山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple Pencil対応で3万円台の第6世代iPadを電子書籍で試す

Apple「iPad(第6世代)」。同社ホームページでは「9.7インチiPad」という製品名になっている

 Appleの「iPad(第6世代)」は、iPadシリーズのエントリーモデルでありながら、Apple Pencilによるペン入力に対応したモデルだ。サイズや機能は2年前に発売された9.7インチiPad Proによく似ているが、価格はApple Pencil非対応のiPad(第5世代)と同じ37,800円(Wi-Fi32GBモデル)と、9.7インチiPad Proに比べて4割以上も安価なことが特徴だ。

 37,800円からという実売価格は、従来モデルと変わらないためそう大きなインパクトはないが、Apple Pencil対応であることを考えると画期的だ。なにせ、これまでiPadとiPad Proの違いは、Apple Pencil対応であるか否かであり、それが2万円前後の価格差の理由とみなされていただけに、その境目が取り払われ、かつ価格が据え置きというのは衝撃的ですらある。

 もっとも、同じくApple Pencil対応である10.5インチiPad Proは(容量は64GBと倍ではあるが)現在も69,800円というハイエンドモデルらしい価格を維持しており、どこが違うのかは気になるところ。またそれらの違いが、電子書籍端末として使うにあたり、どの程度影響があるのかも興味深いところだ。

 本稿では入手したばかりのWi-Fiモデル(32GB)を用い、基本的な特徴をざっとチェックしつつ、電子書籍端末としての使い勝手を紹介していく。

本体外観。これまでのモデルと同様、アスペクト比4:3のディスプレイと、ハードウェアによるホームボタンを搭載する
画面を横向きにした状態。コミックなどの見開き表示を行なう場合はこの向きでの利用が多くなるだろう

かつての「9.7インチiPad Pro」に酷似も価格は4割安い

 まずは過去の製品との比較から。従来モデルに当たるiPad(第5世代)のほか、現行の10.5インチiPad Pro、および冒頭で紹介した9.7インチiPad Proとも比較している。

【表】iPadシリーズの比較 ※いずれもWi-Fiモデル
iPad(第6世代)iPad(第5世代)10.5インチiPad Pro9.7インチiPad Pro
発売2018年3月2017年3月2017年6月2016年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)240×169.5×7.5mm250.6×174.1×6.1mm240×169.5×6.1mm
重量約469g約437g
CPU64bitアーキテクチャ搭載A10 Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ64ビットアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ
メモリ2GB4GB2GB
画面サイズ/解像度9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリー持続時間
(メーカー公称値)
最大10時間
スピーカー2基4基
Smart Connector-
Apple Pencil対応-
価格(発売時)
37,800円(32GB)
48,800円(128GB)
37,800円(32GB)
48,800円(128GB)
69,800円(64GB)
80,800円(256GB)
102,800円(512GB)
66,800円(32GB)
84,800円(128GB)
102,800円(256GB)

 この表からもわかるように、従来の第5世代モデルとの差は、CPUがA9からA10へと変更されていること、およびApple Pencilへの対応をはたしたことくらいだ。いずれもコストへの影響がかなり大きそうな相違点だが、実売価格は第5世代モデルを維持しており、戦略的な価格であることを感じさせる。

 10.5インチiPad Proと比較するとどうだろうか。サイズの違いは当然として、スピーカーの数、専用キーボードを接続できるSmart Connectorの有無のほか、この表にはない項目としてはカメラの画素数の違い、またディスプレイの色域やリフレッシュレート、フルラミネーションディスプレイの採用といった、品質面での違いが中心だ。

 しかしこちらは価格面で大きな差があり、同容量に換算すると約2.5万円ほど10.5インチiPad Proのほうが高価な計算になる。「製品を使ってなにができるか」という点においてはそう極端な違いはないにもかかわらず、ひとつひとつのスペックや品質の差が、圧倒的な価格差につながっているのが興味深い。

 おもしろいのが2年前のモデルである9.7インチiPad Proとの比較で、本体の厚みや軽さ、スピーカーの数などは遅れを取っているほか、ディスプレイの品質面も劣るとはいえ、CPUは本製品が上であるなど一長一短で、価格も本製品のほうが約4割は安い。Apple Pencilによるペン入力だけが目的ならば、格好の製品と言えるだろう。

左が本製品、右が10.5インチiPad Pro。いわゆる狭額縁ではないことがわかる
ベゼル幅の違い。左が本製品、右が10.5インチiPad Pro。単体ではそれほど気にならないが、10.5インチiPad Proを見慣れていると野暮ったく感じることもしばしば
背面の比較。10.5インチiPad Pro(右)はWi-Fi+Cellularモデルゆえ上部アンテナサイズ部分が異なるが、そのほかの意匠はほぼ同じ。ただしカメラのサイズやマイクの穴の位置など相違点もある
厚みの比較。左が本製品、右が10.5インチiPad Pro。コイン1枚分程度の厚みの違いがある

形状や使い勝手は従来のiPadと同一。iPad Proより使いやすい面も

 本体の形状は、従来のiPadまったくそのままで、特筆すべきことはない。Touch IDはもちろん、上部の電源ボタン、右側面の音量調節ボタンといったレイアウトも同一で、従来モデルに慣れ親しんでいるユーザーであれば、使い勝手そのままに乗り換えられるはずだ。

Touch IDは現行のiPhoneとは異なる、物理的に押し込むタイプ

 セットアップの手順は、iOS 11.3になったことでいくつか新しいフローが追加されているが、手順そのものが大きく変化しているわけではない。言語およびWi-Fiのセットアップにはじまり、Touch IDを設定したのち、Siriなどの利用の有無を選んでいくというおなじみのものだ。

 セットアップが完了して実際にざっと使ってみても、従来のiPadとの違いはまったく感じず、良くも悪くも新鮮味は皆無だ。筐体を軽くノックすると「コンコン」ではなく「ボコッボコッ」という、内部に空間があることを示唆する音がするのは、iPad Proにはない、iPadならではの特徴だ。

 電子書籍ユースとは関係ないところで、iPad Proと比べて大きなネックになるのが、スピーカーの位置だろう。本製品は、過去のiPadシリーズと同様に、スピーカーは本体の底面のみにしか搭載されていない。そのため、画面を横向きにして動画を視聴するように場合に、音声をステレオで聴くことができない。

 これについては、イヤフォンやBluetoothのヘッドフォン、スピーカーなどを使うのであれば問題ないが、本体からダイレクトに音声を出力するのであれば、かなりのマイナスになる。動画を鑑賞する機会が多い人にとっては、iPad Proとの最大の違いということになるだろう。

底面の比較。上が10.5インチiPad Pro、下が本製品(以下同じ)。どちらもLightningコネクタおよびスピーカーを備える
上面の比較。10.5インチiPad Proにあるスピーカーが本製品にはない

 このほか、専用キーボードを装着できる「Smart Connector」が搭載されていないのも相違点だが、Bluetoothキーボードで代替することは可能なので、ペアリングの手間や充電などの問題が許容できれば、大きなハンデにはならないだろう。

左側面の比較。10.5インチiPad Proが備えるSmart Connectorは本製品にはない
右側面の比較。こちらは違いはない。右端のSIMスロットはWi-Fi+Cellularモデルならではの仕様だ

 なお、カメラ機能を使わないことが前提であるのならば、本製品のほうがむしろ有利だ。というのも、カメラ部分が出っ張ったiPad Proに対して、本製品はカメラ部分に突起がなく、背面とフラットな仕様だからだ。カメラのスペックはそのぶん低いわけだが、根本的にカメラ自体を使わないならば、持ち歩く場合にあちこちに引っ掛からず、キズもつきにくい本製品のほうが有利だ。

カメラ部分が出っ張った10.5インチiPad Pro(上)に対して、本製品(下)のカメラは突起がなく背面とフラットな仕様。なお本体色であるゴールドの色合いは従来とは違い、かなり赤みが強い色になっている

iPad Proにあって本製品にない仕様は、電子書籍ユースにほぼ影響なし

 電子書籍端末としての使い勝手は、第5世代の評価にほぼ準ずる。9.7型という大きい画面サイズゆえ、コミックなどの見開き表示にも適するほか、解像度も従来モデルと変わらず264ppiを維持していることから、細部のディティールの表現力も問題ない。

 さらに大きなサイズ、たとえば雑誌のような判型が大きいコンテンツは、原寸のまま読み進めるのは難しいにしても、細かい文字は都度拡大表示すれば、スマートフォンや7~8型クラスのタブレットで読むのに比べて、快適に読むことができる。動作速度についても、性能の過不足を意識すること自体がないレベルだ。

コミック(うめ著「大東京トイボックス 1巻」)を見開き表示した状態。単行本の原寸に近いサイズで楽しめる。解像度も十分だ
本製品(左)10.5インチiPad Pro(右)でDOS/V POWER REPORT最新号を表示したところ。サイズはひとまわり異なるが、この程度の差であればであればそれほど違いは感じない

 もっとも、重量は469gとそこそこあるので、冒頭でふれた9.7インチiPad Pro(437g)や、あるいは300gクラスのiPad mini 4に比べると、片手で長時間持っていると疲れやすい。電子書籍端末としての利用がメインになるならば、カバーは極力つけずに使うなど、軽い状態で使うための施策を講じたほうがよいだろう。

 10.5インチiPad Proと比較した場合、リフレッシュレートは10.5インチiPad Proが120Hzであるのに対して本製品は60Hzであるほか、フルラミネーションディスプレイにも非対応だ。もっとも、Apple Pencilを使う場合ならまだしも、電子書籍ユースではどちらも影響は感じない。

本製品(上)は、フルラミネーションディスプレイを採用した10.5インチiPad Pro(下)に比べるとベゼル部分に黒い隙間が目立つ

 さらに外光に合わせて色を調整するTrue Toneディスプレイや、ディスプレイの色域の広さも、白黒のテキストやコミックを読んでいるぶんには、実感できる場面があまりない。iPad Proにあって本製品にない特徴のうち、あえて影響があるとすれば、反射防止コーティングくらいだろう。

 これについては本製品とiPad Proを並べて写真を撮るとその違いがよくわかるのだが(以下参照)、とはいえ非光沢仕様の保護シートを貼れば低減することは可能なので、そうした意味でもあまり大きなハンデではない。指紋防止の効果も含め、保護シートの導入が、個人的にはおすすめだ。

蛍光灯を反射させた状態。本製品(左)のほうが、10.5インチiPad Pro(右)に比べると反射がきついことがわかる
10.5インチiPad Pro(右)に、市販の非光沢の保護シートを貼った状態。反射がかなり鈍くなるので目の疲れが緩和される

Apple Pencilに対応しないさらなる廉価版の可能性は?

 以上ざっと見てきたが、iPadもしくはiPad Airシリーズの後継として本製品を見た場合、これだけ高機能かつリーズナブルな製品もない。ここ1~2年に発売されたiPad Proというハイエンドモデルを知っているため、ついつい「ない機能」を探してしまうが、どう考えてもエントリーモデルの範疇に収まる製品ではないというのが、試用しての率直な感想だ。

 若干気になるのは、今回のモデルをはじめとして、今後のiPadはすべてApple Pencil対応になるのか否か、ということだ。本製品は教育市場をターゲットとしたイベントで発表されたもので、廉価版に当たるペンデバイスも同時に発表されているが、ペン入力を必ずしも求めない市場もある。

 それゆえ、本製品からApple Pencil対応を省いた、さらにローエンドの製品が将来的に追加されても、なんら違和感はない。たとえば本製品をベースに、Apple Pencilに対応しないエントリーモデルを、本製品(329ドル)をさらに下回る価格、たとえば299ドルで投入してくる可能性は、ゼロとはいえないだろう。

本製品はApple Pencilに対応する。iPad本体が安価なこともあり、10,800円(税別)というApple Pencilの価格が相対的に高く感じてしまうのはご愛嬌
この写真ではわからないが、フルラミネーションディスプレイではないため、描画された線とペン先との間にわずかに隙間ができてしまい、iPad Proに比べると緻密な描画にはやや不向きだ

 とはいえ、価格が第5世代から上がっているのであればまだしも、価格が据え置きのままこの仕様であれば、とくに根拠のない推測や噂をもとに買いひかえるのは、それこそ機会損失にほかならない。電子書籍端末としてのニーズのほか、Apple Pencilを気軽に試してみたい人、またなにより、タイミングが合わずに第5世代を買い替え損ねた人にも、おすすめできる製品と言えそうだ。