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ワイヤレス充電対応&軽量化の10.1型タブレットAmazon「Fire HD 10 Plus(第11世代)」

Fire HD 10 Plus。今回購入したのは32GBモデルで、実売価格は1万8,980円

 「Fire HD 10 Plus(第11世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonのデジタルコンテンツ向けの10.1型タブレットだ。同社のFireシリーズの中では、最も画面サイズの大きい製品で、実売2万円を切るリーズナブルさが特徴だ。

 2年ぶりのモデルチェンジとなったFire HD 10だが、2020年にリニューアルされた8型の「Fire HD 8」と同様、メモリ容量を増やしワイヤレス充電にも対応した上位モデル「Fire HD 10 Plus」と、標準モデルにあたる「Fire HD 10」の2モデル構成に改められた。

 本製品は単品販売のほか、ワイヤレス充電スタンドとのセットや、キーボード一体型カバーとのセットなど、製品のコンセプト自体も、従来から大きな変化が見られる。また単品としても、横向き利用を前提としたインカメラ位置の変更、軽量化など、フルモデルチェンジとも言えるリニューアルが行なわれている。

 今回は、筆者が購入したFire HD 10 Plus(32GBモデル)について、従来モデルとの比較を中心にレビューする。

文字通りのフルモデルチェンジ。本体は横向きが基本に

 まずは過去モデルとスペックの違いをチェックする。

【表】Fire HD 10シリーズの仕様
Fire HD 10 Plus(第11世代)Fire HD 10(第11世代)Fire HD 10(第9世代)
発売2021年5月2021年5月2019年10月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)247×166×9.2mm247×166×9.2mm262×159×9.8mm
重量468g465g504g
SoCMediaTek MT8183(オクタコア)MediaTek MT8183(オクタコア)MediaTek MT8183(オクタコア)
メモリ4GB3GB2GB
画面サイズ/解像度10.1型/1,920×1,200ドット(224ppi)10.1型/1,920×1,200ドット(224ppi)10.1型/1,920×1,200ドット(224ppi)
通信方式Wi-Fi 5(IEEE 802.11a/b/g/n/ac)Wi-Fi 5Wi-Fi 5
バッテリ持続時間(メーカー公称値)12時間12時間12時間
端子USB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
microSDカードスロット○(最大1TB)○(最大1TB)○(最大512GB)
ワイヤレス充電--
価格(発売時)1万8,980円(32GB)
2万2,980円(64GB)
1万5,980円(32GB)
1万9,980円(64GB)
1万5,980円(32GB)
1万9,980円(64GB)

 AmazonのFireタブレットは、ハードウェアを部分的に変更したマイナーチェンジにとどまることも少なくないが、この表を見ても分かるように、今回の製品は文字通りのフルモデルチェンジにあたる進化を遂げている。

 まず外観については、これまで縦向き時に上にあったインカメラが、横向き時に上に来るようレイアウトが改められ、それにともなってFire HD 10の特徴だった横長の筐体が短くなっている。オプションでカバー一体型キーボードが用意され、横向きでの利用機会が多くなることとリンクしていると見てよいだろう。

 これにともなって、厚みは従来の9.8mmから9.2mmへと薄くなり、またFire HD 10の最大の欠点だった重量も468gと、500gオーバーだった従来モデルに比べて大幅に軽量化された。数年前の第5世代モデル(432g)にはおよばないものの、従来モデルとの違いは、持つとすぐ分かるレベルだ。

製品外観。従来はこの向きだと左横にあったカメラが上に来るよう配置が変更された
縦向きにした状態。従来に比べるとこの向きでの利用はあまり想定されていないようだ
背面カメラの配置も、本体を横向きにした時に右背後に来る配置に変更されている
ボタンやポート類はすべて右側面に集中している
本体を横向きにしたとき、上面の左右にスピーカーが来る配置になっている
底面の右端にはmicroSDカードスロットを搭載。最大1TBまで容量を追加できる

 CPUやGPU周りは従来と同一だが、2GBだったメモリ容量が4GBへと倍増しているのが目立つ(標準モデルは3GB)。Androidタブレットに比べるとまだまだエントリーレベルの容量とはいえ、用途が限定されるFireタブレットであれば、性能はかなり向上することが見込まれる。のちほど詳しく見ていく。

 またワイヤレス充電に対応し、オプションで専用充電スタンドが用意されるのも特徴だ。10.1型のサイズともなると、スマホ向けのQi充電器の利用は難しいため、ワイヤレス充電を使うにはこの充電スタンドが事実上必須だ。Fireタブレットをスマートスピーカー「Echo Show」シリーズのように使う「Showモード」も、充電スタンドがあればスムーズに利用できる。

 一方で、無線機能がWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)止まりでWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)には非対応だったり、USB Type-Cは急速充電をサポートしないなど、削れるところは削る方針が見てとれる。このあたりは従来のFireと方向性は変わっていない。

 ストレージは従来と同じく32GBと64GBの2モデル構成で、新旧Fire HD 10同士で比較すると価格は同一、今回紹介するFire HD 10 Plusとの比較だと、3千円アップとなる。もっとも、かつての第7世代モデルは今回と同じ価格なので、4年かけて進化しつつ元の価格に落ち着いたと見ることもできる。

従来モデル(右)との比較。インカメラ位置の変更に伴い、天地が狭く、幅が広くなっている
背面。ロゴの向きから、本製品(左)は横向きでの利用を基本としていることが分かる
ポートやボタン類が同じ面にまとめられているのは従来と同じだが、配置は従来モデル(上)からは大きく改められている
2020年発売のFire HD 8 Plus(右)との比較。同じ意匠であることが分かる
背面も同じ意匠だ。ちなみにどちらもワイヤレス充電に対応する
ポートやボタン類の配置も同一で、文字通りの兄弟機であることが分かる

筐体の質感も向上。ボタン類の配置もがらりと変更に

 同梱品の顔ぶれは、USB充電器とケーブルということで、従来と同一。本製品はUSB Type-Cポートを搭載しているものの、急速充電規格であるUSB PDには対応しておらず、付属のケーブルもUSB Type-A to Type-Cとなっている。

パッケージ。従来と同じく、オレンジを基調としたボックスタイプ
同梱品は従来と同じく、各国語版の保証書とスタートガイド、USBケーブル、USB充電器という顔ぶれ
充電器は従来と同じモデル(PS57CP)。コネクタはUSB Type-Aだ

 セットアップ手順で1つ大きく変わったのは、ロック画面の設定が必須になり、PINもしくはパスワードの入力が求められるようになったことだ。本製品はオプションのカバー一体型キーボードと組み合わせて利用できるため、外出先で使う機会も増えると考えられることから、これらの入力を必須にしたと思われる。

 もっともそのことが、本製品が指紋認証や顔認証など、生体認証に対応していないことを強調する結果になっているのはやや皮肉だ。ちなみに、このPINもしくはパスワードは、この画面では設定が必須ではあるものの、セットアップ完了後に無効化することも可能だ。

 ホーム画面は、かつて存在した「本」、「ビデオ」、「ストア」など個別のタブが姿を消し、「おすすめ」、「ホーム」、「ライブラリ」のみに集約されている。これは2020年のアップデートで適用されたもので、出荷時点でこの仕様を採用するのは、10.1型モデルとしては本製品が初めてだ。

 そのため、例えばKindleストアを利用する場合は、ホーム画面に並ぶ「Kindle」アイコンをタップして起動するという、一般的なAndroidタブレットに近い仕様になっている。

まずは日本語を選択したのち(左)、続いてWi-Fiの設定(中)と、Amazonアカウントの設定(右)を続けて行なう
バックアップから復元するか否か(左)、また位置情報サービスの利用の可否(中)などを設定する。ビデオによるチュートリアルをはさみ、プロフィールを選択する(右)
従来なかったロック画面の設定がここに追加されている(左)。そのあとKindle Unlimited(中)や、おすすめ本・ビデオ・アプリの要否を選択する(右)
ここでAlexaまわりの設定を行なう。従来はもっと早い段階で表示されていたが、後回しになった格好だ
ホーム画面。Kindleやプライムビデオ、Amazon Musicなどはここから起動する
「おすすめ」はその名の通り、おすすめのコンテンツが(種類を問わず)表示される
「ライブラリ」。こちらは購入済みのコンテンツが表示されるが、購入実績のないアカウントではこのように「おすすめ」とほぼ変わらない顔ぶれになる
画面を上から下へとスワイプすると通知センターが表示される。ここからはShowモードへの切り替えも行なえる

 ざっと手に持った時の印象としては、やはり軽さが際立つ。また従来モデルは、筐体がプラスチックで、摩擦によってすぐに跡が付いてしまうなど安っぽさが目立っていたが、本製品は滑り止めのコーティングがなされており、質感が向上している。標準モデルであるFire HD 10は従来に近いプラスチック質感のままで、上位モデルである本製品だけの利点ということになる。

 一方でボタン類の配置ががらりと変わっているため、これまでFire HD 10を長らく使ってきたユーザーほど、慣れるまで時間がかかりそうだ。個人的には、電源ボタンが側面の端寄りから中央寄りに移動したせいで、目視なしで操作できなくなったのがマイナスだ。

 ベンチマークは、Google Octane 2.0による比較では、本製品が「9303」、標準モデルが「9267」、従来モデルが「8931」と、メモリ容量の違いがそのまま反映されたスコアになっている。実際に使い比べて感じるレスポンスの差はもっとあるのだが、思ったよりスコアに反映されていない印象だ。

筐体の軽量化およびライブラリ読み込みの高速化で快適さアップ

 さて、電子書籍用途について見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 本製品は、画面サイズが10.1型、解像度が1,920×1,200ドットということで、従来モデルからは変化がなく、よって表示性能はまったく同等だ。解像度は224ppiとことさら高いわけではないが、10.1型というサイズゆえ、コミックの見開き表示にも支障はなく、また雑誌コンテンツを見開き表示にした場合も、注釈の文字がきちんと読み取れる。

 従来モデルに比べてプラスなのは、やはり軽量化による取り回しの改善だ。手に持ったときに感じていたずしりとした感触が緩和されたせいか、筐体の厚みも実際の数値以上に薄くなったように感じる。重さや厚みをストレスに感じて従来モデルを使わなくなった人も、本製品であれば支障なく使い続けられるのではないかと思う。

10.1型ゆえコミックの見開き表示に適する
従来モデル(上)とは画面サイズは同じで、コマのサイズも同一。にもかかわらず筐体サイズが横長な従来モデルが冗長に見えてしまうのがおもしろい
Fire HD 8 Plus(上)は、見開き表示はギリギリといったところだったが、本製品であれば余裕だ
雑誌の表示。インカメラの位置は変更になったが、縦向きで使っても特に違和感があるわけではない
雑誌は紙版(右)の原寸大とはいかないが、10.1型クラスゆえ実用的なレベルで表示できる
従来モデル(右)との比較。アスペクト比16:10ゆえ上下に余白ができるのは相変わらずだが、ベゼル幅の関係上、本製品のほうが見栄えはよい
注釈相当の小さい文字も問題なく読める
強引に見開き表示にしても、可読性はかなり高い
見開きともなると注釈はさすがに厳しくなってくるが、それでもつぶれて読めないレベルではない

 さらにメモリ容量が増えたせいか、性能も大幅に改善されている。一般的に電子書籍ユースではそれほどパワーは必要ないとされるが、それはページをめくるなどの基本操作に限った話で、ライブラリ表示で大量のサムネイルを読み込んだり、それらをスクロールする場合は、パワーがあるに越したことはない。

 従来モデルではそうした操作で読み込みが追いつかないことがあったが、本製品では大幅に改善されており、読みたい本をライブラリの中から探す場合のストレスも激減している。ちなみにFire HD 8 Plusと比較しても、ライブラリの読み込み速度は、本製品のほうが明らかに高速だ。事実上、現行のFireの中で最速ということになる。

 またコンテンツのダウンロード速度も、繰り返し試した限りでは、従来モデル比で25~30%ほど高速化しているようだ。Kindleストアの場合、ダウンロードしながら読み始められるので、その都度読み込む場合は特に影響はないが、オフラインで閲覧する下準備としてまとめてダウンロードするようなケースでは恩恵がありそうだ。

 一方で、相変わらずの点がないわけではない。1つは横向きにした時の天地サイズの狭さだ。本製品も含め、Fireシリーズは横向きに表示した時、画面下部にあるツールバーやメニューバーが常時表示されたままで、スクロール中も非表示にならないため、天地の圧迫感が強い。この点は、本製品でもなんら改善されていない。

 さらにKindleアプリのサムネイルが巨大すぎることによる合わせ技で、ライブラリの一覧性が極端に低い問題も従来のままだ。例えば、iPad AirのKindleアプリでライブラリを開くと、横6つ、縦に2つサムネイルが並ぶのに対し、本製品は横に4つしか表示できない。現状ではiPadのほうが(アスペクト比が違うのも一因だが)ライブラリは明らかに見やすい。こうしたソフト側は長らく手付くかずで、ハードの進化に追いついていない印象だ。

Kindleライブラリのサムネイル表示を、iPad Air(右)と比較したところ。画面の天地サイズ自体に差があることを差し引いても、サムネイルサイズが適切かつ画面の高さが有効に使えているのは、どう見てもiPad Airのほうだ
本製品は右手で持った時にちょうど音量ボタンが押しやすい位置にあるのだが、残念ながらページめくりには利用できない

 また、Androidタブレットでお馴染みの音量ボタンでページをめくるギミックも、相変わらず非搭載だ。読み上げコンテンツなどで音量ボタンを本来の用途で使う可能性はあるとはいえ、それはAndroidタブレットでも同じことだ。本製品の場合、ちょうど右手で保持した時に操作しやすい位置に音量ボタンがあるだけに、もったいない印象だ。

 もう1つ、使っていて稀に気になるのが、明るさの自動調節の過敏さだ。明るさの自動調節機能はスマホやタブレットではおなじみの機能だが、本製品はセンサーを塞いでいないのに突然画面が暗くなることがある。読書においてはかなりのストレスだ。

 もちろんディスプレイの設定で、「明るさの自動調節」をオフにしてもよいのだが、そうなるとワイヤレス充電スタンドに立ててShowモードで使っているときも含め、あらゆるシーンに影響がおよぶので悩ましい。これについては筆者もまだ解決策が見出せておらず、これから試行錯誤していくことになりそうだ。

便利なワイヤレス充電スタンドだが設置スペースには注意

ワイヤレス充電スタンドはAnker製。本体とACアダプタのみというシンプルな構成

 最後に、本製品のオプションとして用意されているワイヤレス充電スタンドについても軽く触れておこう。

 機能自体は「Fire HD 8 Plus」向けのワイヤレス充電スタンドと同様で、傾斜がついたパネル上にFireをセットすることで、充電が行なわれることに加えて、Fireをスマートディスプレイとして使う「Showモード」へと自動的に切り替わる。

 通常はこのまま使い続けることになるが、これらのモードを解除し、読書スタンドとして活用することも可能だ。縦向きでの設置にも対応するので、技術書を縦に表示して、PCで作業しながら参照する用途にも使える。

 ただし実測約25cmもの幅があることに加えて、奥行きも約16cm程度は必要であるなどかなり大柄で、デスク上や枕元では、置き場所が確保しづらいことも考えられる。購入にあたっては、あらかじめ設置場所は考慮しておいたほうがよいだろう。

 これはスマートスピーカー「Echo」の現行モデルにも言えることだが、Amazonはデバイスの設置スペースや奥行きにはかなり無頓着で、デバイス本体がコンパクトなのにケーブルが背面に突き出るせいで、余計に奥行きを取るといったことがよくある。こうした点はぜひ改善してほしいところだ。

電源ジャックは本体の裏、ちょうど天井部にある。角度は変更できない
本製品を立てての読書も可能。ちなみに縦置きにも対応する

従来モデルのユーザーにもおすすめできる一品。「Plus」がベター

 以上のように、長年の課題だった筐体の重さ、そしてメモリ容量の少なさという2つの欠点が克服されたことで、従来モデルに比べて、圧倒的に快適に使えるようになっている。

 近年のFireは、モデルチェンジといっても、読書体験に影響する部分はそう多くなかっただけに、ここまで一度に欠点が解消されるのはかなりのインパクトがある。従来までのモデルを使っているユーザーも、即買い替える価値はある。

 ちなみに上位モデルであるこの「Plus」と標準モデルの価格差は3千円だが、本製品の快適さを支えているのはメモリ容量の多さだけに、この価格差ならば迷わず本製品を選ぶべきというのが筆者の意見だ。仮にワイヤレス充電を使わなかったとしても、メモリ以外に背面の滑り止めのコーティングなど、仕様に現れない違いもあるのでなおさらだ。

 次期モデルに期待するのは、前述の天地サイズを広く見せるソフト面での改善のほか、生体認証への対応だろう。面倒なPIN/パスワードの手入力か、もしくは画面ロック自体を無効化するかの2択しかないのは、さすがに時代遅れだ。オプションでキーボードが追加されてより多彩な使い方が可能になっただけに、次に見直されるのはおそらくそこになるはずだ。

現状ではロックを解除するにはPIN/パスワードしか選択肢がなく、これが嫌ならばロックそのものをオフにするしかない