レビュー
ラノベ作家はPCの夢を見るか?
~パソコン工房の小型PCをラノベ向け視点でレビューしてみた
2017年11月6日 11:00
お恥ずかしい話である。以前、本サイトで「改造バカ、ラノベ向けPCを考える」という企画をやった。パソコン工房さんにあれこれ要望を伝え、そのとおりのBTOマシンを用意してもらってテスト、ついでと言ってはなんだが、実際にそのPCでラノベを1冊書いてみようじゃないかという流れになったのである。
ええ、四苦八苦しながらも最終的には小説(ラノベ?)を1冊分書き上げましたよ、四苦八苦して。ただ私が勘を取り戻すまでに時間が掛かりすぎ、しあがりは古いパンツのゴムのように果てしなく伸びてしまった。しかもその完成度に満足できなかったため、書き上がったものは「1巻目」では「0巻目」として無料配布、満足できるものがしあがった段階で電子書籍なりなんなりで出版ということになりましたがな……。
が、いまに至るもその「1巻目」がどこにも無い! 理由は簡単、まだ書き上がってないからだ! 忙しいとか、小説書きの感覚を思い出すのに時間がかかってるとか、そういう言い訳はありますけどね。結局、書いてないんですよ! 書いてないんですよ(逆ギレ)!
そんな雰囲気を察したのか、はたまた偶然なのか。編集部から「新しいラノベ向けPCが来たから使ってみて~」という依頼が来た。
前回のラノベPCも相当に良かったが、それをさらに進化させたものだという。果たしてどんな仕上がりになっているか興味もあるし、ラノベ書きのいい刺激になってくれればと引き受けた。というわけでパソコン工房の新ラノベPC、STYLE-IL11-i5S-HNVが我が家に届いた。
「STYLE-IL11-i5S-HNV」というラノベ書きにも適したPC
前回、ラノベPCを企画したさい、私がパソコン工房さんにお願いしたのは以下の4点である。
- 小さいこと
- 静かであること
- マルチディスプレイに対応していること
- 安心、快適であること
もちろんほかにも細かいことはいろいろある。机上に置くPCというのであれば、パワーランプやHDD LEDが必要以上に明るくないこと、オプションでもいいからRAID(もちろんミラーリング)が組めることなどなど。そういった要望を取捨選択しつつ、初代のラノベ執筆用PCが誕生したのである。
そして今回ここで紹介するのは、次世代のラノベ執筆用PC(長いので以下ラノベPCとする)である。ただし、第7世代Core i5搭載ブックサイズPCである「STYLE-IL11-i5S-HNV」は、じつのところラノベPCというわけではない。コンパクトな筐体に収まった実用性の高い多目的PCというのがその正体だ。
CPUはKaby Lakeの省電力タイプとなるCore i5-7500Tを搭載。TDPは35Wなので相当に省電力なPCだが、4コア4スレッドで仕事はしっかりしてくれる。ゲームであったりグラフィックやムービーなどのエンコードといった目的でないかぎり、まず性能不足を感じることはないだろう。
ではなぜこの多目的PCが次世代のラノベPCなのか? 話は簡単、前回のラノベPCに対する要望をすべて満たしているからだ。小さく静かでマルチディスプレイ対応、そして高い信頼性。さらに加えて消費電力が小さく、コンパクトな割には拡張性も高い。文書作成、ラノベ執筆はもちろん、ビジネス用途にも向いているし、ネット利用がメインというならむしろオーバースペックと言ってもいい。じつにバランスの良いPCなのだ。
スペックから読み解くラノベPC
ではラノベPCことSTYLE-IL11-i5S-HNVのスペックを見ていこう。ちなみにラノベPCはパソコン工房のBTOマシンである。標準セットでポンと購入することもできるが、メモリやストレージ、付属品などをカスタマイズして注文することもできる。
さて、私がラノベPCに要望したことの一番は「小さいこと」である。机上に設置できるコンパクトな筐体で望ましく、その点で今回のラノベPCは最適と言える。
幅174mmで奥行き182mm、高さは36mm、重量は約1.3kg。ちなみにこれは横置きを想定したサイズで、付属のスタンドを取りつけて縦置きすることもできる。どちらにしてもここまでコンパクトなら机上に邪魔になることはない。実際に縦置き、横置きを試してみたが、個人的には横置きでディスプレイの下に潜り込ませるような設置スタイルが気に入った。
さらにこのラノベPCにはVESAに対応したマウントが付属しており、ディスプレイ背面に取りつけることも可能になっている。こうすれば存在自体を隠してしまえる究極の省スペースではあるが、あれこれ接続することを考えると普通に机上設置の方がいいだろう。
CPUにはシロッコファン付属のCPUクーラーが取り付けられている。CPU自体が発熱の小さな省電力タイプな上に、CPUクーラーの静音性もじつに高い。また、執筆という作業はCPUに負荷がかからないので、CPUクーラーが高回転になるということもまずない。動作音は極めて静か、というか静まり返った中で本体に耳を近づけてようやく分かるほどの音しかしない。じっくり執筆に集中する静音性、すなちわ「静かであること」は見事に達成されている。なお、CPUグリスを高性能タイプにすることをお勧めしたい。
「マルチディスプレイに対応していること」、「安心、快適であること」はスペックと密接に関係している。
まずマルチディスプレイだが、ラノベPCのグラフィック機能はCPU内蔵のIntel HD Graphics 630で提供されている。出力ポートはHDMI、DisplayPort、そしてミニD-sub15ピンがそれぞれ1つずつ用意されている。基本的にはHDMIとDisplayPortを使用してデュアルディスプレイという使い方になると思う。テストでフルHDディスプレイと4Kディスプレイを接続して表示してみたが、まったく問題なく快適に動作した。ちなみに想定としてはフルHDディスプレイで執筆し、4Kディスプレイは資料などを表示する。もちろんこのあたりは個人の好みでいい。
そして、なにをいまさらのミニD-Sub15ピンだが、じつはこのラノベPC、もう1つ興味深いレガシーポートを持っている。9ピンのCOMポートを1つ装備しているのだ。ミニD-Sub15ピンとCOMポート、ここから察するに、このマシンはデジタルサイネージやライン管理、監視カメラといった業務向けがベースとなっているのではないかと推測される。
そういったタイプのマシンは信頼性が高く、状況によっては24時間連続稼動なども行なう。実際、ラノベPCが届いてから約1週間、24時間電源を入れたままあれこれ試していたのだがトラブルはまったくなかったし、本体が熱くなるということもなかった。
メモリはカスタムオーダーで最大32GB(16GB×2のデュアルチャンネル)まで搭載でき、ストレージはプライマリでSATAのM.2 SSD、セカンダリが2.5インチのSSDかHDDを搭載できるようになっている。ここのお勧めは、メモリをデュアルチャンネルの16GB搭載し、ストレージはSSDで統一すること。SSD統一なら熱の発生も抑えられるしデータの読み書きで高速で快適、HDDよりもわずかだが静音動作となる。これで「安心、快適であること」という条件も満たされる。
そのほか本体前面にはSDXCまで対応するmicroSDカードスロットとUSB 3.1 Type-Cがそれぞれ1つずつ用意されている。大容量microSDカードや、USB 3.1対応の大容量USBメモリを接続することで、大切な執筆データのバックアップを簡単に行なえる。なお、このマシンにはType-CをType-Aに変換するケーブルが付属しており、一般的なUSB Type-AのUSBメモリやデバイスも利用できる。キーボードなどの接続は背面のUSB 3.0×4で行なえばいい。
ネットワークに関しては背面のGigabit Ethernetを使ってもいいし、IEEE 802.11ac対応 2×2 Dual Band Wi-Fiで無線化してもいい。もしお気に入りのキーボードやマウスがBluetooth接続であっても、Bluetooth 4.2装備なので心配ない。
キーボードとマウスはシンプルなUSB接続の有線タイプが付属している。キーボードはラバードームを使用したメンブレンタイプ、マウスは光学式だ。もちろんそれらを使ってもいいのだが、ラノベPCを使った執筆はキーボードと向かい合うことでもある。長時間、延々とキーボードを叩き続けなくてはならないのだ。なのでぜひ、別途「自分にピッタリ」のキーボードを見つけ出してほしい。
叩いた感触、叩いた時の音、キートップの色や印刷、そして角度。もちろん標準付属のものが気に入る場合もあるだろう。それでもできれば何度かPCショップ(バイモアがお勧め!(ステマ))へ足を運んで、展示されているキーボードを叩いてみてほしい。
実際の使い勝手はいかに?
執筆環境というものは、基本的に個人の好みで構築するものだ。たとえば私が「経験上、この組み合わせが理想!」と主張したとしても、それは参考になるかも知れないが、最適なものであるかはわからない。本ラノベPCがスペック、機能的にラノベを含む文章執筆に適したものであることは確かだが、そのほかに関しては個々に快適な環境を構築してもらうしかない。
たとえば私は今回のラノベPCを試用するにあたり、まず以下のようなアプリをインストールした。
- ジャストシステム「ATOKシリーズ」(インストールオプション選択あり)
- サイトー企画「秀丸エディタ」
- アクロニス「True Image」
- キヤノンITソリューションズ「ESET」
ATOKシリーズで日本語変換を行ない、秀丸エディタへ入力する。原稿などの大切なデータ、そして大切な執筆環境を含んだシステムドライブはTrue Imageでローカルストレージ(本製品の場合はセカンドストレージ)、NAS、クラウドストレージの3カ所にバックアップする。メールの送受信をラノベPCで行なう必要はないが、資料検索中にネットからマルウェアなどが侵入をするのを防ぐためにESETという具合だ。
そしてディスプレイは24型のフルHDを原稿執筆用に接続、さらに資料を表示するため28型の4Kディスプレイを接続した。原稿執筆側のディスプレイはそれこそエディタが開いていればいいので標準サイズでいいが、資料表示用のディスプレイは大きい方が使い勝手がいい。
キーボードとマウスに関しては私の場合、キーボードは東プレのRealforceシリーズを、マウスはLogicoolのゲーミングを長年愛用している。執筆用に東プレのキーボードは分かるとして、なぜマウスがゲーミング? と思われるかもしれない。それは、単純にゲーミングマウスの方が素早く的確にカーソルを移動できるからである。なお、作家を含む物書きの知人の中には、長年トラックボールを愛用しているという例もある。
実際に長時間、このラノベPCを使ってみたわけだが、文章執筆という点においてまったく問題なし! というのが率直な感想だ。静かでコンパクト、性能も良好でじつに快適だ。もちろん重いゲームソフトを走らせるのは無理だが、ビジネス用途ならそつなくこなしてくれる。ブラウザゲームぐらいなら快適にプレイできるし、原稿執筆の合間に艦これぐらいならできそうだ。
電源は付属の90W ACアダプタで供給する。かなり省電力なPCであるため、ディスプレイの分と合わせても無停電電源装置(UPS)はコンパクトなもので済みそうだ。そう、バックアップも重要なのだが、大切な原稿データを守るためにはエディタの自動保存機能や電源トラブルへの備えをきちんとしておきたい。
ラノベ(小説)を書くということ
最近は「小説を書く」というか、小説を世に出すということが多様化してきた。小説の出版というと以前は「出版社から紙に印刷した本を世に出す」ということを意味していたが、いまや電子出版は当たり前だし、そもそも出版社を介さずにインターネット上で誰でも小説を「世に出す」ことができる。ただしその小説が多くの人に読まれるか、はたまたその小説を「買ってもらえるか」は別の話。
これは前回も書いたことだが、私にとって人生と物書きの師である矢野徹氏(故人)に「小説を書きたいです」と言った時のこと。矢野氏はにこやかに「じゃあ原稿用紙300枚分書いてみようか」と答えた。とにかく300枚書いてみてから先の話をしようじゃないか、そういうことだった。もちろん私は300枚書いたし、それ以降も書き続けている(原稿用紙は使ってないが)。
ちなみに執筆にチャレンジし、うまく書けなくても諦めてはいけない。最初からストレートに1冊の小説を書ける人はごく希で、多くの人は書き始めて原稿用紙数枚分で行き詰まってしまう。だが、それを繰り返しているうちにどんどん長いものが書けるようになり、自分なりの文章スタイルができ上がっていき、ついには小説となる。諦めず、粘り強く書き続けていればいつかは完成するものなのだ。
幸いなことに「STYLE-IL11-i5S-HNV」のような、書くための優秀なツールが用意されている。このラノベPCの中に自分だけの執筆環境を構築し、とりあえず最初の1行を書いてみよう。おめでとう、その瞬間からあなたは作家でありライターである。
将来的にプロを目指すのか、はたまた同人として創作を楽しんでいくのか、そのあたりはあなた次第だが。
と言うことで、今回の新しいラノベPCにかなり刺激されたので、私もラノベ(小説)執筆を再開します。もう大言壮語はしません。ちゃんと完成したものを来年早々、電子出版で出そうと思っております。その一部はラノベPCこと「STYLE-IL11-i5S-HNV」で執筆される予定です。