山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple「12.9インチiPad Pro(第4世代)」で電子書籍を試す

~価格引き下げで買い求めやすくなった従来モデルの正常進化形

12.9インチiPad Pro(第4世代)

 「12.9インチiPad Pro(第4世代)」は、12.9型の大型画面を備えたApple製のタブレットだ。ホームボタンがなくUSB Type-Cを採用したiPad Proとしては、2018年秋に発売されたモデルに次ぐ2代目、通算で言うと第4世代モデルということになる。

 劇的な進化を遂げた従来モデルと違って、今回のモデルは外見からしてもほとんど違いがない。せいぜい背面のカメラくらいで、それだけに内部的にはどのような変化を遂げているのか気になるところだ。

 今回は筆者が購入したWi-Fi+Cellularモデルを用い、従来の第3世代モデル(Wi-Fiモデル)との違いを中心に、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を紹介する。

外見上の違いは背面のカメラ部のみ。価格は引き下げ

 まずは過去の12.9インチiPad Proとの比較から。

12.9インチiPad Pro(第4世代)12.9インチiPad Pro(第3世代)12.9インチiPad Pro(第2世代)12.9インチiPad Pro
発売2020年3月2018年11月2017年6月2015年11月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)280.6×214.9×5.9mm280.6×214.9×5.9mm305.7×220.6×6.9mm305.7×220.6×6.9mm
重量約641g約631g約677g約713g
CPUA12Z Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサA12X Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサA10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサA9Xチップ、M9コプロセッサ
画面サイズ/解像度12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)
通信方式Wi-Fi 6(802.11ax)IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリ持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間最大10時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-CLightningLightning
スピーカー4基4基4基4基
価格(発売時)104,800円(128GB)
115,800円(256GB)
137,800円(512GB)
159,800円(1TB)
111,800円(64GB)
128,800円(256GB)
150,800円(512GB)
194,800円(1TB)
86,800円(64GB)
97,800円(256GB)
119,800円(512GB)
94,800円(32GB)
112,800円(128GB)
130,800円(256GB)
※いずれもWi-Fiモデル

 この比較表は、電子書籍ユースに関連する主要スペックのみをピックアップしているが、劇的な進化を遂げた従来の第3世代モデルとの違いはごくわずかだ。筐体サイズはまったく同一で、重量の違いも10gと誤差レベル。画面サイズや解像度も同じだ。

 プロセッサは、従来の「A12X Bionic」から「A12Z Bionic」へと向上しているが、ベンチマークではほとんど差がなく、急いで買い替えるほどの劇的な変化があるようには感じられない。これらベンチマークについては、既出の鈴木氏のレビュー(超広角カメラに加えて深度スキャナまで搭載したタブレットの最高峰「iPad Pro」の実力に迫る)に詳しいので本校では割愛する。

 メモリ容量は、従来は1TBモデルのみ6GB、その他のモデルでは4GBだったのが、全モデル6GBへと統一されている。またWi-FiはWi-Fi 5(11ac)からWi-Fi 6(11ax)へと進化しており、電子書籍のダウンロード速度や、一覧ページでのサムネイルの読み込み速度に影響してくると考えられる。詳しくは後述する。

 従来モデルとの大きな違いであるカメラは、「iPhone 11」シリーズに搭載されているのと同じ、超広角のレンズが追加された(ただし画角などは微妙に異なるほか、ナイトモードには非対応)。背面から飛び出たカメラユニット部の面積が広がったため、背面を覆う保護ケース類は従来モデルを流用できず、買い替えが必要になる。

 注目すべきなのは価格で、同一容量の従来モデルに比べると1万3千円、1TBモデルに至っては3万5千円も引き下げられている。また最小容量だった64GBモデルは128GBへと増量され、かつ7千円引きとなっている。新筐体の従来モデルが高すぎたという事情もあるが、性能向上で価格も下がるというのは歓迎したい。

縦向きに表示した状態。ホームボタンがなく、ベゼルの細さもあって全面スクリーンと言っていいデザイン
横向きに表示した状態。上下左右のベゼル幅が均等なため横向きでも違和感がない
超広角レンズの搭載によってiPhone 11ライクになったカメラ部。上面に電源ボタン、側面に音量ボタンという配置は変わらない
端子はUSB Type-C、Appleの表記で言うところの「USB-C」を搭載。その上にはSmart Connectorがある
上面および底面。スピーカーを計4基搭載する。これらも従来モデルと同様だ
上面にはApple Pencilを吸着させ、充電を行なうことが可能だ

表示性能は十分。パワーユーザーは高出力のUSB PD充電器を追加したい

 パッケージの仕様や同梱物は、従来と大きく変わらない。本製品は出荷時から、マウスおよびトラックパッドに対応したiOS 13.4を搭載するが、セットアップの方法も大きな違いはない。

 従来モデルと並べて比較しても、外見がそっくりなのはもちろんのこと、耐指紋性撥油コーティングやフルラミネーション、反射防止コーティングを施したディスプレイについても、差があるようには感じられない。表示性能については違いがないと見てよいだろう。

従来の第3世代モデル(右)との比較。正面からの見た目はまったく同一だ
背面の比較。カメラ部の形状は外見上の唯一ともいえる相違点だ
カメラ部のアップ。トリプルカメラに見えるが望遠レンズは搭載せず、代わりに距離計測に使うLiDARスキャナが搭載されている
今回購入したWi-Fi + Cellularモデルは実測で644g(SIMカード未挿入での計測値)

 付属品も従来モデルと違いはなく、USB充電器が最大出力18Wに対応したモデルであることも同一だ。本製品は最大45WでのUSB PDに対応しているので、45W以上の出力に対応したUSB PD対応充電器に買い替えれば、充電速度をさらに高速化できる。

 実際にテスターを接続して測ったかぎりでは、15V/3AのPDOが選択され、実効速度ベースでは35W程度は余裕で出る。標準の充電器は18Wフルに出るわけではないので、充電器を適切なものに買い替えれば、充電速度が2倍近くスピードアップできることになる。ヘビーユーザーは検討する価値はありそうだ。

付属のUSB Type-C充電器。最大18WのUSB PDに対応する。モデルは従来と同じ「A1720」
本製品自体は45W(15V/3A)のUSB PDに対応するので、充電器を交換すればさらに高速に充電が行えるようになる

 電子書籍ユースからは外れるが、個人的におもしろいと思ったのは日本語入力だ。すでにmacOSには導入済みの、スペースキーを押さずに自動的に漢字変換を行なう「ライブ変換」に対応している(iOS 13.4の機能で、本製品だけでなく従来モデルでも利用可能)。

 漢字の自動変換はクセもあり、最初はなかなか慣れないが、変換精度は思いのほか高く、あとから一括修正する手間を考慮しても十分に実用的だ。「誤変換の修正は文字単位でなく単語単位で行なう」などコツを飲み込めば便利に使える。このぶんだと、遅れて5月に発売される純正のトラックパッド付きキーボード「Magic Keyboard」にも期待できそうだ。

ライブ変換オンの状態でのテキスト入力画面。入力中に漢字に自動変換される。また従来は横向きに出ていた変換候補が縦向きに表示される
ライブ変換はハードウェアキーボード接続時のみ利用できる。この場合、サードパーティ製のBluetoothキーボードでも構わない

Apple Booksでの支払い承認時にエラーが出やすいカメラ配置がネック

 さて、電子書籍ユースについて見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 本製品と同時発売の11インチモデルは、iPadファミリーの中でも競合となる製品が複数あるのに対して、12.9インチという画面サイズをもつ本製品は、ライバルメーカーを見渡しても競合と呼べる製品はほとんどない。

 それゆえ、雑誌をなるべく原寸に近いサイズで表示したり、コミックの原寸大見開きにこだわるのならば、選択肢は事実上、本製品のみということになる。解像度も264ppiと十分で、雑誌の細かい注釈まで問題なく読み取れる。全体的に細かい文字が多い技術書の表示にも向くだろう。

 ただし一般的な固定レイアウトの電子書籍は、本製品(2,732×2,048ドット)よりも小さいピクセル数で作られている場合もあるため、引き伸ばされて画質が粗く見えることもしばしばだ。コミックは単ページ表示ではなく、なるべく見開きで読んだほうがよい。11インチ以下のiPadではあまりお目にかからない症状だ。

表示面積は262×196mm。A4には届かないがB5よりも大きく、雑誌コンテンツも快適に読める
解像度が高いため、雑誌コンテンツを見開きにしても十分に読める
細かい注釈も問題なく読み取れる
コミックは、単ページだと引き伸ばされたような状態になることもあるため、見開き表示が妥当だ

 さて、従来モデルとの明らかな違いとして、コンテンツのダウンロード速度が挙げられる。Apple Booksからコミック1冊をダウンロードするのに要した時間を従来モデル(11ac)と本製品(11ax)とで測り比べたところ、従来モデルが21.6秒かかるところ本製品は9.3秒と、圧倒的な差がついた。

 今回テストに使った従来モデルは発売直後から約1年4カ月使い込んだもので、速度がやや低めに出ている可能性はあるが、新しく購入した11ax対応ルーターをブリッジモードで既存のルーターにつなぐだけで、ここまでスピードアップするのはなかなか衝撃的だ。読書の操作そのものには関わってこないが、こうした待ち時間は軽減できるに越したことはない。

 一方、マイナス要素もある。本製品で電子書籍、とくに純正ストアである「Apple Books」を使う場合、従来モデルからいまだ改善されていない問題点が1つある。それは、電源ボタンのダブルクリックで支払いの承認を行なうさい、左手の親指がかなり高い確率で全面カメラを覆ってしまい、Face IDでエラーが発生することだ。

 とくに電子書籍ユースでは、純正ストアであるApple Booksの「ストア」は、そのデザイン上、画面が横向きの状態で利用しがちなだけに、この症状が起こりやすい。むしろ無意識だとほぼ確実に起こると言っていいだろう。

 これらはストアと一体化したApple Booksならではの問題であり、ほかの多くのストアでは発生しないのだが、電子書籍ユースにあたってハードウェアのどこを優先的に改修すべきかと問われると、筆者は真っ先にこれを挙げる。発生頻度が高く、かつホームボタンありのiPadでは起こり得ない問題だからだ。

本体を横向きに持つと、左手親指が全面カメラ部を覆ってしまいがちだ
Apple Booksで電子書籍を購入すると電源ボタン2度押しで支払いの承認を行なう必要があるが、そのさいにうっかり親指でカメラを覆ってしまい、Face IDでエラーが発生する

 ではどうすればいいのか、というのを部外者なりに考えてみたが、電源ボタンとカメラが近接している以上は、この問題は回避しにくい。となると、支払いの承認を電源ボタン以外に割り当てるか、あるいはカメラを別の場所に持っていくしかないだろう。

 今回のiPad Proは、追って発売されるMagic Keyboardにも見られるように、本体を横向きで使うことを前提とした意匠が多く見られる。本製品の発売に合わせてリニューアルされたSmart Keyboard Folioの背面には、iPad本体とは向きが90度異なる、横向きを前提とした林檎マークが刻印されているほどだ。

 それらを考えると、将来のモデルで、iPadが横向きを前提としたデザインになるという、抜本的な変化が起こる可能性もある。それに合わせてカメラを長辺側に移動させれば、決済時に指でカメラを塞いでしまう問題は解決できる。

 もともと本製品は上下左右のベゼルの幅が同じであり、デザイン上は何ら違いがないだけに、そう難しいことではないように思える。あくまでも予想の粋を出ないが、次回以降のモデルチェンジでは、そのあたりの改善も見たいところだ。

新規購入のほか、第2世代モデル以前からの買い替えにおすすめ

 ざっと使ったかぎりでは、価格が従来モデルから下がっていることもあり、新規に購入する場合は文句なくオススメだが、従来モデルからの積極的な買い替えは必要ないというのが筆者の結論だ。個人的には、2つ前の世代、まだホームボタンが存在していた第2世代モデル以前からの買い替えには最適だと思う。

 もっとも価格は、従来よりも引き下げられたとはいえ、最低価格で10万円を超えているので、電子書籍のためだけに購入するというのはなかなか勇気がいる。実際には、電子書籍以外の目的で本製品を購入し、その上で電子書籍も併せて楽しむ、というパターンが多いだろう。

 もともとこのサイズのタブレットの購入を考えている人の中には、すでに10型クラスのiPadを所有している人も一定数いるはずで、電子書籍以外にどれだけの用途を見つけられるかがポイントになる。5月発売の「Magic Keyboard」は、この12.9インチとの組み合わせでこそ真価を発揮する可能性が高く、それが決め手になりそうな予感はある。

同時発売の11インチモデル(右)との比較。サイズ以外はほぼ同じスペックだ。次回は本製品を詳しく紹介する
iPad mini 5を上に乗せたところ。筐体サイズはちょうど半分程度だ

 なお筆者が今回購入したのはWi-Fi+Cellularモデルだが、現時点では5Gには対応せず、従来の4Gのままだ。もし今回のモデルをスキップして次のモデルチェンジを待つ要因があるとすれば、このあたりかもしれない。