するんですが、僕は敢えて、そこには入らず、米国人に混じって、仕事、生活をしていました。ので、何がなんでも英語を話せないと、生活すらままならないので、必然的に必死に勉強しました。
また、アメリカは本当にダイバーシティな国で、いろんな出身の人がいる中、会議などでは発言力が求められるんです。発言しないと何も始まりません。ただし、拙い英語でも、話をすると、みな真剣に聞いてくれるんです。日本では黙っていることが美徳とされることもありますが、アメリカでは発言して初めて価値を認められます。ですので、常に前に出るということを心がけました。そういった中で、次第に英語を話せるようになりました。
もう1つ、英語について重要なのは、訛っていても全く問題ないと言うことです。アメリカ人でさえ、出身地域によっては訛っていますし、イギリス人からすれば、アメリカ人全員が訛っているようなものでもありますし、アメリカにいる海外出身者の人たちも大多数は訛っていたり、かなり適当な事をしゃべってますよね。ので、心と感情で伝えるのが重要です。日本語にしても、僕も関西訛りで決してきれいだとは思いませんし、英語でも同じだと思います。ちなみに、英語の方がストレートにYes、Noを言いやすいので、英語の方が楽という時もありますね。
--:英語もしゃべれないでアメリカ行きの辞令を受けた時は迷いませんでしたか。
大崎:全く不安も迷いもありませんでした。当時日本法人には4,000人近くいましたが、営業部隊で米国行きに選ばれたのは僕一人でしたし、むしろ嬉しかったです。20代だったので、まだエネルギーが有り余ってたんですね。自分にはもっと可能性があると思っていたので(笑)。
日本発の取り組みで、ロボットに注力
--:日本代表という社長的な立場になられて、仕事上一番変わった点はどんなところでしょう。
大崎:前職でも人をマネージメントする立場だったので、基本的なところは変わっていませんが、より組織全体として、日本の産業や社会へ、いかに貢献できるかを考えるようになりました。その結果として売り上げが生まれる。つまり社会に貢献する事で当社のプラットフォームがどれたけ浸透していくかということを念頭に置いています。
--:NVIDIAで日本独自の目標や注力している点などはありますか。
大崎:いくつかあります。日本法人が発案し、取り組んできたことを、あとから米国本社がやるようになったものもあります。その代表はロボットです。ロボット専門の部隊を作って取り組むようになったのは日本なんです。NVIDIAが今一番力を入れているのはAI(人工知能)や深層学習(ディープラーニング)です。ディープラーニングでは、クラウドやクルマ関連が目立っていますが、今後ロボットにも当然入ってきます。日本で生まれたロボット産業が諸外国に負けては絶対にダメです。そこで、いろいろなロボットに対して、日本独自色を持って取り組もうということで2年前から開始し、最近になって本社や他の地域でも取り組むようになりました。
--:そこで言うロボットというのは、例えば工場で既に導入されているロボットアームのようなものなのか、あるいは2足で自律歩行するような未来的なヒューマノイドなのでしょうか。
大崎:両方です。ASIMOに代表されるヒューマノイドも、日本が多くのシェアを持つと言われている工場でのロボットにも深く関わっています。また、高齢化対策という点からも、介護ロボットにも注力しています。これらが今後AI市場の中核を成すと我々は確信しており、実際にロボットを作っている人たちに提案を行なったり、一緒に開発を行なったりしています。もちろん、日本政府ともあらゆる面で意見交換を行なっています。
--:研究レベルでの協業という感じですか。
大崎:それもありますし、もう年内にもリリースされるような製品の立ち上げで協力させていただいている企業さんもあります。
--:これまで本社主導のイベントだと、AIの話は出てもあまりロボットにフォーカスがあたってなかった気がしますが、今後はその辺りも変わると言うことですね。
大崎:そうですね。現在、GTC(GPU Technology Conference)を世界で開催しており、そこではロボットの話もふんだんに出てきます。最近は、車載市場にかなり力を入れていましたが、今後それと同じくらいでロボットにも注力します。日本では10月5日にGTCを開催する予定(関連記事)で、そこでもロボットについてたくさんのお話しをさせていただく予定です。
--:仕事上のモットーや座右の銘を教えてください。
大崎:リーダーたるもの、部下の強みを引き出せということですね。人間ですから、付き合いやすいタイプとそうでないタイプの人がいます。そこで、リーダーとして一番危険なのは、心地いい人だけを周りに集めてしまうことです。それから、他人の欠点だけを見て、その人を外してしまうと、結果、誰もいなくなってしまいます。僕自身、欠点だらけですし。一人一人の強みを見極めて、その人に最適な役割を与え、勇気付け、成果を出してもらう。これこそが私にとっての課題でもあり使命でもあると思っています。
--:尊敬する人物を教えてください。
大崎:たくさんいるのですが、敢えて絞って挙げると、海外の方だと、Virginグループ創立者のリチャード・ブランソン総帥です。昔から大好きな人で、書籍もいろいろ読んでいますが、Virginは音楽から始まり、金融や鉄道、飛行機などまで飛躍的にビジネスを展開したわけですが、ブランソン氏は冒険家としても有名です。彼の経営哲学は私が先ほど言ったこととほぼ同じですが、もっと極端で「人を誉めまくろう」というものです。それでやる気を出させて、結果を出させる。もう1つ、彼は「楽しもう」ということを常に言っています。彼が言うには、ワクワクしなかったら仕事じゃないと。彼の写真を観ると、いつもニコニコしています。自分自身がワクワクし、周囲もワクワクさせる。それが彼の経営哲学です。経営者としても一人の男としても憧れますね。
また、彼は、「金儲けのためだったら今の仕事はやっていない」、「朝起きてワクワクしていなかったら、それは違う仕事を始める時だ」、とも言っています。さらにユニークなのは、彼にとっての優先順位は、1番目が社員、2番目がお客さん、3番目が株主なんだそうです。
--:株主より先に社員が来るというのは欧米の大企業の経営者として珍しいですね。ちょっとうろ覚えですが、ブランソン氏は、別の企業の社長と何かで賭けをして、それに負けた罰ゲームとしてお茶目なことをやってた人ですよね(注:実際は、エアアジアCEOのトニー・フェルナンデス氏と、それぞれのF1チームのランキングで賭けを行ない、負けてエアアジアのキャビンアテンダントの制服を着て、エアアジアの便に客室乗務員として搭乗し、勤務した)。ユニークな人だと思います。
大崎:地位的には雲の上の人なんですが、一般の人に近付いて何かをやったりする人なんですよね。
もう一人、ナポレオン・ヒルという著作家も尊敬しています。彼も、信念を持ち続けていれば、それは実現すると述べています。僕は、彼の成功哲学についての本について、かれこれ10年くらい年に1回は読み直して、ノートにメモしているんです。仕事に悩んだ時も、読み直して、心を静めています。
--:違う本ではなく、同じ本を読み直しては、ノートにメモしているということですね。
大崎:はい。
日本人で感銘を受けたのは伊藤忠の元会長の丹羽宇一郎氏です。彼は、若者に対して響くことをよく言っているんですね。ある時、日経新聞のインタビューか何かで「誰も評価してくれていないように見えても、誰かが見ていて、一所懸命働いていれば、必ず報われる。だから人のために頑張れ」といった事を言っていました。
僕はそういった偉人を頭の中に思い浮かべることを習慣にしていて、今挙げた人たちはそのトップ3です。
--:ご自身のセールスポイントを教えてください。
大崎:困難な時に発揮する突破力、そして、人の性格やその人の置かれている状況を読み取ることですかね。人については、初対面の人でも、なんとなくその人のことが分かることが多いです。もちろん外れることもしばしばですが、そこから転じて空気を読むのも得意かもしれません。逆に言うと、人のことを「気にしい」なのかもしれません(笑)。
--:出社から退社までの大体の1日の仕事内容を教えてください。
大崎:あまり決まっていないのですが、朝はなるべく早く来るようにしています。大体8時前くらいです。と言うのも、朝に頭を使いたいからです。13時以降は、生産性が高い仕事ができていない気がするんですよね。思い込みかもしれませんが。ので、会議なんかもなるべく午前中にやります。夜は6時頃には退社します。
あと、出社すると、10~20分間程度、PCを開く前に、ノートに自分の考えていることや状況を書き出すようにしています。今朝の場合は、「仕事の力点をどこに置くべきか」、「自分の思い込みが最大のリスクになることを忘れるな」と書いていますね。そういう不安や戒めを書き、その下に3点注意しないといけないことを書き、最後に実際今日やる具体的なことを記載しています。
と言うのも、出社してすぐにPCを立ち上げると、作業が受動的になってしまうんですね。メールの対応に追われたりですとか。その前に、自分自身を鎮めるのが目的です。また、ノートに手でものを書くと、それ自体も気持ちいいんですよね。で、書いていて、漢字が出てこないこともありますよね。そこで、調べて、書くと、それも気持ちいいんです。普段、PCで書いていると、そういった調べて書くことがないので、それが心地いいんですよね。
--:ちょっと次元が違うのかもしれませんが、人の考えを聞いてそれを理解できることと、自分でそのアイディアを産み出すことは別の能力だと思っていて、それと漢字は読むのは読めるけど、書こうと思っても出てこないこととの関係は似ているのかなと。それで、調べてでも漢字を自分の手で書くことで、一種のアイディアを産み出すのに似た感覚を得ているのかもしれませんね。
大崎:そういったことはあるかもしれませんね。ちなみに、漢字がすらすら出てくる日と出てこない日があって、それでその日の体調もだいたい分かります(笑)。
もう1つ仕事のスケジュールで心がけていることは、普段、会食や接待も多くお酒も好きなのですが、できる限り1次会で切り上げて、残りは部下に任せるようにしています。と言うのも、「心技体」ということを一番大事にしていて、体調が万全でないとやはり頭をしっかり使えないですよね。その分、部下には負担をかけているのは申し訳ないですが、早めに帰り、しっかり家で休んでから翌日出社するようにしています。
仕事のコツと思っているのが、常に24時間仕事のことを考えるということです。これには異論を唱える人もいるかとは思いますが、僕の場合、そうしていないといいアイディアが出てこないんですよ。通勤時はもちろん、家でも仕事のことを考えていますし、夢に出ることもあります。残業せずに早く帰っていますが、結局残業していなくても、頭の中では仕事をしているんですよね(笑)。そうしつつ、ジョギングや瞑想なんかをしていると、ふと、アイディアが浮かんでくるんです。
--:御社広報の中村さんも、僕ら編集者やライターの間では、24時間仕事しているイメージなんですよね(笑)。夜中の2時に問い合わせのメールをしても30分以内に返事が来るし、翌日も6時くらいから海外との電話会議をしていたりということを聞いているので、「いつ寝てるんだろう」と不思議でしょうがなかったです。最近は、もう少し、普通になったみたいですが(笑)。
大崎:そこまでいくと、ちょっとやり過ぎですね(笑)。実際、彼女は責任感が強く、休みの日にメールを出しても、いつも一番最初に返事を返してきます。
--:どのようにスケジュール管理をしていますか。紙に書かれるのが好きだと言うことですが、スケジュール帳も紙だったりするんでしょうか。
大崎:それはOutlookを活用して、アシスタントに入力してもらっています。スケジュールについては、どこかに空白の時間を設けるようにしています。するとアシスタントから、「大崎さん、このプライベートの1時間は何ですか?」と怪しまれたりもするんですが、それは頭を整理するために、物事を考える時間として空けているんです。そうしないと、考えが暴走するので。
--:仕事に緩急を付けているということでしょうか。
大崎:その通りです。世の中には、朝から晩まで働き続けられる経営者や、カントリーマネージャーもいますが、僕はそういうのはできないんです。
--:携帯電話は何を使っていますか。
大崎:iPhone 6sです。
--:それはプライベートのものですか、会社支給のものですか。
大崎:個人のものです。会社支給でGalaxyも持っています。
--:iPhoneはどこが気に入って買われたんでしょうか。
大崎:5年ほど前に妻がMacBook Airを使い始めて、私もMacBookを使うようになり、スマートフォンも自然とiPhoneを選びました。やはりApple製品は見た目が美しいですよね。僕はオートバイが好きなんですが、Apple製品には、それと共通するようなメカニカルな造形美があると感じています。
自宅では余暇に自分のバイクを眺める
--:プライベートではどのようにPCを使っていますか。
大崎:自宅には、MacBookとiPhoneとタブレットの3種類を使っています。ブラウジングはほとんどタブレットかスマートフォンを使っていますが、いざ仕事関係になると、ノートPCを開きます。そのままスマートフォンでやってしまうと、リアクティブになるので、一拍置いてからノートPCを使うようにしています。
--:ちょっと込み入ったことになるとスマートフォンからPCに変えるわけですね。それはキーボードの存在が大きいんでしょうか。
大崎:どちらかというとディスプレイのサイズですかね。それから、スマートフォンだと、メールを書いている時に間違って途中で送信したりしそうになるんですよね。僕は仕事のメールだと、PCを立ち上げ、本文を書いて、そこでいったんWi-Fiをオフにして、しっかり推敲してから、再度Wi-Fiをオンにして送信したりしています(笑)。スマートフォンだと、つい動きながら使ったりしますが、仕事関係では、書斎でPCに正対して、姿勢を正して考えてから使っています。
--:そういった感じで、必然的にスマートフォンやタブレットはいわゆる消費的な事に使い、PCは生産的な事に利用するという使い分けをされているわけですね。
大崎:はい、そうです。
--:今の趣味はなんですか。
大崎:子育てとバイクですね。ただ、バイクについては、ハーレーを所有しているんですが、乗る時間が取れず、自宅のバルコニーに置いてあるのを眺めて楽しんでいます(笑)。
--:たまにいますよね。ガレージなんかに置いたバイクを鑑賞しながらお酒を飲むのが好きな人とか(笑)。
大崎:まさにそれです。唸りながら眺めてみたり、さすってみたり、臭ってみたりしてるんですが、途中で妻に呼ばれて家事を手伝うために中断されたりしています(笑)。最後に乗ったのは半年前ですね。
--:バイクは昔から乗られているんですか。
大崎:いえ、大型二輪の免許を取ったのは40歳前で、それまではスクーターしか乗ったことがありませんでした。
--:それはどういうきっかけで。
大崎:前職でバイクが大好きな部下がいまして、ある時彼と一緒に出張したら、ずっとバイクの話ばかりして、しきりに僕にも勧めてくるんです。多少興味はあったので、バイク雑誌を見てみたら、先ほども言いましたとおり、その造形美にやられてしまって、翌週には教習所に行って、若者に混じって免許を取ってきました(笑)。
--:なかなかの行動力ですね(笑)。これまで何台購入しましたか。
大崎:2台です。最初にいきなりハーレーの1,200ccのスポーツスターを買い、今は1,680ccのファットボーイを持っています。ヨーロッパや国産も好きで、バイクには四輪車にはない美しさがありますね。
--:で、乗るのは年数回と。
大崎:そうです。ちょろっと家の周りをビクビクしながら走るくらいです(笑)。やはり、たまにしか乗らないと、運転が難しいんですよね。車重も300kg以上ありますし。
--:ツーリングに出たりはしないんですか。
大崎:昔は行っていました。今も誘われはするんですが、今は2歳と6歳の子供がいて、その子育てに時間を割いているので、行けないですね。妻は、「行っておいで」と言ってくれるんですが、普段の出張も多いですし、個人の趣味で家を離れるのは申し訳ないですし。
--:子育ても趣味と言うことですが、面白いですか。
大崎:もちろん大変ですね。日々、戦争です。6歳の息子は電車が好きで車掌さんが見たいというので、週末に1度は自宅沿線の小田急線の電車に乗って、行ったり来たりしています(笑)。
娘の方はまだ2歳なんですが、最近、男を意識し始めてるのか(笑)、一応甘えてくれるんですが、その押し引きで私をコントロールしているようです(笑)。
でも、子供は面白いですね。自宅には屋上があって、そこでストレッチや瞑想などしてるんですが、先日そこに子供が来て満月を見てはしゃいでるんですね。それを見て、本当に可愛いなぁと思うわけです。もちろん独身でも幸せなことはありますし、子供がいない夫婦も幸せですし、子供がいなければやりたいことなどもあるんですが、子供ができると人生観が変わるし、変わらざるを得ない環境になりますね。そういう中で新しい幸せな気持ちを感じています。人間の本能なんでしょうね。結婚しても、少し芽生えるし、子供ができると完全に開花する感じです。
--:知り合いの女性がつい昨日出産したばかりで、彼女は帝王切開だったんですね。で、術後は痛みが強くて、歩くのも不自由で子供を抱っこしたりは無理だと思っていたのが、いざ抱いてみると痛みが吹っ飛んだそうです。アドレナリンとかの関係なんでしょうが、子供ができた瞬間に変わることってあるんだろうなと思います
次の質問です。何か特技はお持ちですか。
大崎:先ほども言いましたが、逆境での突破力、そして人や状況を読むこと。言い換えると、環境を理解することですね。環境を理解すると、次はタイミングが見えてきます。ただ、数学的、論理的にというより、感覚的にです。それで、勝負所が分かってきます。読み間違えることもありますが、リーダーはそういうことを習慣付けるのが大事だと思います。
--:一部すでにお答えいただいていますが、休日はどのように過ごされていますか。
大崎:家族サービス以外では、本を読むようにしています。読まないで積まれている本も多いですが(笑)。
--:ジャンルはどういう系が多いのでしょう。
大崎:経営学系が多いです。最近面白かったのは、元米国軍司令官が軍人視点で書いた企業組織の運営に関する「チーム・オブ・チームス」という本です。この著書のポイントは「未来は予測できるものではなく適応するしかない」で、これを組織論に当てはめています。我々NVIDIAが中核に置くAIのビジネスです。AIはご存知の通り、その適応範囲はハイテクから食料品まで全ての産業に波及しつつあり、まさに日進月歩です。これに対応するには従来の縦割りの組織ではとても非効率です。状況に応じて柔軟に適応する。この本は新たな気付きを全く違う観点から与えてくれました。
--:読書以外で何かされていますか。
大崎:趣味とは違うんですが、ジョギングをするようにしています。元々、頭をリセットしたくて座禅を組んで瞑想するのが好きだったんですが、最近ジョギングにも似た効果があるなと感じ始めました。と言うのも、走っていると、考えがまとまったりするんですよね。
--:サーフィンは今でもされているんですか。
大崎:もうやっていないです。
--:個人的なもので(家などを除く)、今までで一番高い買い物は何ですか。
大崎:車です。ランドローバーを買いました。これも機能美に惚れて買いました。ただ、中古だったので、故障が頻発して家族向けではないなと思い、ステップワゴンに買い換えました(笑)。
--:超ファミリー車ですね(笑)。
大崎:あとはハーレーですね。
--:乗り物がお好きなんですか。
大崎:そうでもないんですよね。ちょっと変わっているのか、僕の世代ですと、ゴルフや飲みが好きという人が多いですが、そういうのにはあまり興味がないんですよね。それよりも、自分を解き放てるものに興味があるんです。サーフィンもそうですけど、アドベンチャー的なものとか、エクストリームなものとか、自分の限界を試せるものが好きなんです。一時期スノーボードもやっていました。今はできるだけ家族と一緒にいたいですね。
--:今一番欲しいものはなんですか。
大崎:体重を5kg落としてくれる薬(笑)。この年になると、運動しても食事を控えても体重が落ちないんですよね。
--:5kgでいいんですか(笑)?
大崎:まず5kgですね。社会人になった時は70kg弱で、今は80kgあるので、まずはその中間まで戻したいです。最近、体も重く感じますし。先ほど、体調と仕事のパフォーマンスのバランスの話もしましたが、最近両者にギャップができていて悩んでいます(笑)。ので、そういう魔法の薬があれば、お金を出して買いたいなと思います(笑)。
それと、妻と映画を見る時間が欲しいと思います。妻とゆっくりと大人のデートがしたいです。子供がもう少し大きくなってからですかね……。まったりしたいです(笑)。
--:好きなブランドを教えてください。
大崎:家電だとデロンギですね。そこのコーヒーメーカーを持っているんですが、あれにも機能美を感じます。バイクだとハーレーとドゥカティです。洋服は今はあまりブランドにこだわらないのですが、スーツについては、麻布テーラーでオーダーメードで作っています。シャツも同様に鎌倉シャツでオーダーメードしています。若い頃は既製品を着ていたんですが、ある日オーダーメードを作ってみたら、すごく楽で気持ちよかったんですね。普段着は、最近買って気に入ったのはディーゼルやスコッチアンドソーダです。
--:服の趣味はかなり若いですね。
大崎:ちょっと前までは洋服がすごく好きで、たくさん買ってたんです。ただ、2年くらい前から急に服に対する関心がなくなったんですよね。良くないことです。
--:下のお子さんが生まれたことにも関係あるんでしょうか。
大崎:それもあるかもしれませんが、最近、家を買って、その頃から服に対する物欲がなくなったんですよね。妻に、年に比べて服が浮いていると言われたのもあるかもしれません(笑)。
--:個人的にこのヒト・モノに勝てないというのはありますか。
大崎:毎日、周りの人にいつも感じています。弊社のスタッフも非常に優秀ですし、この業界だとグラフィックスやAIなど、取引先の方々も最先端の方ですから、優秀な人ばかりです。その人たちに勝てないですし、勝とうとも思わないです。ですので、自分はリーダーシップを含めた違うところで能力を発揮しているつもりです。
AIは初めて人間の脳の代わりを生む産業革命
--:20年後どのようなことをしていたいですか。
大崎:68歳ですよね。願わくば、もう一度大学に行き、論文を書いて博士号を取りたいです。
--:それは、特に分野などあるんでしょうか。
大崎:やはりビジネス分野ですね。これまでの自分のビジネスについて、学術的視点で総括してみたいと思います。多分、例え今後60歳代までビジネスの現場で働いたとしても、自身で納得かできないのでは……、と想像しています。それか何たったのかを自分なりに検証したいと。
--:新しい分野に挑戦するというより、自分がやってきたことの答え合わせやさらなる研鑽をしたいということですね。
大崎:はい。誰しも、数十年働いていると、その人なりのストーリーができていると思います。それを総括したいですね。自己満足かもしれませんが、それによって、新しい知見が見つけられると思っています。そして、それを誰かに伝えられればなおいいなと思います。
--:PCは20年後どうなっていると思いますか。
大崎:逆に、どうお考えですか?
--:基本的には現状の延長線上かなと思っています。現状がどうかと言うと、コンシューマ市場ではPCは右肩下がりで、スマートフォンに食われる一方です。実際、Webを見たり、友達とチャットしたり、映画を観たりということはPCでなくスマートフォンでできます。ただ、大崎さんも、じっくり取り組みたい時はPCを使うとおっしゃっていたように、クリエイティブなど何かを制作する用途ではPCの方が効率も生産性も高いです。それは20年後も変わらず、PCはそういった用途向けに残っていると思います。
フォームファクタの点ではさらに小さく薄くなっていたりするかもしれません。性能も向上し、AIが進化し、音声で使うナチュラルUIなども洗練されていたり、脳波を読み取ってくれる入力デバイスも一般化しているかもしれません。でも、この5~60年、キーボードとマウスの根本部分が変わらなかったことを見ると、20年後もPCにはキーボードとマウスが繋がっているでしょう。そういう意味では、外観もさほど大きくは変わらないのではと思います。そういうローカルの端末に向かって作業するシーンは20年後もあり続けるのではないでしょうか。
大崎:進化という点では、さらにセンサーが洗練され、その先のプロセッサの能力も上がり、メモリも増え、クラウドの活用も今より進んでいるということが起きているでしょうね。ただ、何かを作り出す道具という観点では、石器時代の石器のように、手元にその道具がある、つまり入力するインターフェイスが存在し続けているでしょう。
AIについては、シンギュラリティが来ると、人間の仕事がなくなるのではとよく周囲からも聞かれるのですが、僕はそう思っていなくて、ヒトはその道具を使いこなして、次の次元に向かうだろうと見ています。新しい道具の使い方を考え、あるいはその道具によって新しいビジネスや産業を産み出したりしているでしょう。AIを活用して、人間がより大きな意思決定をできるようになっているかもしれません。その道具をその時PCと呼んでいるかどうかは分かりませんが。
--:これまでの文明を振り返っても、例えば自動車ができて、馬車業者が廃業するという嘆きもあったけど、自動車によって新しい職に就いたりしている人もいるわけで、AIもそういったものの1つですよね。
大崎:そうですね。ただ1つこれまでの産業革命と違うのは、これまでの革新は人の手足の代わりを産み出してきたけど、AIは初めて人の脳の代わりになるものです。ですので、自動運転しかり、ロボットしかり、今回は倫理観などにも踏み込んだ議論が出てきているわけです。大げさに言うと、人類全体が今後の社会をどう展開していくかを考える転換期に来ているんだと思います。20年後には、その折り合いがついていて、使いこなせるようになっているのではないでしょうか。
--:自動運転については、20年後はだいぶ一般的になっていると思いますが、その時代でも、自分で運転をしたい人はいるでしょうから、手動運転の車も残っているでしょうね。
大崎:そうですね。自動車が常識の今でも、馬に乗る人がいるのと同じですね。自動運転については、社会インフラがどれだけ変わるか次第でしょうね。今の車の社会インフラは、自動運転の車の安全性をどう担保するかを議論しています。そして、ある時点でインフラは完全に自動運転向けに整備されます。すると今度は、自動走行車の間で人が手動で運転している車の安全をインフラがどう担保するか、という議論が生まれてきますよね。もちろん、手動のように乗りこなせつつ、機械が安全を監視している自動運転車なんかも出てきているかとは思います。
--:これから社会人になる20歳の人に、どのような人生を歩むべきかメッセージをお願いします。
大崎:これは来年社会人になる甥にも言ったことなんですが、まず仕事探しの点では、スケールできる、つまり可能性が広げられる仕事を選ぶべきだと思います。それから、ダイバーシティという言葉すらなくなるほど、今後、多様性が常識になると思います。そのためには、1つの考えに凝り固まらないことです。信念を持ちつつも、柔軟に変化にしていく姿勢が大事です。もう1つ加えるなら、丹羽さんの言うとおり、誰かが必ず周りで見ているということです。逆境に追い込まれても、一所懸命やっていれば、その誰かが支えてくれるので、打ち負かされず、乗り越えて欲しいです。正面からぶつかれば必ずその先が見えるはずです。その繰り返しが誰もをプロにしていくのではないでしょうか。
読者プレゼント
この企画では、登場いただく方に記念品を読者プレゼントとしてご提供いただいています。大崎さんにはご自身が愛用されている「黒のA5サイズのASHFORDの手帳」にご提供いただきました。ふるってご応募ください。
応募方法
応募方法:下記リンクの応募フォームに必要事項を入力して送信してください
応募締切:2016年9月30日(金) 0:00まで
※ 応募フォームの送信はSSL対応ブラウザをご利用ください。SSL非対応のブラウザではご応募できません。