山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Apple Pencil対応で3万円台の第6世代iPadを電子書籍で試す
2018年4月4日 11:00
Appleの「iPad(第6世代)」は、iPadシリーズのエントリーモデルでありながら、Apple Pencilによるペン入力に対応したモデルだ。サイズや機能は2年前に発売された9.7インチiPad Proによく似ているが、価格はApple Pencil非対応のiPad(第5世代)と同じ37,800円(Wi-Fi32GBモデル)と、9.7インチiPad Proに比べて4割以上も安価なことが特徴だ。
37,800円からという実売価格は、従来モデルと変わらないためそう大きなインパクトはないが、Apple Pencil対応であることを考えると画期的だ。なにせ、これまでiPadとiPad Proの違いは、Apple Pencil対応であるか否かであり、それが2万円前後の価格差の理由とみなされていただけに、その境目が取り払われ、かつ価格が据え置きというのは衝撃的ですらある。
もっとも、同じくApple Pencil対応である10.5インチiPad Proは(容量は64GBと倍ではあるが)現在も69,800円というハイエンドモデルらしい価格を維持しており、どこが違うのかは気になるところ。またそれらの違いが、電子書籍端末として使うにあたり、どの程度影響があるのかも興味深いところだ。
本稿では入手したばかりのWi-Fiモデル(32GB)を用い、基本的な特徴をざっとチェックしつつ、電子書籍端末としての使い勝手を紹介していく。
かつての「9.7インチiPad Pro」に酷似も価格は4割安い
まずは過去の製品との比較から。従来モデルに当たるiPad(第5世代)のほか、現行の10.5インチiPad Pro、および冒頭で紹介した9.7インチiPad Proとも比較している。
iPad(第6世代) | iPad(第5世代) | 10.5インチiPad Pro | 9.7インチiPad Pro | |
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発売 | 2018年3月 | 2017年3月 | 2017年6月 | 2016年3月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 240×169.5×7.5mm | 250.6×174.1×6.1mm | 240×169.5×6.1mm | |
重量 | 約469g | 約437g | ||
CPU | 64bitアーキテクチャ搭載A10 Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ | 64ビットアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ |
メモリ | 2GB | 4GB | 2GB | |
画面サイズ/解像度 | 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi) | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) | 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi) | |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | |||
バッテリー持続時間 (メーカー公称値) | 最大10時間 | |||
スピーカー | 2基 | 4基 | ||
Smart Connector | - | ○ | ||
Apple Pencil対応 | ○ | - | ○ | |
価格(発売時) | 37,800円(32GB) 48,800円(128GB) | 37,800円(32GB) 48,800円(128GB) | 69,800円(64GB) 80,800円(256GB) 102,800円(512GB) | 66,800円(32GB) 84,800円(128GB) 102,800円(256GB) |
この表からもわかるように、従来の第5世代モデルとの差は、CPUがA9からA10へと変更されていること、およびApple Pencilへの対応をはたしたことくらいだ。いずれもコストへの影響がかなり大きそうな相違点だが、実売価格は第5世代モデルを維持しており、戦略的な価格であることを感じさせる。
10.5インチiPad Proと比較するとどうだろうか。サイズの違いは当然として、スピーカーの数、専用キーボードを接続できるSmart Connectorの有無のほか、この表にはない項目としてはカメラの画素数の違い、またディスプレイの色域やリフレッシュレート、フルラミネーションディスプレイの採用といった、品質面での違いが中心だ。
しかしこちらは価格面で大きな差があり、同容量に換算すると約2.5万円ほど10.5インチiPad Proのほうが高価な計算になる。「製品を使ってなにができるか」という点においてはそう極端な違いはないにもかかわらず、ひとつひとつのスペックや品質の差が、圧倒的な価格差につながっているのが興味深い。
おもしろいのが2年前のモデルである9.7インチiPad Proとの比較で、本体の厚みや軽さ、スピーカーの数などは遅れを取っているほか、ディスプレイの品質面も劣るとはいえ、CPUは本製品が上であるなど一長一短で、価格も本製品のほうが約4割は安い。Apple Pencilによるペン入力だけが目的ならば、格好の製品と言えるだろう。
形状や使い勝手は従来のiPadと同一。iPad Proより使いやすい面も
本体の形状は、従来のiPadまったくそのままで、特筆すべきことはない。Touch IDはもちろん、上部の電源ボタン、右側面の音量調節ボタンといったレイアウトも同一で、従来モデルに慣れ親しんでいるユーザーであれば、使い勝手そのままに乗り換えられるはずだ。
セットアップの手順は、iOS 11.3になったことでいくつか新しいフローが追加されているが、手順そのものが大きく変化しているわけではない。言語およびWi-Fiのセットアップにはじまり、Touch IDを設定したのち、Siriなどの利用の有無を選んでいくというおなじみのものだ。
セットアップが完了して実際にざっと使ってみても、従来のiPadとの違いはまったく感じず、良くも悪くも新鮮味は皆無だ。筐体を軽くノックすると「コンコン」ではなく「ボコッボコッ」という、内部に空間があることを示唆する音がするのは、iPad Proにはない、iPadならではの特徴だ。
電子書籍ユースとは関係ないところで、iPad Proと比べて大きなネックになるのが、スピーカーの位置だろう。本製品は、過去のiPadシリーズと同様に、スピーカーは本体の底面のみにしか搭載されていない。そのため、画面を横向きにして動画を視聴するように場合に、音声をステレオで聴くことができない。
これについては、イヤフォンやBluetoothのヘッドフォン、スピーカーなどを使うのであれば問題ないが、本体からダイレクトに音声を出力するのであれば、かなりのマイナスになる。動画を鑑賞する機会が多い人にとっては、iPad Proとの最大の違いということになるだろう。
このほか、専用キーボードを装着できる「Smart Connector」が搭載されていないのも相違点だが、Bluetoothキーボードで代替することは可能なので、ペアリングの手間や充電などの問題が許容できれば、大きなハンデにはならないだろう。
なお、カメラ機能を使わないことが前提であるのならば、本製品のほうがむしろ有利だ。というのも、カメラ部分が出っ張ったiPad Proに対して、本製品はカメラ部分に突起がなく、背面とフラットな仕様だからだ。カメラのスペックはそのぶん低いわけだが、根本的にカメラ自体を使わないならば、持ち歩く場合にあちこちに引っ掛からず、キズもつきにくい本製品のほうが有利だ。
iPad Proにあって本製品にない仕様は、電子書籍ユースにほぼ影響なし
電子書籍端末としての使い勝手は、第5世代の評価にほぼ準ずる。9.7型という大きい画面サイズゆえ、コミックなどの見開き表示にも適するほか、解像度も従来モデルと変わらず264ppiを維持していることから、細部のディティールの表現力も問題ない。
さらに大きなサイズ、たとえば雑誌のような判型が大きいコンテンツは、原寸のまま読み進めるのは難しいにしても、細かい文字は都度拡大表示すれば、スマートフォンや7~8型クラスのタブレットで読むのに比べて、快適に読むことができる。動作速度についても、性能の過不足を意識すること自体がないレベルだ。
もっとも、重量は469gとそこそこあるので、冒頭でふれた9.7インチiPad Pro(437g)や、あるいは300gクラスのiPad mini 4に比べると、片手で長時間持っていると疲れやすい。電子書籍端末としての利用がメインになるならば、カバーは極力つけずに使うなど、軽い状態で使うための施策を講じたほうがよいだろう。
10.5インチiPad Proと比較した場合、リフレッシュレートは10.5インチiPad Proが120Hzであるのに対して本製品は60Hzであるほか、フルラミネーションディスプレイにも非対応だ。もっとも、Apple Pencilを使う場合ならまだしも、電子書籍ユースではどちらも影響は感じない。
さらに外光に合わせて色を調整するTrue Toneディスプレイや、ディスプレイの色域の広さも、白黒のテキストやコミックを読んでいるぶんには、実感できる場面があまりない。iPad Proにあって本製品にない特徴のうち、あえて影響があるとすれば、反射防止コーティングくらいだろう。
これについては本製品とiPad Proを並べて写真を撮るとその違いがよくわかるのだが(以下参照)、とはいえ非光沢仕様の保護シートを貼れば低減することは可能なので、そうした意味でもあまり大きなハンデではない。指紋防止の効果も含め、保護シートの導入が、個人的にはおすすめだ。
Apple Pencilに対応しないさらなる廉価版の可能性は?
以上ざっと見てきたが、iPadもしくはiPad Airシリーズの後継として本製品を見た場合、これだけ高機能かつリーズナブルな製品もない。ここ1~2年に発売されたiPad Proというハイエンドモデルを知っているため、ついつい「ない機能」を探してしまうが、どう考えてもエントリーモデルの範疇に収まる製品ではないというのが、試用しての率直な感想だ。
若干気になるのは、今回のモデルをはじめとして、今後のiPadはすべてApple Pencil対応になるのか否か、ということだ。本製品は教育市場をターゲットとしたイベントで発表されたもので、廉価版に当たるペンデバイスも同時に発表されているが、ペン入力を必ずしも求めない市場もある。
それゆえ、本製品からApple Pencil対応を省いた、さらにローエンドの製品が将来的に追加されても、なんら違和感はない。たとえば本製品をベースに、Apple Pencilに対応しないエントリーモデルを、本製品(329ドル)をさらに下回る価格、たとえば299ドルで投入してくる可能性は、ゼロとはいえないだろう。
とはいえ、価格が第5世代から上がっているのであればまだしも、価格が据え置きのままこの仕様であれば、とくに根拠のない推測や噂をもとに買いひかえるのは、それこそ機会損失にほかならない。電子書籍端末としてのニーズのほか、Apple Pencilを気軽に試してみたい人、またなにより、タイミングが合わずに第5世代を買い替え損ねた人にも、おすすめできる製品と言えそうだ。