実録! 重役飯
中学時代はメモリ32KBのMSXでバグと戦った。サードウェーブ永井社長の原点と未来の描き方
2026年7月27日 06:28
いつもご愛顧をありがとうございます。PC Watchは2026年をもって30周年を迎えました。30周年を記念し、20周年の際にも実施した「重役飯」を復活させました。この企画では、PC・IT業界を代表する企業のトップの方にインタビューを行ないます。特別企画ということで、通常であれば企業の戦略や製品について伺うところ、今回はインタビューに対応いただく方の行きつけやお勧めの料理店にて会食を行ないながら、その方の趣味や考え方など人となりに焦点を当てた質問を行ないました。この企画を通じて、企業の経営を担う人の個性や考え方などを知っていただければ幸いです。聞き手はPC Watch編集長の若杉です。
30周年記念の重役飯、第4回となる今回のお相手は、PCショップ「ドスパラ」の運営などを手がける株式会社サードウェーブ取締役社長の永井正樹氏。会食の場としては、永井氏が長年親しんでいる秋葉原の老舗和食店「神田明神下みやび本店」を選んでいただいた。
「自然児」がMSXで学んだ「コード圧縮」の原体験
――本日はよろしくお願いいたします。まず、こちらのお店を選ばれた理由を教えていただけますか?
永井:私は秋葉原歴が長く、ここは昔から馴染みのあるお店なんです。以前はランチでも利用できたのですが、今は完全予約制になっていますね。ここのお弁当は有名デパートでも販売されるほど定評があり、会社のイベントの際にこちらから出前を取ることもありました。和食で落ち着いて食事ができる、私にとって大切な場所です。
――どのような子ども時代を過ごされましたか?
永井:生まれは鳥取県で、山も川も海もある自然豊かな環境で育ちました。自分で餌を取って川釣りに行き、魚を捌いて焼いて食べるような子どもでしたね。
――そんな「自然児」が、どのようにテクノロジーと出会ったのでしょう?
永井:中学校1年生の頃に「MSX」を買ってもらったのが始まりです。当時はメモリが32KBしかなく、すぐに「Out of Memory」になる。そこで、どうやってプログラムを圧縮するか、16進数にしたりサブルーチン化したりして効率化を図ることに熱中しました。この頃の「バグ潰しと効率化」の経験が、今の仕事のベースにあるのかもしれません。
(注:MSXは1980年代にMicrosoftとアスキーが規格化した8bit CPU搭載のパソコンで、ソニーやパナソニックなど各社から同じ規格のMSXパソコンが発売された。メモリ容量は8~64KBで、製品によって搭載するメモリ容量が異なり、増設などは行なえなかった)
――高校、そして社会人としての歩みは?
永井:工業高校の電子科に進み、パソコン同好会を立ち上げました。卒業後は日立製作所でシステムエンジニアを3年務め、我流だったプログラミングを「企業としての品質管理」という視点で学び直しました。しかし、5年、10年後の自分を想像したときに変化を求め、21歳で退職して埼玉県の友人の家に転がり込んだんです。
――そこからサードウェーブ(ドスパラ)に入社されたのですね。
永井:当時、就職情報誌で秋葉原の店舗スタッフ募集を見つけて面接に行き、その場で「いつから来れる?」と言われて採用が決まりました。当時は社員が店長一人、あとはアルバイトという小規模な体制でした。
突然の創業者の死による「究極の教育」
――キャリアの中での最大の転機は何でしたか?
永井:20年ほど前、創業者が突然亡くなったことです。当時、取締役は創業者の奥様と私を含めた3名しかおらず、実質的に実務を見ていたのは私だけでした。
――それは大変な状況ですね……。
永井:100億円を超える規模になっていた会社を潰すわけにはいかない、社員を守らなければならないという一心でした。それまでは社長という大きな存在の下で動いていましたが、最終的な判断をすべて自分が担う恐怖と責任を味わいました。私を育ててくれた創業者が遺した「最後の宿題」であり、究極の教育だったと感じています。
――社長に就任されて、意識の変化はありましたか?
永井:2025年2月に就任しましたが、自分自身はあまり変わっていないつもりです。社員には「永井さんと呼んでくれ、社長と呼んでも振り向かないぞ」と言っています。社長というのはあくまで「役割」であり、対等な仲間として同じ目線で会社を良くしていきたい。役職の壁を最小限にしたいんです。
――周囲からはどう見られているのでしょう?
永井:社歴の長い社員からは「永井さんは昔から変わらない」と言われます。立場や肩書きに関係なく、信頼されついてきてもらえる存在でありたいですね。
――現在の仕事において、一番大切にされていることは何でしょうか?
永井:社内での「コミュニケーション」を重視しています。
――社内、つまり社員やスタッフとの対話を大切にされていると?
永井:はい。会社としての方針や戦略はあっても、常にコミュニケーションを取っていないと、どこかで必ず「ズレ」が生じてしまうものだと思うんです。
――組織が大きくなるほど、そのズレを埋めるのは難しくなりそうですね。
永井:そうですね。それに、働いているのは人間ですから。部下も迷ったり悩んだりすることがあります。そういう機微は、実際に向き合って話をしてみないと、なかなか分からないことなんです。
――社長という忙しい立場でも、直接対話する機会を作られているのですか?
永井:組織として動いている以上、人と人との繋がりが基本です。時間が限られていても、直接的な組織の繋がりがある人たちとは日頃から対話する機会を持つようにしています。一人ひとりに時間を割くことは、私にとって非常に重要な仕事だと考えています。
――大きな投資や経営判断など、意思決定に迷った時の「最後の決め手」にしていることはありますか?
永井:そうですね。「お客さまや社会にとってどうなのか」ということを、最後は考え抜いて決めるようにしています。
――会社の利益よりも、まずは「外側」の視点を重視されるのですね?
永井:結局、社会から「この会社はダメだ」と思われてしまったら、企業の存在自体が否定されてしまいますから。営業活動においても、信頼されなければ最後は立ち行かなくなります。だからこそ、判断の基準は社内ではなく、常に社会という外側に置くべきだと思っています。
――部下や若いスタッフと接していて、自分たちの世代とここが違うな、と感じることはありますか?
永井:私自身は、実はあまりジェネレーション(世代)というものは意識していないんです。きちんと熱量を持っていて、物事に興味を持っていれば、年齢がどうこうというのは関係ないと思っています。若いからこそ感じる部分もあれば、同年代だからこそ分かる部分もある。それはギャップというより、それぞれの「特徴」だと思うんですよね。
――年齢で区切るのではなく、個々人の資質を見ていると?
永井:そうですね。同じ年代でも色々な人がいますから。それよりも、その人が「仕事に対してどう向き合っているか」という姿勢の方を、私は大事にしています。
――今、20代で社会に出たばかりの人たちに、人生の先輩としてアドバイスを伝えるとしたら、どのような言葉を贈りますか?
永井:僕はもう、一言「やってみよう」ですね。これに尽きます。
――「実行すること」が何より大事だと。
永井:頭の中でいろいろと考えを巡らせることは誰にでもできますが、実際に実行に移さない限り、本当の意味での経験は得られないと思っているんです。やってみてダメだったら「ダメだった」という経験が手に入るし、うまくいけば「成功した」という経験が手に入る。でも、トライしない限りは、1点も入りませんからね。
――失敗を恐れて動けなくなってしまう若い人も多いように感じます。
永井:若いということは、それ自体が大きな「特権」なんですよ。いくらでもやり直しが利くし、背負っているリスクもそれほど大きくない。だからこそ、若いうちから自分なりの経験を積み上げることが大事なんです。何もしないというのが、一番良くないことだと思います。
AIへの50億円投資とインド人エンジニアの採用
――サードウェーブはAI分野へも多額の投資をされていますね?昨年、インドから約70名の新卒エンジニアを採用されたことも話題になりました。
永井:eスポーツに20億円投資したときもそうでしたが、AIにも50億円規模の投資を掲げています。単に製品を売るだけでなく、市場自体を自分たちの手で作り、盛り上げていくのが当社のDNAです。
日本国内だけで優秀なエンジニアを確保するのは難しい。一方で、インドの優秀な学生たちは日本の文化やコンテンツに親しみを持ってくれています。いきなり70名というのは異例かもしれませんが、AI時代を勝ち抜くための攻めの投資です。
――永井社長ご自身は、どのようにAIを活用されていますか?
永井:「壁打ち」の相手として活用しています。情報の整理や抜け漏れの確認、意見を求めるなど、思考を深めるスピードが劇的に上がりました。AIなしでは今の仕事は務まらないと感じるほどです。
――AIがさらに進化した10年後の世界でも、人間にしかできないことは何だと思われますか?
永井:私は「未来を作ること」だと思っています。AIに主導権を乗っ取られなければ、ですが。
――意思決定すらもAIに委ねられる時代が来ると言われていますね。
永井:そうですね。方針を決めたら「あとは君(AI)がやっていいよ」というエージェント型が進化すれば、ある程度の判断は任せることになります。でも、そうして便利さを享受しているうちに、いつの間にか方針そのものまでAIに決められていた、という状況にならないとも限りません。
――そうした中で、人間の役割はどう変わっていくのでしょうか?
永井:AIが進化するほど、「人間らしい未来を自ら描き、その方向に持っていけるかどうか」が問われるのだと思います。そうであってほしいという希望も込めていますが、AIの支配下に入るのではなく、あくまで未来を作る主体は人間であり続けたいですね。
ウイスキー400本のコレクションと、愛犬のケア
――プライベートについても伺わせてください。今、一番ハマっていることは?
永井:ウイスキーですね。ここ10年ほどで凝り始め、今では自宅に440本ほどのコレクションがあります。そのうち240本ほどは開栓して、少しずつ楽しんでいます。いつかスコットランドの蒸留所巡りをしたいというのが夢です。
――休日もウイスキーを?
永井:休日は家族やペットとの時間も大切にしています。ポメラニアンを飼っているのですが、シャンプーから乾燥、ブラッシングまで2時間かけて自分一人でこなします。ペット専用の強力なドライヤーも導入していますよ。あとは娘たちの買い物に付き合わされて、財布役に徹しています(笑)。
――プライベートでは、PCをどのように活用されていますか?
永井:実を言うと、プライベートではそれほど激しくは使っていません。家でも何かやらなきゃいけない時は、結局仕事のためにPCを触っていることが多いですね。
――趣味でゲームをされることは?
永井:一時期、家でゲームをやっていました。うちはeスポーツ大会を支援しているので、高校生がプレイしているタイトルがどんなものか、自分でも試してみたんです。
――具体的にはどんなタイトルを?
永井:「ロケットリーグ」などですね。ルールは明快なのですが、やってみるとこれが本当に難しい(笑)。上手い人のように空を飛んでシュートなんて、簡単にはいきません。奥が深いゲームだなと感じました。最近はなかなか時間が取れず、プレイする機会も減ってしまいましたが。
――では、スマートフォンとの使い分けはどうされていますか。
永井:普段の生活では、スマホに接触している時間の方が圧倒的に長いですね。SNSを見たり、動画を視聴したりするのは基本的にスマホです。家ではテレビの前は妻が特等席を確保しているので(笑)、私は手元のスマホで映画などを楽しんでいます。
――最近買って良かったガジェットや道具はありますか?
永井:最近、10年以上使っていたテレビを買い替えました。といっても、これは主に妻の要望で、YouTubeやNetflixが見られる機能付きのものです。私はほとんど見ていないのですが、家族は満足しているようです。
30年後も「本物の味」が残る世界に
――10年後、20年後の未来をどう描いていますか?
永井:10年後には次の世代にバトンタッチをしていたいですね。PCの形は変わるかもしれませんが、個人の情報の蓄積場所、つまり「パーソナルなエッセンスの保管庫」としての役割は残り続けるでしょう。
――30年後、2050年を過ぎた世界に、何が残っていてほしいですか?
永井:「飲食の文化」です。単にサプリメントで栄養を摂取すればいいという合理的な世界ではなく、美味しいものを食べて感動する、その感性は失われてほしくない。30年後も、お寿司やウナギを当たり前に楽しめる世界であってほしい。AIが進化しても、未来を作るのは常に人間でありたいですね。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。































