山田祥平のRe:config.sys

コンシューマは先に行って待っているね

 IntelがTiger Lakeこと第11世代Coreプロセッサを発表した。同時に新たなプラットフォームブランドとして登場するのがEvoだ。新しい当たり前に基づくパソコンのひな形とも言えるEvoパソコンについて考えてみる。

Intel全部入りのEvo仕様

 IntelはずっとProject Athenaという名称で、新しい世代のパソコンのあり方を模索してきた。その第2版の仕様を元にマーケティングブランドとして定義されたのが今回のEvoプラットフォームだ。

 Project Athenaは、2019年初のCESで取り組みが紹介され、夏前のCOMPUTEXで第1版が公開されたが、その要件は曖昧だった。当時の発表での体験指標としては、「瞬時の起動」、「優れた応答性」、「十分なバッテリ駆動時間」といった、かなり抽象的なものだった。同様の取り組みとして、Microsoftの「モダンPC」もあるので話はややこしい。

 だが、今回のEvo発表にあたり、必要要件はかなり細かく規定された。

・Intel Iris Xeグラフィックス
・第11世代Intel Coreプロセッサ
・共同開発された設計
・システム仕様検証済み
・バッテリの応答性
・実用的なバッテリ駆動時間
・瞬時に起動
・高速充電

という基本的な要素が掲げられ、さらに、そのシステムの構成として、

・Intel Wi-Fi 6(Gig+)802.11ax
・Thunderbolt 4
・256GB以上の PCIe/NVMe SSD
・8GB以上のマルチチャネル・メモリ
・オーディオオフロード機能つきBluetooth 5
・63dB以上の信号対雑音比および1dBマッチングのデジタルマイク×2
・高度で忠実性の高いオーディオコーデック/スピーカー・チューニングとIntelスマート・サウンド・テクノロジー
・スピーカーの音圧レベルが78dB/50cm以上およびベース周波数が353Hz以下
・前面カメラはHD/720pおよび30fps以上
・WoV(Wake on Voice)搭載の音声アシスタント
・Cortana Premium Far Field 要件(4m以内で利用可能)

が挙げられている。まさにIntel全部入りだ。

 興味深いのは、メインメモリ8GB以上と、256GB以上のSSDストレージを必須としている点だ。その一方で、WAN対応などはオプションになっている。

 気になるのは「瞬時に起動」という項目で、クラムシェルパソコンではカバンのなかなどで、液晶ディスプレイがちょっと開いたときに誤って復帰することがないように、1秒程度のマージンを持たせている場合がある。そんなパソコンでは1秒以内の復帰はどう考えても無理だ。準拠のためには製品仕様の再考も求められるだろう。

足を引っ張るvPro

 Intelのプラットフォームブランドとして思い出されるのはCentrinoだ。こちらは2003年に登場し、当初はWi-Fi対応のモバイルパソコンのプラットフォームブランドとして使われていたが、2009年には使われなくなってしまった。

 それでもCentrinoがいつでもどこでもインターネットにつながるモバイルパソコンの浸透に大きく貢献したことは間違いない。まさに、モバイルパソコンの新しい当たり前を作ったと言える。そして、Centrinoを受け継ぐものとして、2011年にはUltrabookが定義されるなどの動きもあった。

 今回のEvo投入によって、世のなかのメインストリームのパソコンがことごとく誇らしげにそのロゴステッカーを貼りつけたものになるわけではないだろう。日本の市場なら、GIGAスクール構想向けのパソコンは徹底したコストダウンが求められているため、Evo準拠など夢のまた夢だ。だが、個人所有のパソコンにおいては安いからと言って4GBメモリ搭載のパソコンを選んでしまうような悲劇を抑制するのには役立つかもしれない。

 一方、企業向けパソコンはどうかというと、こちらはこちらでvPro問題がある。各社の企業向けパソコンが第10世代のCoreを搭載するようになったのはつい最近の話だ。vPro対応の第10世代Coreが発表されたのは今年(2020年)の5月なのだ。第11世代プロセッサが華々しくデビューしたというのに、企業向けの第10世代はこれからとなる。

 vPro対応は、企業向けということで、その評価項目は膨大な数にのぼるそうだ。それに時間がかかるということで周回遅れにならざるを得ないというのがIntelの見解だ。とくに今回は第4世代のCSMEということで通常のプラットフォームよりも、さらに時間がかかる可能性があるという。

 CSMEはConverged Security Management Engineのことで、以前のMEの流れをくむものだ。早い話が、パソコンのプロセッサとは独立して、チップセットとして組み込まれたサブシステムで、いわゆるパソコンとは独立して稼働するもう1つのコンピュータだ。

 企業では、セキュリティ確保のためのリモート管理などにこの機能を利用するため、vPro必須とするところも多い。だから企業向けパソコンのブランドはvPro対応プロセッサの登場を待つことになる。コンシューマ向けと企業向けパソコンの大きな違いは、こうした管理機能が充実しているかどうかにある。

 Evoが第11世代Coreを必要とし、vPro対応が前世代よりさらに時間がかかる可能性があるということは、企業パソコンがEvo Readyになるのは早くて2021年末といったところだろうか。2022年の春頃に発表される製品が、ようやく企業向けEvo機としてデビューすることになる。そのころには第10世代Coreどころか、第13世代Coreがデビューしている可能性もある。

先を行くコンシューマパソコン

 コロナ禍のもと、ステイホームが求められた結果、在宅勤務が新しい当たり前の1つになろうとしている。そのとき使われるパソコンは、企業のオフィスで使われるのと同等のセキュリティが担保されなければならない。だからこそ、vProは必須だと、企業内のシステム管理者は考えるのだろう。

 そういう意味では、現時点でのEvoはコンシューマ向けパソコンのためのブランディングであると言える。とは言え、これから変わる世のなかと働き方のトレンドのなか、もしかしたら、コンシューマ向けパソコンに注力することはIntelはもちろんパソコン各社にとっても悪いことではないのかもしれない。

 実際、スマートフォンの世界では、企業向けもコンシューマ向けもなく、共通のプラットフォームが業務向けにも使われている。モバイルデバイスの管理についても、さまざまなソリューションが提供されている。パソコンも、牛歩のvProにこだわるのではなく、そろそろ新たなソリューションを見出さないと、仕事で使うパソコンはつねに周回遅れということになり、最新のテクノロジの恩恵を得られないということになりかねない。それではまずいのではなかろうか。