山田祥平のRe:config.sys

つなぐ会社

 テレワークソリューション周辺が賑やかだ。今後の高齢化社会における介護問題や、育児などの課題、さらには、東京五輪に向けて、都心の混乱を回避するなど、サテライトオフィスや在宅勤務に対するニーズが高まっている。そして今回のウイルス騒ぎが、そのトレンドに拍車をかける。

ウイルス感染拡大を回避せよ

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が顕著だ。それにともない社会全体が、感染拡大を回避するためにさまざまな取り組みをはじめている。たとえば東京都は感染症対策本部会議で、東京都が主催する大規模イベント、食事を影響する催しを、今後3週間は(2月21日時点)原則として延期/中止することを表明、さらに都庁における対策について、テレワーク・オフピーク通勤関連でも実施方針を示し、東京五輪への取り組みの前倒しを加速するとしている。

 個人的にも、この原稿を書いている2月21日現在は、本当だったらスペイン・バルセロナに向かう飛行機のなかのはずだった。だが、ご存じのようにモバイル関連の展示会MWCが新型コロナウイルス感染を懸念して中止となったため、やむなくバルセロナ行きをキャンセルしてしまった。

 MWCの中止にともない、ブース出展やプレスイベントを実施する予定だった各社の一部は、発表をオンラインイベントなどで実施するように切り替えた。今朝も某社のブリーフィングにZoomミーティングで参加したばかりだ。

ソフトイーサの社会貢献

 そんなことをしながら午前中を過ごしていると、ソフトイーサから「新型コロナウイルス感染防止のためテレワーク用Desktop VPN無償開放を実施」というニュースが飛び込んできた。4月30日までの間の実施で、状況に応じて延長もその都度判断するという。

 勤務先のPCに同社のVPNサーバーをインストール、自宅のPCにクライアントユーティリティをインストールすることで、インターネットを介して安全に会社のPCにリモートアクセスして画面を操作できるようになるという。同社では、今回のDesktop VPN無償開放にあたり、既存会員接続状況の悪化が予想される場合には、随時設備の増強などの改善を行ない、正常な使用環境の維持に努めるという。

 クライアントユーティリティについては無料だが、サーバーソフトについてはマシン1台ごとのライセンスが必要で、月額基本料金995円のサービスが、期間限定ではあるが無償での提供となる。もちろんリモートデスクトップなどのためには個々に環境を用意する必要はあるが、少なくとも、ファイアーウォールなどの内側にあるリソースをインターネット越しに使えるので、社内でしかできなかったことが自宅などでもできるようになる。

 こうしたソリューションの導入を、企業側が許容するかどうか、あるいはネットワーク対策的に遮断している可能性も含めて興味深い取り組みだ。

 IT企業のなかには、早々にテレワークへの切り替えを実施しているところもあるようだが、言うのは簡単だが、その実施はなかなかたいへんだ。VPNを使うのは当たり前としても、社員全員がそうしようとしたときに、設備やライセンスなどで即座の対処ができるかどうかも重要な課題となりそうだ。

会社ってなんだ

 そもそも会社とは一体何なのかを考えたときに、まっさきに思い浮かぶのが建物というか場所の存在だ。コワーキングスペースがトレンドで、異業種との出会いやコミュニケーションを期待し、フリーランサーも足繁く通うケースが増えているともきく。会社は会社でそれなりに意味があると考えることもできる。

 だが、会社の本質は建物や場所といった物理的なものではない。よってたかって何かを成し遂げる、あるいは成し遂げるべきは何かを考える共同体だ。共同体であるという意識さえあれば個々の構成員は常にいっしょにいる必要はないことも多い。

 加えて今は通信インフラがきわめて充実している。月に5,000円前後出せば10Gbpsの光回線が個人の家庭に引き込まれ、春に5Gネットワークのサービスがはじまればモバイル環境も充実する。働く場所を問わない職種であれば、エネルギーと時間を費やして会社まで行かなくても十二分に仕事ができる。

 会社にとって場所と建物という要素が重要だったのは、その場所や建物のスペースでしか確保できないモノやコトがあったからだ。だが、今は、そのモノやコトがテクノロジーとデジタルトランスフォーメーションのトレンドのなかで時空を超えている。紙やハンコの世界も次第にデジタルに置き換わり、通信回線を一瞬で伝送され、どこにいたって、かつてと同じ環境が得られるという世界をもたらした。

 明日からでも得られる環境ではあるが、今はまだ半信半疑で様子見といった企業は少なくない。そのためのデジタルトランスフォーメーションなのだが広く受け入れられるまでにはまだ時間が必要だ。

 そんな矢先に今回の新型コロナウイルス騒ぎであり、その感染拡大抑制のためにできることは何かが問われている。ここはひとつこの逆境をうまく踏み台にして、遠い将来を近い将来に引き寄せることを考えるべきだろう。一人一人が、今までやってきたことは何だったのだという実感を持つことができれば必ず働き方は変わる。