山田祥平のRe:config.sys

オールインワンコミュニケーションデバイスでオンライン会議を究める

 テレワークが浸透し、リアルオフィスの縮小や移転、統合などを実施する企業も増えつつあるそうだ。仮にコロナ禍が終わったとしても、社会の状況はこの傾向が定着することになりそうだ。時代を担うコミュニケーションデバイスとして、そんな状況を想定したデバイスもいろいろと出てきている。今回は、eMeet社の「AI Webcam Jupiter」を紹介しよう。

テレワークは頭打ち、でも

 NIRA総合研究開発機構が「テレワークに関する就業者実態調査」の報告書を公開した。

 同調査によれば2020年12月1週目時点でのテレワーク利用率は16%だったという。2020年の1月に6%だった利用率が3月には10%となり、1度目の緊急事態宣言下の4~5月には25%まで上昇したものの、宣言が解除された6月には17%に低下、最終的に12月時点まで横ばいという推移イメージだ。また、東京圏に居住する就業者のテレワーク利用率は12月時点で26%で全国平均より10ポイント高い。同調査では利用率に大きな伸びがみられないとし、定着する一方で「頭打ち状態」になっていると指摘する。

 でも、このトレンドは当面続くだろうし、続くように仕向けられている。社会全体のデジタルトランスフォーメーションは、この日本の将来にとって欠かすことのできない要素であり、テレワークはそれを実現するための重要な下地になるからだ。とにもかくにもカタチから入ることで、デジタルを身近なものにすることから始めるのは、強引なようでいて、重要な方法論でもある。できることから始めないと、何もはじまらないのだ。

オンライン会議の三種の神器

 テレワークに欠かせないのがオンライン会議だ。人はこれほどリアルタイムコミュニケーションが好きだったのかと驚くほどに浸透した。その三種の神器といえば、カメラ、マイク、スピーカー。この3つがうまく機能すれば、オンライン会議は電話でのコミュニケーションを遙かに超えて役にたつ。

 本当はメールやチャットなどを併用したほうがもっと役にたつはずだが、なぜか、リアルタイムのこだわりが強いようだが、それについてはここではおいておく。

 さて、ノートPCの場合、この三種の神器は最初から本体に内蔵されていることがほとんどだ。だからTeamsやZoomといったオンライン会議用のアプリをインストールして起動すれば、すぐに会議をスタートすることができる。ブラウザだけでもいい。

 ただ、デスクトップPCに据置大画面ディスプレイを接続しているような場合は、装備をいろいろ考えなければならない。場合によっては音も出ないということも珍しくない。また、ノートPCでも、テレワークの在宅環境では据置きディスプレイを接続して広い作業領域を確保し、外付けのキーボードやマウスを接続し、ノートPC本体は液晶画面を閉じてしまっていることもある。その場合、本体内蔵のカメラやマイク、スピーカーがうまく機能してくれない。

 マイクとスピーカーが一体化したデバイスや、マイク付きのカメラはよく見かけるのだが、これにスピーカーもいっしょになっていれば便利なのにと思っていた。ただ、見かける製品は、業務用を想定しているのか、それなりに高価で大仰なものばかりだった。

 そんなときに目に留まったのがeMeetの「AI Webcam Jupiter」だ。深セン壹秘科技有限会社という企業のブランドで、2016年に創立した若いメーカーで、AI音声技術とビデオコミュニケーション製品を得意としているようだ。この企業のビデオコミュニケーション製品は、PC Watchでも【やじうまミニレビュー】オンライン会議用にスピーカーも内蔵するWebカメラ「eMeet C980pro」として紹介されている。

 新製品の「AI Webcam Jupiter」は2月の発売予定で、もう間もなく各ECサイトなどで購入できるようになるはずだが、現時点では公式サイトにも情報はなく、1月に出たプレスリリースだけが公式情報となる。ただ、インターネットで検索すると、多くの先行レビューが見つかるので、マーケティングに熱心な企業なのだろう。発売に先立って評価させてもらうことができたので、今回は、その概要を紹介したい。

「AI Webcam Jupiter」の使い勝手

 本体は一般的なWebカメラでサイズ的にもほんの少し大きいだけだ。下部にはマウントがついていてディスプレイを挟み込むようにしてひっかけることができる。また、このマウントを折りたたんで角度を調整して、デスクの上に自立させてもいい。さらに三脚ネジ穴も装備されているので、別途スタンドを用意して設置することもできる。重量としては実測で215gあった。ちょっとズシリとくるが、デスクの上などで不用意に動かないのはいい。

 このコンパクトな筐体に、カメラのみならず、スピーカーとノイズキャンセリングマイクが内蔵されている。サウンドはモノラルだが、それが本体のコンパクトさに貢献している。

 背面にはUSB Type-Cポートがあり、PCとケーブルで接続するが。片側がUSB Type-Aでも大丈夫だ。実際、同梱されているケーブルは片側のプラグはUSB Type-Cだが、もう片側はType-Aだった。もちろん両端がUSB Type-Cプラグのケーブルを使ってもいい。USB 2.0のケーブルでもとくに問題なさそうだ。

 接続に際してはWindowsの標準ドライバーだけでひととおりの機能は使える。macOSにも対応している。つまりケーブルで接続するだけで各種ドライバー等が自動的にインストールされて準備が完了する。

 ただ、それだけでは機能をフルに活かせない。商品名がAIを冠することから想像できるように、とくに、カメラの自動機能を最大限に活かすには、Webからダウンロードできるユーティリティ(eMeetLink)をインストールする必要がある。このユーティリティには専用のマニュアルドライバーも含まれている。インストール時にはWindowsの警告メッセージなどがでて、本当にインストールしていいものかどうかためらわれるのだが、今のところ、とくに問題は出ていない。

 このユーティリティをインストールすることで、最大1080P(フルHD)のカメラの解像度を任意に設定したり、表示のミラー反転、露出のオート、固定などを決めておいたり、ホワイトバランスなどのマニュアル設定ができる。

 さらに、AIは、映っている人を検知し、自動的にフレーミングを行ない、まるで専任のカメラマンが会議の進行を追いかけているかのようにズーミングやパンをする。わざとフレームの端っこに移動してもカメラが追いかけてくれる。

 これはデジタル処理によるもので、物理的にカメラがズーミングしたり首を振ったりするものではない。したがって無音だ。

 想定としては、会議室などに複数メンバーが集まっているところを画角96度のワイド画面で捉え、4つのマイクで話者の位置を認識、自動的に話者にズーム、パンする振る舞いをアピールしている。もっとも、在宅勤務やテレワークなどで、多対多の会議というのは現状では成立しにくい状況にあり、当面の被写体は自分だけというのが残念だ。

 さらに、その挙動には、まだぎこちなさが残っているので、バージョンアップに期待したいところだ。具体的にはズームやパンが速すぎて不自然なのだ。この挙動が気になる場合は、ユーティリティを使えば固定してしまうこともできる。

 リリースにもあるように価格は2万3,000円程度とされている。この価格なら、欲をいえばWindows Hello用に顔認証のための深度カメラも内蔵してくれればよかった。Windows 10のバージョン 21H1ではWindows Helloがマルチカメラをサポートするようなので、2台目のカメラとして認証にも使えると便利だ。

 ノイズキャンセルマイクとコミュニケーションスピーカーを内蔵するWebカメラがケーブル1本でPCにつながるというのは想像以上にインスタントで便利だ。スマホとPCを併用し、2つのデバイスで会議に同時参加すればそれでいいというのでは元も子もない。

 画質も申し分ない。音質的にも音量的にも在宅で会議用に運用するにはまったく問題がない。コミュニケーション音声に特化し、より人間の音声が聴きやすいようにしようとしているであろう音質は、決してハイファイとは言えないので音楽を聴くには向いていないと思ったのだが、実際には仕事をしながら聴きのBGM用としてはこのくらいの方が邪魔にならないかもしれない。

 2020年は、間に合わせで調達することが多かった在宅勤務グッズだったかもしれないが、2021年は、その見直しがトレンドだともいう。いろんなデバイスの可能性を探りたい。