山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

実売3万円台、サブモニターとしても使える10.95型Androidタブレット「Lenovo Tab M11」

「Lenovo Tab M11」。実売価格は3万8,280円

 レノボ・ジャパンの「Lenovo Tab M11」は、10.95型のAndroidタブレットだ。フルHDの解像度、500gを切る重量など、10型クラスのタブレットとしては及第点のスペックを備えつつ、実売価格は3万円台後半とリーズナブル。さらにスタイラスペンが標準添付されるほか、PCのサブモニターとして使える機能も標準搭載するなど、付加価値の多い製品だ。

 今回は筆者が購入した実機を用いて、電子書籍ユースのほか、PCのサブモニターとしての用途も含めて、その使い勝手をチェックしていく。

実売3万円台ながら付加価値の多い製品

 電子書籍ユースで本製品にもっとも似通った製品と言えば、Amazonが販売する実売3万円台の11型タブレット「Fire Max 11」だろう。ここではまずそのFire Max 11とスペックを比較する。

Lenovo Tab M11とFire Max 11のスペック
Lenovo Tab M11Fire Max 11(第13世代)
発売日2024年1月2023年6月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)255.3×166.3×7.2mm259.1×163.7×7.50mm
重量465g490g
OSAndroid 13FireOS
CPUMediaTek Helio G88 プロセッサ
8コア 1.80GHz×6、2.00GHz×2
8コアプロセッサ - 2x Arm Cortex-A78 (最大2.2GHz)、
6x Arm Cortex A55 (最大2GHz)
メモリ4GB4GB
画面サイズ/解像度10.95型/1,920×1,200ドット(207ppi)11型/2,000×1,200ドット(213ppi)
通信方式Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)
生体認証顔認証指紋認証
防水防塵IP52相当-
バッテリー持続時間(メーカー公称値)10時間/7,040mAh14時間/7,500mAh
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
スピーカーDolby Atmos対応クアッドスピーカーDolby Atmos対応デュアルスピーカー
イヤフォンジャック-
メモリカード○(最大1TB)○(最大1TB)
主な付属品Lenovo Tab Pen-
価格(発売時)3万8,280円(64GB)3万4,980円(64GB)
3万9,980円(128GB)

 この表からも分かるように、両者のハードウェアスペックはよく似通っている。メモリは同じ4GB、ストレージの最小容量も64GBと横並び。このほか最大1TBのメモリカードに対応しているのも同様だ。画面はFire Max 11のほうが若干横幅は広いが、解像度はほぼ同等ときている。

筐体は横向きを前提としたデザイン。上部に前面カメラを搭載する
ベゼル幅は上下左右ともに均等なので、縦向きの利用でも違和感はない

 Fire Max 11にない本製品ならではの利点としては、IP52の防水防塵性能を備えること、4,096段階の筆圧感知機能を備えたスタイラスペンを標準添付していること、Windows PCのサブモニターとして使えるアプリ「Lenovo Freestyle」を搭載していることが挙げられる。またGPS機能を備えるため、Fire Max 11では動作しないGPSを利用したゲームも動作すると考えられる。

背面。横向きでの利用を前提としていることが分かるデザイン
背面右上に8MPカメラを搭載。その上の面に音量ボタン、横に電源ボタンを備える

 こうした特徴を備えながら価格はFire Max 11と同じ3万円台ということで、お買い得感は非常に高いのだが、一方でコストダウンの跡は随所に見られる。たとえば無線LANがWi-Fi 5までの対応だったり、生体認証は顔認証のみで指紋認証には非対応である点などだ。またCPUパワーについてはかなりの差異があるのだが、詳しくはベンチマークの項で後述する。

右側面。USB Type-Cポートとスピーカーを備える。また端にイヤフォンジャックがある
左側面。スピーカーと電源ボタンを備える。スピーカーはDolby Atmos対応だ
上面はカードスロットと音量ボタンを備える。ちなみに底面は何もない
カードスロット。最大1TBまで対応する
重量は実測470g

Fire Max 11と酷似もレスポンスは……

 さて実機を手に取った印象だが、こちらもやはりFire Max 11とそっくりだ。背面だけならば見間違えることはないのだが、電源をオフにして手に持った状態では、どちらがどちらなのか区別がつかないレベルだ。

左が本製品、右がFire Max 11。微妙なサイズの違いはあるがデザインは酷似している
背面。カメラの位置とサイズ、配色の違いで両者の見分けがつく。どちらも横方向で利用することを前提としたデザインだ

 外見上の最大の相違点はリアカメラだ。本製品に限ったことではないが、タブレットにおけるカメラの必要性は個人的にはやや疑問に思うところがあり、厚みのあるこのカメラのせいで最厚部が増すのは可搬性という意味ではマイナスだ。バッグなどの中に入れる場合は破損などに注意したい。

カメラはどちらも段差があり、持ち歩く場合にはやや邪魔な存在
厚みの比較。左が本製品、右がFire Max 11。ほとんど差がないように見えるが、持ち比べると違いははっきりと分かる

 またスタイラスペンを標準添付しているのは本製品の強みだが、本体に収納できないのは致し方ないとしても、マグネットで本体に吸着させるギミックもないなど、このあたりは少々もったいない印象だ。

スタイラスペンこと「Lenovo Tab Pen」は4,096段階の筆圧感知に対応する
スタイラスペンの設定は本体側で行なう。ちなみに電源は単6形電池だ

 セットアップの手順は一般的なAndroidデバイスそのもの。プロセスの後半で、インストールのチェックを外せないサードパーティー製のおすすめアプリがあり、アンインストールしてもホーム画面上の「あなたのためのアプリ」フォルダにショートカットが残ってしまうが、設定画面からまるごと非表示にすることで対処できる。

ホーム画面。Google製のアプリが中心だ
ホーム画面の2画面目に「あなたのためのアプリ」として多数のショートカットがフォルダにまとめられている。これらショートカットは設定から削除できる
プリインストールアプリその1。前述のおすすめアプリを除けばほぼGoogle製のアプリだ
プリインストールアプリその2。手書き対応のアプリ「Myscript Calculator 2」「Nebo」が目立つ
指紋認証には対応しないが、生体認証として顔認証を搭載する
フローティングウィンドウ、画面分割などさまざまな表示方法をサポートする

 実際に使った印象としては、タップしたはずが反応するまで間が空いたりと、レスポンスは決して速くない。アプリの切替などでもっさり感を感じるほか、スリープからの復帰もワンテンポ待たされる。Google Octane 2.0で調べたところ、ベンチマークスコアはFire Max 11のおよそ半分程度と、むしろFire HD 10(第13世代)に近い数値だ。

Google Octane 2.0による比較。左から、本製品が「11727」、Fire Max 11が「22499」と、Fire Max 11のおよそ半分程度。むしろFire HD 10に近いスコアだ
GeekBench 6のスコアはシングルコア431、マルチコア1414。あまり高くはない

 このスコアは体感的なレスポンスとも一致しており、あまり性能は高くないことになる。価格を考えると致し方ないところはあるが、せっかくの豊富な機能を活かすためにも、スペックはもう一声ほしかったというのが本音だ。

表示性能はFire Max 11と同等、見開き表示に最適

 では電子書籍ユースについて見ていこう。本製品には電子書籍アプリとしてGoogle Playブックスもプリインストールされているが、ここではKindleで試用を行なっている。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

10.95型ゆえコミックの見開き表示には適している

 解像度は207ppiということで、表示のクオリティは並といったところ。一般的な表示ではまったく問題はないが、雑誌などで細かい注釈を表示しようとすると、文字がつぶれて表示されることが稀にある。一言で言ってしまうと価格相応ということになる。

上が本製品、下がFire Max 11。アスペクト比の関係で本製品のほうが表示サイズはわずかに大きい。ちなみに画面の輝度は本製品のほうが低めだ
表示クオリティの比較。左が本製品、右がFire Max 11

 一方で画面サイズは10.95型と大きいため、コミックを見開きで表示したり、雑誌をなるべく原寸大で表示する用途には向く。ただし前述のように注釈など細かい表現が得意ではないこと、またアスペクト比の関係で一定の余白ができることは、知っておいたほうがいいだろう。もっともこのあたりはFire Max 11と大きく変わるものではない。

左が本製品、右がFire Max 11。こちらもやはり本製品のほうがわずかに大きく表示できる。この写真でも輝度が低めなのが分かる
表示クオリティの比較。上が本製品、下がFire Max 11

 そのほかの利点としては、メモリカード対応により容量を追加できることや、「読み上げモード」を使い、画面の彩度を落として目への負担を軽減できることが挙げられる。重量については、実測470gということで、他製品と比べてそれほどアドバンテージはない。

画面の天地はそこそこ広く、Kindleサムネイルのライブラリも標準倍率で縦2段にわたって表示できる

 なお前述のように、本製品はスペック自体は決して高くないが、電子書籍ユースであればそれらを感じることはほとんどない。タップによるページめくりで、稀に反応が遅れるくらいだ。まず予算ありきで、コミックの見開き表示や雑誌の単ページ表示ができるデバイスを探しているのであれば、悪い選択肢ではない。

読み上げモードをオンにすると彩度を落としたり、モノクロ表示での閲覧が可能になる

PCのサブモニターとして利用可能なアプリを搭載

 さて、本製品の目玉機能の1つに、本製品をPCのサブモニターとして利用できる「Lenovo Freestyle」がある。

実際に接続した状態。挙動や使い方は一般的なマルチディスプレイアプリと変わらない

 一般的に、タブレットをPCのサブモニターとして利用する時には、タブレットとPCの両方にアプリをインストールする必要があるが、本製品の場合、本アプリ側にはあらかじめアプリが導入済みであるため、あとはPC側にアプリのインストールを行なうだけで、接続が可能になることが特徴だ。

 利用にあたっては、これらアプリのインストールを終えたあと、タブレットとPCとで同じレノボIDでサインインしておく。あとは両者でアプリを起動すると、同一ネットワーク内にある相手の端末を認識するので、PC側で「拡張」か「複製」かを選んで起動すれば、タブレットの画面にPCの画面が表示される。

「Lenovo Freestyle」は赤枠のアイコンをタップして起動する
レノボIDにサインインすると、同一ネットワークで接続可能なPCが見つかる
PC側は「Lenovo Freestyle」アプリをインストールする必要がある
こちらもレノボIDでのサインインが必要になる
起動直後の画面。下段に本製品(Lenovo Tab M11)が表示されているのでタップする
「ミラー先」「拡張」のいずれかをタップすることで接続が実行される

 実際に試した限りでは、使い勝手は一般的なマルチディスプレイアプリと同じで、画面の複製と拡張の両方に対応するほか、画面の倍率調整や縦横の切替なども行なえる。またタッチ操作も問題なく行なえるので、Windowsのデスクトップをリモート操作するという芸当もできる。UIに多少の癖はあるが、十分に実用的だ。

接続完了後はWindowsの外付ディスプレイとして認識される
解像度は1,920×1,200固定、拡大率は変更が可能。画面を縦向きにすることも可能だ
「Lenovo Graphics Adapter」として認識されていることが分かる

 またこの「Lenovo Freestyle」は、単純なサブモニターアプリとしての機能だけでなく、PCからタブレットへのファイル転送機能を備えるほか、タブレットにインストールされているアプリをリモートで起動し、その画面をPC側に表示するというユニークな機能を備えている。

 特に後者の機能はユニークで、タブレット側にインストールされている電子書籍アプリをPCの画面上に表示し、読書を楽しむことができる。一般的なマルチディスプレイアプリには見られない独自の機能だ。この時、タブレット側はタッチ操作を受け付けているので、手元にあるタブレットでスワイプすることで、Windowsのディスプレイに表示されているページがめくられるというのはなかなか面白い。

PC側の「Lenovo Freestyle」の画面右から「アプリのストリーミング」を選択。下段に対応アプリが表示される
今回はKindleを選択した。本製品にインストールされているKindleアプリがリモートで起動され、PC上に表示された
本のページをめくる/戻る、本の選択、画面の拡大縮小、またページのズームアップなどの機能に対応する。これはページをズームしている状態
本製品(右)から呼び出したKindleアプリで、PC上で読書を楽しんでいる様子。一見するとどのような仕組みで動作しているのか把握できない

 ただしこれは通常の読書の速度でゆっくりページをめくった場合の話で、ペラペラと連続してめくるような動作では描画が追いつかず、画面が低解像度に切り替わったり、また見開きの1/4ページだけがめくられた状態で固まることがあった。これは純粋なスループットの問題と、タブレット側のパフォーマンスの低さ、どちらも関係していると考えられる。

このほかファイル共有機能も備える
送信方向はPC→タブレットだけで、逆は不可能なようだ

 というわけで実用レベルにはギリギリ届くか、届かないか微妙なところなのだが、とは言え一般的なマルチディスプレイアプリやリモート系のアプリにはない機能であり、なによりプリインストールされていて手間を掛けずに使えるのは大きい。この機能のためだけに本製品をチョイスするのはおすすめしないが、購入した人は試す価値はある。

性能よりも機能の豊富さに振った製品

 以上のように、スペックはもう一声ほしいのは事実だが、実売3万円台で一通りの機能を備えつつ、防水防塵機能を搭載、スタイラスペンも標準添付され、さらにマルチディスプレイアプリという付加価値もある。ややもっさりした動きは妥協する必要があるが、全体的に見どころのある製品なのは事実だ。

 このあたり、同じ3万円台という価格帯の中で、性能に振ったのがFire Max 11や前回紹介したサムソンの実売3万5,799円の11型Androidタブレット「Galaxy Tab A9+」で、一方で防水防塵への対応やスタイラスペンの標準添付といった付加機能に振ったのが本製品と解釈すれば分かりやすいだろう。

 ざっと試した限り、YouTubeやNetflixなど動画配信サイトも、特に再生に支障があるわけではなく、また800万画素のリアカメラは、スマホを所有していないユーザーにとってもプラス要因となるだろう。一定の水準をクリアしつつ、なるべく安価に買えるタブレットを探しているならば、候補の1つに入れておいてよい製品という評価になるだろう。