山田祥平のRe:config.sys

カメラ以上ドローン未満

 ZERO ZERO ROBOTICSが、MakuakeでAI飛行カメラ「HOVERAir X1 Smart」の先行予約販売をスタートした。たった99gのこの製品は、ドローンのようだがドローンではない。航空法上求められる許可・承認が必要なく、誰でも気軽に楽しめるという。それなら試せると、同社から製品を借りてみた。ここではそのインプレッションをお届けしよう。

99gの空飛ぶカメラ

 今回の「HOVERAir X1 Smart」は、同社から2023年に発売された「HOVERAir X1」を日本市場向けに99gに軽量化した日本限定モデルだ。先行製品が125gだったのに対して、さらなる軽量化が実現されている。

 日本でドローンを飛ばすには、飛ばせる場所、飛ばす方法、機体の登録、飛ばす資格、そして許可などについて、いろいろな規制があるが、今のところ重さ100g以上のドローンが規制対象で100g未満は対象外だ。つまり99gのドローンは、日本ではドローンのようでドローンではないから比較的自由に飛ばせるということになる。

 本体重量が100g未満のため、日本の航空法上ドローンに求められる許可や承認が不要で、AIによる各種のフライトを楽しめ、これまでは入手が難しかったアングル、そして、パンニングして自動撮影された映像などが手に入る。また、ジェスチャーで大雑把な制御もできるようにもなっている。日本では100g未満の飛行物体は無人航空機ではなく模型航空機に分類されるという。

 軽量化に伴い、2つ折りに畳んで携行時にコンパクトにできる機構がなくなっていたり、スマホとBluetooth接続する機能などが省略されている。Bluetoothは外部マイクでの無線録音時に使うことを想定しているのでちょっと不便かもしれないが有線マイクなどを使えばなんとかなる。

 手にしてみると見かけよりもずっと軽く感じる。今どき、スマホでも200g超えはめずらしくないのに99gの空飛ぶカメラだ。こんな構造で本当に飛ぶのかと最初は半信半疑になってしまうだろう。

自動モードに脱帽

 ZERO ZERO ROBOTICSは2014年に設立されたスタートアップ企業で、ドローンやAI飛行カメラ分野の製品メーカーとしてビジネスを推進してきた。このAI飛行カメラというのがミソで、アプリリモコンなどでの操縦をしなくても、手のひらの上で離着陸し、プログラムされた5種類の飛行モードを使って自律的に写真や動画を撮影してくれる。言ってみればセルフィーの延長線上にある、映像を自動で撮ってくれる空中飛行型カメラということになる。あくまでも被写体はオーナーである自分自身だ。

 飛行モードは、固定された位置に静止するホバリングモード、動くユーザーに追従し20km/hまで対応できるフォローモード、斜め上方に飛んでこちらを狙うズームアウトモード、後ろに後退して周辺を回るオービットモード、そして、垂直またはらせん状に高さ5mほどに上昇して鳥瞰図を撮影するモードが用意されている。慣れてくればスマホを使っての手動飛行もできる。

 手のひらの上に本体をのせ、電源ボタンを長押しすると本体電源がオンになり、任意のモードをボタンで選び、手のひらの上でチョンと電源ボタンを押せば上昇が始まるが、それほど高いところまで上昇するわけではないし、遠く離れたところを飛行するわけでもない。人間の顔を認識するが、顔認識ではないようで、他人についていくような混乱もするようで、そこがかわいいと言えばかわいい。

 だから、よくテレビドラマなどで見るようなドローン映像を期待すると、できあがりの映像にがっかりしてしまうかもしれないが、それでもこれまで体験したことがないような映像が手に入るのはうれしい。しかも、セルフィーに使う自撮り棒と違って両手が使えるというのは大きい。影像クリエイターなら映像表現の幅を簡単に大きく拡げられるはずだ。料理する様子を撮影させるような使い方もあるそうだ。それがワンオペでできてしまうのはうれしい。

 こんな具合にあくまで自動カメラとして室内などでも活用できる。ドローンのプロの操縦でも、カメラの視点を一定に保ったままで旋回させて撮影させるような飛ばし方はとても難しいそうだが、これなら買ったその日にそんな映像が手に入る。

専属の名に納得

 飛んでいる機体をつかまえて裏返しにすれば緊急停止もする。手のひらを差し出せばそこに着陸して停止する様子は、まるで、よく慣れた手乗り文鳥みたいだ。かなり賢い印象をうける。トイカメラという範疇を超えている。これもAIだ。

 同社ではこの製品を「あなただけの専属カメラマン」と呼んでいる。セルフィーではなくAIが撮影するのだ。

 2.7K/30fps、1080p/60fpsといった解像度や1080p HDRに対応し、機械式、電子式、水平維持を組み合わせたトリプル手ブレ補正によって、ぶれの少ない映像を記録することができる。

 GPSは装備されていない。それでもcm単位の精度で正確に自分自身を測位して自律飛行する。4つのプロペラを持つが、完全にゲージ状のフレームで囲われているので、万が一落下させてしまったりしてもプロペラは無傷で衝撃に強い造りになっているし、万が一人に当たったとしても大きな被害になって他人を巻き込んでしまう可能性も低い。

 だが、人混みやクルマの往来する道路で利用するべきではない。何より、飛ばしていい場所かどうかを必ず確認しなければならない。自室内以外はそうだと思っていよう。

 プリインストールされた各飛行モードは調整でき、スマホアプリでのカスタマイズもできる。スマホとの通信はWi-Fi Directで行なわれるそうだ。撮影後の映像は、32GBの内蔵ストレージに記録され、アプリを使ってダウンロードするようになっている。USB Type-Cケーブルで接続すれば、PCからマスストレージとして扱えるので、撮影済み動画ファイルコピーなどの操作はそちらの方が簡単かもしれない。サウンドについては本体の映像にスマホの同時録音を同期させて仕上げるようなこともできる。

 アプリの使い勝手は悪くない。ただ、アプリが提供するマニュアル内では多くの説明が動画で、初めて使うときには小さな画面のスマホでは全貌を把握するのがちょっとつらい。でもタブレットにアプリをインストールして事なきを得た。マルチデバイスで使える仕様もうれしい。

 とにかく、初めての経験で、製品の概略や機能のアウトラインを把握してから使いたいのでマニュアルはじっくり読み進めた。あらゆることをAIにまかせて使うのは簡単な一方で、あれこれ細かいことを望んでも、それなりに応えてくれる奥が深いガジェットなのだが、今のところ流通している情報量が少なすぎる。

 気になる価格は本体と2個のバッテリが含まれる最小の基本セットが5万9,800円。Makuakeでの応援購入期間は4月20日までとなっていて、ディスカウント価格での応援購入が可能だ。また、5月6日まで「b8ta Tokyo - Yurakucho」(東京・有楽町電気ビル南館1F 154区)および「b8ta Osaka - Hankyu Umeda」(大阪・阪急うめだ本店8階)で手にとって試せる。

正しく使って楽しい撮影

 99gの飛行物体は確かにドローンではない。AIを搭載したカメラだ。だが、それなりにドローン独特の飛行音は聞こえるし、いわゆる常識をきちんともって使わないとマナーやエチケットといった点で他人に迷惑をかけてしまうこともあるだろう。99gだから大丈夫と言っても信用してもらえないかもしれない。そういう意味では人の多い観光地などでの利用は難しいだろうし、東京などの大都市部の屋外は人口密集地であるといった理由でまず飛ばせないと考えた方がいい。

 エリア的に大丈夫でも、危ない使い方になっていないかどうかは、常に自分自身で考える必要がある。航空法以外の法規制にも従う必要があり、道路交通法、河川法、小型無人機飛行禁止法、都市公園法・条例などを遵守しなければならない。特に小型無人機飛行禁止法は重さや大きさとは関係がない。東京都においては、多くの場所で小型無人機等の飛行が禁止されている。まずは、それを調べるところから作業を始めなければならない。

 でも、そのあたりを十分に注意して使えば、それはそれは楽しい世界観が手に入る。個人的にドローンを飛ばすのは初体験なのだが、飛ばす現場に立ち会ったことはある。それが自分でできるのだ。子どものころに自作の模型飛行機を初めて飛ばした頃のあの感じ。今回は、とても新鮮な気持ちで新しい体験ができた。心ないユーザーの行動で、さらに規制が厳しくなって、気軽にこうした楽しみを体験できないような世の中になってほしくはない。