山田祥平のRe:config.sys

暮らしと仕事の再定義

 国を挙げての新型コロナウイルス対策が進行中だ。マスコミの報道も、いったい何を信じていいのかわからないくらいに混乱しているし、デマも飛び交っている。ウイルスは怖いが、いろんな人がいろんな暮らしを考え直すいい機会だと前向きに考えることにしよう。

インフラあってのテレワーク

 この原稿を書いている時点で丸1週間電車に乗っていない。都心に出ることなく自宅周辺の徒歩範囲で生活を続けている。開催が中止されたスペイン・バルセロナでのイベントMWCの開催期間だったので、あえてバルセロナまで出かけていろいろ考えごとでもするという手もあったが、万が一を考えて渡航はキャンセルした。

 そして、この1週間、いろいろな記者会見やイベントが中止となったり、オンラインイベントに変更されたりで、都心に出かける必要がなかった。こんなことならバルセロナに行って気分をリフレッシュしてもよかったかもしれないと、不謹慎なことを考えてしまう……。

 ぼくの場合、基本的に職場=自宅だ。職住を分離するというポリシーのフリーランスもよく見かけるが、個人的にはその移動に要する時間がもったいないと考えている。つまり、ぼくにとって在宅勤務は日常だ。

 その一方で、仕事としての仕入れに相当するのが取材だ。そして取材は、どんなに通信が発達したとしてもコタツ取材というわけにはいかず、コトが起こる現場に出かけて人の話を聞き、イベントや発表会などに参加し、経験や体験をする。

 そのほうが受け取れる情報量が多いからだ。もちろんモノについては在宅でじっくりとレビューすることができるが、昨今ではモビリティの評価がからむだけに、自宅を一歩も出ないでデバイスを評価というのは難しい。

 それでもとりあえず、しばらくの間は、モノによるコト体験を自宅=仕事場で実践することでウイルス騒ぎの収束を見守りたいと考えている。1時間の発表会イベント、説明会などに出席するために、往復約2時間をかけて電車で移動するというのがなくなると、1日の時間の使い方に余裕が出てくる。

そうは言っても在宅で仕事をするのは家庭事情として無理というケースも少なくない。それでもできることからはじめて見るのは大事なことだ。そのことで暮らしと仕事を再定義できるかもしれない。

 いずれにしても、在宅である程度の仕事ができるのは、電気、ガス、水道、通信といったインフラがきちんと機能しているおかげだ。また、流通やサービスについても同様で、宅配便は日常どおりに荷物を運んでくれるし、近所のスーパーでは普通に買い物ができ、飲食店での食事も支障はない。eコマースサイトでの買い物も、ちゃんと翌日には届く。マスクやアルコール消毒液などの品不足が目につくが、これまた製造現場の方の努力ですぐに解消されるだろう。本当に感謝しかない。

 普段は当たり前のように使っているインフラだが、それらを支える人々のおかげであることを実感するとともに、こういう状況だからこそ、在宅で仕事が不可能な仕事をする人々の負担を少しでも軽減するためにテレワークすることも1つの社会貢献につながるのではないか。

 多くの人々が会社に行かないという選択をすることより、どうしても仕事の現場に行かなければならない人々の通勤ラッシュも軽減され、感染リスクを抑止する効果もあるに違いないからだ。

 仕事や暮らしを支える電気ガス水道、そして通信のインフラは欠かせない。会社で当たり前のように使っているインフラを自宅で同じように作業しようとしたときに支障はないのかどうか。

 とくに、通信については深刻な問題だ。いっそのこと、通信各社が従量制料金のデータ通信費を、一定期間、無料にするような施策で、タガが外れた状況がどのようなトラフィックを生むのかをチェックするにはいい機会だとも思うが、現実的には難しいかもしれない。

レノボ・ジャパンによるマニュアル公開

 そんなタイミングにあわせて、レノボ・ジャパンが全社一斉テレワークのノウハウをまとめた「テレワークスタートガイド」を公開した。緊急テレワークのための対応マニュアルということで、新型コロナウイルス対策で政府がテレワークの積極採用を推奨し、全社規模でテレワークを実施する企業が増えてきているのを受けてのものだ。

 一部の先進的企業を除き、生産性の低下、セキュリティの懸念などから、実施をためらうケースがあると考えられるとし、昨年(2019年)発行した同ガイドに、「緊急テレワーク、対応マニュアル」を追加、テレワークインフラや実施経験が十分でない企業がどのように今回の緊急事態に対処すべきかを解説したものだ。

 冊子はA4文書のPDFで26ページある。そのうち、今回の追加部分は22~24ページの3ページ分で、COVID-19への緊急対応で十分な準備期間がない状態でテレワークを導入せざるを得なくなった企業や組織に向けて最低限カバーする必要がある項目をまとめてある。

 「労働基準関連法令への対応」、「最低限必要なPCのセキュリティ対策」、「コラボレーションインフラの導入と利用ガイドの明示」といった実践マニュアル的な項目から、「テレワークの実行はトップダウンで」、「テレワークだからこそ意識してコミュニケーションの接点を増やす」といった文化的側面からの項目が並んでいる。

 ウイルス感染リスクの回避は、なんだか壮大な社会実証実験に参加しているような気分だが、東京五輪でいきなりぶっつけ本番ではなく、社会のムードを確認しておくことは大事だし、そのために知っておきたい要素がうまくまとまっているドキュメントなので、ぜひ、一読しておくことをおすすめしたい。

 もっとも、本当に東京五輪が開催されるかどうかは、今の時期をどう乗り切るかにもかかっている。騒ぎすぎと感じようが、どうだろうが、こういう機会でもなければなかなか取り組めるものではない。マイナス要因をプラスに転じるいい機会だくらいに考えてできることからやってみてほしいと思う。

組織と個人とコミュニケーション

 こうした状況下、注目を集めているのがMicrosoft Teams、Zoomミーティング、Slackといったコミュニケーションツールだ。

 どのツールも一長一短がある上、組織ごとに導入しているツールが異なるので、外部から連絡するには相手がどのツールを常用しているのかをあらかじめ知る必要がある。さまざまな相手と円滑にコミュニケーションができるようにしておくためには、複数のツールを入手し、相手に応じて使い分ける必要がある。とくに、フリーランスは、組織としての相手にあわせるしかない。

 インターネットメールは組織を超えたコミュニケーションを、相手のメールアドレスだけで実現してくれる便利なツールだが、近頃はやっているコミュニケーションツールの閉鎖性は、なんだか30年前のパソコン通信時代に戻ったようで、ちょっと困惑しているし、そもそもこれらのツールできちんとリアルタイムに連絡がとれた試しがない。先進的IT企業でもまだまだ様子見で、常用していても組織外とのコミュニケーションがオフになっているドメインが少なくないようだ。

 これなら身近なツールとしてFacebook Messengerのほうが確実で便利ということになってしまうのだが、プライベートと仕事は明確に分離したいと考えるポリシーの方も多いし、万能とは言いにくい。とにかくいつでも誰とでも確実に連絡をとる方法が携帯電話やSMS、場合によってはLINEのように端末に縛られる方法しかないという状況だ。

 先のテレワークスタートガイドを公開したレノボ・ジャパンも、そのことを伝えるプレスリリースはインターネットメールで届き、その末尾に「※現在広報部もテレワーク中につき、携帯電話にご連絡ください」と担当者の携帯電話番号が記されていた。やはりまだそんなものなのだろうか。