メーカーさん、こんなPC作ってください!

改造バカ、ラノベ向けPCを考える。ついでに1本ラノベを書き起こす

高橋敏也氏

 PCは実に多くのことができるが、最近ではスマートフォンなどの能力も一気に向上しており、PCでなければできないことは減りつつある。だが、ものづくり、あるいはそこまで行かなくても、自分で編集・作成するオリジナルコンテンツの制作においては、PCに比肩するデバイスはないのが現状だ。

 ただし、何でもできると言っても、実際には、予算上限が決まっているので、いくらでも高性能なパーツを使えるわけではないし、1人が使う用途もある程度限られている。

 本コーナーでは、主にクリエイターやクリエイターを目指すユーザーを想定し、特定の用途において価格性能比の面で最適なPCとはどのようなものかを、その分野に造詣の深い専門家やライターの方、および実際にPCを製造するメーカー、PC Watchの三者が一緒に議論、検討し、実際に製品化する。

 前回の「プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える」に続き、今回は「ラノベ(ライトノベル)向けPC」というものを企画してみることにした。

 監修者として、Watch各媒体やDOS/V POWER REPORTでもおなじみの改造バカこと、ライターの高橋敏也氏を迎え、PCの製造については今回もパソコン工房に協力いただき、11月某日、パソコン工房社内で、企画ミーティングを行なった。

なぜ改造バカがラノベを?

【司会】それでは、「ラノベ向けPC」を考える企画ミーティングを始めたいと思います。よろしくお願いします。

 まず最初に、おそらく今回の趣旨を聞いて、読者の方、そしてパソコン工房のスタッフの方も、なぜ高橋敏也さんがラノベ向けPCを考えるのか疑問に思われていることでしょう。その辺りの背景を、敏也さんご自身からご説明いただけますか。

【高橋】私はライター業をかれこれ30年やっており、それだけでも物書きと言えますが、実はその前にデザイナーをやってまして、加えてコピーライティングもやっており、当時は小説を書きたいと思ってたんですね。それである方に師事し、12冊くらい小説を書いたんですが、ただの1冊も売れることはありませんでした(泣)。その頃には、ライター業も始めており、そちらで手一杯になったのと、これも物書きであることに変わりはないので、小説の世界からは離れ、ライター業に専念し、今に至るという感じなのです。

 ちなみに、当時はまじめな記事もいっぱい書いていたんですが、最近はまじめな記事を書かせてもらえないという状況になってます(笑)。

 話が戻りますが、物書きをやってた頃、実はラノベの初期の時代に、私も4冊ほど書いたんです。それは先生からは離れて一人で書いていたんですが、2冊出したところで、当時の出版社が潰れてしまい、残りをほかの出版社に持ち込んだんですが、結局売れませんでした(笑)。

 今のラノベというのは当時とはちょっと違いますが、文章を書くという本質的な点は変わってません。その意味で、物書きにとって、PCがこうあるべきということは、私にも語れると思っています。もちろん、ラノベ向けPCというものは、小説家やライターにもお勧めできるものになります。

 余談になりますが、私の師匠はSF小説界の重鎮の一人だったんですが、当時駆け出しの私はこう言われたんです。「高橋君、物書きになりたいんだったら、とりあえず原稿用紙300枚分書いてみようか」と。

 どういうことかというと、人に夢を語ることや、アイディアを披露するのは楽しいんですが、物書きは文章を書いてなんぼなので、300枚書けないと意味がないんですね。それができないと物書きにはなれないんです。物書き志望の方は、そこを勘違いしている人もいるようです。今回企画では、その、まず300枚書くことをより快適にサポートするマシンというものを考えます。つまり、使いやすい万年筆や原稿用紙に相当するものをPCで作りたいと思います。

 ただ、原稿用紙300枚と聞くと怖じ気づいちゃう人もいるかもしれませんが、最近はKindleでの電子書籍個人出版(Kindle ダイレクト・パブリッシング)などがあり、これらだと紙と違って、埋める必要があるページ数というのはぐっと減ります。

ラノベ向けPCではここがポイントとなる

【司会】では、ラノベPCのスペックについて考えていきます。ポイントとなる点は事前に敏也さんに列挙してもらっているので、順番に進めます。

【高橋】まずは「静音性」ですね。執筆のための思考を妨げないという意味で、ストレージはHDDでなくSSD、電源はファンレスとはいきませんが静音のもの、ビデオカードはファンレスが望ましいかと思います。

 ビデオカードは、後にも話すディスプレイについて、デュアルディスプレイを推奨したいので、低負荷ではファンが回らない「GeForce GTX 970」あたりが良いかなと思います。

【司会】GeForce GTX 970はちょっとオーバースペックじゃないですかね?(笑)

【高橋】デュアルディスプレイで不都合なければ良いので、CPU内蔵でもいいんですけどね。あくまでも私の希望です(笑)。

【司会】僕はCPU内蔵で十分かと思いますが、どうでしょう?

【パソコン工房】最終的には利用するディスプレイの解像度とインターフェイスにかかってくると思うんですが、今回の用途だとフルHD(1,920×1,080ドット)でいいのかなと考えていますし、ビデオカードを載せてしまうと、筐体サイズも大きくなりがちなほか、ビデオカードがファンレスでも、ケース内の温度が上がり、その排熱でファンノイズが上昇することも懸念されるので、CPU内蔵でいいのではと思います。

【司会】電源については、ケースも関わってくると思います。

【高橋】ケースについてはあまり重要ではないですが、やはり小型である方が望ましいですね。

【パソコン工房】ケースは、全ての仕様が決まってから最後に決まることになりますが、今回の仕様だとCPUのクロックはあまり重要ではなく、2画面出力が快適にできるだけのGPU性能があればいいので、CPUの発熱は小さくなります。ということで、現時点ではACアダプタ電源を考えています。それができない場合は300W SFX電源あたりを検討しています。

【高橋】異論はないです。ファンレス電源を採用すると、高くなったり、信頼性に心配がある場合もありますので。

【パソコン工房】はい。そういった点からも、なるべくケース内の熱源は減らしたいというのが今回の1つのポイントです。

【司会】SSDについて、扱うのがテキストメインなので、容量はあまりいらないかと思いますが、どうでしょう?

【高橋】いらないですね。そして、次の要件となるのが「データ保持が万全であること」です。ラノベPCにとって、ストレージは容量よりデータを喪失しないという点が絶対条件となります。できればRAID構成が欲しいですね。理想を言うと、RAID 0+1ですが、今回は性能は重要でないので、RAID 1のみでいいかなと思います。

【司会】パソコン工房さんとして、RAIDのオプションに問題はありますか?

【パソコン工房】RAIDオプションの提供や製造は問題ないのですが、RAIDに問題が発生した場合、詳しくないユーザーさんですと修復がスムーズにできない場合があります。私どもとしては、今回の趣旨だとRAIDにするより、高信頼のストレージにするであるとか、バックアップとしてオンラインストレージを活用する方が良いのではと思います。オンラインストレージにリアルタイムでバックアップを保存するようにしておけば、RAIDに近い信頼性が得られますし。また、ストレージの台数を増やすと、これもむやみに本体を大きくさせる要因となってしまいます。

【高橋】では、RAIDは本当に必要な人のためだけのオプション扱いとしましょうか。

【司会】容量は100~200GB程度あれば十分ですかね?

【パソコン工房】今回は搭載メモリ量も少なそうですし、その分ハイバネーション用のディスク占有サイズも小さくなるので、インストールするソフトの事を考えても、数十GB程度でしょうから、100GBあれば十分かなと思いますが、安全を見て240GBあたりを推奨させていただきたいと思います。ブランドはSanDiskの「Extreme Pro」を想定しています。

【高橋】もう1つ、UPSもオプションで用意していただきたいです。と言っても、USBで繋いで、ソフトをインストールしてというような企業向けのものではなく、停電が起きたときに5分だけ保つもので十分です。その間にデータを保存して、PCの電源を切れればOKなので、テーブルタップ型の小さいもので十分です。あくまでもオプションとして用意し、そこまでコストをかけられないよという人は運用や知恵でカバーしていただければと思います。

【司会】1つ質問ですが、そもそも保存をしないでいいテキスト編集ソフトを使うというのは、どうなんでしょう? 例えば、「Googleドキュメント」は、基本的に常にGoogleドライブに自動保存されますし、「OneNote」も保存という概念がなく、OneDriveを使うとクラウド上に自動保存されます。こうすると、ユーザーはバックアップや停電のことを意識しなくて済むと思うのですが、こういうスタイルは物書きの人にとってありなんでしょうか?

【高橋】ありですね。私自身、そうしようかと最近考えています。メインをOneDriveかGoogleドライブにして、残りの片方にバックアップを保存して冗長性を取ろうかと画策しています。ただ、これは初心者の方にはハードルが高く、今回の企画からは逸脱してしまうかなと思います。

 それ以外の方法としては、テキストエディタの自動保存を活用することが挙げられます。例えば「秀丸」の場合、「動作環境」を開いて、「上級者向け設定」にチェックを入れると、「ファイル」の中に「自動保存」の設定が表示されるので、必要に応じた頻度で自動保存できます。あるいは、秀丸のバックアップを使ってもいいです。保存先フォルダをクラウドストレージにしておけば、PCの故障や停電などが発生しても、データを全て失うというのは避けられます。Windows 8.1では、OneDriveがシステムに統合されているので、こういう使い方ができます。

【司会】3つ目のポイントは「目に優しいディスプレイ」となっています。

【高橋】ディスプレイについての要求は、解像度はフルHD程度、サイズは文字の見やすさから23型以上程度が望ましいと思います。ピボットは必須ではありません。私自身、ピボットで使っていたことはあるのですが、ここ数年は使っていません。というのも、横書きが標準的になったからです。1台を横置きにして、もう1台をWebブラウザで資料を見る用で縦にピボットさせるという使い方も試したんですが、視線の移動が多くて疲れるので全て横にしました。今所有してる3台中、2台はピボット対応ですが、縦向きでは1度も使ってないです。

 もちろん、物書きとしての経験を積むとこだわりも出てきて、「一太郎」の原稿用紙モードで書く人とか、縦書きで書く人とかもいます。でも、今回はターゲットは入門者なので、ピボットはなくて構わないでしょう。ピボットよりUPSの方が優先順位は高いです。

 それよりも重要なのは目に優しいことです。長時間使うだけに、ここはこだわりたいところです。

【パソコン工房】当初、目に優しく、ブルーライトカット機能があり、ピボット対応のもので検討していたのですが、この3つを同時に満たす製品がなかなかないのです。ピボットが要件から外れるといくつかの選択肢が出てくるので、その中からBTOでオプション提供としたいと思います。

【司会】4つ目のポイントは「スムーズに執筆できるキーボード」ですね。

【高橋】個人的には東プレの「REALFORCE」シリーズがお勧めですが、これをバンドルはできますか?

【パソコン工房】できます。ただ、キーボードは一概にこれが一番お勧めというのが言いにくい製品なので、ロジクール製品やダイヤテックの「FILCO」シリーズなど、いくつかの選択肢を用意したいと思います。

【司会】キーボード、マウスは、個人的な好き嫌いがありますので、製品が発売されたら、パソコン工房の店頭に展示機を用意していただき、事前にユーザーが試せるといいですね。それができないユーザーに対しては、参考までにオプションで用意されるキーボードを敏也さんに使ってもらい、レビュー編で感想を書いていただきましょう。

【高橋】ちなみに、私は「REALFORCE 106」の初代から使っていて、非常に気に入ったのですぐ2台買い増しました。壊れたときに代替がないと困るので。で、結局2台は使い潰しました。その後、PS/2版からUSB版に変わり、その時は5台一気に買いました(笑)。こっちは2年経ってまだ1台しか潰してないので、あと10年くらいは使えそうです(笑)。それくらいキーボードは重要です。もちろん、こだわらない人もいますが、一般的には、良いキーボードを使うべきでしょう。

【司会】マウスについてはどうなんでしょう?

【高橋】私は、移動速度が速いと言うことでゲーミングマウスを好んで使っています。デュアルディスプレイだと、端から端までの距離が遠いので、そこをいかに速く移動できるかが重要なのです。これも好みの部分があるので、いくつかのオプションをBTOで用意していただければと思います。

【パソコン工房】長時間利用することを考えると、エルゴノミクスマウスも用意した方がいいかなと思ったのですが、最近の製品だと左利きの人が使えるものがないのです。左利きでもマウスは右手で使う人もいますが、オプションで用意すべきか悩ましいところでもあります。

【高橋】トラックボールを使ってる人もいますが、それはマニアックすぎますね。今回は標準とそれより高級なマウスの2つくらいの選択肢でいいのではと思います。

【司会】最後のポイントが「オプションのバンドルソフト」です。

【高橋】IMEとして「ATOK」は必須と言えます。テキストエディタは、ユーザーがダウンロードする形でいいと思います。私は「秀丸」を使っていますが、ひとまずこれをお勧めとして紹介して、気に入ったら購入していただければと思います。ワープロソフトを使うというのも、ありますが、テキストエディタがいいと思います。

【パソコン工房】ラノベなどの物書きの方は、ワープロソフトでテキストに装飾をかけたりすることはあまりなく、テキストエディタで文字だけ書いていくことが多いのでしょうか?

【高橋】これも、一概には言い切れないですが、その道の先輩や編集者など長年やってる人にはテキストエディタ使いが多いんですね。その理由はいくつかありますが、テキストエディタだとプロっぽく見えるというのもあると思います(笑)。

改造バカ、このマシンで実際にラノベを書きます!

【司会】これでポイントはまとまったと思います。この後は、細かいスペックをパソコン工房さんに決定していただき、試作機を製造していただきます。

 そして、その試作機は敏也さんにオプションの周辺機器を含めレビューしていただくんですが、本当にこのマシンでラノベが快適に書けるのかを徹底検証する意味で、敏也さんには、マシンが届き次第、それでラノベを1本書き上げて、自費出版までしていただこうと思います。

【高橋】えっ!?(笑)

【司会】そこまでやってこそ説得力も増しますし、自費出版までの経過も記事化していただければ、これからラノベを書こうという人に対して非常に参考になると思います。

【高橋】まじですか(笑)。相変わらずインプレスの企画は鬼だ……(笑)。了解しました。男、高橋敏也、この企画のためにラノベ1本書きましょう!

※後編に続く

(若杉 紀彦)