レビュー
Kindle Scribe、Kobo Elipsa、BOOX Tab Ultraの「手書きノート機能」を比較する
2023年2月1日 06:33
2022年11月に登場したKindleの大画面モデル「Kindle Scribe」には、電子書籍を読む機能に加えて、電子ノート機能が搭載されている。スタイラスペンを用いての手書きを可能にするこの機能は、日常の手軽なメモやスケッチはもちろんのこと、授業や会議でノートを取るなど、幅広い用途に活用できる。
こうした電子ノート機能は、今回のKindle Scribe以前にも、楽天Koboの10.3型E Ink端末「Kobo Elipsa」にも搭載されている。またGoogle Playストアが利用できるAndroidベースのE Ink端末「BOOX」シリーズの多くの製品にも、同様の機能が搭載されている。富士通のクアデルノのような電子ノート専用機と異なり、付加機能として提供されているのが相違点だ。
ひと口に電子ノートといっても、ある製品では当たり前の機能が、別の製品では影も形もないことはよくある。今回はこれらE Ink端末の電子ノート機能を比較し、具体的にどのような機能があるのか、何に重きを置いて選べばよいのかをチェックしていく。デバイスそのもののレビューは過去の電子書籍端末連載に掲載されているので、併せて参照してほしい。
ペンや消しゴム、テンプレートの種類は?
一般的な電子ノートは、ボールペンやマーカー、筆などタッチの異なる複数のペン先が用意されており、それぞれについて太さおよび色を調整しつつ、スタイラスペンを用いて手書きでの入力が行なえる。
こうしたペン先の設定が豊富なのがBOOXで、ペン先は5種類、色および濃淡は16種類、さらに太さは25段階に調整できる。むしろ多すぎる気もしなくはないが、これらペン先の種類や色、太さを組み合わせたプリセットを登録しておけるなど、使い勝手にはきちんと配慮されており好印象だ。
一方のKindleはペンの太さこそ指定できるものの色や濃淡は指定不可、さらにペンの種類は2種類のみと、選択の余地はほとんどない。Koboはその中間といったところだ。
ペン機能と対になる消しゴム機能は、一般的には太さを調節できるサイズ別消去のほかに、筆跡単位で消去するストローク消去、選択範囲のまるごと消去といった機能があるが、Kindleはこれらのうちストローク消去に非対応、Koboはストローク消去に対応するものの太さが1種類しかない。ストローク消去と選択範囲消去のいずれにも対応し、太さも5種類から選べるBOOXがもっとも多機能だ。
テンプレートにはどうだろうか。電子ノートは罫線や方眼といったさまざまなテンプレートが用意され、目的に応じて選択できるのが紙のノートやルーズリーフと比べた場合の売りだが、Koboはわずか4種類と、選択の余地がほとんどない。
Kindleは18種類と数は及第点だが、罫線の間隔はバリエーションに乏しい。一方のBOOXは、内蔵とクラウド(要ダウンロード)で計39種類ものテンプレートがあり、この中には罫線の間隔が異なるバリエーションも多く含まれており、紙のルーズリーフに近い選び方ができる。
またBOOXは自作のテンプレートを登録できる機能も備える。たとえテンプレートの数が少なくとも、自作のテンプレートが利用できれば、どんな用途にも対応できる。ここでもBOOXがほかの2製品に比べて優勢だ。
Kindle Scribe | Kobo Elipsa | BOOX Tab Ultra | |
---|---|---|---|
ペンの種類 | 2種類(ペン、マーカー) | 5種類(ボールペン、万年筆、カリグラフィー、筆ペン、マーカー) ※多機能ノートはマーカーを除く4種類 | 5種類(ペン、ブラシ、ボールペン、鉛筆、マーカー) |
ペンの色および濃淡 | - | 5種類(グレーの濃淡) | 16種類(グレーの濃淡4種類+カラー8種類) |
ペンの太さ | 5種類 | 5種類 | 25種類(マーカーは8段階) |
ペンの種類/色/太さの組み合わせを登録しておけるプリセット機能 | - | - | あり |
消しゴム | 太さ5種類 選択範囲を消去、ページ全体を消去 | 太さ1種類 ストローク消去 ※別途「白紙に戻す」「ページ削除」機能あり | 太さ5種類 ストローク消去、エリア消去、現在のレイヤーを消去、すべてのレイヤーを消去 |
テンプレート | 18種類 | 4種類 | 39種類(固定24種類、クラウド15種類) |
自作テンプレートの追加 | × | × | 対応(ローカルテンプレート) |
入力支援ツールをチェック
次に図形入力や手書き文字のテキスト変換など、入力支援ツールもチェックしていこう。
Koboは、手書きで入力した図形や数式をデータに変換できるほか、フリーハンドで書いた文字をダブルタップでテキストデータに変換できるなど、AIを用いた変換機能を多数搭載している。ノートの新規作成時に「無地ノート」ではなく「多機能ノート」を選択している必要はあるものの、全体的に見るべきものがある。
BOOXは多角形のほか波線や矢印などの入力ツールを備えており、線もパターンが違う点線など7種類から、太さも25段階から選択できる。またページ内の手書き文字を一括でテキストデータに変換する機能や、音声や画像、リンクを埋め込む機能もあり、Wordなどのオフィスソフトに近い設計だ。ソフトキーボードからテキストを入力する機能もある。
Kindleについては、こうしたプラスアルファの入力支援ツールは皆無。シンプルに手書きでノートを取れるというだけだ。ほかの電子ノートから移行してきた場合は、物足りなさを感じることもあるだろう。
Kindle Scribe | Kobo Elipsa | BOOX Tab Ultra | |
---|---|---|---|
図形入力 | × | ○ 図形を手書き入力して変換を実行するとベクターデータへと変換される | ○ 直線、波線、矢印、円、三角形、四角形、台形、五角形、六角形 線のパターンは7種類 色はグレー4種類+カラー12種類 太さは25段階 |
数式入力 | × | ○ 数式を手書き入力して変換を実行するとテキストデータへと変換される | × |
その他挿入可能なオブジェクト | - | フリースペース(表) | レコーダー、画像、ノート内の別ページへのリンク、ウェブページへのリンク |
キーボードからのテキスト入力 | × | × | ○ |
手書き文字のテキスト変換 | × | ○ 多機能ノートで対応 下線を引くと見出しに変換されるなどの編集機能も搭載 | ○ テキストボックスとして挿入したり、クリップボードへのコピーが可能 |
操作性の違いは?
続いて操作性全般について見ていこう。
まず新規ノート作成時の挙動について。KindleとBOOXは、新しいノートを開くと、タイトルの後ろに連番が自動付与されるため、タイトルを考えるのを後回しにしてすぐ作成に着手できる。特にBOOXは、タイトルをつける画面すら表示されず、保存する時にタイトルをつける流れなので、急いでノートを取りたい場合も使いやすい。
一方のKoboは、タイトルが空欄のままだと作成に着手できないので、どれだけ急いでいても何らかの文字列をソフトキーボードから入力しなくてはならず、いますぐ何かを書き留めたい場合には不便だ。ちょっとしたことだが、電子ノートとしてはかなり致命的なマイナスだ。
入力ツールをまとめたパレットは、KindleとBOOXはページの横に、Koboはページの上に表示される。横に表示される場合は、ユーザーの利き手に応じて、左と右のどちらにでも切り替えられる必要があるが、両製品とも問題なく対応している。特定のツールの表示/非表示を切り替えられるカスタマイズ機能を備えるのはBOOXだけだ。
製品によって大きな差があるのが、作成したノートの管理機能だ。ノートを並び替えるためのソートキーは、Koboは「更新日」、「ノート名」の2種類だけで、昇順降順の切り替えは不可。BOOXはキーは3種類で昇順降順の切り替えにも対応、Kindleはキーが5種類で昇順降順の切り替えも可能と、ここはKindleが優秀だ。
このほか作成したノートの分類については、KindleとBOOXはフォルダ分けが可能なのに対して、Koboはすべてのノートを同じ階層に貯めていく仕様で、ノートが増えてきた場合の管理に不安を残す仕様だ。
Kindle Scribe | Kobo Elipsa | BOOX Tab Ultra | |
---|---|---|---|
新規作成時のタイトル | 「ノートブック」+「数字(連番)」 | なし 空欄のままだと新規作成不可 | 「ノート」+「数字(連番)」 |
ページの追加方法 | 右スワイプによる追加 | ページがなくなると自動的に追加される | 右スワイプもしくはアイコンをタップすることによる追加 |
作成中の名前変更 | ○ | × | ○ |
画面の回転 | × | ○(多機能ノートのみ) | ○ |
キャンバスサイズの変更 | × | × | 1ページ表示、2×1ページ表示、1×2ページ表示、2×2ページ表示 |
ページの拡大縮小 | × | × | ズームインズームアウト、マーキーズーム、二本指によるズーム、画面やキャンパスに合わせるなど |
ツールパレットの位置 | 左側/右側 | 上部 | 左側/右側 |
ツールパレットのカスタマイズ | × | × | ○ |
並び替え機能 | 5種類(最近使用した順、タイトル、タイプ、作成日、変更日) 昇順/降順も指定可能 | 2種類(更新日、ノート名) 昇順/降順の指定は不可 | 3種類(更新日、作成日時、名前順) 昇順/降順も指定可能 |
絞り込み表示 | ダウンロード完了したもののみを絞り込んで表示できる | × | 同期済みのノート/未同期のノートを絞り込んで表示できる |
表示形式 | グリッドもしくはリスト | サムネイルのみ | 小さなサムネイルが並ぶ一覧モードと、サムネイルをメインにした表紙モードの2種類 |
サムネイル | 表紙もしくは作成中ページ | 表紙 | 表紙 |
検索機能 | Kindleストアを含めての単語検索でタイトルを検索可能 | × | タグおよび手書き |
フォルダによる分類 | ○ | × | ○ |
セキュリティ | なし | なし | 個々のノートに対して指紋認証もしくは文字列のパスワードを設定可能 |
かなり差がある外部への書き出し機能
ノートを外部にエクスポートする機能は、各製品の個性が出るところだ。
Kindleはクラウドでノートが自動的に同期されるので、わざわざエクスポートを行なわなくとも、スマホやタブレットのKindleアプリ上でノートを参照できる。またPDFに変換してクラウドにアップロードし、そのリンクをメールで送ることで、PCなどでダウンロードすることも可能だ。サードパーティのサービスには一切対応しないが、使い勝手はシームレスで、Kindleを活用している人はすんなり使えるだろう。
Koboは、PDFだけでなくPNGやJPEG、さらに多機能ノートではWordやテキストにも対応するなどフォーマットを自由に選択でき、また書き出し先にDropboxを指定できるなど、汎用性は非常に高い。自動同期の仕組みがないのでバックアップとして使えないのは惜しいが、全体的にはよくできている。Kindleと違い、自社の電子書籍をクラウドで同期する仕組みとはまったくの別物なのが興味深い。
BOOXは、DropboxやEvernote、OneNoteとの自動同期に対応している。BOOXシリーズはもともとGoogle PlayストアからAndroidアプリを自由にインストールできるのが売りで、共有機能を使えばほかのクラウドストレージへの手動書き出しも行なえる。またAndroidゆえ、ニアバイシェアを使っての送信も可能だ。ちなみに手動同期にも対応しているが、これはOnyxアカウント限定となる。
Kindle Scribe | Kobo Elipsa | BOOX Tab Ultra | |
---|---|---|---|
同期 | Kindle経由でのiOS/Androidアプリとの自動同期 | - | Dropbox、Evernote、OneNoteなど 手動同期はOnyxアカウントのみ対応 |
エクスポート先 | Kindleに登録されたメールアドレス 任意のメールアドレス(最大5個まで追加可能) 後者はメール添付ではなくAmazonのサイトからのダウンロード | PC(有線接続)、Dropbox | 共有機能を使っての各種アプリへのエクスポートが可能。ニアバイシェアにも対応 |
エクスポート形式 | 無地ノートではPDF、PNG、JPG 多機能ノートではWord、テキスト、HTML ページ単位もしくはノート単位を選択可能。後者の場合はZIPで出力される場合あり | PDF、PNG PDFはビットマップとベクターを選択可能 |
各製品で利用するスタイラスペンをチェック
最後に、手書きで使うスタイラスペンの機能もざっとチェックしておく。
BOOXは、ペン以外に使える機能は消しゴムだけで、側面ボタンはない。Koboは側面の2ボタンにマーカーと消しゴムが割り当てられており、ツールを切り替えずに同時利用が可能だ。Kindleはプレミアムペンに限り、側面ボタンに任意の機能、例えばハイライトを割り当てられるのだが、ただし入力まわりの機能自体がもともと少ないせいで、選択肢に乏しいのが惜しい。
本体へのスタイラスペンの取り付け方法は、Kindleはマグネットによる本体への吸着、およびカバーの取り付け、どちらにも対応している。Koboはカバーへの取り付けのみで本体への吸着には対応しないので、本体だけを持ち歩く場合は不便。ただしヒンジ部に挟み込む仕組みゆえ、バッグの中で脱落する心配はまずない。
BOOXはマグネットで本体に吸着させる仕組みで、標準カバー装着時も同様だ。吸着力はそこそこ強いとはいえ、バッグの中で荷物にもまれて脱落する可能性はなくはない。ちなみにオプションで用意されているキーボード一体型カバーでは、本体に吸着させたペンを上からフリップで巻き込んで固定できるので、脱落の心配はない。この仕組みが標準カバーにも欲しかったところだ。
まとめ
以上、いくつかのカテゴリに分けて機能を見てきたが、この3製品の中でもっとも優秀なのはBOOXだろう。ペンの太さが25種類、色と濃度は16種類と豊富で、多すぎて選びづらくなりそうなところ、それらの組み合わせをプリセットとして登録しておける機能があるなど、使い勝手にも配慮されている。アイコンがあまり直感的でなく、どこにどの機能があるか覚えるのに時間がかかるのが、欠点といえば欠点だ。
Kindleは電子ノートとしては最小限の機能しかないので、電子ノートの利用経験がすでにあるユーザーの移行先としてはお勧めしないが、シンプルなぶん使い方をすぐに覚えられる上、レスポンスそのものは高速なので、使い勝手は悪くない。単体の電子ノート専用端末として売られているならまだしも、電子書籍端末の付加価値としては十分だろう。個人的には8型クラスの手書き対応モデルの登場に期待したい。
Koboは数式変換やテキストOCRなど目を引く機能はあるのだが、ノートの並び替えや分類といった管理機能が弱かったり、タイトルを入力しないと新規作成画面が開けなかったりと、使い勝手に難がある。「Kobo Elipsa」は2022年12月にホームページで完売が告知されており、これら電子ノート機能が使える現行モデルは現時点で8型の「Kobo Sage」だけとあって、今後に大きな期待がかけにくいのもマイナスだ。
といった具合に、ひと口に「電子ノート機能」といっても、できることは製品によってまったく異なることが分かる。今回は試していない富士通のクアデルノや海外で著名な「reMarkable」のような電子ノートの専用機も含め、E Inkデバイスに手書きノート機能が搭載される例は今後も増えてくると考えられるが、機能は千差万別、ピンからキリまであることは、知っておいたほうがよさそうだ。