メーカーさん、こんなPC作ってください!
プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える
~監修:AVライター小寺信良氏・協力:パソコン工房
(2014/10/30 11:00)
PCは実に多くのことができるが、最近ではスマートフォンなどの能力も一気に向上しており、PCでなければできないことは減りつつある。だが、ものづくり、あるいはそこまで行かなくても、自分で編集・作成するオリジナルコンテンツの制作においては、PCに比肩するデバイスはないのが現状だ。
ただし、何でもできると言っても、実際には、予算上限が決まっているので、いくらでも高性能なパーツを使えるわけではないし、1人が使う用途もある程度限られている。
本コーナーでは、主にクリエイターやクリエイターを目指すユーザーを想定し、特定の用途において価格性能比の面で最適なPCとはどのようなものかを、その分野に造詣の深い専門家やライターの方、および実際にPCを製造するメーカー、PC Watchの三者が一緒に議論、検討し、実際に製品化する。
第1回目の今回は、ライターの小寺信良氏を迎え、プロユースに耐えうる4K動画編集マシンについて考えてみる。小寺氏は、僚誌AV Watchで長年に渡り映像系機器を中心とした連載を持っており、4K動画についても、さまざまな撮影機器、編集PCをレビューしているだけでなく、プロの現場でのニーズについても熟知されている。
PCメーカーは、パソコン工房にご協力頂いた。パソコン工房についても、弊誌でニュースやレビューで多数取り上げているため、説明は不要と思われるが、簡単に紹介すると、安価なものからハイエンドなものまでBTOマシンを各種取り揃え、最新のパーツをいち早く採用することでも定評がある。また、パソコン工房のサイトには、最新のパーツをレビューする「パソコン実験工房」というコーナーがあり、有用な情報提供も行なっている。
マシンの企画にあたり、PC Watch編集長、小寺信良氏、そしてパソコン実験工房を担当する職人2号氏と職人3号氏が集まり、企画ミーティングを行なった。本稿では、その模様をお届けする。
企画ミーティング開始
【司会】すでにパソコン工房さんにも小寺さんにもお伝えしている通り、今回は4K動画を快適に編集できるPCを考えます。
【パソコン工房】事前に頂いた情報で、想像以上にプロ向け仕様になると聞いて、我々も相当内部で議論を揉んできました。
【司会】4Kについて、ユーザーの声を聞いてみると、特にTVメーカーを中心に、その精細さや画質を訴求して、これからは4Kの時代だと売り込んでいますが、ユーザーの間では、それがメーカーの押し売りで、まだそこまではいらないのではという声もあります。というのも、TV放送や各種ビデオオンデマンドなどでも4Kネイティブのコンテンツというのはまだ少ないからです。
しかし、撮影機器に目を向けると、一眼レフクラスのデジタルカメラ、ハイエンドのスマートフォン、GoProに代表されるアクションカメラなどでは4Kのサポートが始まっており、すでに普及価格帯になっていることから、個人でも気軽に4K動画を撮影できる環境が整いつつあります。
そして、これは動画に限らず静止画でもですが、自分で撮影した素材をただ観たり、ネットで共有するだけでなく、それらを少しでも編集してオリジナリティを加えると、さらに素材の見栄えがよくなるのに加え、その行為自体が実はすごく楽しいと言うことに気が付くんですね。動画ではまだ編集をしている人は少ないかもしれませんが、写真でのInstagramの盛り上がりを見れば、コンテンツ作りと言うと少し大げさですが、自分らしい編集することに楽しさを見いだしている人はすごく多いことが分かります。
今回は最初、そういったスマートフォンやGoProなど、一般ユーザー向け機器で撮影した4K動画を編集するPCというのを想定していたんですが、小寺さんと事前の打ち合わせをする中で、さらに上を目指そうということになりました。つまり、ハイアマチュアから業務で動画編集を行なうプロをターゲットとしたマシンにしてみてはどうか、ということです。市場には、そのニーズはありそうです。このことをパソコン工房さんにも伝えて、今回、想定スペックを用意してもらいました。
【パソコン工房】我々も下調べする中で、すでに同様の用途を想定したXeon搭載ワークステーションが他社からも出ているものの、性能が十分ではないということを知り、その上を目指そうではないかという機運になってきました。当初は、コストパフォーマンスで最善を狙うというお話でしたが、最終的にはそれに加え100万円超えのデュアルXeonの提案も持ってきました。ただ、業務向け4K編集分野というのは未知の部分もあり、スペックの微調整や最終選定はかなり手間はかかりそうだという覚悟もあります。
【マシンスペック】 | デュアルXeon(Haswell-EP) | Core i7(Haswell-E) |
---|---|---|
CPU | Xeon E5-2687Wv3 | Core i7-5960X |
メモリ | DDR4-2133 4GB×8 | DDR4-2133 8GB×4 |
ストレージ1 | Plextor M6G M.2 256GB SSD | Plextor M6G M.2 256GB SSD |
ストレージ2 | Intel SSD P3000(PCI Express) | 未定 |
GPU | GeForce GTX 970 | GeForce GTX 970 |
マザーボード | ASUS Z10PA-D8 | ASUS X99-DELUXE |
光学ドライブ | DVDスーパーマルチドライブ | DVDスーパーマルチドライブ |
ケース | ミドルタワー | ミドルタワー |
電源 | 850W 80 PLUS Gold | 850W 80 PLUS Gold |
OS | Windows 7 Professional/8 Pro | Windows 7 Professional/8 Pro |
想定売価(税込) | 1,028,000円 | 416,000円 |
【司会】上はだいぶごついですね(笑)。ここではGPUはGeForceになっていますが、Quadroは不要でしょうか?
【パソコン工房】GPUについて、今回の内容ではGeForceとQuadroで差があまりないので、今回は価格の高いQuadroはいらないのではと考えています。
【司会】確かに、GeForceとQuadroだと性能が同じでも、価格に大きな差があるのですが、業務用編集ソフトだと、Quadroでのみ動作認定をしているものがあり、その意味でQuadroが欲しいユーザーもいるのではと思いますが、どうでしょう?
現在の4K編集事情
【小寺】いわゆる映像編集用のソフトでは、あまり特定のGPUに限定する方向性はないですね。むしろ特定のハードウェア依存は敬遠される傾向があります。その意味ではGeForceでいいのではないでしょうか。
ここで一度、現在の業務向けの4K編集環境の実情をお話しして、さらに議論を詰めていきたいと思います。
今、コンシューマ向けで4K動画の撮影に対応するのは多くがデジタル一眼レフカメラで、ハンディカムタイプはまだ1モデルしかありません。そしてフレームレートについては、コンシューマではまだ30pです。これは、ストレージの速度、撮像素子の能力、放熱などの制約によるものです。しかし、今後は60pへと向かいます。というのも、TV放送が60pだからです。おそらく、今年(2014年)の末から来年の頭には60p対応製品が出てくるでしょう。つまり、30pをターゲットにしたマシンだとすぐに陳腐化してしまいます。ですから今回のマシンは、60pをターゲットにすべきと考えます。
コンシューマの4Kカメラのフォーマットについては、パナソニックを中心としたグループはMP4ファイルで、コーデックはH.264、ビットレートは60~100Mbpsくらいです。ソニーはというと、独自のXAVC Sファイルを規定しています。こちらもコーデックはH.264で、ビットレートは60~100Mbpsです。
ただし、これらは30p用なので、60pだとビットレートが倍になる可能性があります。つまり最大ビットレートは200Mbpsくらいということです。ただビットレートは倍までいかず、圧縮率を上げてくる可能性もあります。
そして、プロ向けの規格XAVCでは現在300Mbpsですが、これも30pなので、60pでは600Mbpsぐらいになります。規格としては960Mbpsまで用意されています。
編集ソフトはと言うと、カメラから取り込んだそのままのファイルで編集するネイティブ編集と、別のコーデックに変換する方法の2パターンがあります。多くのメーカーは、編集用に独自の中間コーデックを持っており、いったんそれにコンバートした上で編集を行ないます。具体的にはApple系だと「ProRes 422」、EDIUSでは「Grass Valley HQX」といったものです。中間コーデックのポイントは、高圧縮されたものをほどいて、ビットレートを高く取って、なるべくリアルタイムで動かすというものです。
実はこの中間コーデックにすると、それほどスペックが高くないPCでも編集できます。ただ問題は、その中間コーデックへの変換に数時間かかるのです。つまり、撮ってきたものをすぐ編集するというのには向かないんです。今回は、カメラで撮ったものをそのままネイティブで編集できることを狙いたいと思います。
グラフィックスについては、PCのディスプレイが4Kである必要はありません。というのも編集ソフトが4K解像度に最適化されておらず、アイコンなどが極端に小さくなるんですね。編集画面はフルHDなどでいいのです。ただし、編集中の映像プレビュー用として、4K TVへの出力が必須です。つまり編集作業画面用と映像確認用の2ディスプレイ環境です。
スペック
【司会】こういった事情を踏まえて、製品のスペックを固めていきたいと思います。まず、CPUについて、アドビさんにも話を聞いたところ、Premiereでの4K編集について、傾向としてはタイムライン編集ではクロックが、エンコードではコア数が効いてくるということでした。
【パソコン工房】今回のXeon(Haswell-EP)マシンは、ワークステーション向けで、どちらかというとクロック高め、でコア数少なめのもの、具体的にはクロックが3.1~3.5GHz、コア数が10です。HT対応でデュアルソケットなので、論理コア数は40ということになります。Xeonでは、さらにコア数が多いものもありますが、そうするとクロックが下がってきます。
【司会】マシン全体の価格感も考慮して、今の提案スペックがバランスいいのではと思われます。
メモリに対する要求はどうでしょう? 多い方がいいのですかね?
【小寺】最近はSSDから直でストリームを読み込むのが前提になっていて、メモリに全部展開してというのはあまりやってないので、膨大な量は必要じゃないですね。
【パソコン工房】確かにEDIUSだと最低要求が2GB、HD編集で4GB、4Kで8GBとなってます。先日、PremiereでXAVC S 4Kのエンコードをしてみたのですが、16GBマシンでは半分は空いてましたね。プラグインやフィルターを多用したりとなると変わるかも知れませんが、エンコードだけだとそこまでいらない感じですね。
【司会】16GBと32GBだと価格はどれくらい変わるのでしょう?
【パソコン工房】今回のマシンはDDR4になりますが、16GBにすると2万5千円程度下がります。ちなみに、Haswell-Eは8GB 4本ですが、Haswell-EPの方は、デュアルソケットなので、1CPUに対して4枚差し(クアッドチャネル)ということで、4GBを8本という構成にしています。
【司会】そうすると、特に下のマシンのターゲット価格から考えると、32GBが落としどころでしょうか。
ストレージについては、基本的にSSDだと思いますが、SATA 6Gbpsでいいのか、それともPCI Expressの10Gbps程度が要求されるのでしょうか?
【小寺】僕が以前試した時は、中間コーデックを使う環境でした。この場合、ビットレートが高いのでストレージの速さが求められます。しかし、今回はネイティブ編集向けなので、この場合、そこまで速さはいらないと思います。200MB/secくらいあれば十分でしょう。
【パソコン工房】では、今回の下のモデルではSATAを使い、上のモデルは中間コーデックでの用途も見据えて、PCI Expressとしましょうか。OS用とデータ用は分けた方がいいんでしょうか?
【小寺】使う側としては、撮影はメモリーカードでやるので、データ用ドライブがあって、例えば64GBのSDカード何枚分という見込みが立てられる方が便利ですね。
【パソコン工房】では分けましょう。それと、容量が欲しい人のために、BTOでサードドライブとしてHDDのオプションを用意しようと思います。
【司会】最初の提案だとOS用のドライブが256GBとなっていますが、ここまで必要ですかね?
【パソコン工房】メモリが32GBあると、ハイバネーションとページファイルで64GBいるので、OSを含めるとそれだけで100GB程度必要です。価格差も128GBと256GBだと数千円レベルなので、ここは256GBにしておきたいと思います。
【司会】なるほど。それは妥当ですね。
4K TVへの出力ですが、規格としてはHDMI 1.4aとHDMI 2.0があり、1.4aでも4K 60pは出力可能です。市場的には、60pが出せれば1.4aでもいいのか、それとも2.0が求められているのでしょうか?
【小寺】そこで問題になるのは階調と色空間ですね。1.4aでも60p出せますが、ビット数と色空間が狭くなります。編集時は、1.4aがサポートするよりも広い色空間で作業することになります。そのため、編集時と出力時の色空間に差があると、階調の滑らかさが失われる懸念があるので、せっかくPCでも使えるようになった2.0が欲しいところです。
【司会】では、GeForce GTX 970/980しか選択肢はありませんが、3D性能はいらないので970でいいでしょうね。
光学ドライブはBDが必要だったりしますか?
【小寺】BDでは4Kを書けないので、使わないですね。データの転送ややりとりはほぼHDDかメモリカード経由になります。データのバックアップとしては、BD派とHDD派に分かれているのですが、震災の時に浸水でHDDが全滅したという事例があったので、最近はBDの方がいいかもという風潮になっています。ただし、これは本体に内蔵させる必要はなく、必要な人が外付けで繋げば良いと思います。
【パソコン工房】では、光学ドライブは外して、空いたスペースにメモリカードリーダを付けた方がいいですね。
【小寺】USB 3.0のSDXCが欲しいですね。XAVC SはSDXCでしか撮れないので。
【司会】Mac Pro対抗という意味では、ケースは小さい方がいいのでしょうが、排熱的な問題は大丈夫でしょうか?
【パソコン工房】GPUはGeForce GTX 970だと、電力効率が良く、半分ファンレスみたいな感じで、60℃くらいまではファンは回らないので静音化に貢献できますね。Haswell-Eも負荷がかかり続けるとそこそこファンが回ります。CPUのファンについては、また持ち帰って検討したいと思います。
【小寺】サイズはmicroATXを要望したいですね。おそらくこの企画でWindowsユーザーが期待するのは、WindowsにおけるMac Pro相当機なんですよ。Mac Proは高性能ですが、30pまでしか出ません。60p出せて、Mac Pro程度のコンパクトな筐体に収められたらいいと思います。
【パソコン工房】Haswell-Eについては、microATXマザーボードもあるので、マイクロタワー型でいけると思います。上のHaswell-EPについては、デュアルソケットという都合上、こちらはATXでミドルタワーにせざるをえないと思います。
【司会】これで概ねまとまりましたでしょうか。
【パソコン工房】そうですね。あとは、細かいところでのパーツ選定と、XAVC Sより上のXAVCでの動作検証も行なって最終仕様を出し、マシンを完成させたいと思います。
実機レビューは次回
というわけで、プロ使用にも耐える4K動画編集マシンのスペックが固まった。当初は、今回で言うところの下のマシンだけを考えていたが、100万円クラスの超ハイスペックマシンも用意することになった。
この2モデルを実際にパソコン工房に製品化してもらい、後編ではそれを小寺氏にレビューして頂く。