山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
13.3型のE Ink電子ノート「QUADERNO A4 (Gen.2)」は読書端末として使えるか?
2021年8月17日 06:50
富士通クライアントコンピューティングの「QUADERNO」(クアデルノ)は、E Ink電子ペーパーを採用した電子ノートだ。付属のスタイラスペンを使って、手書きでノートを取り、PDFとして保存、活用することができる。
いわゆる電子ノートに分類されるこの製品、アプリのインストールには対応しておらず、一見すると電子書籍とは無縁に見えるが、注目すべきなのはPDFの表示に対応していることだ。
それも単に表示できるというだけでなく、画面を横向きにすることで見開きの表示にも対応、さらに右綴じ左綴じの切り替えも可能であるなど、PDFフォーマットの電子書籍や、スキャンして「自炊」した本を閲覧するのに適した仕様になっている。
今回は、この6月に発売された本製品の第2世代モデルのうち、13.3型という大画面を持つA4モデル(FMVDP41)について、電子書籍ユースでどの程度使えるかをチェックしていく。
13.3型ながらわずか約368gという異次元の軽さ
まずはざっと基本的な仕様を見ていこう。画面サイズは13.3型ということで、「12.9インチiPad Pro」よりも一回り大きいサイズ。前回紹介した楽天KoboのE Ink端末「Kobo Elipsa」を圧倒するサイズだ。アスペクト比は4:3で、電子書籍を余白なく表示するのに適している。
E Ink電子ペーパーは最新の「E Ink Carta 1250」ということで、前述の「Kobo Elipsa」が採用する「E Ink Carta 1200」とは異なり、ワコム製デジタイザとの連携を前提にした仕様になっている。解像度は1,650×2,200ドット(207ppi)で、電子書籍の表示にはギリギリセーフといったところ。
本体上部には電源ボタンとUSB Type-Cポートを備えるほか、画面上にはホームボタンを備えており、これを押し込んでホーム画面を表示しつつ、タッチで操作を行なう。その右側にはNFCアイコンがあり、スマホアプリと連携してデータの読み込みや書き出しが行なえる。
またワコム製のスタイラスペンが付属しており、手書きでノートを取ることができる。電子ノートとしての利用時には、このスタイラスでメモを取りつつ、必要に応じて指先で画面上のホームボタンからメニューを呼び出して使うことになる。ただし電子書籍ユースでは、ページにメモを書き込む用途を除いては、ほぼ出番はない。
サポートするフォーマットはPDFのみで、内蔵の32GBのストレージに保存する。現在、電子書籍向けのE Inkデバイスは、テキスト向けは8GB、画像コンテンツ向けは32GBというのが一般的なので、PDFを扱う本製品が32GBなのは理に適っている。ただしメモリカードには対応しないなど、拡張性に乏しいのはやや惜しい。
Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)に対応するほか、前述のようにNFCにも対応するが、これらは電子ノート機能で作成したデータのやり取りを想定したもので、ブラウザは搭載しておらず、クラウドからのダウンロードは不可能だ。このあたりは本製品の弱点でもあるのだが、このあと詳しく見ていく。
そんな本製品の最大の強みは軽さだ。画面サイズが13.3型ということで、タブレットで言うと12.9インチiPad Pro(682g)と同等なのだが、それでいて重量は公称約368gと、半分程度しかない。この軽さならば長時間持つのはもちろん、片手で保持するのも難しくない。これこそが本製品で電子書籍を読む、最大の利点と言ってよいだろう。
セットアップは完全な独自プロセスで、スタイラスペンのキャリブレーションだけ行なえば、ひとまず電子ノートとしては使えるようになる。そのあと必要に応じてWi-Fiの設定を行なうことで、スマホからデータを転送したり、本体のみでソフトウェアのアップデートが行なえるようになる。
PDFの見開き表示はもちろん左右綴じの入れ替えにも対応
では実際にPDFの電子書籍を本製品で表示してみよう。サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号および一部のバックナンバーを使用している。いずれも自炊版、もしくは出版社が用意するPDF版で、特定の電子書籍ストアに紐付かないデータだ。
本製品にPDFを取り込むには、PCから有線で転送するか、スマホアプリを経由してワイヤレスで取り込むかの実質二択となる。電子書籍デバイスとしては不便な仕様だが、これはもともと本製品が電子ノートであり、本体側で作成したノートを外部に書き出すという、「内部→外部」という向きが基本になっているためだ。
もっとも、どうにかしてPDFを取り込んでしまえば、あとは快適な読書が可能だ。なにせA4サイズということで、単ページで雑誌並みの判型を原寸大で表示できるほか、本体を横向きにして見開き表示に切り替えれば、コミックや単行本も原寸とほぼ等しい大きさで表示が行なえる。それでいて片手持ちが十分に可能な軽さなのも驚異的だ。
中でも便利なのは、左右綴じの切り替えに対応することだ。PDFを表示できるという触れ込みのビューアでも、右綴じに対応するものは(特に海外製品は)数少ない。そのため日本語の縦書き書籍や、コミックを読もうとすると、ページをめくる方向が左右逆になるほか、見開きで左右の並びが入れ替わってしまう。
しかし本製品はそうした場合でも、綴じ方向を切り替えるだけで済む。これならば、PDF作成時にうっかり綴じ方向を逆にした自炊データも、本製品側でリカバリできる。さらに表紙の設定も可能なので、見開きが1ページずれる場合でも容易に対応が行なえる。
もっとも本製品は画面がモノクロなので、カラー主体の雑誌コンテンツの表示には向かない。グレースケールでの表示は十分に滑らかで、解像度も十分なのだが、記事中のテキストを問題なく読めるというだけで、カラーを色鮮やかに表示できるカラータブレットのリッチさには敵わない。これはデバイスの性質上、致し方ない。
技術書を閲覧するためのビューアとして最適
本製品はもともと電子ノートであり、電子書籍ビューアとしての利用は想定されていないだけに、しばらく使っていると、ほかのE Ink読書端末と比べた場合の、足りないところも見えてくる。電子書籍ユースで本製品の購入を考えるならば、こうした点は事前に押さえておきたい。順に見ていこう。
1つは、リフレッシュにまつわる挙動を設定できないことだ。本製品は、ページを1ページめくるたびに、画面全体がリフレッシュする。本製品は画面サイズが大きいだけに、この動作がかなり目障りだ。特にコミックのように、短時間でペラペラとめくるタイプのコンテンツでは、繰り返しこの挙動を目にすることになる。
また前述のようにデータの転送方法に乏しいのもネックだ。PCを経由して有線でまとめて放り込んでしまえば、あとはそう不自由は感じないのだが、多くの電子書籍端末のように、ワイヤレスでクラウドからこまめにダウンロードしたり削除したりといった、ライブラリの頻繁な入れ替えには向かない。
こうした特性を考慮すると、本製品に向くのは、ページめくりの頻度が高く、また読み進めるたびにライブラリを入れ替えることになるコミックよりも、1ページあたりの滞留時間が比較的長く、また同じ箇所を繰り返し読むことの多い、技術書などの方がより相性がよいと考えられる。
幸いにして本製品は、同じPDFの中で、任意のページに移動する機能は豊富に用意されているので、前から順番に読むのではなく、トピック単位で読んでいく技術書とは相性がよい。またこれに加えて、技術書はもともとほかのジャンルに比べて、出版社が自ら単体のPDFとして販売しているケースが多い。
そうした意味からも、PDFで購入した技術書を本製品にまとめてストックしておき、繰り返し参照するというのは、製品の特性に合った好ましい使い方だろう。必要に応じてスタイラスペンを使ってメモを書き込めるのもプラスだ。
以上のように、向き不向きで言うと、技術書が◎、テキスト本やコミックは○、雑誌は△という評価になる。13.3型では大きすぎると感じるならば、兄弟機にあたる10.3型モデルという選択肢も検討したいところだ。
ちなみに本製品の面白い使い方として、紙の本を直接読み込める機能が挙げられる。本製品はPFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap」との連携が可能で、PCを経由せずにScanSnapのスキャンデータをダイレクトに受信し、PDFとして保存できる。
そのため、裁断した手持ちの書籍をScanSnapから本製品にダイレクトに送るという、実にダイナミックな使い方ができる。積ん読状態になっている紙の本はもちろん、繰り返し読んでボロボロになった技術書を本製品に送って物理的な置き場所をなくすとともに、どこにでも持ち歩けるようにするというのは、面白い使い方と言えるだろう。
大画面×軽さ×実用レベルのPDFビューアが秀逸
以上のように、デバイス側の制約上やや向き不向きはあるものの、13.3型という大画面、そして300g台という軽さで実用的なPDFビューアが使えるのは、そうしたハンデを吹き飛ばすだけの魅力がある。電子ノートとしての機能がフィーチャーされているが、このPDFビューア機能は、もっと注目されてよいはずだ。
また12.9インチiPad Proなど、本製品と同等の画面サイズを持つデバイスは、10万円の大台を超えている場合がほとんどなので、実売6万9,800円という価格は、予算面でも魅力だ。もちろんタブレットとは機能が異なるので同列に比較できるものではないが、電子ノート機能にも魅力を感じるならば、値頃感は高い。
次世代のモデルに望みたいのは、リフレッシュ間隔の調整などのオプションの実装と、あとは取り込み方法の充実だろう。連携するスマホアプリは動作が安定しておらず、NFC経由の取り込みも同じ操作を何度か繰り返すうちにようやく成功するレベルだけに、クラウドストレージ経由での入出力ができるようになるだけで、使い方は劇的に広がるはずだ。
元が電子ノートだけに、メーカーとしては進化の方向を見定める必要はあるだろうが、10型オーバーでPDFが表示可能なE Ink端末は、海外でちらほらと見かける一方、日本にはほとんど入ってきていないこともあり、そうした方向性での進化は見てみたいところだ。