山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Fire HD 8」(第7世代)
~16GBモデルが7,980円から購入可能な8型タブレット
2017年6月24日 06:00
Amazonの「Fire HD 8(第7世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しむための8型タブレットだ。実売4,980円から購入できる7型の「Fire 7」ほどの価格インパクトはないが、実売価格11,980円、Amazonプライム会員なら執筆時点で配布中のクーポンコードを使うことで7,980円で手に入るリーズナブルな価格が魅力だ。
Amazonのタブレット「Fire」シリーズは現在、7/8/10型の3つの画面サイズで展開されているが、その中で大本命のモデルに当たるのは、もっとも安価な7型の「Fire 7」ではなく、本製品と言っていいだろう。Fire 7に比べるとワンランク上のCPUを採用し、メモリ容量は1.5GBと5割増しであるほか、スピーカーがモノラルではなくステレオであること、また「Fire 7」にはないストレージ32GBの大容量モデルが用意されるのは、動画鑑賞において有利だ。
今回は、昨年に引き続きモデルチェンジが行なわれたこのFire HD 8の第7世代モデルについて、市販品を用いたレビューをお届けする。
従来モデルと仕様はほぼ同一。重量がやや増加
まずは従来モデルに当たる第6世代Fire HD 8との比較から。本製品と同時に発売された7型の「Fire 7」についても併せて比較する。
Fire HD 8(第7世代) | Fire HD 8(第6世代) | Fire 7(第7世代) | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2017年6月 | 2016年9月 | 2017年6月 |
サイズ(最厚部) | 214×128×9.7mm | 214×128×9.2mm | 192×115×9.6mm |
重量 | 約369g | 約341g | 約295g |
CPU | クアッドコア1.3GHz×4 | クアッドコア最大1.3GHz | クアッドコア1.3GHz×4 |
RAM | 1.5GB | 1.5GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n | 802.11a/b/g/n | 802.11a/b/g/n |
内蔵ストレージ | 16GB (ユーザー領域11.1GB) 32GB (ユーザー領域25.3GB) | 16GB (ユーザー領域11.1GB) 32GB (ユーザー領域25.3GB) | 8GB(ユーザー領域4.5GB) 16GB (ユーザー領域11.6GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 12時間 | 12時間 | 8時間 |
スピーカー | ステレオ | ステレオ | モノラル |
microSDカードスロット | ○(256GBまで) | ○ | ○(256GBまで) |
価格(発売時) | 11,980円(16GB) 13,980円(32GB) | 12,980円(16GB) 15,980円(32GB) | 8,980円(8GB) 10,980円(16GB) |
カラーバリエーション | ブラック | ブラック | ブラック |
今回の第7世代モデルは、スペックそのものは従来の第6世代モデルとはほとんど変わっていない。メモリは1.5GB、ストレージは16/32GB、Wi-Fiは11a/b/g/n対応、解像度は1,280×800ドットと、まったく同一だ。CPUについてのみ、これまで「最大1.3GHz」だったのが「1.3GHz」という表現に改められているが、CPUは同じMT8163のクアッドコアであり、後述するベンチマークでも違いはほぼない。
一方筐体については、厚みがわずかに増し、また重量が28g増加している。前者は0.5mm増えただけなので違いはほとんどわからないのだが、重量についてはかつて第5世代が約311gだったのが第6世代で341gと一気に重くなった経緯があり、今回のモデルではそれがさらに増して369gと、2年前に比べると50g以上も重くなっているのは気になるところだ。
面白いのは、こうした厚み/重量の増加にも関わらず、筐体のデザインはほとんど変わっていないことだ。モデルチェンジに伴って筐体デザインを変更し、その結果としてサイズや重量が増してしまったのであれば、成り行きとして理解できるし、そうやってユーザの注意を引かないようにする方法もあるはずだが、あえてそれをせず、デザインを踏襲しているのは興味深い。
その一方、価格については、同じ16GBで比較した場合、従来モデルからさらに1,000円安くなっている。Fire HD 8は第5世代から第6世代へとモデルチェンジしたさい、21,980円から12,980円と劇的に安くなった経緯があり、そこからさらに下がったことになる。意地悪な言い方をすると、価格が下がれば下がるほど重量が増えていることになる。
その結果、本製品の16GBモデルはエントリーモデルであるFire 7の16GBモデル(10,980円)とたった1,000円しか違いがなくなっている。Fire 7の16GBモデルを買うのであれば、もう1,000円プラスして本製品を購入したほうが、画面サイズ、解像度、メモリなどが有利であり、かつステレオスピーカー搭載で動画鑑賞には有利というわけである。
ちなみに上記の表にはない細かい仕様の差を見ていくと、従来モデルではセンサーとしてアクセロメータ/ジャイロスコープ/環境光センサーが搭載されていたのが、本製品ではジャイロスコープが省かれ、アクセロメータ/環境光センサーのみとなっている。今回は具体的な検証はしていないが、従来モデルでは可能だったゲームが本製品では正常に動作しない可能性はありそうだ。
筐体デザインはほぼ同一。セットアップ手順も同一
では開封してみよう。前述のように筐体のデザインや質感は従来の第6世代モデルと酷似しており、単体で見た場合、たとえ本製品を常用している人でも、新旧どちらのモデルなのか即答するのは難しいだろう。画面に指紋が付着しやすい点など、あまり好ましくない点も第6世代モデルの特徴を踏襲している。パッケージについても、Fire 7と共通するフラストレーション・フリー仕様だ。
セットアップの手順は前回のFire 7でも紹介しているが、従来と大きくは変わらない。もとのFire OSがAndroidベースということで、特殊な項目もなく、初めてセットアップする人でも大きく戸惑うことはないだろう。以下、スクリーンショットで紹介する。
従来の第6世代モデルと同等のスコア。性能はNexus 7(2013)並み
ひととおりざっと使って見ても、従来の第6世代Fire HD 8との違いは感じられない。そもそも仕様に関しては、CPUも同じ、メモリも同じ、またWi-Fiなど通信回りの仕様も同一なので、極端な違いが出るほうがおかしい。試しにベンチマークを取ってみても、性能の違いは誤差レベルだ。余談だがGeekbench 3のスコア比較を見る限り、一般にNexus 7(2013)と呼ばれる、Nexus 7の第2世代モデルに近い性能だ。
ホーム画面についても従来と同様で、左右スワイプで「本」、「ビデオ」、「ゲーム」、「ミュージック」などのカテゴリを横方向に切り替えていくレイアウトを採用している。Fire OSを最新版にアップデートした従来の第6世代モデル、また第7世代Fire 7と比べても、大きな違いは見られない。読書関連のオプションについても、デザインこそ一部異なるものの、機能そのものに違いはないようだ。
解像度については、1,280×800ドット(189ppi)ということで、7型のFire 7(171ppi)に比べると上だが、このクラスのタブレットとしては並で、決してハイスペックとは言えない。事実、300ppiクラスのiPad miniなどと比べると、やはり表現力の差を感じてしまう。詳しくは以下の写真で確認してほしい。
比較写真での各製品の並び順は以下のとおり。
・上段左: 本製品(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・上段右: 第6世代Fire HD 8(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・下段左: 第7世代Fire 7(7型/1,024×600ドット/171ppi)
・下段右: iPad mini 4(7.9型/2,048×1,536ドット/326ppi)
コミックの見開き表示での実用性は判断が分かれる
さて、この8型の「Fire HD 8」に関して筆者がたまに受ける質問に、(コミックなどの)見開き表示は可能か? というものがある。本製品には見開きフルスクリーンビューという、連続したページを1画面に表示する機能も用意されているが、ここでいう見開き表示はそれではなく、本体を横向きにして横長になった画面に常時2ページを表示するという、一般的な見開き表示のことを指す。
8型、かつワイド比率のタブレットというのは見開き表示にはやや厳しいサイズであり、筆者個人は積極的にお勧めはしないが、ふだんスマートフォンの小さな画面でコミックを読んでいるユーザからすると、8型という画面サイズが魅力的であろうことは理解できる。今回はこのFire HD 8でコミックの見開き表示を行うにあたって、注意しておくべき箇所をチェックしていこう。
まず、1ページあたりのサイズおよび解像度についてだが、本製品でコミックを見開き表示にした場合、1ページの表示に使えるサイズ(単純に画面を左右2分割した大きさ)は、実測で高さ107mm×幅86mmとなる。コミックのページの縦横比はおおむね4:3なので、余白を省いて考えると、高さ107mm×幅80mmの中に1ページが収まるよう、表示されることになる。
これをスマートフォンの表示サイズと比較するとどうなるか。5.2型のスマートフォンは画面サイズの実寸が高さ118mm×幅66mm、余白を省いた有効サイズは66×88mm(幅×高さ)。5.5型のスマートフォンは画面サイズの実寸が70×123mm(同)、余白を省いた有効サイズは70×93mm(同)。つまり5.5型のスマートフォンで表示するよりも、本製品で見開き表示した時のほうが、1ページあたりのサイズは高さ14mm、幅10mmほど大きいことになる。
それゆえ「ふだんからスマートフォンでコミックを読んでいて、そのサイズを苦にしない」というのであれば、本製品での見開き表示はとくに問題にならず、6型クラスのファブレットでもない限り、本製品のほうがむしろ一回り大きく表示されることになる。どうやらページのサイズについての問題はなさそうだ。
ただしサイズは問題なくとも、解像度については少々厳しいものがある。本製品の画面解像度は1,280×800ドットなので、見開き表示、つまり本体を横向きにした場合の縦方向の解像度は800ドットしかない。つまり前述の1ページあたりの有効サイズである80×107mm(同)は、実質800×600ドットで表示されることになる。
これに対してスマートフォンの場合、解像度がフルHD(1,920×1,080ドット)だと、上下の余白を切り落としたとして、1ページの解像度はおおむね1,440×1,080ドットとなる。つまり解像度が半分ほどに下がってしまうことになり、フルHDのスマートフォンだと読み取れていた細かい文字やディティールが、本製品では読み取れなくなる可能性が出てくる。これまで高解像度の端末で表示していた場合、粗さが気になることは必至だ。
もう1つのネックは、そもそもFire OSのインターフェイスが、横向きの画面表示に最適化されていないことだ。具体的には、画面を横向きにしてもホームボタンや戻るボタンが必ず下段に表示されることや、ライブラリ画面などでは検索バーが上段に表示されるのがその例で、ワイド比率でただでさえ狭い天地がさらに圧迫され、表示エリアが窮屈になる。Kindleのライブラリの画面では、実質的に横1列しか表示できないほどだ。
本を開くとホームボタン類は非表示になって全画面表示となるため、横画面であっても読書そのものにはあまり影響を及ばさないのだが、それ以外の場面、つまりライブラリの中から読みたい本を選んだり、ストアで本を買う場合に、このことはかなりのストレスになる。コミックは30分もあれば1冊読み終えてしまうケースも多く、ライブラリを表示する機会はテキスト中心の本よりも多いので、なおさらだ。
その点、iPad mini 4やZenPad 3 8.0など、画面比率が4:3のタブレットであれば、同じ8型前後ながら天地のサイズに十分な余裕があるほか、さらにiPadだとホームボタンは横で固定されているため、天地方向を圧迫する要因自体が少ない。これらと比べると、本製品は明らかに不利だ。
といったわけで、すでに入手したFire HD 8で試すのならいざ知らず、これから電子書籍での見開き表示を前提に端末を選ぶのであれば、見開き表示での解像度、およびインターフェイスに難がある本製品は、積極的にはおすすめしにくいというのが正直なところだ。個人的には、前述のホームボタンや検索バーの位置が改善されれば、解像度が多少低くても見開き表示における本製品の実用性はぐんと上がるはずなので、今後のFire OSの進化に期待したい。
購入したら行なっておきたい「On Deck」の設定変更
さて、電子書籍端末としてだけでなく、動画鑑賞用としても使われることが多いであろう本製品だが、購入してセットアップが完了したら早めに行っておきたい設定がある。それはデフォルトでオンになっている「On Deck」を無効にすることだ。
昨年新たに追加されたこの機能は、ストレージの空き領域ほぼいっぱいに、おすすめの動画をダウンロードしておき、すぐに見られるようにしておく機能だ。もしユーザーがストレージ容量を必要とする操作を行なえば、これらデータは自動的に削除されるとしている。
もしこれが、例えば現在視聴中のテレビシリーズなどの次回以降を前もってダウンロードしてくれるのであればまだ分からなくはないのだが、確認した限りでは過去の視聴履歴とはまったく関係のない、Amazonのおすすめコンテンツがプッシュで配信されてくる。今回はあるタイミングで5本の動画を同時にダウンロードし始め、そのせいで別のコンテンツをダウンロードする操作がしばらく受け付けられない事態に遭遇した。
新しい機能ということでデフォルトでオンにしておく意図はわかるし、いずれ機能が最適化されればデフォルトオンでも問題なくなるかもしれないが、現状ではユーザーのあらゆる操作に影響を与えないほど挙動が洗練されているわけでもなく、うっかり外出先でテザリングなどしていようものなら目も当てられない事態になる。Amazonビデオの設定画面の「ストリーミングおよびダウンロード」からオフにしておいたほうが、無用なストレスを感じずに済むだろう。
余談だが、この機能のほか、今回セットアップ手順の1つに追加されたKindle Unlimitedの広告といい、最近のAmazonはこれまでギリギリ踏みとどまっていた一線を超えることが増えてきたように感じる。オフにできる機能については積極的に設定を変更することでNoという意思表明をしたほうがよいだろうし、Amazonにはぜひ一考してほしいと思う。
Fire 7よりもおすすめできる要素が多い製品
以上ざっと見てきたが、従来モデルのマイナーチェンジ、それも見た目に違いがほとんど分からないレベルにとどまっている。推測するに、ショット数の上限を超えて金型を再度作り直すにあたり、一部の部材を見直してコストを下げた(あるいはその逆で部材見直しをきっかけに金型を作り直した)といったところではないだろうか。そう考えると、第6世代モデルとそっくりな筐体をわざわざ新造したことも納得がいく。
そんなわけで、第6世代モデルから買い替える必要があるかという問いに対しては「No」だが、それ以前の世代のモデルからの買い替え、もしくは新規購入であれば、前回のFire 7よりもこちらのほうがおすすめできる要素が多い。iOSやAndroidと比べてアプリの品揃えが少ないのはFireシリーズ共通の弱点だが、解像度はFire 7ほど粗くなく、Amazonのコンテンツに最適化されているのは強みだ。さらに本製品はスピーカーの配置が動画鑑賞向けだ。そうした特徴も踏まえて、購入の可否を判断するとよいだろう。
一般的にエントリークラスの製品では、実際に使ってみるとスペックから想像できる以上に、処理速度などに難があることが多いが、本製品はベンチマークの結果こそ並だが、1つ1つの操作に待たされる印象はあまりない。おそらくそうした評価になるよう、チューニングに注力しているのだろう(Fire OS 5リリース直後のもっさりした動きとは雲泥の差だ)。あくまで筆者の評価であり企画設計しているAmazonの意図は別のところにあるかもしれないが、こうした特性を把握しておけば、Fireという製品をより理解できるのではないかと思う。
個人的には今後、高解像度化に加えて、指紋認証をはじめとする昨今のタブレット並の機能の搭載にも期待したいが、ハイエンド仕様のHDXシリーズが第4世代をもって姿を消し、現在の価格優先のラインナップに落ち着いた経緯を考えると、なかなか難しいところもあるだろう。ひとまず、モデルチェンジのたびに増しつつある厚みと重量を、次のモデルではなんとか食い止めてほしいところだ。