山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ディスプレイがパワーアップした「10.5インチiPad Pro」で電子書籍を試す
2017年6月29日 06:00
「10.5インチiPad Pro」は、Apple製の10.5型タブレットだ。Apple Pencil対応、およびSmart Connectorを用いた外部キーボードへの対応などの特徴をもつ「iPad Pro」シリーズの最新モデルで、10.5型という新しい画面サイズの採用に加え、最大120Hzのリフレッシュレート、高輝度、広色域、低反射率などディスプレイ回りの機能を大幅に強化していることが特徴だ。
これまでAppleの「iPad」シリーズは、初代モデルから最新の第5世代iPadに至るまで、9.7型という画面サイズが一貫して採用されてきた。今回のモデルはiPad としては初となる、10.5型の画面を採用していることが、外見上の大きな特徴となる。
今回はこの「10.5インチiPad Pro」を、従来モデルである「9.7インチiPad Pro」と比較しつつ電子書籍用途を中心に紹介する。ベンチマークなどを含むレビューは別記事で紹介されているので、そちらも合わせて参照されたい(新iPad Proはディスプレイ120Hz駆動で指に吸いつくような操作が快感!)。
電子書籍ユースではややオーバースペック?
まずはほかのiPad Proシリーズ、および3月発売の第5世代iPadとの比較から。以下の表はいずれもWi-Fiモデルのスペックを記載しているが、写真については本製品および9.7インチがWi-Fi+Cellularモデルを使用している。Wi-Fiモデルとは背面上のアンテナ部のデザインが若干異なるので、見比べるさいはご承知おきいただきたい。
10.5インチiPad Pro | 9.7インチiPad Pro | iPad(第5世代) | 12.9インチiPad Pro(第2世代) | |
---|---|---|---|---|
発売 | 2017年6月 | 2016年3月 | 2017年3月 | 2017年6月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 250.6×174.1×6.1mm | 240×169.5×6.1mm | 240×169.5×7.5mm | 305.7×220.6×6.9mm |
重量 | 約469g | 約437g | 約469g | 約677g |
CPU | 64bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ |
メモリ | 4GB | 2GB | 4GB | |
画面サイズ/解像度 | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) | 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | |||
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間 | |||
スピーカー | 4基 | 2基 | 4基 | |
Smart Connector | ○ | - | ○ | |
Apple Pencil対応 | ○ | - | ○ | |
価格(発売時) | 69,800円(64GB) 80,800円(256GB) 102,800円(512GB) | 66,800円(32GB) 84,800円(128GB) 102,800円(256GB) | 37,800円(32GB) 48,800円(128GB) | 86,800円(64GB) 97,800円(256GB) 119,800円(512GB) |
こうして主要なスペックだけを比較すると、画面サイズが9.7インチから10.5インチへと大きくなり、メモリが倍増、またCPUが最新のA10Xに置き換わったことが目立つが、製品としてはむしろ、リフレッシュレートの向上(最大120Hz、可変)、輝度や色域の向上、さらに画面反射率の低減など、ディスプレイ回りが大幅に強化されたことが売りとなっている。
もっとも、従来モデルでそれらが明確なウィークポイントだったのならまだしも、多くの人はそれらをこれまでとくに不満と感じていなかったはずで、なかなか直接的なメリットとして感じにくいのも事実だ。
実際に使い比べてみると、Safariで上下にスクロールしながらでもテキストがそこそこ判読できてしまうのは従来の9.7インチiPad Proとの大きな違いだし、Apple Pencilで速い動きで線を引いても線が追従するのも秀逸だ。しかし日常のあらゆる利用シーンで性能の向上を実感するかと言われると、やや微妙なところ。電子書籍の閲覧という、比較的軽い処理においてはなおさらで、ややオーバースペックという印象だ。
もっとも、本製品はその名にもあるようにプロ仕様の製品であるわけで、たとえ特定の用途でしか体感できなくても、性能の向上を図る必然性はおおいにあるだろうし、秋に登場するiOS 11でこれらが活きてくる可能性も高い。電子書籍ユースにおいてどの程度のメリットがもたらされるかは未知数なところもあるが、現時点で判断するのは時期尚早だろう。
画面は大型化も、重量は第5世代iPadと同等を維持
ディスプレイ周りが大きく進化し、また10.5型という新しいサイズを採用した本製品だが、従来のiPadシリーズの特徴はそのまま踏襲されており、外観はひとめでiPadとわかるものになっている。
具体的に挙げると、筐体デザインにはじまり、比率4:3の画面、Touch IDを備えた物理ホームボタン、上部の電源ボタン/側面の音量ボタン、底面のLightningコネクタ、上面のイヤフォンジャック、などだ。またiPad Proシリーズの特徴であるSmart Connectorや、本体を横向きにしたさいに左右に配置されるスピーカーについても、従来モデルを継承している。
またセットアップの手順も従来モデルと同様で、Touch IDのための指紋登録の作業時間を合わせても数分もあれば完了する。
それゆえ、電子書籍端末としての使い勝手も、従来モデルと大きくは変わらない。9.7インチiPad Proからひとまわり大きくなったことでコミックや単行本がより原寸に近いサイズで表示できるようになったが、基本的にそれだけだ。
画面が大きくなった代償として重量は増しているが、今年(2017年)3月に登場した第5世代iPadと同じ重量(約469g)に抑えられているため、比較したときに「重い」という結論になりにくい点は、なかなかうまい配慮だと感じる。ちなみに約469gという重量は第5世代iPadのほか、初代iPad Airとも同じだ。
といったわけで、プラスもあればマイナスもあるのだが、本製品と9.7インチiPad Proを使い比べたかぎりでは、トータルではプラスの面が大きいと感じる。というのも、画面サイズの大型化に比べると本体サイズはそれほど大きくなっておらず、また重量が増えたと言ってもわずかだからだ。かつての9.7型はずっしりと重い板を保持しているように感じられたが、本製品ではあまりそうした感覚もない。
この種のデバイスでは、実際には重量が増加しているにもかかわらず、画面サイズの大型化や薄型化といった要因によって逆に軽くなったように錯覚することが稀にあるが、本製品はまさにそのパターンであるように思える。
筆者は重量にはかなり敏感なほうで、少しでも軽いデバイスがあれば投資を惜しまないほうだが、9.7インチiPad Proと10.5インチiPad Pro、見開きでのコミック閲覧のためにどちらか1台を残すならば、迷わずに今回の10.5インチiPad Proを選ぶだろう。
また、過去のiPadのレビューで繰り返し書いているが、iPadシリーズに共通する4:3という画面比率は、紙ベースのコンテンツを表示したときに無駄な余白を生じないことから、コミックや雑誌の表示に非常に向いている。
とくに今回の10.5インチという画面サイズでは、雑誌類が原寸表示とまではいかないものの、従来よりもひとまわり大きく表示されるようになったことで、かなり自然に読めるようになった。解像度も十分で、細部の注釈などもしっかりと読める。原寸大表示にこだわるならば12.9インチiPad Proという選択肢もあるが、本体の可搬性なども含めて考えるのであれば、本製品はよい選択と言えるはずだ。
従来モデルを筆者が電子書籍ユースで使わなくなった“ある問題”とは
このように、表示性能についてはトップクラスであり、電子書籍端末としては(オーバースペックであることは別にして)とくに問題らしい問題はないのだが、従来の9.7インチiPad Proを約1年使って筆者がネックと感じたとある箇所が本製品でも解消されておらず、少なからず問題になる可能性がある。万人に当てはまるほどの問題ではないが、実例としてここで紹介しておこう。
筆者は現在平均すると1日1時間ほど電子書籍を読んでいるが、過去1年間において電子書籍の閲覧に用いたデバイスはもっぱらiPad mini 4であり、9.7インチiPad Proを用いたことはほとんどない。正確に言うと、一度9.7インチiPad Proを電子書籍閲覧のメイン端末として使いはじめたのだが、最終的に元のiPad mini 4に戻ってしまった経緯がある。
その動機となったのは、背面カメラが突出しているため、背面を下にして無造作に置くと、カメラが触れる面に傷がつきかねないからだ。筆者の場合、電子書籍を読むのは主に就寝前であるため、暗い部屋のなかで寝転がったまま枕元の棚からiPadを取り出したり、半分寝落ちのような状態で棚に戻すことが多々ある。
そのさい、背面カメラのせいで毎回デリケートな扱いが求められる9.7インチiPad Proよりも、多少手荒に扱っても問題ないiPad mini 4のほうがニーズに合致しており、結果的に9.7インチiPad Proは電子書籍ユースでは徐々に使われなくなってしまった。今回の10.5インチiPad Proも背面のカメラが突出しているため、同様の問題が発生すると考えられる。
「それなら保護ケースをつけて背面とカメラの段差をなくせばいいんじゃないの」と思われた読者の方もいることだろう。しかし保護ケースをつけるとその重量、具体的には100g前後の重量が増してしまい、計算上は500gを超えてしまう。これでは読書端末として長時間保持するのがますます厳しくなる。カメラが接地しないよう画面を下にして置く方法もあるが、これだとロック画面に表示される各種通知が見えなくなるという別の問題が発生する。
以上のような問題は、万人に起こるわけではなく、使い方によってはまったく気にならない人も多いはずだ(むしろそちらが多数派だろう)。とはいえ、実際の利用シーンでは、こうした要因がネックになり、せっかく買ったデバイスの利用頻度が徐々に下がっていくケースは少なくないし、実際に使ってみなければなかなか発覚しないのも厄介だ。やや極端な話ではあるが、1つの例として紹介させていただいた。
性能は申し分ないが、電子書籍ユースのみならほかの選択肢も
以上ざっと見てきたが、前項のように特定の利用シーンに依存する問題点を除けば、画面のサイズや比率、高品質なディスプレイなど、電子書籍の表示に向いた製品だ。コミックの表示で原寸大に極力近いことにこだわるユーザーにとっても申し分ない。
もっともその一方で、電子書籍向けの端末としてはかなりオーバースペックであるのも事実だ。従来の9.7インチiPad Proでもそうだったが、電子書籍ユースのためだけに購入するには価格も高く、それゆえ本製品で電子書籍を楽しむのは、ほかの目的も込みで購入した本製品を、電子書籍端末として「も」使う、そのようなシチュエーションが多くなるだろう。
もし電子書籍だけを楽しむのであれば、ほかの選択肢もある。iOSデバイスであれば、たとえば今春発表されたiPad(第5世代)は、重量こそ本製品と同じではあるが、価格も安く、そこそこ何でもこなせてしまう。背面カメラの出っ張りもないため、前述のような問題も起こらない。Androidまで候補を広げると、ファーウェイの「MediaPad M3 Lite 10」やASUSの「ZenPad 3S 10」など、10型クラスでは3万円前後で複数の候補がある。
このほか、必ずしも9~10型クラスの画面サイズにこだわらないのであれば、iPad miniシリーズの後継モデルを待つという選択肢もある。終息の噂もささやかれるiPad miniシリーズだが、仮に現行のiPad mini 4が終息しても、5.5型のiPhone Plusシリーズと9.7型のiPadの中間にあたるサイズが、ぽっかりと空いたままになる可能性は低いと思われる。
そのiPad miniシリーズは、以前は1年置きに新製品がリリースされていたのが、今年9月でiPad mini 4リリースから丸2年となる。具体的な新製品の情報があるわけではないが、もう少し購入を待てるようであれば、この秋くらいまでは様子見しておいたほうが、よい買い物ができるかもしれない。