山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
10.3型カラーE Ink搭載でPlayストアも使える「BOOX Tab Ultra C」を試す
2023年5月18日 06:16
ONYX Internationalの「BOOX Tab Ultra C」は、10.3型のカラーE Ink電子ペーパーを搭載したAndroidタブレットだ。Google Playストアにも対応しており、電子書籍に限らず、好みのAndroidアプリを自由にインストールして利用できるのが特徴だ。
近年のBOOXは、既存モデルをカラー化したモデルを追加投入するのが恒例となっている。本製品は2022年に発売されたハイエンドモデル「BOOX Tab Ultra」のカラー版にあたり、最新のカラーE Inkパネル「Kaleido 3」を搭載しているのが売りだ。
今回は、国内代理店であるSKTから借用した製品をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、ベースにあたるモノクロモデル「BOOX Tab Ultra」と比較しつつチェックする。
モノクロモデルとの違いは実質E Inkパネルだけ
まずはモノクロモデル「BOOX Tab Ultra」との比較から。参考までに、画面サイズがほぼ同等のKindleの大画面モデル「Kindle Scribe」のスペックもあわせて掲載する。
BOOX Tab Ultra C | BOOX Tab Ultra | Kindle Scribe | |
---|---|---|---|
発売月 | 2023年5月 | 2022年11月 | 2022年11月 |
OS | Android 11 | Android 11 | 独自 |
サイズ | 184.5×225×6.7mm | 184.5×225×6.7mm | 196×230×5.8mm |
重量 | 480g | 480g | 433g |
解像度 | モノクロ: 1,860×2,480ドット(300ppi) カラー: 930×1,240ドット(150ppi) | 1,404×1,872ドット(227dpi) | 1,860×2,480ドット(300ppi) |
ディスプレイ | 10.3型Kaleido 3(4,096色)フラットカバーレンズ付きCarta 1200ガラススクリーン | 10.3型フラットHD Cartaスクリーン | 10.2型Amazonディスプレイ、フォント最適化技術、16階調グレースケール |
通信方式 | Wi-Fi 5 | Wi-Fi 5 | Wi-Fi 4 |
CPU | Qualcomm 8コア | Qualcomm 8コア | 不明 |
メモリ容量 | 4GB | 4GB | 不明 |
ストレージ | 128GB | 128GB | 16GB/32GB/64GB |
microSDカードスロット | あり(最大512GB) | あり | - |
フロントライト | あり(暖色/寒色) | あり(暖色/寒色) | あり(暖色/寒色)、自動調整あり |
ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
指紋認証 | あり | あり | - |
端子 | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C |
バッテリ持続時間の目安 | 不明(容量6,300mAh) | 不明(容量6,300mAh) | 最大12週間 |
価格(税込) | 9万1,800円 | 8万3,800円 | 4万7,980円(16GB、スタンダードペン付き) 5万1,980円(16GB、プレミアムペン付き) 5万4,980円(32GB、プレミアムペン付き) 5万9,980円(64GB、プレミアムペン付き) |
備考 | ワコムスタイラスペン(BOOX Pen2 Pro)が付属 | ワコムスタイラスペン(BOOX Pen2 Pro)が付属 | スタンダードペンもしくはプレミアムペンが付属 |
この表から分かるように、モノクロモデルとの違いは、Kaleido Plusの後継に当たる4,096色のカラーE Inkパネル「Kaleido 3」を搭載していることを除けば、ごくわずかしかない。
モノクロモデルの特徴だった、BSR(BOOX Super Refresh)なる独自GPUや、書類のスキャンを行なうための専用カメラ、指紋認証を搭載した電源ボタンなどもしっかり受け継がれている。事実上、E Inkをカラー化しただけのモデルと言って差し支えない。
実売価格は9万1,800円で、モノクロモデルのBOOX Tab Ultra(8万3,800円)との差は8,000円。もっとも、BOOX Tab Ultraは発売開始時点で9万9,800円だったのが現在では1万6,000円安くなっており、当時の価格のままならば本製品は10万円を超えていてもおかしくなかったはずで、むしろリーズナブルな印象すらある。
なお製品には4,096段階の筆圧検知に対応するスタイラスが標準添付されるが、これらはモノクロモデルとまったく同一のモデル。さらに別売のカバーやキーボード付カバーも共用となっている。
外観もモノクロモデルと同様。ベンチマークも誤差レベル
セットアップは、タイムゾーンや電源まわりを設定し、一旦ホーム画面が表示されたあと、あらためてWi-Fi設定を行なうというBOOXではおなじみのフロー。GSF(Google Service Framework) IDの設定もいらず、ログインさえすればGoogle Playストアがすぐ利用できるのも、従来のモノクロモデルと共通している。
実機を手に持った印象は、モノクロモデルとまったく同じ。すなわち直線主体のスタイリッシュなデザインで、薄型ながら筐体の密度は非常に高く、手に持つと重みがずしりとくるというものだ。ちなみに本体色はモノクロモデルとわずかに違っているので、両者を並べればそこで見分けがつく。
やや異なるのはフロントライトで、モノクロモデルは2つのスライダーで寒色と暖色をそれぞれ調節する方式だったのに対し、本製品は明るさを調節するスライダーが上段にあり、そこに下段のスライダーで暖色をプラスする仕組み。それゆえ上段をオフにするとフロントライト自体が消えてしまう。また色味も異なるなど、従来とはまるで別物だ。
カラーE Ink搭載にともなうメニュー類の変更は、設定画面についてはほぼ皆無。一方のE Inkの最適化画面には、従来はなかった項目がいくつか追加されているが、これも濃淡を調整するための項目が主で、色調全体をダイナミックにコントロールしたり、一時的にモノクロに切り替えるような機能はない。
ベンチマークも念のためにも行なってみたが、モノクロモデルとの違いは誤差レベル。Google OctaneとGeekBench、どちらも本製品のほうがわずかにスコアが低いが、これはカラー表示に一定のリソースが割かれているという理解でよいだろう。なお後述するがタッチ時のレスポンスなども本製品のほうがわずかに遅く、これらベンチマークの結果と一致している。
「リーガルモード」の活用で電子書籍を快適に利用可能
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
解像度は、モノクロは300dpiと高い一方で、カラーは150ppiと低くなっている。モノクロとカラーで解像度が異なるのは既存のカラーE Ink「Kaleido Plus」と同様だが、後継に当たる今回の「Kaleido 3」では、カラーの解像度は100ppiから150ppiへと向上したほか、彩度が30%向上したとされている。
またモノクロの解像度も300ppiと、モノクロモデルの解像度(227ppi)を上回る逆転現象が起きている。そのため白黒コンテンツの表示でも、グラデーション表現などの例外を除けば、本製品のほうがモノクロモデルより表現力は上だ。
ではカラーのコンテンツはどうだろうか。カラーは、150ppiというやや低い解像度ゆえ、ベタ塗りこそ十分なクオリティだが、カラーだけで表現された文字は多少の読みづらさを感じる。すべてをモノクロ227ppiで表示できるモノクロモデルのほうが、コンテンツによっては見やすいと感じられるケースもある。
ただしかつての100ppiの頃と比べると可読性は明らかに向上しており、背景がカラーで文字が白抜きという、従来は文字自体の判別が困難だった色の組み合わせでも、きちんと読むことができる。
もちろんカラーE Inkならではの、モノクロに着彩したような彩度の低さは如何ともし難く、写真などの表示が苦手なことは変わりないが、モノクロでは判別がつかなかったグラフは色分けされている部分が正しく判別できるようになるので、図版の多い技術書などでは十分にメリットがあるだろう。
実際には読書に大きく影響するのは、こうした解像度うんぬんよりも、リフレッシュモードの設定に負うところが大きい。カラーE InkはモノクロのE Inkと比べて色数が多いためか、残像がモノクロ以上に目障りで、どれだけ残像を消せるかが、見やすさに直結するからだ。
そのためにはレスポンスを多少犠牲にしても、ページめくりのたびにまるごとリフレッシュするのが理想なのだが、BOOXシリーズは従来から、リフレッシュの間隔をゼロに設定しても正常に機能しない問題があり、それは本製品でも変わっていない。
しかしリフレッシュモードを「リーガルモード」に設定すれば、そうした問題も解決する。このモードに設定すれば、リフレッシュモードの設定によらず、ページ遷移ごとにリフレッシュが行なわれるようになり、残像がほぼ気にならなくなる。
正直なところ、このリーガルモードがなければ、いくらカラーE Inkが最新版でも、実用性はいま一歩という評価になりかねなかったのだが、リーガルモードのおかげで十分に実用的だと評価できる。グラデーションの処理にやや癖があるほか、モノクロの文字が若干ぼやける副作用はあるが、原則としてオンにしておくべきだろう。
ただし少々ややこしいが、これはKindleアプリをメインに使う場合の話だ。細かい挙動や特性はアプリごとにそれぞれ異なっており、特に電子書籍アプリはページめくり時のエフェクトが影響を及ぼすこともあるので、試行錯誤は避けられない。リーガルモードを基本線に、5つのリフレッシュモードのどれがよいかを切り替えつつ試してみてほしい。
なおページめくりなどのレスポンスについては、モノクロモデルよりワンテンポ遅れるものの十分に高速だ。ただしこれはモノクロモデルにも言えることだが、スマホやタブレットのようにサッと触れた程度ではタップとみなされないケースがあるので、そのあたりを意識して操作するとよいだろう。
カラーE Inkが身近になってきたことを感じさせる製品
以上のように、BOOXシリーズの中でもスペックが高く完成度が高いフラッグシップモデル「Tab Ultra」をベースとした製品ゆえ、ハードウェアの信頼性は極めて高い。
その一方でカラーE Inkについては、現在入手できる製品の中では最高峰ではあるものの、オールラウンドで使える汎用性はない。色分けされた図版などを表示するには最適だが(ほかにプレゼン資料などにも向いているだろう)、カラー写真など色鮮やかさを売りにしたコンテンツはどうしても見劣りする。
このあたりの特性の違いがきちんと把握できていればメリットは大だが、液晶や有機ELのような鮮やかさや色の再現性を期待すると、期待外れということになりかねない。最新のカラーE Inkパネル「Kaleido 3」を搭載していても、この根本の部分は変わらないので、それだけはしっかりと把握しておきたいところだ。
とはいえ、本製品の価格はモノクロモデルと1割程度しか違わず、またモノクロに限ってはモノクロモデルより解像度が高いという利点もある。カラーE Inkがますます身近になってきたことを強く感じさせる製品だけに、現在モノクロモデルの購入を考えている人は、あわせて検討すべき製品と言えそうだ。