山田祥平のRe:config.sys

友達以上、恋人未満の赤丸急接近

 パーソナルコンピュータがこなす仕事には、定型的なものと非定型的なものがある。前者は人間が手作業でやっていては途方もない時間がかかることを瞬時に終わらせる。いわゆる業務用のコンピュータは、こうした作業に使われてきたし、それは期待以上でも期待以下でもなかった。結果は正しくて当たり前だったからだ。その一方で、プライベートで使われるPCはどうか。

AIが身近になって活用法も変わった

 GoogleがAIの活用法のトップテンを発表した。昨年(2023年)も同様の発表があったが、その推移が興味深い。2023年は「Bard」、2024年は「Gemini」となっているが、Googleによるブランディングによって名前が変わったもので、どちらも同社のAIだ。

 まずは、手っ取り早く結果から見ていこう。

2023年のBard活用方法トップ10

  1. 事実に関する調べもの
  2. 専門的なトピックの相談
  3. プログラミング
  4. 翻訳
  5. 文章の編集
  6. 雑談・おしゃべり
  7. 新たな見解を得る
  8. 要点をまとめる
  9. 言葉を調べる
  10. 文章を完成させる

2024年のGemini活用方法トップ10

  1. 事実に関する調べもの
  2. 雑談・おしゃべり
  3. 勉強のお手伝い
  4. 内容をまとめる
  5. プログラミング
  6. 買い物のための下調べ
  7. アイデア出し
  8. 旅行のアイデア
  9. 翻訳
  10. 文章作成サポート

 個人的にはあまりにも普通で驚いた。1位は昨年も今年も「事実に関する調べもの」で、ほんの数年でとにかく分からないことがあればAIに尋ねてみるという習慣を人類は身につけたようだ。これはわずかな期間でインターネットが普及し、「ぐぐれかす」が新しい当たり前として人類に浸透していったのと似ている。

 ただ、インターネットそのものが普及するのに多少時間がかかったかもしれない。昔から、分からないことがあれば百科事典や辞書をめくって調べものをした。そのための手段が検索エンジンやAIに変わっただけで、基本的にやっていることは同じだ。もっとも、今は、百科事典や辞書とは次元が違うほどのリファレンスが得られる点で画期的ではあった。

 また、活用法を眺めてみると、10項目のうち6項目が新たな活用法として初登場している。プログラミングや翻訳といったいかにもAI的な作業は順位を下げ、雑談・おしゃべりの順位が急上昇している。生成AIはコンテンツの要約などが得意だが、実は、饒舌になってほしいと思われているかもしれない。

 また、昨年の10位は「文章を完成させる」だが、今年は「文章作成サポート」にと代わっている。どこが違うのかは定かではないが出世に近い。用字用語を整えたり、誤字脱字を修正したり、タイトルや見出しを付けるなど、人間が創意工夫で生み出したコンテンツをドラフトにして、それを完成させるだけではなくなったのだ。そこ進化し、サポーターとしてコンテンツをゼロから生み出す作業を、最初から人間と協働する役割を担わせるようになっている。生成AIの進化によって、新たに何かを生み出すことができるようになったことによるものだろう。

コミュニケーションの相手としてのコンピュータ

 今回の調査で、活用法として上位にあがっているものは、人間がコンピュータという道具に求めるものの既成概念をくつがえしそうな勢いだ。通信機としてコミュニケーションを媒介してきたコンピュータは、今や、コミュニケーションの相手として機能するようになったのだ。

 AI活用法としての雑談・おしゃべりはその典型だ。ここではコンピュータは正しい計算結果を弾き出す存在ではない。AIがしゃべることの内容は必ずしも正解であるとは限らないが、人間のつむぐ言葉に反応し、キャッチボールのように返事を返し、コミュニケーションが成立する。まるで人間同士の会話のようだ。ウィットに富んだ気の利いた会話のこともあれば、意志の疎通ができているとは思えないようなチグハグな場合もある。相手は人間じゃないことは分かっている。だから、これ以上話したくないと思ったら、そっとノートPCを閉じればいい。

 Googleが公開しているブログでは「勉強のお手伝い」について言及されている。『「高校世界史のまとめ問題を一問一答形式で20問、記述形式で10問、作成してほしい。難易度は大学入試レベルで。まだ解答は見せないで」など、学びたい科目だけでなく、自分の習熟度や好みの形式に合わせた使い方など具体的な指示を出すことで、Geminiが問題を作成してくれます』。さらに、『解答と解説も作成するので、復習や予習に役立てることも可能』ということだ。このくらい柔軟に人間の意図を理解して結果を出すのなら十二分に実用になるように感じる。

 ここまでくると、人間はAIの出した結果を吟味するアンカーマンのような役割を委ねられるようになっていくのではないか。ということは、AIと人間はかつてと立場が逆転しているのではないかとさえ思えてくる。

 世の中はAIエージェントの時代なんだそうだ。生成AIが単純にデータやコンテンツを生成するだけだったのが、AIエージェントではユーザーとAIとのインタラクションの中でゴールを目指していく。結果としての出力ではなく、なんらかの成果を得るわけだ。

 こうなると、将来的にはAIがAIを生み、育てたりもするようになるのだろう。AIのトレーニングをAIができるのだから。そこにおいては人間はAIにとっての神の領域に達するといってもいい。

 人類はAIを使うことに慣れてきた。そしてAIに任せられる領域も広がった。これからもまだまだ拡張されていくだろう。活用法のトップテンを見てもそれを感じる。

 その一方で、人間とAIの関係を主従で十把一絡げにしてはならないムードも感じる。それがある種のやばさでもある。