山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple「12.9インチiPad Pro (第2世代)」

~性能が大幅向上、B5相当を原寸表示できる大画面タブレット

12.9インチiPad Pro(第2世代)

 「12.9インチiPad Pro(第2世代)」は、Apple製の12.9型タブレットだ。

 Apple Pencil対応、およびSmart Connectorを用いた外部キーボードへの対応などの特徴をもつ「iPad Pro」シリーズの最新モデルで、画面サイズや本体のデザインは第1世代モデルを踏襲しつつ、同時に発表された10.5型モデルと同じく最大120Hzのリフレッシュレート、高輝度、広色域、低反射率などディスプレイ回りの機能を大幅に強化していることが特徴だ。

 同時発表の「10.5インチiPad Pro」が、従来の9.7インチiPad Proに比べて一回り大きく、ボディも新設計だったのに対して、本製品は第1世代の12.9インチiPad Proと見た目はほぼ同一で、主にスペック面の強化が中心となっている。

 リフレッシュレート120Hzへの対応をはじめとする、表示性能の強化は本製品の目玉の1つだが、電子書籍端末として使う場合は、それほど使い勝手に劇的な変化をもたらすことはない。強化されたCPUも含め、電子書籍ユースにはかなりオーバースペックといって良い仕様だ。

 とはいえ、雑誌などの大判サイズを原寸大表示することにおいて、現行のタブレットの中では、もっとも理想的な製品であることに変わりはない。

 今回は従来モデルとの違いに加えて、12.9型という大画面で電子書籍を楽しむにあたって1つの選択肢となる、ハンズフリーでの読書方法について紹介する。ベンチマークなどを含むレビューは別記事(新iPad Proはディスプレイ120Hz駆動で指に吸いつくような操作が快感!)で紹介されているので、そちらも合わせて参照されたい。

縦向きに表示した状態。外観は従来モデルと全く同一
画面を横向きにした状態。見開き表示では、この向きでの利用が多くなるだろう
上部に電源ボタン、側面に音量ボタンというレイアウトは従来と同様。従来モデルと異なり、カメラは外部に突出している
本製品のカメラ。背面から突出しているが、10.5インチiPad Proほどの厚みはない(後述)
上面。電源ボタンとスピーカー2基、イヤフォンジャックを備える。ちなみに中央の穴はマイク
底面。こちらにもスピーカー2基と、Lightningコネクタを備える
側面には外部キーボードと接続するためのSmart Connectorが用意されている。iPad Proシリーズのみの特殊な機構だ

外観はほぼ同一だが性能は大幅向上、価格はダウン

 まずは従来の第1世代モデルおよび同時発売の10.5インチiPad Proとの比較から。なお以下の写真のうち、10.5インチiPad ProについてはWi-Fiモデルではなく、Wi-Fi+Cellularモデルを使用しているのでご了承いただきたい(Wi-Fi+Cellularモデルは上部アンテナ部のデザインが若干異なる)。

モデル(※いずれもWi-Fiモデル)12.9インチiPad Pro (2017)12.9インチiPad Pro10.5インチiPad Pro9.7インチiPad Pro
発売2017年6月2015年11月2017年6月2016年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)305.7×220.6×6.9mm305.7×220.6×6.9mm250.6×174.1×6.1mm240×169.5×6.1mm
重量約677g約713g約469g約437g
CPU64-bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ64-bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ64-bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ64-bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ
メモリ4GB4GB4GB2GB
画面サイズ/解像度12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリー持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間最大10時間
スピーカー4基4基4基4基
価格(発売時)86,800円(64GB)
97,800円(256GB)
119,800円(512GB)
94,800円(32GB)
112,800円(128GB)
130,800円(256GB)
69,800円(64GB)
80,800円(256GB)
102,800円(512GB)
66,800円(32GB)
84,800円(128GB)
102,800円(256GB)

 この表で見ると分かるように、本製品は、従来モデルとサイズのほか、メモリ、画面サイズ、解像度、通信方式など、主要な仕様もまったく同一だ。

 見た目で区別できる部分と言えば、カメラの形状やマイクの位置といった細かい箇所のみだが、重量は従来モデルから36g軽量化されているので、両者を持ち比べることで新旧を見分けることは可能だ。

 従来モデルを常に持ち歩いて、重量を把握している人であれば、単体で手に取っても軽量化を実感できるかもしれない。

 また、CPUはA9XからA10Xへと強化されているほか、10.5インチiPad Proと同様、リフレッシュレートの向上(最大120Hz、可変)、輝度や色域の向上、さらに画面反射率の低減など、ディスプレイまわりの仕様は大幅に強化されている。

 一般的に、外観に相違がほとんどない新モデルは、往々にして内部が大幅にパワーアップしていることが多いが、本製品もまさにそのパターンに当てはまると言って良いだろう。ベンチマークの結果については後述する。

 ちなみに価格については、従来モデルが登場時点で94,800円(32GB)だったのに対し、本製品では86,800円(64GB)と、大幅に引き下げられている。

 従来モデルはどの容量であっても、税込価格で10万円を超えてしまい、法人での経費購入や決済処理が煩雑になる場合もあったが、今回のモデルはそうした意味でも購入のハードルが下がっている。細かいことだが、こうしたきっかけが導入につながるケースは少なくないだろう。

従来モデル(右)との比較。デザインやサイズはまったく同一だが、こうして比べると本製品(左)のディスプレイのほうが濃淡がくっきりしている。ディスプレイの広色域化の恩恵によるものだろうか
背面の比較。左上のカメラ回りおよび中央のマイクホールを除き、同じデザインだ
従来モデル(上)と違い、本製品はカメラが突出しているほか、直下にフラッシュが搭載されている。またカメラ横にあったマイクホールが本体の中央寄り(この写真では左側)に移動している
従来モデルと上面および底面を比較したところ。いずれも二枚重ねの上が従来モデル、下が本製品。スピーカーホールのサイズにも、若干の相違が見受けられる
10.5インチiPad Pro(右)との比較。かなりのサイズ差があることが分かる
10.5インチiPad Pro(右)のようにベゼルの左右がスリム化されたデザインではなく、それ以前のiPadシリーズのデザインを踏襲しているため、やや野暮ったさを感じる
カメラの突起は、10.5インチiPad Pro(上)と比べると、本製品(下)のほうが薄い
iPad Proシリーズの厚みの比較。いずれも左が本製品、右が上から12.9インチ(第1世代)、10.5インチ、9.7インチ

B5相当の雑誌、およびコミックの見開きを、ほぼ原寸で表示可能

 本製品は従来モデルと外観は同一であることから、パッケージおよび同梱品、セットアップ手順、および基本的な使い勝手については従来モデルと変わらない。今秋にバージョン11のリリースが予告されているiOSだが、現時点でインストールされているのはiOS 10.3.2であり、機能面についても相違はない。

 もっとも、ベンチマークを取ると新旧モデルの差は歴然としている。Sling Shot Extremeによるスコアでは、従来モデルが「2,948」のところ本製品が「3,793」なので、単純計算で28.7%増しということになる。

 公称値ではCPUの速度が30%高速、グラフィックの処理速度が40%高速とされているので、実機によるベンチマークの値としてはおおむね妥当だろう。

Sling Shot Extremeによるスコアの比較。総合スコアでは本製品が約28.7%増しとなっている。下段の項目別スコアではほぼ同等の場合もあれば、2倍近くに達する場合もある

 電子書籍を中心とする表示性能は、従来モデルとの大きな違いは見られない。

 かつて従来モデルのレビューにあたり、自炊したアニメージュ・コミックス・ワイド版「風の谷のナウシカ」(B5サイズ)が原寸表示できることを紹介したが、これはもちろん本製品でも可能だ。

 A4の天地を若干切り詰めたサイズである「DOS/V POWER REPORT」も、ほぼ同等サイズで表示できる。注釈など小さな文字の表示性能も十分だ。

 コミックは、見開き状態では単行本よりもひとまわり大きいサイズで表示できる。両手で長時間保持しての読書は現実的ではないだろうが、電子書籍に紙版と同等以上の表示サイズを求める人にとっては、最適な製品と言えるだろう。

「DOS/V POWER REPORT」を紙版(右)と比較したところ。上下それぞれ10mmほどはみ出すが、ほぼ原寸で表示できる。ちなみに本製品は表示できる色域が広がっているが、さすがに電子書籍ユースでは、それらを体感できる機会はあまりない
264ppiということで、小さな注釈文字の表示性能も十分だ
画面を横向きにして見開き表示に切り替えても、注釈文字は十分に読み取れる
紙の単行本(右)を本製品に重ねて、電子版とサイズを比較したところ。原寸大での表示が可能だ
画面サイズが大きいことの真価が発揮されるのは、コンテンツの表示よりも、むしろ、このように一覧画面で大量のサムネイルを一度に表示する時かもしれない。本製品はディスプレイのリフレッシュレートが向上しているため、上下スクロール時もサムネイルの内容が読み取りやすい
見開きでコミックを表示した状態で、本製品を両手で保持したところ。原寸大表示ゆえに迫力はあるが、重量がそこそこあることもあり、長時間の読書にはあまり向かない

Bluetoothリモコンを使った「ハンズフリー読書」を楽しむには

 本製品はそのサイズや重量を考慮すると、両手で持って宙に浮かんだ状態で読書をするのは現実的ではない。

 特に677gという重量は、初代iPad(680g)とほぼ等しく、本製品が宙に浮く形で長時間手で保持し、読書を行なうのは困難だろう。現実的には膝の上、もしくはデスクの上に本製品を置き、指先でページをめくるスタイルにならざるを得ない。

 そこで、ここでは別の読書スタイルとして、本製品をスタンドもしくはタブレットアームに設置し、ハンズフリーでページをめくって読書を行なう方法を考えてみよう。

 例えば、ベッド脇に設置したタブレットアームに本製品をセットし、寝転がった状態のまま、腕を上げることなくページを前後にめくることができれば、カジュアルに電子書籍を楽しみたいユーザーはもちろんのこと、体が不自由な人にとっても福音になると考えられる。冬場を迎えて、布団にくるまったままで読書を楽しみたいユーザーにも最適だ。

 ハンズフリーでタブレットを操作する方法については国内外で数多く“自由研究”が行なわれており、ネットで少し検索しただけでも関連エントリが多数ヒットするが、iOSデバイスの場合、アクセシビリティ機能の1つ「スイッチコントロール」を利用するのがもっとも手軽だ。

 今回はこの「スイッチコントロール」機能とサードパーティ製の片手用Bluetoothリモコンを組み合わせ、12.9インチiPad Proでハンズフリー読書を実現する方法を紹介する。

ハンズフリーでページめくりを行なうために、今回はVR用として販売されているエレコムのBluetoothリモコン「JC-VRR01」を利用する。Amazonで販売されているこの手のアイテムは多くが海外ベンダーの製品で、技適の取得状況も不明であるため、このように確実な製品をチョイスしたい
本製品は、リモコンモードとゲームパッドモードを切り替えて利用できる。今回のスイッチコントロール機能と組み合わせて動作可能なのはゲームパッドモードで、上面のメニューボタンを押しながら側面のスイッチを入れることでモードを切り替える

 設定方法は以下のスクリーンショットを参照されたいが、少々ややこしい。

 まず最初に、スイッチコントロール機能の「スイッチ」で、外部デバイス(ここでは前述のBluetoothリモコン=ELECOM VR Controller)のどのキーを用いてページをめくるかを指定するのだが、ここでの設定内容は次に設定する「レシピ」で上書きされるので、ひとまずダミーのアクション(ここでは「項目を選択」)を割り当てる。

 電子書籍では次のページに進むだけではなく、前のページに戻る動きも必要になるので、同じ内容でもう1つ「スイッチ」を作成し、名称はそれぞれ「次のページへ」「前のページへ」とでもしておく。

 キーの割り当てについては、今回はBluetoothリモコンのジョイスティックを右に倒すと次のページへ、左に倒すと前のページヘと移動するよう設定するが、本体のボタンに割り当ててもかまわない。

 続いて「レシピ」を起動し、前項で作成した「次のページへ」というスイッチを選択すると、右綴じの電子書籍のページめくりに最適な「左から右スワイプ」というアクションがリストの中に表示されるので、それを選択する。同様にして「前のページへ」には「右から左スワイプ」というアクションを登録する。

 これで1つの「レシピ」に対し、次ページ/前ページに移動するための2つの「スイッチ」を登録できたので、レシピ名を入力して保存する。

 その後、スイッチコントロールの起動時にこのレシピが自動起動するよう、「レシピ」にある「レシピを起動」で今回作成したレシピ名を選択しておく。

 以上で設定は完了。あとはホームボタンのトリプルタップでスイッチコントロールを起動すれば、Bluetoothリモコンで次ページ/前ページへの移動が可能になっているはずだ。スイッチコントールを終了するには、もういちどホームボタンをトリプルクリックすれば良い。

まず事前に、Bluetoothリモコン(ELECOM VR Controller)をペアリングさせておく。ちなみにキーボードデバイスとして認識されるので、このあと項目名を入力する際は、いったんオフにしなければ、ソフトキーボードが表示されないので注意
続いて設定→一般→アクセシビリティ→スイッチコントロールをタップ
右側の項目からまずは「スイッチ」をタップ
「新しいスイッチを追加」をタップ
ソースとして「外部」を選択する
Bluetoothリモコンでページめくりに使うためのキーを押すと、スイッチとして登録するために名前をつけるように要求されるので、名前を入力して保存する(この画面が表示されない場合、リモコンがゲームパッドモードに正しく設定できていない可能性がある)
スイッチを実行した際のアクションを選択するよう促されるが、この項目は実際には無視されるので、適当な項目を選んで次へ進む。今回はいちばん上の「項目を選択」を選んでいる
電子書籍では次のページへの移動だけでなく前のページに移動する操作も必要になるので、同じ手順で前のページに戻るためのスイッチも作成しておく
スイッチの作成が終わり設定画面に戻ったら、続いて「スイッチ」の下にある「レシピ」をタップ
「新規レシピを作成」をタップ
「スイッチを割り当てる」をタップ
さきほど作成した2つのスイッチが表示される。まず「次のページへ」をタップ
スイッチに割り当て可能なアクションが表示される。コミックなど右綴じの電子書籍でページをめくるアクションは「左から右スワイプ」なのでそれを選択
同様に、「前のページへ」は「右から左スワイプ」を選択する。またここで、いったんBluetoothをオフにしてソフトキーボードを有効にし、レシピに適当な名前(ここでは「電子書籍」)をつける
設定は以上なのだが、スイッチコントロールを起動したあと、今回のレシピがすぐに起動するよう設定するために、「レシピ」→「レシピを起動」をタップ
今回作成したレシピ(電子書籍)を選択。以上で設定は完了だ。ホームボタンをトリプルクリックすればスイッチコントロールが起動する
あとはBluetoothリモコンで操作を行なうことで、画面に触れずに前後のページへ移動できる。詳細は以下の動画を参照されたい
iOSのスイッチコントールを用い、電子書籍のページめくりを行なっている様子。実際には左右スワイプの操作をエミュレートしているだけなので、電子書籍に限らず、写真をパラパラめくるなどの操作にも使える

 今回は片手用のBluetoothリモコンを使用したが、一般的なBluetoothキーボードも利用可能だ。

 しかし、ベッドに寝転がって本を読む前提であれば、キーボードを使うのはあまりスマートではないので、最終的には今回のようなリモコンデバイスを用いるのがベターだろう。赤外線方式ではないことから、布団にくるまったまま操作できるのも利点だ。

 なお今回紹介した手順は、設定方法はやや難解ながらもOS標準の機能を使うことから、左右スワイプでページをめくれる電子書籍ビューア、つまり事実上すべての電子書籍ビューアで利用できる。

 同じことをAndroidで行なう場合、とある機能を使うことでもっと簡単に実現が可能で、またBluetoothリモコン以外のデバイスも使用できるのだが、iOSと違って、電子書籍ビューアアプリによっては対応しない場合もある。また別に機会があれば紹介したい。

基本性能も高く、多彩な使い方が可能

 もともと本製品は、電子書籍向け端末としてはかなりオーバースペックであり、価格も第1世代に比べると下がったとは言え、まだまだ高価だ。

 10.5インチiPad Proにも言えることだが、本製品で電子書籍を楽しむ場合、ほかの目的も込みで購入したうえで、電子書籍端末として「も」使うシチュエーションが多くなると考えられる。

 ただし本製品は、10.5インチiPad Proと異なり、そのサイズの大きさゆえ可搬性は低く、また重量もあることから、両手で長時間保持してページをめくるという、一般的な電子書籍端末としての使い方をこなすのは難しい。

 今回はそうしたことから、ハンズフリーでの読書のTipsを紹介したわけだが、このように、本来の目的で使用しない時に本製品を遊ばせておくのではなく、ビューアとして使い倒すというのは良い活用方法と言えるだろう。

 今回は、分かりやすい例としてベッドに寝転がって読むためのTipsとして紹介したが、ほかにもスタンドを使ってデスク上に設置し、技術書を常時表示した上で、必要な時に参照するなどの用途も考えられる。

 画面サイズが大きいことから、極端に近い距離に設置しなくても、多少離れた場所でも十分な視認性が得られるのは本製品ならではの利点だ。

 いずれにせよ、少しの工夫で多彩な使い方ができるのは、さすがiPadといったところで、しかも本製品はその高いスペックにより、多少イレギュラーな使い方であっても、表示性能やレスポンスといった、基本的な部分で足を引っ張られることがない。

 電子書籍とは異なる別の用途で購入したものの、アイドルしている時間が長くなるようであれば、ぜひ今回紹介したような使い方も試してみてほしい。

ほかのiPad Proシリーズと同様、Apple PencilやSmart Keyboardなどの周辺機器の利用にも対応する。画面サイズが広くペンの追従性が良いのは、グラフィック用途における本製品の大きな利点だろう