山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「Alexa、本を読んで」機能が日本語にも対応
2018年3月30日 11:30
2017年の秋から日本でも普及しつつあるスマートスピーカー。11月に日本に上陸したAmazonの「Amazon Echo」シリーズは、招待制という販売形態ゆえ年末年始は入手困難な状態が続いていたが、それもじょじょに解消し、一般販売が開始されるのも近いのではとの予測もある(本日3月30日に一般発売されました。記事Amazon Echo、今日から一般予約販売を開始参照)。
そんなAmazon Echoが2月22日、Kindle本の読み上げに対応した。「Alexa、本を読んで」と呼び掛けるだけで、Amazonのアカウントに紐づいているKindle本を選び、本文を音声で読み上げてくれるという機能だ。対象となるのはText-to-Speechに対応しているKindle本で、言うまでもないが日本語にもきちんと対応している。
今回はこのKindle本の読み上げ機能の特徴、使い方を紹介しつつ、果たしてどの程度実用的なのかをチェックしていきたい。
音声アシスタント「Alexa」を使って日本語Kindleを音声で読み上げ
一般的に、電子書籍の音声読み上げは、紙とは異なるメリットの1つであり、海外では多くの電子書籍ストアがこの機能をサポートしている。Kindleも同様で、料理など手が離せないケースや車での移動中に本を“聴ける”手段として、広く用いられている。
ただし端末側で必ずしもサポートされているかというとそうではなく、初代以降のKindle端末に搭載されていたイヤフォンジャックは第4世代のKindle Touchをもって消滅し、日本で投入された最初のモデルであるKindle Paperwhite(第5世代)以降は、イヤフォンジャックが搭載されていない。Kindle端末が再び音声読み上げをサポートしたのは、Bluetoothを搭載した第8世代からである。
もっともAmazonにかぎって言えば、Fire TVで日本語による音声検索をサポートしたり、スマートフォンのAmazonアプリに音声検索を実装するなど、Amazon Echo投入前からノウハウを蓄積している様子は見え隠れしていた。そして今回、Amazon Echoの発売から3カ月経って、海外ではすでに実装済みだったKindle本の読み上げ機能が、搭載にいたったというわけだ。
ちなみにKindleは、スマートフォンアプリを使えば音声読み上げが行なえるが、これはいずれもOS側の機能(iOSでVoiceOver、AndroidではTalkBack)だ。今回の音声読み上げは、Amazon Echoの音声アシスタントAlexaによるものであってKindleの機能ではないが、Amazonが日本語のKindle音声読み上げ機能を自ら提供するのは、実質今回が初めてということになる。
「Text-to-Speech」が有効であれば読み上げが可能
ではざっと使えるようにするための手順を見ていこう。大前提としては、Amazon Echoを所有しており、かつKindleストアで読み上げ可能なテキスト本を購入していることだ。この2つの条件が揃っていれば、無料で読み上げ機能が利用できる。
読み上げが可能な本は、Amazonによると
・Kindleストアから購入した本
・Kindleオーナー ライブラリーで利用中の本
・Kindle UnlimitedまたはPrime Readingで利用中の本
と説明されているが、要するにKindle本の購入ページで「Text-to-Speech」が有効となっている本が対象だ。Kindleがスタートした初期の頃は対応する本はそれほど多くなかったと記憶しているが、筆者の場合、直近で購入した小説やビジネス書数十冊のほとんどは問題なく対応していた。
対応しない本としては、コミックや写真集などテキストがメインでないコンテンツは当然として、Kindle宛に送信したパーソナルドキュメントなども対応しない。また試したかぎりでは、サンプル本も対応しないようだ。
購入済みの本のどれが読み上げ可能かを知るには、Alexaアプリを開いて「Alexaで読み上げ可能な本」に表示されるかどうかを確かめればよい。このリストは初回起動時にキャッシュが生成されるようで、はじめはリストに本が数冊しか表示されず戸惑うが、しばらく待つと続々と本が表示され、次回の起動時からはすぐに表示されるようになる。
ただしソート順の変更や絞り込み機能が用意されていないので、何百冊何千冊と所有していると、目当ての本を探すだけで一苦労だ。むしろタイトルがわかっているのであれば、現状ではEcho側から音声で検索したほうが手っ取り早い。ここはいずれ改善されることを期待したいところだ。
Kindleと既読位置をシームレスに連携可能
起動方法は、起動ワードである「Alexa」に続いて「○○(タイトル)を読んで」と呼びかけるだけ。天板のLEDが点滅しながらしばらくクルクルと回り(おそらく検索とキャッシュを行なっているのだろう)、数秒~十数秒ほどして「□□(著者名)のKindle本「○○(タイトル)」を再生します」と、著者名とタイトルを復唱したのち、読み上げがはじまる。
読み上げを停止するには「Alexa、読み上げを止めて」と声を掛ければよい。先月この機能がリリースされた直後は「止めて」や「ストップ」だけでは止まらず、一瞬ミュートしただけですぐ再開していたように記憶しているが、現在は「読み上げを」を省略しても停止するようになっている。再開する場合は「読み上げを再開して」または「再開して」と呼びかければよい。
また、「戻して」、「進めて」で、30秒単位での戻る/進むにも対応するほか、章単位でジャンプすることもできる。Echoでは日常的に使用する「音量を上げて/下げて」などの音声コマンドも使えるので、基本的な操作はすべて音声で行なえることになる。
ちなみにAlexaアプリ側でも再生/一時停止ボタンのほか、30秒単位で戻る/進むボタンが用意されており、手動で操作できる。このほか章単位でジャンプすることもできるなど、音声コマンドをまったく使わずにスマートフォンから操作することも可能だ。ただ実際は、音声でうまく呼び出せないタイトルをスマートフォンで探したり、その逆だったりと、補完しながら使うことになりがちだ。
なお、スマートフォンから操作すると言っても、Bluetooth接続で外部スピーカーとして使うのと異なり、Amazon Echoはスマートフォンを経由してクラウドとやりとりしているわけではないので、音声読み上げ中にスマートフォンの電源を切るなどしても、読み上げには何ら影響がない。
実際に使ってみて感心させられたのが、既読位置の同期だ。読み上げを停止した時点で既読位置は保存されるわけだが、その状態で対象のKindle本をダウンロードして開くと、最後に読み上げていた箇所にあたるページが開かれる。これにより、Amazon Echoで読み上げた続きを、KindleおよびKindleアプリの画面上で引き続き読めるというわけだ。
またこれとは逆に、KindleもしくはKindleアプリ上で読みかけのKindle本があったとして、これをAmazon Echoで読み上げをはじめると、きちんと既読位置から再生を開始してくれる。つまり本(Kindle/Kindleアプリ)→音声(Amazon Echo)も、音声(Amazon Echo)→本(Kindle/Kindleアプリ)も、どちらもシームレスに行なえるのだ。試した限りでは多少ページは前後するのだが、手動でいちから探すのと比べると、かかる手間は段違いだ。
ちなみに、本を読み上げている途中で時間などを尋ねたり、スマートリモコンで家電を操作するなどの操作は、きちんと受け付けられ、終わり次第読み上げが再開される。間違っても、読み上げている最中は他の操作を受け付けなかったり、あるいは操作を受け付けたことで読み上げが終了するといったことはない。
読み上げ速度の調整機能がほしい。その他細部では気になる点も
実際の読み上げの精度や癖はどうだろうか。単純な漢字の読み方間違いや、イントネーションの違和感は少なからずあるが、「あー、そこ間違っちゃったかー、まあ難しいから仕方ないよね」と許容できるレベルで、しばらく聴いていると慣れてしまう。むしろ、クラウドベースの機械読み上げでここまでできてしまうのかという驚きのほうが大きい。
唯一頭を抱えたのは、ある小説で登場人物の名前(漢字)の読みを間違えたまま、本1冊にわたってその読み方を延々と繰り返された時くらいだろうか。こればかりは訂正する方法がないので、黙って耐えるか、脳内で変換するしかない。
どちらかというと気になるのが、読み上げがかなりせわしないことだ。理由は主に2つで、1つは読み上げ速度を調整する機能がなく、こころもち早口に設定されていること。たとえば同じAmazonのAudibleであれば、0.75/1/1.25/1.5/2/2.5/3倍で速度を調整できるが、こちらは等倍のみだ。
もう1つは、「。」や「、」の直後に挟まれるワンテンポの「間」が、比較的短いことだ。本の場合、句読点に加えて改行、もしくは段落を改めることによって「間」の量がコントロールされているわけだが、本機能ではそれらを考慮せずにすぐ続きの読み上げをはじめるので、休憩しどころがない。
また、小説やラノベでキャラクター同士の会話によくある、カギ括弧で区切られたセリフが連続する箇所では、各セリフごとに改行されているにもかかわらず、間が空かずに続けた一文のように読み上げられてしまう。これはつまり、セリフを表すカギ括弧のうしろには「。」がつかないという、一般的な表記ルールを理解していないためだと思われる。
このほか、ルビは完全に無視する仕様らしく、その結果として漢字の読み方を間違えることもしょっちゅうだ。真横に書かれていながらそれを見落として不正解になっているわけで、このあたりのチューニングはまだまだだと感じる。何らかの手当は必要だろう。
ちなみに音声はふだんのAlexaそのままで、あらゆる文が棒読みで読み上げられるのだが、唯一の例外が、文中に「!」や「?」が含まれている場合だ。このときだけ、語尾が上がったり下がったりと微妙に変化する。この記号が出てくるとそのように振る舞う仕様になっているようで、ふだん抑揚のないAlexaがこのときだけ、感情をもったようになるのが面白い。
あと、使っていて気になったのが、本のページで言うと1~2ページの1回程度のペースで、読み上げが数秒程度ストップするケースがあることだ。ネットで見るかぎり、同じ症状が出ているケースは少なくないようで、ネットワークの帯域の関係で、バッファリングが追いついていないのではとの指摘もあるが、いまいち原因が不明なままだ。いずれ解消されることを期待したい。
Amazon Echoファミリではどの機種がおすすめ?
機能そのものについての紹介は以上なのだが、最後に、読み上げに利用するハードウェア、つまりAmazon Echoについてもざっと触れておこう。
Amazon Echoは現在、国内では3つのモデルが販売されているが、今回の用途におすすめなのはEcho Dot、次いでEchoだ。この両製品は本体天板に音量調整ボタンが用意されており、音量のコントロールがしやすいというのが主な理由だ。なかでもEcho Dotはコンパクトなので、デスク上であろうが枕元であろうが、設置が容易だ。
Echo Plusについては、使えないわけではまったくないのだが、3製品の中ではスピーカーがもっともパワフルで、広い範囲に音が届くよう設計されていることから、今回のように近い場所から控えめな音量で聴きたいときは、製品コンセプトと利用目的がややずれている印象だ。
またEcho Plusは天板に音量調整ボタンがなく、本体上部のリングを回して調節を行う仕様なのだが、ボタンに比べ片手での操作がしづらく、また調節の段階もやや大雑把だ。すでに所有しているならば話は別だが、3製品のなかでは価格ももっとも高額であり、今回の用途を試すためだけに敢えてチョイスする必要性はないというのが、筆者の考えだ。
ちなみにこれは3製品いずれもそうだが、背面にイヤフォンジャックが搭載されているので、ヘッドフォンやイヤフォンをつないで聴くこともできる。騒音がある場所で本機能を使いたい場合は、重宝することだろう。
使い方は多彩。さらなるブラッシュアップにも期待
以上のように、Kindleの新たな楽しみ方を可能にするユニークな機能であり、積ん読本を処理したり、あるいは過去に読み終えた本を再度楽しむ手段としても有益だが、いまのところAmazon Echoでは利用できてもスマートフォンのAlexaアプリ上での読み上げは行なえないため、ポッドキャストやAudibleのように、外出先で移動中に聴けないのは少々もったいないと感じる。
もっとも、前述の仕様からもわかるように、外出先でKindleやスマートフォン(Kindleアプリ)などで読んでいた本の続きを自宅でスマートスピーカーで楽しむといった具合に、デバイスを超えた連携を第一に考えているのだとすると、仕様としてはこれが正解なのかもしれない。
現状で優先順位が高い改善点としては、読み上げ速度の調整機能の追加と、Alexaアプリにおける、目的の本を探すにあたってのソートや絞り込み機能の追加だろうか。後者については、積ん読になっていた本を片付けるのにも役立つはずなので、ぜひ搭載してほしいところ。将来的には音声読み上げに合わせてKindle本のページを自動的にめくるという、目で画面を追いながら耳でも情報を得られる使い方が可能になることも期待したい。
ちなみに筆者がいずれ試したいと思っているのが、目が疲れている場合の時間つぶしだ。風邪を引くなどして体がだるい、あるいは眼精疲労が原因で頭が痛いとき、本来は寝て回復に努めるべきなのだが、もう十分に睡眠は取っていてこれ以上寝るのは無理、かといって読書や動画鑑賞で目を酷使するとかえって悪化しかねない、という場合がある。
こうした場合に本機能を活用すれば、目を酷使せずに読書が可能になる。音声コマンドを使って寝転がったままの操作が行なえるのも利点だし、さらにスリープタイマーもついているので、読み上げを聴きながら寝落ちしても問題ない。偏頭痛持ちの筆者からするとありがたい使い道で、そうした症状が出たさいは(あまり出てほしくはないが)活用していきたいと思っている。
なお、スマートスピーカーのシェアではAmazonについで2位につけるGoogleも、今年に入ってからGoogle Homeでの本の読み上げ機能をリリースしている。まだ日本語には対応していないものの、両者が争うことで機能が進化していくことは大いに期待できる。今後また大幅なアップデートが行なわれたときには、続報をお届けしたい。