山田祥平のRe:config.sys

誰も知らないEvoの世界

 Intelの第11世代CoreがvProプラットフォームに対応した。同時にEvo vProプラットフォームについても詳細が説明された。管理する側とされる側の両方が求めているものに合わせた設計ができるという両プラットフォームがコロナ禍のPCの新しい当たり前となる。

vPro対応第11世代Core登場

 Intelが薄型軽量ノートPC向けのプロセッサとして、Tiger Lakeのコードネームで呼んできた第11世代Coreを正式発表したのが2020年の9月だった。

 OEM各社は、まずコンシューマ向けの製品から搭載製品の出荷を開始。ただ、企業向けのシリーズについてはTiger LakeのvPro対応を待っていた。今回は、そのvPro対応が完了したかたちだ。ほぼ半年の遅れはあったが、これで準備は整った。第11世代Coreを搭載した企業向けのPCが、今後各社から搭載製品が続々とリリースされるはずだ。

 インテルの井田晶也氏(執行役員 パートナー事業本部 本部長 兼 クライアントコンピューティング事業統括)は、「PC=職場」の潮流を強調する。PCさえあればいつでもどこでも仕事ができる、場所にとらわれない働き方への変化が起こっているなかで、安全に、そして効率的にPCを利用するための最新技術の集合としてvProプラットフォームをアピールする。

 ブランドとしてのvProのデビューは2006年の春で、すでに15年の歴史がある。パフォーマンス、セキュリティ、安定性、運用管理性という4つの柱でビジネスニーズに対応するように設計されたプラットフォームだ。

 新しい世代のプロセッサがvPro対応するまでに半年以上かかるのは、検証済みのプラットフォームとして、膨大なテストプログラムをパスする必要があり、それに時間を要するためだとIntelは説明する。

 そして、そのvProとEvoが合体した「Intel Evo vPro」プラットフォームが誕生した。ロゴシールには「Evo Powerd by CORE vPRO」と表記されているので主体はEvoで、それを支えるのがvProと考えてよさそうだ。

Evo vProプラットフォーム誕生

 「Intel Evo vPro」プラットフォームは、管理する側のIT部門のニーズとユーザーが求めるものをテクノロジでカバーしようというトライだ。ただ、Evoそのものは、昨年(2020年)秋にProject Athena Second Editionのブランドとして発表されたものと変わってはいない。

 しかも、そのEvoだが、ロゴを取得するために必要な要件は完全にオープンになっていない。検証済みの項目として、

  • スリープ状態から1秒以内に復帰
  • 一貫性ある応答性
  • フルHDディスプレイ搭載ノートPCで一般的な使用時9時間以上バッテリが持続
  • フルHDディスプレイ搭載ノートPCにおいて30分の充電で4時間のバッテリ接続時間を実現

という4つの項目が検証済みとなっているだけだ。

 スリープ状態からの1秒以内の復帰は、いわゆるモダンスタンバイを想定しているものだと思われる。S3スリープではなく、S0ixによるコネクテッドスタンバイだ。

 だが、結果としてそうなっていれば、手段は問わないということも想定される。ただ、PCをスリープさせて使うことさえ許されない企業もあるので、宝の持ち腐れになってしまう可能性もある。

 また、バッテリに関する項目は、消耗品であるバッテリの機能を取り上げている。買ったばかりのPCはEvo準拠していたはずなのに、2年くらい使っていたら条件を満たさなくなってしまう可能性は高い。そもそも「一般的な使用時」という表現が曖昧だ。

 それでも、必要要件として具体的に挙げられている要素は細かい。


    高速起動
  • コネクテッド・スタンバイ
  • 生体認証 : 指紋、顔、またはBluetoothでのスマートフォン近接

    卓越した性能と応答性
  • 第11世代Intel Core i5/i7 vProプロセッサ
  • Intel Iris Xe グラフィックス
  • Windows 10
  • Intel Adaptix テクノロジー
  • 128bit、8GB以上のデュアルチャネルメモリ搭載
  • 256GB以上のPCIe/NVMe SSD

    プラットフォーム・レベル・インテリジェンス
  • Intel DL Boost + Intel GNA 2.0
  • 遠距離からの音声コントロール
  • PC上でのOpenVINOおよびWinMLサポート
  • ウェイク・オン・アプローチ、ゲイズ・ディミング、ウォーク・アウェイ・ロック オプション

    実用的なバッテリ駆動時間
  • USB Type-C経由での高速充電
  • 低電力対応の部品を搭載、最適化し、共同開発により、効率的な電力制御をサポート

    高速な接続性
  • Intel Wi Fi 6(Gig+)による高速・安定接続
  • Thunderbolt 4によるUSB Type-Cユニバーサルケーブル接続
  • Intel Gb LTEまたは5G(オプション)

    フォームファクタ・イノベーション
  • >12~15.x型フルHDタッチ・ディスプレイ、プレシジョン・タッチパッド、ほか
  • 15mm以下のファンまたはファンレス設計
  • 狭額ディスプレイ搭載・薄軽2in1デザイン
  • 高音質HiFiオーディオコーデックスピーカー搭載
  • HD/720p 30fpsユーザーカメラ搭載

 インテル株式会社に問い合わせたところ、安生健一朗氏(技術本部 部長 工学博士)による次のような回答が戻ってきた。以下に要旨を記しておこう。

 「Evoは、各PCメーカーが独自性を出すことを許容したスペックで、若干仕様範囲に幅があり、厳格にこのスペックだからEvoということはなかなか説明しづらい。方針としては、Evoをハードウェアのスペックでガチガチに縛るのではなく、体感を重要視したテストをパスしたシステムであると位置づけている。これがUltrabookやCentrinoと大きく異なる点」ということだった。

 つまり、Evo準拠PCはIntelと個々のOEM各社が共同で開発し、一定の方向をめざすものであることがわかる。

よくわからないEvoの必須要件

 ただ、上に挙げた必須要件のなかには気になる表現もある。たとえば、フォームファクタ・イノベーションのカテゴリだが、その表現の経緯をたどってみよう。

 まず、2019年のCOMPUTEX時に発表された1.0 Target Specification for Project Athenaでのオリジナル表現では、

  • Ultra Slim 2in1/Clamshell
  • 12-15.x at 1080P or better, touch display, 3 Side Narrow Bezel
  • Backlit Keyboard, Precision touchpad, pen support

となっていた(ファクトシート)。

 その翌年、2020年の9月には、Project Athenaのセカンドエディションが、Evoブランドとして発表された。同じカテゴリのオリジナル表現は、

  • 12"-15.x” ≧ FHD touch display, precision touchpads and more
  • ≧ 15mm fanned/fanless designs
  • Sleek, thin-and-light and 2-in-1 designs with narrowbezels for a more immesive experience
  • Immersive audio with premium high-fidelity audio codec/speaker tunning
  • User-facing camera ≧ HD/720p@30fps

に変わった(ファクトシート)。

 そして先日の「Evo vPro」プラットフォームの説明会では、これが日本語として提示された。その内容が冒頭のものだ。

 エンドユーザー視点でまとめてみると、2021年2月時点でのEvo必要要件は、

  • 12型から15.x型のフルHD以上のタッチディスプレイ、高精度タッチパッドを持つこと。
  • 厚み15mm以下で狭額縁ディスプレイを持つ薄軽デザイン
  • 8GB以上のメモリと256GB以上のPCIe/NVMe SSD
  • Thunderbolt 4対応
  • Wi-Fi 6対応

といったところだろうか。LTEや5G対応は明確にオプションとされている。また、Type-C経由での高速充電については、そもそもThunderbolt 4で少なくとも1つのポートで100W未満の充電ができなければならないとされている(Thunderbolt 4の説明)。

 問題は、必要要件を見るかぎり、タッチ対応ディスプレイが必須であるかのように書かれているところだ。Intelに確認したところ、タッチ対応はオプションであるということだった。

 多くの製品がすでにEvoロゴのシールを貼りつけて出荷されているが、そのなかにはタッチ非対応のものも少なくないから不思議だったのだが、オプションなら納得ができる。

 レノボのThinkPad X1 nanoなども同様にタッチ非対応でEvoロゴシールが貼りつけられている。なのになぜ、タッチ対応が必須であるように読めるドキュメントがそのまま公開され続けているのだろう。これでは誰もEvoの世界観を理解することができなくなってしまう。

 また、12~15.x型の画面というのは「IntelとしてはEvoのコンセプト的にはモビリティを重要視するという観点から12-15.x型ということで説明」(安生氏)ということだった。先日発表されたLG gramは16型、17型のモデルもEvo対応しているが、このあたりもメーカーの独自性が許容された結果ということなのだろう。

 その一方で、キーボードバックライトやペン対応については必須要件から消えている。今も必須なのかどうかがわからない。

 Thundebolt 4やWi-Fi 6についても気になる。これらについては、一般のエンドユーザーに対してその仕様が完全にオープンではないからだ。IntelやWi-Fi Allianceにメンバー企業として登録しないかぎり、詳細なスペックの仕様書は入手できない。その点、USB IFは、あらゆるドキュメントが公開されている点で好感が持てる。PDの仕様書などは、読むのに苦労するほど膨大なページ数だが、それらに自由にアクセスできる点はすばらしい。

 Evoに必要とされる要件が時間とともに変わっていくのは仕方がないし、メーカーの独自性を許容するということも必要だろう。だが、Intelが主導するThundebolt 4がどんなものなのかを具体的な技術情報として示すドキュメントくらいはオープンにしてもいいのではないか。

 エンドユーザーはEvoロゴが貼りつけられたPCを買えば、それで未来が担保されると信じたい。Intelには、そのためにも、Evoについてのあらゆる情報を開示してほしい。vProについてもEvo同様に求められているのではないか。作る側と同様に、使わせる側、使う側も情報は欲しいのだ。

 にもかかわらず、多くの情報が不足している現状では、手放しでEvoを褒め称えるわけにはいかないではないか。