山田祥平のRe:config.sys

新キーの追加でアクセル全開のCopilot in Windows

 MicrosoftがWindowsの標準キーボードに新たな機能キーを追加定義した。Copilotキーを新キーとして、Copilot in Windowsを呼び出すために使うことができるようにする。すでにCopilotの呼び出しには、「Windows」+「C」キーがアサインされているが、Copilotキーなら単独打鍵でCopilotがはせ参じる。

キー1つで呼び出せるCopilot

 Windowsの日本語標準キーレイアウトは、基本的に1991年当初の106キーボードにWindowsキーとアプリケーションキーを追加した108キーボード、Windowsキーをさらにもう1つ追加した109キーボードがベースとなっている。

 これらの日本語キーボードレイアウトの定義はOADGによるものだ。OADGはPCオープン・アーキテクチャー推進協議会のことで、1991年に設立され、2004年に休会、現在は活動を停止している。日本におけるPC関連の標準化の一貫として、OADGキーボードの策定が功績として残る。賛否両論はあっても混乱を抑制する役割は果たしたといえる。

 ただ、OADGキーボードレイアウトに準拠といいながら、各社が提供する多彩なキーボードは、レイアウトの細かい点で異なることが多い。フルキーボードでもそうなのだから、面積の制限が大きなノートパソコンでは、各社の好き放題で野放し状態といってもいい。

 そして、そこにMicrosoftはCopilotキーを追加する。

 Microsoftでは、左側のWindowsキーと対となるように右側に配置することを推奨しているそうだ。場合によっては右側のCtrlキーと置き換えることなども想定されているらしい。だが、決して強制的な指示をしているわけではないともいう。そもそも、例示されている位置はアプリケーションキーの定位置だったはずだ。

 今回の追加によって、アプリケーションキーはいったん現役を退くかたちとなる。だが引退ではない。Copilotキーは、Fnキーとの組み合わせでアプリケーションキーとして機能するように定義されているからだ。

 Windowsは基本的に、マウスでできることすべてをキーボードでもできるようにすることを目指してUI/UXが設計されている。アプリケーションキーは、マウスの右クリックによるショートカットメニュー表示のために用意された機能キーだ。

機能キーとしてのCopilotキー

 Windows OSを象徴するWindowsキーは、単独打鍵でスタートメニューを呼び出すが、CopilotキーはCopilotを呼び出す。

 Windowsキーは修飾キーとしても使われる。だから、「Windows」+「C」がCopilotキーの単独打鍵と同じCopilot呼び出しになる。ちなみに「Windows」+「C」は、ついこの間までTeamsチャットの呼び出しにアサインされていた。それを奪い取ったかたちだ。

 だが、Copilotキーは、さらにWindows、Ctrl、Shift、Altといった修飾キーとの組み合わせで使える機能キーだと思われる。

 キーを単独で打鍵したときに何かが起こるのに、それがほかのキーの修飾キーにもなるというのがWindowsキーの不思議なところではあったが、CopilotキーとFnキーとのコンビネーションがアプリケーションキーとして定義されている以上、このキーは修飾される側のシンプルな機能キーと考えられる。

 キーを追加してまで簡単に呼び出せるようにするのだから、MicrosoftのCopilotへの思い入れは相当なものだと思うが、この先、どのように展開していくのかは気になるところだ。

 先だっては、一般消費者向けにCopilit Proサービスが開始されるなど、Copilot周辺は、in(製品名)とfor(サービス名)とProと無印で混沌とした状態だ。完全にネーミングで失敗していてややこしくしているのは明らかなのだが、AIがパーソナルコンピューティングにもたらすであろうさまざまな将来を考えると、キーを1つ追加するくらいは必然ということなのだろう。ここは1つ、ポインティングデバイス操作による呼び出しも定義しておかないと、あとで困ったことになるかもしれない。

複数のCopilotサービスで大混乱

 Windowsで使えるCopilotのサービスは複数ある。

  1. 誰でも無料で使える無印版「Copilot in Windows」
  2. 3,200円/月・ユーザーで使える「Copilot Pro」
  3. Microsoft 365ユーザー企業が30ドル/月・ユーザーで使える「Copilot for Microsoft 365」

 これらが共存できるのか、できないのかなど気になることはいろいろあるのだが、少なくとも有料のプランでなければ、WordやExcel、PowerPointといったOfficeアプリ、OutlookやTeamsなどとの組み合わせによる利用はできない。2と3の違いについても重要だ。

 いずれにしても20~30ドル/月というのは、サービスとしてかなり高額だ。現時点での為替で150円/ドル程度だと考えると、企業向けのMicrosoft 365サービスよりも高額、あるいは、同程度の価格イメージだ。1日100円程度でも導入を拒む経営者もいるはずだ。

 そのサービス料金を支払うことで得られる効率や成果物が、その金額をはるかに上回る価値があると信じて疑わないユーザーだけが、その対価としてこの金額を支払うのだ。

 1980年代に、パーソナルコンピュータが登場し、ハードウェアとしてはきわめて高額なものながら、その存在にビジネスのパートナーとしての将来性を見出した一部の人たちが飛びついたのを目の当たりにした。当時と似たようなことが今起ころうとしているわけだ。こんなおもしろい時期に、再び立ち会えるようになるとは思わなかった。

オンデバイス利用が期待される将来のCopilot

 少なくとも、現在のサービスイン時点でのCopilotは、クラウド依存のサービスだ。インターネットを介してサービス側のリソースに接続しないと機能しない。だから遅延も大きい。サービス側のリソースが持つ処理能力にも左右される。使っていて、コンピュータに待たされているという気持ちを抱いてしまうが、それもまた新鮮だ。

 IntelのCore Ultraや、競合ベンダーの製品のように、プロセッサがNPUを搭載し、それを使ったオンデバイスAIの利用は、今年から来年にかけての興味深い業界テーマではある。そこのところをCopilotがどのようにキャッチアップしていくのかも気になるところだ。

 個人的には今、自分の問いかけに対するCopilotの回答を100%信用するわけにはいかないのがやっかいな点だ。得られた結果は必ず疑ってかかる。これは、Googleのような検索エンジンに対してキーワードを入力して出力される結果を見るときとはまったく異なる感覚で、面倒くさい。

 実際、そこには、コンピュータを全面的に信じないという感覚がある。パーソナルコンピュータを使うようになって、それなりに長い時間が過ぎたが、こういう感覚を持ってコンピュータを使う日がくるとは思わなかった。コンピュータが自信たっぷりにウソをつくこともあるというのは、覚悟しておいたほうがいい。その生成結果をしっかりと見極めて評価する能力を持つことが求められる。これはコンピュータを使う上での、これまでにはあまりなかったスキルだ。いっそのこと、自信のない生成については色つきで表示するくらいのことをしてほしいくらいには思う。

 これまでの検索エンジンと、AIとの対話による検索は、これから共存していくのか、それともAIが従来型の検索を淘汰していくのか、そのあたりも気になるところだ。