山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
東芝「BookPlace MONO」
~コンテンツセットで9,800円から買える6型E Ink端末
(2013/4/24 00:00)
東芝の「BookPlace MONO」は、同社が運営する電子書籍ストア「BookPlace Cloud Innovations」専用となる、6型のE Ink電子ペーパーを採用した電子書籍端末だ。端末代が実質無料となる「おとな買い得セット」が用意されており、もっとも安価な「名作どれでも1セット+東芝電子書籍リーダー」だと、約10~20点の電子書籍に端末をプラスしたセットが、期間限定ながら9,800円という特別価格で提供される。
同社はこれまで、BookLive!と同じシステムおよびラインナップを持つ電子書籍ストア「BookPlace powered by BookLive!」を運営し、専用のカラー液晶タブレット「BookPlace DB50」を販売してきた。このたび自社運営のストアとして新たに「BookPlace Cloud Innovations(以下BookPlace)」を立ち上げ、従来のストアは「BookLive! for Toshiba」と改名してBookLive!傘下とした。
と、書くと横文字だらけで混乱するが、まとめると
・自社オリジナルの電子書籍ストアを新規に立ち上げた
・これまで運営していたストアはOEM元のBookLive!に任せることにした
という図式になる。ちなみに両者に互換性はないが、従来のストアはBookLive!を引き続き利用でき、BookPlaceから購入済み書籍を再ダウンロードすることもできるので、データの引き継ぎが行なえなくなった楽天Rabooのケースとはまったく異なる。
そして今回、同社オリジナルの電子書籍ストア向けの端末として発表されたのが、本稿で紹介する「BookPlace MONO」である。Android 2.3.4をベースとし、CPUにFreescale i.MX508(800MHz)を搭載した端末だ。カラータブレットではなく、Amazonの「Kindle Paperwhite」、楽天「kobo glo」、BookLive!の「Lideo」などと同じくE Ink採用の読書専用端末である。
ハードウェアは平均的。強いて挙げれば容量が強み
まずは競合製品とハードウェアを比較するところから始めよう。
BookPlace MONO | Kindle Paperwhite | kobo glo | BookLive!Reader Lideo | PRS-T2 | |
東芝 | Amazon | 楽天 | ブックライブ | ソニー | |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 110×170×9.5~9.9mm | 117×169×9.1mm | 114×157×10mm | 110×165×9.4mm | 110×173.3×10.0mm |
重量 | 約180g | 約213g | 約185g | 約170g | 約164g |
解像度/画面サイズ | 758×1,024ドット/6型 | 758×1,024ドット/6型 | 758×1,024ドット/6型 | 600×800ドット/6型 | 600×800ドット/6型 |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n、WiMAX | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約2.8GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.25GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 4GB | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.3GB) |
メモリカードスロット | microSD | - | microSD | - | microSD |
内蔵ライト | - | ○ | ○ | - | - |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 約8,000ページ | 8週間(Wi-Fiオフ) | 約1カ月、約30,000ページ(Wi-Fiオフ) | 約1カ月 | 約30,000ページ、最長2カ月(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長1.5カ月(Wi-Fiオン) |
電子書籍ストア | BookPlace Cloud Innovations | Kindleストア | koboイーブックストア | BookLive! | Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb |
価格(2013年4月16日現在) | 9,800円※ | 7,980円 | 7,980円 | 8,480円 | 9,980円 |
その他 | (※コンテンツとのセット価格。5月10日12:00以降は13,900円) | 3Gモデルも存在 |
現在国内で流通している6型のE Ink電子ペーパー端末のうち、ソニー「PRS-T2」とBookLive!Reader Lideo、楽天「kobo Touch」はいずれも解像度が600×800ドットであり、発売時期はともかく、ハードウェアの世代的には1つ古い印象だ。758×1,024ドットの解像度を持つ本製品と競合するのは、AmazonのKindle Paperwhiteと、楽天のkobo gloの2製品ということになる。
この2製品と比較した場合に長所となるのは、内蔵ストレージの容量が4GBと大きいことと、本体が比較的軽量であること。microSDに対応するのはメリットに見えるが、kobo gloのように大容量のコミックを多数保存すると操作性が実用レベル以下まで落ちる場合もあるので、一概に長所とは言い難い(今回は未検証)。一方で短所となるのがフロントライトを内蔵しないことと、電池の持ちが公称8,000ページと、30,000ページクラスの他製品に比べて短く見えることだ。
以上が主な相違点となるが、大雑把に言ってしまえば「フロントライトのないkobo glo」という表現がしっくりくる。画期的な特徴こそないものの、致命的な欠点も見当たらない。強いて挙げれば容量の大きさが強みといったところだろうか。実際に使ってみてこのスペック通りの性能であれば、あとはストアの品揃えや価格がポイントということになるだろう。
セットアップ手順は一般的。ホーム画面は未ダウンロードの本も全表示
開封して本体を手にとってまず感じるのは、とにかく軽いということだ。公称値では本製品よりも軽いソニーPRS-T2やBookLive!Reader Lideoと持ち比べても、本製品の方が軽く感じられるのは、筐体のプラスチック感が強いせいだろうか。裏を返せば高級感はないのだが、まあこの手の端末に高級感を求める必要は特にないだろう。
セットアップについては、電源を投入して使用許諾契約に同意したのち、Wi-Fiおよび日時を設定、会員メールアドレスとパスワードを入れてサインインする。PCは必要なく、本製品のみでセットアップが完結する。操作はタップを中心に、文字入力はソフトキーボードから行なう。
会員登録がまだの場合は、上記のプロセスの途中で会員登録を行なうことになる。必要な情報はメールアドレスとパスワード、生年月日、性別の4つで、名前や住所は必要ない。また支払いに使うクレジットカードはこの時点では登録せず、初回の購入時に登録する。
セットアップが完了して起動するとホーム画面が表示される。外見はよくある本棚形式の一覧で、リスト表示に切り替えることもできる。本棚は複数作成することができるので、用途別に本棚を作って分けられるほか、端末間で本棚を同期することもできる。
ちなみにこの本棚は、端末内にデータがダウンロード済みか否かに関わらず、購入済みの全ての本が表示される。Kindleに例えると「クラウド」に相当しており、タップした際にデータがダウンロード済みであればそのまま開かれるし、そうでなければダウンロードが開始される。ダウンロード済みか否かはアイコンで判別することもできる。
以上、セットアップしてホーム画面を表示するまでのプロセスは、特に難解なところもない。Lideoのように通信回線のセットアップが不要な端末に比べるとステップ数は多いが、許容範囲であり、PCレスできちんと完結しているのも評価できる。
またE Inkのクオリティも悪くなく、黒もしっかり出るほか、Lideoのように全体的に濃くグラデーションがつぶれてしまっていることもなく、紙に近い自然な表示品質に見える。ただ、フォントサイズを小さくすると明朝体の横棒が欠けるなど、解像度とのマッチングという点ではいま一歩だ。これについては後述する。
ストアの検索性に問題あり、新しい本との出会いが困難
続いてストアからの購入プロセスについて見ていこう。ストアについては、ホーム画面の左下にあるアイコンをタップすることでアクセスできる。従来のBookPlace DB50にも言えることだが、ストアのアイコンがあまりストアらしくないので最初は戸惑う。使い慣れるしかないだろう。
ストアトップページの画面構成は、上段におすすめコンテンツが並び、中段以下に「新着」「ジャンル別」「特集」「ランキング」などが並ぶ。一部のコミックコンテンツを集めた「まとめ買い」もあるが数は多くなく、あまり有用とはいえない。ボタンは立体的なデザインで、画面そのものはソニーのReader Storeによく似ている印象だ。
実際に本を探そうとして気になるのは、検索軸の少なさと検索機能の不親切だ。例えばジャンル検索で「少年・青年コミック」カテゴリをタップすると、Kindleであればその時点でタイトル一覧がずらりと表示されるが、本製品ではさらに細分化された「4コマ」「学園」「SF・ファンタジー」といった小分類が表示される。
これがせめて掲載誌別に分類されていればまだ探せるのだが、どの作品がどこに分類されているか分からないこの小分類は、目的の本をかえって探しにくくしている。たとえ具体的な作品名がないまま見て回る場合でも「ギャグ・コメディでなにか面白そうな作品を探そう」と思い立って検索する機会は、あまりないように思える。ランキングやレコメンドを充実させる方が得策だろう。
また、ジャンルや著者名から選んでいった場合にソートできず、五十音順に並んだタイトルを延々とめくる羽目になったり、著者名での検索が頭文字1文字にしか対応していないので、著者によっては五十音順の著者リストを10ページ以上もめくらなくてはいけなかったりと、過去の端末でもよくみられた問題点がここでも見られる。ジャンルを選んだあとにキーワードを入れて絞り込もうとするとオールジャンルが対象になってしまうのも問題だ。
この検索軸の少なさと検索機能の不親切さのおかげで、何か本を買おうと思っても偶然面白そうな本が見つかるという出会いがほとんどない。今回の試用時も、まずは何か買ってみようといろいろ探そうとしたが、すぐに挫折してしまった。他社ストアと比較してもかなり深刻である。
気を取り直してランキングからめぼしい作品を探そうとしても、表示されているのは総合、コミック、書籍それぞれの上位わずか10位までで、しかも総合ランキングはコミックで埋め尽くされていて、コミックのランキングとまったく同じという状況だ。青空文庫も用意されているが、青空文庫だけを一発で呼び出す方法が見当たらず、キーワード検索するしかないのもネックだ。ことストアに関しては、改善点は山積みといえるだろう。
余談だが、現時点でこのBookPlaceから本を買うには専用端末、もしくはタブレットを用いるしかなく、PCから購入ができない。競合他社にあまりない仕様で、「PCで探して購入しておき、デバイスで開く」という使い方をしている人にとっては、実際の利用時にネックになることもありそうだ。
購入プロセスはごく一般的。ダウンロードは手動実行
続いて購入プロセスを見ていこう。購入プロセスはごく一般的で、カートに入れて決済フローに進み、完了するとホーム画面にサムネイルが表示されるというもの。Kindleやkoboのような1冊ずつの購入ではなく、複数の本をまとめて購入できる。ただし国内メーカーに多く見られる、決済フローの前にパスワード入力を必須とする仕様のため、手順がやや冗長な感は否めない。
分かりにくいのは、購入完了後にホーム画面に表示される本のサムネイルはただのショートカットであり、これをさらにタップして手動でダウンロードしなくてはいけないことだ。多くのサイトでは、購入完了→ホーム画面に戻る→本のダウンロードが完了してサムネイルが表示されている→タップして開く、となるわけだが、本製品ではさらにワンアクション必要になるわけだ。
これは「ホーム画面は全ての本が並ぶ棚であり、ダウンロードされているかは無関係」であることを理解すれば納得できるのだが、購入した直後、さらにそれが複数冊ではなく1冊の場合くらいは自動的にダウンロードさせてもよいと思う。「すぐにダウンロードしますか」と尋ねることさえしないのは、さすがに不親切な感がある。ちなみに説明書によると、本によっては購入時にダウンロードできる場合があるとのことだが、同じ操作で異なる挙動というのはなおさら混乱しそうだ。
ただし、マルチデバイス間の同期機能はなかなか秀逸だ。本ストアはこの専用端末のほかにiOSアプリおよびAndroidアプリも用意されているが、本の既読位置が相互に同期できるのはもちろん、分類のための本棚についても同期できる。Kindleの場合、本棚に相当する「コレクション」は未だにE Ink系の端末しかサポートしておらず、同期にも対応していないが、本製品は本棚もまるごと同期できるので管理が容易だ。
ただ前述のように、ホーム画面は全ての本が表示されるので、冊数が増えると探しにくくなることが予想される。ダウンロード済みの本だけを自動表示する本棚も用意してほしいところだ。
このほか、ストアのどのページを開いていたかを記憶していて、ストアボタンを押すとストアトップページを表示するのではなく、直前の画面を表示してくれるのも便利だ。同じボタンでありながら押した際に表示されるページが違うのはユーザービリティ的にはマイナスだが、ストア内の深い階層まで進んでから離脱した場合などは、いちいちストアのトップページから探し直す必要がないため、慣れてしまえばメリットの方が上回る。従来モデルのBookPlace DB50にあった「1つ前の画面に戻るボタン」の延長で、同社なりの工夫が活かされていると感じる。
また、これと近いコンセプトでもう1つ便利なのが、ホームボタンを長押しすることで、直前まで読んでいたページを表示できる機能だ。本を読んでいる途中でホーム画面に戻っても、ストアに立ち寄っても、あるいは設定画面に移動しても、ホームボタンを長押しさえすれば元のページに戻って来ることができるのだ。実際に使ってみると分かるが、たいへん便利な機能であり、一度使うと手放せなくなる。ホームボタンをハードウェアキーで実装しているが故のメリットだが、他社製品にもぜひ欲しい機能だ。
ページめくりのレスポンスは高速ながら、そのほかの動作速度がマイナス
続いてビューワの使い勝手について見ていこう。
ページめくりはタップおよびフリックの両方に対応する。設定画面などを表示するためには画面の中央をタップする。このあたりの操作方法は一般的で、動作もきびきびとしているのでストレスが溜まらない。特にコミックのページめくりは、Kindle Paperwhiteと比較してもレスポンスが高速で、サクサクとめくれるのが心地よい。タップしたはずが反応しないといった空振りも見られない。
ただ、ホーム画面から本を開くのに30秒近く待たされる場合があるほか、文字サイズを変更した際もページ数の再計算を行なっているのか、相当待たされることがある。数秒で済む場合もあるにはあるが、どちらかというとレアケースである。今回試した限りでは「普通に本を読む操作はKindle以上にスムーズだが、本を開いたり設定を変更したりといった動作はかなり遅い」という結論になる。詳細は動画を参照してほしい。
フォントについては明朝とゴシックが用意されており、いずれもサイズを5段階で変更できる。ただし明朝については「極小」、「小」だと横棒がかすれた状態になり、かなり読みにくい。ゴシックだと極小にしても問題ないことからして、画面解像度との相性がよくないようだ。文字サイズをほぼ同じにしたKindle Paperwhiteと比べると細部のディティールの差が一目瞭然で、せっかくの高解像度がマイナスに作用している格好だ。
ページめくり時に使用するタップの幅を変更したり、リフレッシュレートをなし/5/10/15/毎回から選ぶ機能も用意されている。これらはテキストとコミックで別々に設定できるので、「テキストは15ページごと、コミックは5ページごとにリフレッシュ」という細かな設定も可能だ。他社端末ではあまり見られない便利な仕様である。ただし行間や余白を変更する機能はないので、一長一短である。
なおコミックについては、他社のE Ink端末によくある、拡大倍率を保ったままページをめくったり、あるいは右上→左上→右下→左下と順にスクロールする機能はない。ダブルタップしたエリアを中心に拡大するだけだ。また余白を調整する機能もなく、カスタマイズ性はそれほど高くない。
本の最終ページまで到達すると「続きを読む」もしくは「ビューワを閉じる」の選択肢が表示される。「続きを読む」は、次巻がすでに購入済みであればすぐに開かれ、そうでない場合はストア上の次巻の詳細ページが開く。次巻を買わせる導線はKindleやBookLive!など、ほかのストアでもおなじみだが、すでに購入済みの次巻を開いてくれるという配慮はありがたい。
また今回試用した中では実際に確認できなかったのだが、最終ページではこの2択に加えて、アンケートに答えたり、ファンレターを送る機能も用意されているとのこと。ほかのストアではあまり見られないユニークな機能だ。ただし読了時に評価をつけたり、レビューを投稿する機能はなく、不満を感じる人もいるだろう。
ちなみに購入前に試し読みをする「立ち読み機能」も用意されているが、立ち読み可能な最終ページに到達してもなんのメッセージも表示されず、本を閉じるしか選択肢がない。立ち読みで気に入っても、購入するためにはわざわざ検索し直さなくてはいけないわけだ。立ち読み版を3冊ほど試してどれも同じ挙動だったので、たまたまというわけではないようだ。みすみす売り時を逃してしまっている格好で、作り込みがまだまだ甘いという印象を受ける。
なおストアの具体的な冊数は公表されていないが、ざっと検索した限りではせいぜい数万冊程度ではないかと思う。筆者の過去の電子書籍端末レビューでは、購入テストは主に筒井康隆氏の作品を用い、コミックの表示サンプルはうめ氏の「大東京トイボックス」を都度許諾をもらって使っているが、本ストアは試用時点で筒井康隆氏の作品はゼロ、うめ氏は共著である「ストーリー311」1冊のみという有様である。プレスリリースには今年夏には約10万冊を取り揃えると記されているが、あくまでも予定ということで未知数である。現時点では、ラインナップを基準に電子書籍サイトを選んでいった場合、候補に残るのは難しいように感じられる。
トッププレーヤーに打ち勝つ方向を目指すか否かという問題
以上ざっとレビューをお届けしたわけだが、今回のように後発で登場した電子書籍端末およびストアをレビューするとなると、どうしてもKindleなどのトッププレーヤーと比較して優劣を論じてしまいがちだ。ただ、実際に本製品およびストアを使ってみた限りでは、そもそもトッププレーヤーに打ち勝つことを目指していないのではないかという印象は強い。
今回、旧BookPlaceのシステムを入れ替えるという手間をかけてまで新しくストアを立ち上げた点には同社の本気度を感じるが、Kindleなどほかのストアと真正面から戦ってユーザーを獲得し、高いシェアを取ることが目的であるようには見えない。もちろん対外的にはそうしたスタンスかもしれないが、本当の目的は「自社製品のユーザーが他社の電子書籍サービスに流出するのを防ぐこと」であり、そのためには使い勝手や蔵書数が一定のレベルに達していればよいという、そうした割り切りがあるのではないか。今回試用してそれを強く感じた。
仮にそうした前提に立って見ていくと、カジュアルなレベルで電子書籍を始めるにはそう悪い選択肢ではない、というのが試用した上での筆者の感想だ。koboですら9カ月かかったiOSアプリをサービスイン時点ですでに用意しているなどマルチデバイス対応にも注力しているし、本棚ごと同期も可能だ。検索性は高いとは言えずストア側の改善が必須だが、システムそのものが破綻しているかというとそうではない。最大の問題は品揃えだが、今回の安価なセット販売がそれを(少なくとも当面の間は)カバーするための施策と考えれば納得がいく。
つまり、Kindleなど先行する各ストアおよび端末と比較して選んでもらうのは厳しいものの、同社のPCやタブレットを購入した際にアプリがプリインストールされていてすぐに使えるとか、クーポンやセット販売による価格訴求といった動機があれば、「わざわざ他社ストアのアカウントを取らなくてもこれで十分」となる余地があるというわけだ。今回の専用端末はこの方向性からするとむしろ力を入れすぎな感はあるが、サービス全体のボリュームを出す意味で有用なのは間違いない(単体できちんと利益が出るのかは不明だが)。
と、上記のような筋書きがあるものとして一人で納得してしまっているのだが、もしこの仮定がまったくの見当違いで、真剣にゼロからユーザーを取り込むことを指向しているのなら、数多くの電子書籍ストアが乱立する現在、他ストアにない強みを打ち出すことは急務であり、スタートの時点で安価なセット販売しか訴求方法がないのはすでに危機的と言えなくもない。今夏に実装予定とされている日本語文章の読み上げ機能は強みの1つとして期待できるが、現時点では未知数であり、早急な実装と対応コンテンツの充実が望まれる。
また、旧BookPlaceとは別に新サイトを立ち上げた経緯を考慮しても、将来的に本ストアが終息することがあった場合、購入済み書籍の権利がきちんと保証されるかもユーザーにとっては気になるところだ。これら懸念をどうやって克服するかも、品揃えや価格などと並び、大きなポイントになることだろう。