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【番外編】気がつけばそこにあるUSB-Cコンセント。その故郷、パナソニック津工場を訪ねてきた

 1879年、エジソンが電気を発明し、当然のごとくコンセントが開発された。世界各国でまちまちのコンセント形状だ。その当時に世界標準といった考え方はなく、それは今なお、連綿と続いている。

 日本においては、エジソンの発明から3年後の1882年に、東京・銀座に電灯が灯された。東京市内に電灯がほぼ完全普及したのは1912年頃と、それから30年間を要している。

空港、駅、カフェ、パブリックスペース、乗り物内などで見かけるUSBコンセント。今はほとんどがUSB Type-Aだが、そのうちUSB Type-Cに置き換わる。
ホテルなどでベッドサイドに充電用のUSB Type-C(以下、USB-C)ポートを装備するところも見かけるようになった

電気インフラは100年前とそう大きく変わっていない?

 明治時代の後半、1887年に電気の供給が東京・日本橋でスタートした。同年、日本初の火力発電所が家庭配電に210V直流で開始されている。その後52Vになり、変圧がたやすい交流発電化を経て、今からちょうど100年前の1924年には、東京電灯社と大同電力社間に電力融通契約が成立し、東西大送電網が完成した。このあたりの歴史は電気事業連合会のサイトに詳しい

 当初の家庭用電源は電灯を灯すためのものだった。各家庭にはたった1つの電球ソケットが装備され、家庭電化製品を使う時には、そのソケットから電球を取り外し、そこから電気をとったとされている。

 全国的に100Vに統一されたのはいったいいつなのか、多くの電力会社がそれぞれ事業を進めていたこともあり、その時期についてははっきりしない。電気事業連合会に問い合わせても、日本の電気が交流100Vに統一されたのはいつなのかがはっきり分からなかった。

 だが、1918年には電球ソケットから電気を取るためのアタッチメントプラグを製造発売した会社があった。松下電気器具製作所として創業、松下電工を経て、現在のエレクトリックワークス社となったパナソニックだ。その後、1920年、電球ソケットは二股化された2灯クラスタとして電源を2分岐できるようになり、電灯を灯しながらコタツや扇風機が使えるようになった。これが日本における最初のコンセントとされる。

これが日本最初のコンセント
アタッチメントプラグ(左)と2灯用差込クラスター(右)。パナソニックのサイトより引用

 ちなみにパナソニックの創業製品とも言えるこの「アタッチメントプラグ」、現在も基本構造を変えずに年間約10万個が製造・販売され、お祭りなどの出店や漁船の照明などにも使用されているそうだ。壁に取り付けられたり埋め込まれられたりするコンセントの登場は1930年代に入ってからだ。まだ100年経っていない。

USBによる新しい電力源登場

 明治、大正、昭和を駆け抜けてきた日本の住宅電気配線器具インフラだが、交流50Hz(関東)または60Hz(関西)、100Vという家庭用電源が普及してからは、まだ推定100年程度しか経っていないわけで、別の言い方をすると、100年も経つのに、かつてと同じであるというのはすごい話だ。

 今、100年前にタイムスリップしても、そのあたりに目についたコンセントで手持ちのアダプタを使って手持ちのスマホが充電できるはずだ。オンデバイスAI搭載の最新スマホなら通信ができなくても、きっと役に立つ(知らんけど……)。

 交流100Vという家庭用電源は、誰もが当たり前に使うインフラとして、24時間365日、人々の暮らしを支えている。だが、周辺を見回してみると、このインフラを直接使っているのは、今や冷蔵庫、電子レンジやオーブントースターなどの調理器具、電灯、エアコン、洗濯機、ドライヤー、TVといった比較的大型の家電製品だけだ。現在、一般の住居内で数多く使われているいわゆる電子機器類の多くは直流で駆動し、電圧も100Vよりずっと低い。また、充電式のバッテリを内蔵しているものも多い。

 その領域をカバーするのがUSBによる電力供給で、5V/0.5~0.9A程度の小電力のものだ。USBは、Windows 98以降で正式サポートされて普及したが、そのとき「バスパワー」と呼ばれたのが、USB電源による電力供給だった。それまでは、機器ごとに異なるゴロンとした専用のACアダプタを使うものが多く、汎用とは真反対だった。

 USB給電では、データ信号線とは別に電力線を持つケーブルが使われ、周辺機器はそれを接続するホスト機から電力をもらって稼働した。その後は内蔵バッテリで駆動されるスマートデバイスのほとんどすべてがUSBでの充電に対応するようになったことは誰もが知る新しい当たり前だ。

 給電のための規格としては、後に、それらを拡張したUSB BCの登場などが目新しい。2007年頃のことで、黎明期のスマホの充電規格としても知られている。そして、それが2012年に規格化されたUSB Power Delivery(USB PD)に受け継がれ、高出力化し、さらに汎用化されていく。

 つまり、USB給電の歴史はまだ四半世紀程度、USB-Cを使うUSB PDに至ってはまだ10年に満たない。

部屋のコンセントは今のままでいいのか

 時計を戻そう。半世紀ほど前の1968年当時、パナソニックは「1部屋2あかり3コンセント」という広告コピーを新聞などで展開していた。「1つの部屋に必要な照明は2種類、コンセントが3つ」、という意味だ。これからの暮らしはこのインフラが支えるということをアピールしていた名コピーではあるが、今の住まいを観察してみると、コンセント不足でたこ足配線だらけ、しかも、ACアダプタがゴロゴロというのを目の当たりにしてがっかりしてしまう。このコピーからすでに半世紀以上が経過しているのにだ。

昔のコンセントはこんな感じの露出配線だった

 アタッチメントプラグや2灯クラスターなど、パナソニックの創業商品から発展した配線器具事業を継承しているのは、同社エレクトリックワークス社(EW社)の津工場だ。電設資材のビジネスユニットに配線器具を扱う事業部を擁し、各種の製品を製造している。

 ここは、瀬戸工場や茨城工場などのマザー工場としても機能している工場で、敷地面積は約10万平米、延床9.5万平米で、EW社の950名と協力企業の従業員を併せ、総数約1,800名が勤務し、約1万品番の製品を作っている。

 その特徴は、一貫内製化で、商品設計、評価、生産、そして製造までをすべてまかなう。自動化ラインと多種少量生産(セルライン)をもち、海外で使われるスイッチもたくさん作っている。金型の製造・保守までをもまかない、かつて入社した社員が定年で退職するというのに、その前からあった金型はまだ現役といったこともあるそうだ。

 同社の配線器具事業における世界シェアは2位で、世界一の仏ルグラン社を追いかける。このほか、中国以外のアジア、インド、トルコではシェア1位を誇る。

 実は、この事業、日本におけるシェアは85%に達する。おそらく普段の生活で日常的に目にする壁のコンセント、電灯のスイッチなどは、十中八九はこの津工場で作られたものだと考えてよさそうだ。つまり、この工場が何らかの原因で停止してしまった場合、日本の新築物件、建設現場は最終的な電気設備を完成することができなくなるという規模だ。

身近なところにパナソニック製品。誰でもたぶん見たことがあるはず、自宅のものもこれかもしれない

 このパナソニックが供給し続けるのが100年同じ住宅配線設備だ。それでも、歳月を追い、少しずつ変わっているし、新製品も追加されている。その1つ、USBによる電源インフラも、ホテルや飲食店、そして住宅などへの普及をもくろまれている。現時点ではUSB-Aのものがほとんどだが、これからはUSB-Cに代わっていく。

 同社がUSB-A一口ポートの製品を最初に出したのは2015年と、意外に最近だ。仕様としては5V/2Aのもので、その後、2021年にはUSB-AとUSB-Cのコンボ2ポートの製品も提供している。

最初のUSBコンセントからもう少しで20年

 同社の最初のUSB電源アダプタ埋め込み製品は台湾市場で出したものだ。2013年に台湾企業の要請で作ったものだ。それがもしかしたら日本でも売れるんじゃないかということで2015年に日本での製品化が実現した。空港などでポートの差し込みがスカスカになっているようなものばかりを見かけることが多かっただけに、しっかりしたものを出したかったという。同社の製品なら3万回の抜き差しに耐えるそうだ。

 これらのUSBポートを持つ製品は、その裏側、取り付け面の奥ACアダプタ相当の部品が実装されている。結果として壁の中に熱をもつものを入れることになるため、その是非も議論されたし、短い期間で規格が変わるものに関わるべきなのかという葛藤もあったという。だが、埋め込むことの価値を見い出し、今までやっていなかったことをやろうということで製品化に至ったという。

 だからこそ、熱暴走のないように、壁の中の放熱の悪さのことなどを経験の力で解決し、老舗メーカーとしての威厳を保つ。それでもアダプタをリセットするにはブレーカーを落とす必要がある。壁に埋め込まれたコンセントの電源を落とす方法はそれだけだ。万が一にも暴走する可能性があるUSB PDアダプタを壁に埋め込むというのはそういうことだ。

 今、あちこちで見かけるようになったUSBコンセントは、3~4割くらいがパナソニック以外のメーカーで、ほかの設備ほどのシェアはもたない。だが、同社では、今後、住宅用だけではなく、今後は什器や造作家具などに使ってもらえるようにしていくことでシェアをのばしていきたいとしている。

裏側のACアダプタ相当の出っ張りが大きいUSBコンセント。熱対策もたいへんだ。
お馴染みの壁コンセントの裏側はこうなっている

この先USBコンセントは何を目指すのか

 同社としてはUSB-Cへの置き換えを業界全体に促進強要するような強引なことをするのではなく、施工業者やデベロッパーなどが、住宅や飲食店、オフィスなどの空間を考えていく創意工夫の中での需要に応えられるような製品を用意していきたいという。

 課題も多い。たとえば、2ポートの口を持つUSB-CコンセントでUSB PD充電をしようとする場合、コンセント裏の制御用ユニットが1つだと、片方から受電デバイスを抜くと、もう片方が瞬間的に停電し、再ネゴシエートが行なわれる。また、2ポートを同時に使った場合、片方だけを使った場合で供給できる電力が異なるなどの弊害もある。

 これらの挙動は自分でUSB PDアダプタを調達していても分かりにくいのに、まして、住宅に最初から設備として装備されているものでは、その仕様を把握するのは難しい。まして、賃貸物件では説明書を手に入れるのも難しいだろうし、そもそもそんなものを要求する入居者もいないだろう。そういうテーマを解決していかなければならないのだから、電気設備のインフラはたいへんだ。

 それでも重要なインフラだ。そしてUSB-Cによるインフラ整備はこの先の重要な課題だ。その現役期間が短期間で終わることは宿命として理解できても、その世代交代が容易になるような工夫を含めて考えるなど、その社会的使命を自覚してほしい。

端子の間隔や同時に差し込まないと開かない蓋付きのものなどを装備で誤挿入を防ぐデザイン

 なお、機能しなくなって初めて業者を呼び交換工事をするというのが家庭における電気設備の常だが、パナソニックも参加している日本配線システム工業会では、その点検を啓蒙するために11月11日を配線点検の日に制定している。「11」がコンセントの差し込み口を想像させ、それが2段に並んでいるイメージからこの日を決めた。

 同工業会では、触ると熱い、変色、ふくれ、割れ、コードの痛み、プラグ刃の変形などをチェックしてほしいと訴える。なお、住宅における配線器具(コンセント/スイッチ)の交換の目安は10年、テーブルタップなどの延長コードの交換目安は3~5年だそうだ。

 日常的に欠かすことのできないインフラだ。大事に考えるようにしたい。