山田祥平のRe:config.sys

モバイルの点と線を究めるデュアルディスプレイ

 モバイルの現場を点と線で区別して評価するようになって久しい。点としての移動先と、線としての移動中では、モビリティに求められる要素が大きく異なるからだ。今回は、点と線の両立をめざしているであろう画期的なデバイスとしてASUSのZenbook DUO UX8406MAを試してみた。

モニター2枚を縦積みレイアウト

 Zenbook DUO UX8406MAは、Core Ultra 9 185Hを搭載したPCで、カラバリもなければ、異なる複数のモデルもない。現時点で考えられる最高峰クラスと言えるスペックで構成された単一モデルの一択だ。

 メモリは32GB、ストレージは1TBのSSDで、OSはWindows 11 Home。Wi-Fi 6E、そして、HDMI、Thunderbolt 4×2、5GBのUSB Type-Aがインターフェイスとして装備されている。

 特徴的なのがそのディスプレイで、2,880×1,800ドット120Hz(アスペクト比16:10)の14型有機EL光沢ディスプレイ2枚がヒンジで連結され、クラムシェル状に画面を内側にして折り畳めるようになっている。

 折りたたんだ外側にも画面を持つような、二つ折りスマホ的なギミックはない。イメージとしては開いた状態でランドスケープ(横)置きのモニターディスプレイ2枚を縦に積み重ねた状態になる。

 下のディスプレイには無段階で角度が調節できるキックスタンドが装備され、2枚の横画面を縦積み状態で自立させることができる。縦積みだからフットプリントも最小限で済む。カフェの狭いテーブルやカウンターでもなんとかなるだろう。

 もちろん、キックスタンドを使わなければベタッと机上に置いたタブレットのようにしても使える。2枚のディスプレイに逆方向で同じ画面を表示させ、対面の相手と操作画面を共有することもできる。ディスプレイはマルチタッチ対応で、さまざまな独自ジェスチャーが定義されている。

折り畳めるタブレットで薄型キーボードをサンドイッチ

 つまり、画面2枚が連結されて折り畳めるタブレットというのが、この製品のフォームファクタではあるが、外付けの薄いワイヤレスキーボードが同梱されて、この製品の個性ある特徴性と機動性を高めている。

 ちなみに、この原稿の初稿はすべてこのキーボードを使って書いているが、打鍵フィーリングはすこぶるいい。キーボードそのものは薄いだけに机上の固さによる底突き感が指に若干の衝撃を与えるのは仕方がないとしても、タッチパッドを含めてほぼほぼA4サイズというゆとりのあるレイアウトに窮屈さは感じられない。ストロークが浅いなりにも打鍵感は悪くないが、ちょっとうるさく感じるかもしれない。

 まず、このキーボードを下のディスプレイの画面に重ねると、両者がポゴピンで有線接続され、キーボードの充電が始まる。画面の上にキーボードを重ねるので、もちろんその下の画面は見えなくなるため、ディスプレイは無効化され、上の画面だけのシングルディスプレイになる。

 このキーボード面を机上に置けば、見かけは一枚画面のノーマルなノートPCそのものだ。これなら移動中の不安定な場所で使うのにも問題ない。膝の上に置くラップトップスタイルでの運用もたやすい。

 ディスプレイ2枚を使うには、基本的に縦積み状態での利用になる。自立させたディスプレイの前に、Bluetoothでワイヤレス接続されたキーボードを置いて使う。これがデスクトップスタイルだ。

 ディスプレイはポートレート(縦)置き2枚の状態でも自立させられる。ただ、両ディスプレイがツライチになるわけではなく段差があるので、ちょっと不格好な印象はある。縦置きにした16:10のディスプレイは使いやすいアスペクト比だけにちょっと残念に感じた。

 また、ポート類が下ディスプレイの左右両短辺にしか装備されていないので、縦置きにしたときにはケーブルやプラグが邪魔になる。L型プラグのケーブルを使うなどでなんとかなるが、これもちょっと工夫がほしかったところだ。

一挙両得を欲張っても破綻がない

 14型16:10のディスプレイは、横置き2枚の状態で、画面の実効対角線サイズは19.8型になる。つまり、19.8型のディスプレイを二つ折りにしているような感覚で持ち運べるし、片側にキーボードを装備すれば14型1画面での運用ができる。

 14型16:10というサイズはベゼルを含めてほぼほぼA4サイズ。それを広げれば2倍のA3サイズとなる。もちろん、このディスプレイ内部にはPCとしての機能が実装されている。そういう意味ではまさにA3サイズのタブレットだと考えていい。

 Windowsでの表示は200%拡大が推奨となっているが、96dpi相当の表示のためには250%拡大が必要だ。

 19.8型画面のタブレットが約1.35kg、外付けの薄型Bluetoothキーボードが約300g。キーボードを挟み込み、クラムシェルのように閉じれば合計1.65kgとなる。

 この重量は、満員電車での通勤やクルマを使わない営業目的の外出などで毎日持ち歩くにはちょっとつらいかもしれない。バックパックに入れてかついでもズシリとした重さを感じる。

 でも、23.8型のモニターをスーツケースに入れて出張に出かけていたことを考えれば、機動性ははるかに高い。日常的に手元で愛用しているアイ・オー・データ機器の17.3型フルHDモバイルモニターのLCD-YC171DXは、PCの機能を持たないシンプルなモニターで重宝しているが、その重量が1.1kgであることを考えれば、それよりも大きな画面を確保できるポータブルPCがこの重さで済んですんでいて、しかも、移動中の運用にも支障がないというのは画期的だ。

 移動中の使いやすさに配慮すれば据置時の使い勝手が悪くなったり、あるいは、その逆だったりと、一挙両得というのはなかなか難しいものなのだが、この製品は、そのあたりをうまく解決している点は高く評価できる。

ソフトウェアの工夫で合理的なウィンドウレイアウト操作

 複数のディスプレイを使う場合、それらのサイズや解像度が必ずしも同じである必要はないが、同じであったほうが運用は分かりやすく使いやすい。ディスプレイからディスプレイにアプリのウィンドウを移動させるときも、解像度や拡大縮小率が同じであるにこしたことがない。表示先のディスプレイが変わるたびに、ウィンドウのサイズを微調整するのはめんどうだからだ。

 その点、この製品なら困る場面がない。2つのディスプレイはサイズも解像度も方向も同じだからだ。Windowsにはスナップレイアウトと呼ばれる機能が実装されていて、ウィンドウ右上、閉じるボタンの左にある最大化ボタン(最大化時には元のサイズに戻すボタン)にマウスポインタをあてると、デスクトップ上のどこにそのウィンドウをレイアウトするかを選択して配置できる。

 Zenbook DUO UX8406MAでは、それを拡張するかたちで、ウィンドウのタイトルバーをつかんでドラッグ中に、どのディスプレイに表示するか、そのディスプレイのどこにレイアウトするか、あるいは2枚のディスプレイを連続した1つのディスプレイとみなして最大化するかを指定することができる。

 また、マルチタッチ操作ではウィンドウを5本の指で広げるようにスワイプすると、そのウィンドウが両画面の境目を超えて2画面いっぱいに最大化される。

 ディスプレイ間でウィンドウを移動するには、ウィンドウのタイトルバーをつかんで投げるようなジェスチャーをすれば別のディスプレイにウィンドウを投げつけることができる。

 実に直感的なジェスチャーで分かりやすいが、ASUS独自のものだけに指が覚えてしまうとほかのPCを使えなくなるかもしれない……。さらに、この製品に3台目のモニターをThunderboltポートにつないでみたが、破綻することなくこの機能を使うことができた。

破綻がないn in 1

 1.65kgという多少の重さを我慢するにせよ、14型×2のマルチモニターを持つポータブルPCを手軽に携行でき、14型×1のノートPCとして使う場合に犠牲になる造作もないというのは画期的だし、よく考えられている。こうしたn in 1のフォームファクタは、たいていどこかで何かが犠牲になり、場合によっては破綻してしまうようなケースも少なくないからだ。

 また、画面の折りたたみ構造を採用するのではなく、あえて物理的な2画面に分離することで、薄型のキーボードを挟み込める機構に必要なコストを削減できているのも悪くない方針だ。これを折り曲げ可能なOLEDにすると、そのコストもはねあがり、壊れやすさも高まるに違いない。

 折りたたみ可能な贅沢な1画面にするのか、2画面を組み合わせて実用性を確保するのかは、製品の方向性を決める重要な要素だが、この製品では、そこが潔く決断できている。これでよいのだと思うし、だからこそ、34万9,800円という価格も実現できているのだろう。

 ASUSというメーカーは、PCという道具に、どんな機能が求められているのか、どのような提案をすれば歓迎されるのかを知り尽くしているように感じられる。

 製品にはいたるところに創意と工夫がちりばめられている。たとえば電源関連で気がつくのは添付のMyASUSユーティリティで、バッテリケアモードを指定できるところだ。

 この機能を有効にしておくとバッテリの充電時、全容量の80%に制限して充電が行なわれ、バッテリの劣化を軽減することができる。充電はUSB PD 65Wで同梱ACアダプタの仕様がこうなっている。

 ここまでは各社の製品でもよく見かける機能なのだが、ASUSの製品には加えて「インスタントフル充電モード」という機能が用意されている。この機能をオンにするとバッテリケアモードを無視してバッテリが100%充電される。そして、24時間後にバッテリケアモードが再び有効になるのだ。

 この機能はすばらしい。出先でバッテリ運用が厳しいことが予測されるとき、その運用前夜にこの機能をオンにするだけで翌日の安心感が確保できる。日常的にはオフィスやテレワークスペースで据え置き利用し、日常的に電源をつなぎっぱなしで使っているPCを、たまの外出時に携行する場合だけインスタントフル充電モードを使うようにすればバッテリの劣化は最小限に抑制できる。まさに点と線両対応の機能だと言える。

 きっとこうしたかゆいところに手が届くような機能がたくさん隠れているのだろう。レビューのために短い期間では気がつかない機能を掘り起こしたくなる。少し手元に置いて使い続けてみたいと感じたPCだった。AI PCとしての実力も気になるところだ。