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マイナンバーカード、タンスにしまわず持ち歩け、いつかきっと役に立つ

 能登半島地震発災からそろそろ1カ月になろうとしている。被災地では、復旧、復興に向けての支援、活動が続いている。ITを使ったそのデジタル化による効率化も重要な課題だ。中でも避難所運営の業務は発災直後の自治体業務の中でも大きなウェイトを占めているという。

広域に拡がる被災者の移動範囲

 能登半島地震の被災地では、1次避難所から、1.5次・2次避難所への移動や、避難所以外での生活(県内外の親戚宅や自宅、車中泊等)の開始など、被災者がより広域に移動する機会が増えているという。ここで言う1.5次避難所は被災地外の一時的な避難施設、2次避難所は県内外のホテルや旅館を指す。

 広域にわたる移動のため、個々の被災者の居場所やそれぞれの避難所の利用状況などの把握が難しい。各被災者の所在や行動の適切な把握が困難で、それをどう解決するかが課題となっている。

 その解決のため、デジタル庁と防災DX 官民共創協議会は、石川県からの要請を受け、東日本旅客鉄道株式会社の協力のもと、交通系ICカードSuicaを活用した避難者情報把握のソリューションを提案し、実施する。

 具体的には、避難所の利用者にプラスチックカードのSuicaを配布し、カード受け取り時に、利用者自身の4情報(住所・氏名・生年月日・性別)を登録してもらい、避難所を利用する際ごとに、避難所に設置したリーダにSuica をかざしてもらう。これによって、各利用者の避難所利用状況を把握する。

 このデータは翌日には石川県庁サイドに集約され、県として被災市町のニーズを聞きながら、各避難所の利用者把握、物資支援の効率化、市町が作成する被災者台帳作成の基礎情報等に活用するという。

Suicaで避難所の入退室管理

 1月26日に開催されたデジタル庁の河野太郎デジタル大臣記者会見では、この取り組みについて大臣から直接の説明があった。

 同大臣は、被災者の行動範囲が広域になってきていて状況の把握が難しくなっているとし、避難所以外で暮らす被災者や、知人宅泊や車中泊をする被災者なども含め、避難所の利用状況の把握のための仕組みとしてSuicaを利用することにしたと説明した。

 本来ならマイナンバーカードを利用すべきところだが、今回は間に合わなかったとも言う。

 Suica側のシステムとしてはJR東日本メカトロニクス社による「Suicaスマートロック」を活用する。また、SOMPOホールディングス社の協力のもと、Palantir Technologies Japan社がシステム開発を担当した。この仕組みを利用することで、物資支援の効率化に貢献することができると河野大臣。実現にいたるまでの時間もスピーディで、石川県からの要請から数日で全容を具体的なかたちに実装でき、現在、デジタル庁からは職員2名を石川県に派遣しているが、来週にも正式に運用がスタートするという。

 この取り組みは、18,000枚のSuicaとリーダ350台をJR東日本が無償提供することを申し出たことで実現にいたった。

 この時点で、一次避難所は約310箇所あり、そこに1万人が身を寄せている。昼に来て食料を受け取るだけだったり、夜は帰宅するなど、被災者はいろんな動きをする。彼らがどのような動きをするのか把握したいというのが県の要望だ。

タンスにしまわず携行率を高めよう

 なぜ、マイナンバーカードで運用しないのかという声も聞こえてくる。

 今回は、JR東日本のSuicaとそのリーダが無償提供されたからこそ運用が実現されるわけだが、提供されるリーダはSuicaのためのもの、すなわちFeliCaリーダなので、TypeB、つまり、NFC-Bを使うマイナンバーカードを読み取ることができないという。300台程度のリーダも国は用意していないのかと思うとちょっと残念だ。

 Suicaカードの無償提供を申し出られ、今回は、その行為に甘えた結果で、4情報との紐付けは手作業になる。仮に、マイナンバーカードの読み取りができれば、4情報の自動入力ができたのだ。

 だが、今回のような災害時に備えて準備をしておくことは重要で、今後のためにもしっかりやっていかなければならないと河野大臣は言う。とにかく、マイナンバーカードは平時から携行することが大事なので、デジタル庁としては保有率を上げることにも努めるが、その携行率も同時に見ていかなければならないとも。

 避難所を最初に使うときに、なんらかの簡易リーダがあって、マイナンバーカードで登録ができるのが理想的だ。マイナンバーカードの携行率が高ければそれが望ましい。

 正確な4情報が得られることで、実際の性別や年齢が分かれば必要なものの概数も分かるはずだし、場合によっては、食事のアレルギー、服薬情報なども入れられるかもしれない。

 ちなみに、今、自分のSuicaを持っている人が手持ちのものを使うこともできそうだが、Suica内には4情報が入っていないため、その紐付けが必要になる。また、今回のシステムでは設置するカードスロットに対して利用できるカードの事前登録が必要で、個人所有のSuicaやモバイルSuicaは利用できないとのことだ。

備えあれば憂いなし

 国としては、実証実験などを通じて、災害時の対応を考えてきてはいた。つい先日も、デジタル庁の国民向けサービスグループ防災班が昨2023年10月に神奈川県の協力を得て実施した実証実験結果についてまとめ、昨年12/15に「広域災害を対象とした避難者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究」を公開したばかりだ(広域災害を対象とした避難者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究)。この2月には2回目の実験も行なわれることになっていた。

 実証実験では、マイナンバーカード利用、避難者アプリ利用、交通系IC+PC入力、避難所設置タブレット利用という5つのパターンで平均手続き処理時間などが現状業務とどのくらい違うかが検証された。入所手続きでは手書きでの従来手法に比べて90.2%、つまり、10分の1の時間で手続きが完了する業務削減効果が見られたという。

 実験の成果はオープン化され、知見、ノウハウ、プログラムソースなどを第三者が活用できるようにし、自治体ごとの実装、民間事業者のアプリ開発などを促進する予定だった。

 今回の災害は、皮肉にもその実験結果の公開直後に発生したわけだ。

 実験では、交通系ICカードならSuica以外のカードも使えるようになっていた。今回の実践も、リーダがNFC-Bの読み取りもできるものだったら、何か別の展開ができたかもしれない。

 今後についてはどう進捗していくのか分からないが、QRコードなどでもいいから、発行されるユニークなIDを指し示せるようにし、4情報と紐付けることで同等のことができるようにするようなことも考えていくべきだろう。

 いずれにしても、マイナンバーカードは災害時に忘れずに持って逃げるというよりは、普段から携帯してほしい。タンスにしまわず持ち歩こう。それがいつかきっと役に立つ日がくる(本当はそんな日は来ないほうがいい)。