山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「12.9インチiPad Pro(第5世代)」で電子書籍を試す。ミニLED採用でコントラスト向上も重量増
2021年5月28日 09:45
「12.9インチiPad Pro(第5世代)」は、12.9型の大型画面を備えたApple製のタブレットだ。通算では第5世代、ホームボタンがなくUSB Type-Cを採用したiPad Proとしては3代目に相当する製品だ。
外観は従来モデルとほぼ同じで、第4世代モデルで大きく進化したカメラのようなわかりやすい相違点はないが、MacBookなどでも採用されているM1チップを新たに搭載し、さらにディスプレイにはミニLEDを採用するなど、ハードウェアとしては別物といっていいほど刷新されている。
その一方で、従来に比べてわずかに厚みが増し、さらに重量も増すなど、手に持って使う場合にはやや気になる点もある。今回は筆者が購入したWi-Fi 256GBモデルを用い、従来の第4世代モデルとの違いを中心に、電子書籍ユースでの使い勝手を紹介する。
外観はほぼそのままだが厚みと重量がやや増加
まずは従来モデルと比較してみよう。なお機材の関係で、従来モデルの写真は(Wi-Fiモデルではなく)Wi-Fi + Cellularモデルを用いているのでご了承いただきたい。具体的にはアンテナ部のデザインが若干異なっている。
12.9インチiPad Pro(第5世代) | 12.9インチiPad Pro(第4世代) | 12.9インチiPad Pro(第3世代) | 12.9インチiPad Pro(第2世代) | 12.9インチiPad Pro | |
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発売 | 2021年5月 | 2020年3月 | 2018年11月 | 2017年6月 | 2015年11月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 280.6×214.9×6.4mm | 280.6×214.9×5.9mm | 280.6×214.9×5.9mm | 305.7×220.6×6.9mm | 305.7×220.6×6.9mm |
重量 | 約682g | 約641g | 約631g | 約677g | 約713g |
CPU | Apple M1チップ 4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU 8コアGPU 16コアNeural Engine | 64ビットアーキテクチャ搭載A12Z Bionicチップ、 Neural Engine、 組み込み型M12コプロセッサ | 64ビットアーキテクチャ搭載A12X Bionicチップ、 Neural Engine、 組み込み型M12コプロセッサ | 64ビットアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、 組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ |
画面サイズ/解像度 | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6(802.11ax) | Wi-Fi 6(802.11ax) | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
バッテリ持続時間(公称値) | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 |
コネクタ | USB-C | USB-C | USB-C | Lightning | Lightning |
スピーカー | 4基 | 4基 | 4基 | 4基 | 4基 |
価格(発売時) ※いずれも現行の消費税額にあたる10%を加算済み | 12万9,800円(128GB) 14万1,800円(256GB) 16万5,800円(512GB) 21万3,800円(1TB) 26万1,800円(2TB) | 11万5,280円(128GB) 12万7,380円(256GB) 15万1,580円(512GB) 17万5,780円(1TB) | 12万2,980円(64GB) 14万1,680円(256GB) 16万5,880円(512GB) 21万4,280円(1TB) | 9万5,480円(64GB) 10万7,580円(256GB) 13万1,780円(512GB) | 10万4,280円(32GB) 12万4,080円(128GB) 14万3,880円(256GB) |
画面の解像度やサイズについては従来と変わっていない。またホームボタンのないスリムなベゼルや、Face IDの採用、Smart Connectorの搭載、11ax対応のWi-Fiなど、基本的なフォームファクタは従来モデルと変わっていない。背面カメラの形状についても同様だ。
しかしながら、新たにMacBookにも搭載されたM1チップを採用したほか、ディスプレイには新たにミニLEDを採用するなど、ハードウェア的には一新されている。ちなみにミニLEDについては、同時発売の11インチiPad Proは搭載されておらず、この12.9インチiPad Proのみ採用されている。
気になるのは、厚みがわずかに増していることだ。またこれに伴って重量も682gと、過去の12.9型モデルの中でもっとも重い仕様となっている。これはミニLEDを採用した影響によるもので、使い方によってはマイナスになるだろう。のちほど詳しく見ていく。
なお厚みの増加により、純正オプションであるMagic Keyboardは、本製品向けにモデルチェンジが行なわれている。ネットでの声を見ていると実際には使えてしまうようだが、側面まで保護するタイプの市販のケースなどは、第4世代モデル向けの製品が流用できない場合もあるだろう。
またストレージ2TBという大容量モデルが新たにラインナップに加わり、1TBと2TBモデルについては、メモリ容量は16GB(128~512GBモデルは8GB。従来は6GB)という、モンスター級のスペックだ。このほかUSB Type-Cは新たにThunderbolt 3/USB 4に対応するなど、進化の跡が見られる。5Gをサポートしたのもポイントだろう。
個人的に期待外れだったのは、iPad Airで採用された電源ボタン一体型のTouch IDが採用されなかったことだ。現状のコロナ禍ではマスクを外す必要のあるFace IDよりもTouch IDのほうが利便性が高いが、本製品は従来と同じFace IDのままだ。両方搭載すると優先順位などを考慮しなくてはいけなくなるとはいえ、少々もったいない印象だ。
ミニLEDは(見比べずに)単体で違いが分かるのか
外見に関しては、見た目は従来の第4世代モデルと変わらない。以下写真における第4世代モデルは、本レビューに合わせて再セットアップを行ったものだが(撮影時点のiOSのバージョンは14.5.1)、ホーム画面に並ぶアイコンの種類も含めて、見た目は完全にそっくりになる。
ただし前述のように厚みが違っており、また重量にも差があることから、手に持つとどちらのモデルかは判別がつく。この写真での第4世代モデルはWi-Fi + Cellularモデルを用いているため、アンテナ部のデザインが若干異なっているが、それをないものと仮定すれば、両者を見分ける手っ取り早い相違点は、厚みと重量ということになる。
ちなみに付属品の顔ぶれは従来と同じだが、USB充電器は最大18Wに対応した従来モデル(A1720)から、昨年発売のiPad Airと同じ、最大20Wのモデル(A2305)に変更されている。現行のiPhone 12シリーズに添付されているものとも同じで、USB充電器の型番が統一されたことになる。
さて本製品の最大の注目点は、ミニLEDを採用した「Liquid Retina XDRディスプレイ」だろう。筆者もまったくの初体験だったので、先入観なしの状態で本製品を試用し、画面を見比べることでXDRがつかない従来の「Liquid Retinaディスプレイ」の違いがわかるのかをチェックしてみた。基準は、両者をこっそり入れ替えても違いを判別できるかどうかだ。
使い始めてすぐ目についたのは、本製品の画面のギラツキのなさだ。反射防止シートを貼った状態に近く、従来に比べて反射が控えめだ。もっともこの差異は写真を撮っても判別できない微妙な違いで、ましてやE Inkのような「紙に近い質感」と表現するレベルでもない。そもそもミニLEDの特性とはあまり関係がないようだ。
その一方、露骨に異なるのが、斜め方向から見た時の色の変化だ。正面から見た時はほぼ同じ色調であっても、斜め方向からはかなり暗く見える従来モデルと異なり、本製品は正面とそれほど変わらない色を維持できる。ちなみに従来モデルは(あくまでも本製品と比べてだが)やや赤みが強く、斜め方向から見るとそれが強調されるのに対し、本製品はそうした傾向はない。
一方、さまざまな写真を表示していると、黒が引き締まって見えることに気付かされる。これこそがミニLEDの特徴である、コントラスト比の高さにほかならない。
ただしこれも、わかりやすい写真を用意した上で明るさを統一し、True Toneをオフにするなど両者の条件を揃えて初めてわかるレベルで、単体で見て「オッやっぱりぜんぜん違うね」と瞬時に言えるかというと、筆者はいまいち自信がない。
一般論になるが、新旧モデルを並べて「ほらここがこう違いますよ」と見せるのは、製品の進化を見せる手法としては正しいが、実際に手に取って見るのはあくまでも単体なので、その時点で気づかないようであれば「自分にはイマイチわからないがよいものを買った」という自己満足で終わってしまう。比較記事に納得して買ったはずが、実際に使ってみるとピンと来なかった経験は、多くの人にあるのではないだろうか。
そうした観点で行くと、本製品は「違いは確かにあるが、単体での進化はなかなか感じにくい」というのが、テクノロジーのバックグラウンドを抜きに、製品そのものから感じ取れる正確な印象だろう。そもそも従来モデルの時点でiPad Proのスクリーンの品質に不満を感じていたユーザーはそうはいないはずで、100点だったのが110点や120点になっても、これにピンと来るのは本当の意味でのプロユースのユーザーくらいだろう。
もっとも長期的には、このミニLEDを見慣れて目が肥えたあとで従来モデルの画面を見て「アレッこんなに色が違ったっけ」と感じることは、いずれ起こりうる可能性はある。またデバイスのロードマップ上、高コントラスト、かつ(その結果として)消費電力をセーブできるであろうミニLEDの採用に異を唱えるものでもない。ただし結果として厚みと重量が増加するのが頭が痛いところで、これについては次項で詳しく述べる。
重量増がネックになるかは電子書籍を読むスタイル次第
では本題、電子書籍ユースについて見ていこう。 電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
本製品の利点はやはり、12.9型という画面の大きさを活かした、雑誌などのコンテンツの原寸大表示だろう。解像度が高いため、本体を横向きにして画面を見開き表示にしても、細かい注釈が十分に読み取れる。本製品よりもひとまわり小さい、10~11型クラスのデバイスでは真似できない芸当だ。
もっとも前述のように、画面サイズや解像度は従来と同一なので、何らかの進化が見られるわけではない。耐指紋性撥油コーティングや反射防止コーティングなど、電子書籍ユースに影響してくる画面まわりの特徴も同様で、見え方の部分においても違いは感じられない。
そして前述のミニLEDについても、電子書籍ユースに与える影響は軽微だ。例えばコミックのフルカラーのページだったり、雑誌のカラーグラビアを見比べていけば、コントラストの違いを感じることも中にはあるだろうが、AV用途と異なり、それが読書体験を劇的に変えるとは考えにくい。
むしろ電子書籍ユースに関係してくるのは、斜め方向から見ても色の変化が少ないことだろう。電子書籍は、正面から相対して読むことがほとんどとはいえ、本製品のようなビッグサイズともなると、斜め方向から見る機会も多いと考えられる。正面と斜めとで、色の変化がほとんどない本製品は、そうした使い方をもカバーできる。
一方で評価が大きくわかれると考えられるのは、41gという重量差だ。なにせ41gと言えば、iPhone 12 ProとiPhone 12 Pro Maxの差(39g)と同等なので、全体の重量からすると6~7%程度の差ではあれ、かなり大きい印象だ。本製品を両手で持って使う場合、宙に浮かせた状態で保持できる時間に差が出るのは避けられないだろう。
一方、もし本製品を膝の上などで支えながら使うスタイルであれば、この重量差が問題になることは少ないと考えられる。また厚みも、従来の5.9mmが6.4mmになったとはいえ、かつてのホームボタン搭載モデルの厚み(6.9mm)に比べると、十分に許容範囲だろう。
ベンチマークについても触れておこう。M1プロセッサを採用した本製品は、従来モデルと比べてパ性能が約3割ほどアップしているが、もともとパワーを使わない電子書籍ユースでは、その恩恵を受ける心はほとんどない。あるとすればコンテンツのダウンロード速度くらいだろうが、比較した限りでは誤差レベルの違いしかなく、そうした意味でも体感できる機会は乏しいだろう。
Proでない12.9型も見てみたい
もともとこの12.9インチiPad Proは、電子書籍を読むための端末としては、オーバースペック、かつ高価すぎるデバイスだ。雑誌やムック本を原寸大で表示できるデバイスとして唯一無二の存在ではあるが、実際に購入したユーザーが電子書籍にしか使っていないケースはあまり多くはなく、たいていは別の用途の合間に電子書籍でも使うというスタイルだろう。
そんな本製品は、性能や機能面では文句のつけようがないが、重量の増加、さらに価格が上がっていることなど、電子書籍での利用を目的に購入するハードルは、従来よりもさらに上がったと言わざるを得ない。単純に画面サイズだけを求めるならば、型落ちになっている従来以前の12.9型モデルを調達するという手もあるだろう。
そうした観点では、同じ12.9型で、もう少しスペックを落とした、普及価格帯のモデルも見てみたいところではある。既存のProユーザーから一定数が流出するであろうことを考えると実現は容易ではないだろうが、「Pro化」がここまで突き詰められてくると、そうしたニーズがフォーカスされる可能性も、将来的にはあるのかもしれない。