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アーキテクチャを刷新した「A10-7850K」ベンチマークレポート

 AMDは1月14日、Socket FM2+向けの第4世代APU「Kaveri」を発表した。今回、KaveriベースのAPUの最上位モデルである「A10-7850K」を借用できたので、ベンチマークテストでその実力を探ってみた。

4つのCPUコアと8つのGPUコアを持つA10-7850K

 28nmプロセスで製造されるKaveriベースの第4世代APUは、Socket FM2+専用APUだ。CPU部にクロックあたりのパフォーマンスを高めた第3世代Bulldozer系コア「Steamroller」を備え、GPU部にはGraphics Next Coreアーキテクチャ採用GPUを備える。また、APUに統合されているPCI Expressコントローラも、PCI Express 3.0対応へと強化された。

 1世代前のデスクトップ向けAPUである「Richland」と比較すると、CPUコアとGPUコアのアーキテクチャの刷新に加え、アンコア部のPCI Expressコントローラや、製造プロセスまでもが変更されたことになる。

 今回テストするA10-7850Kは、4つのCPUコアと8基のGPUコアを備えたKaveriベースAPUの最上位に位置する製品だ。3.7GHzで動作する4基のCPUコアは、自動オーバークロック機能「AMD Turbo Core」により、最大4.0GHzまで動作クロックが上昇する。GPUコアの「Radeon R7」は、64基のStream Processor(SP)を備えるCompute Unitを8基備え、合計512基のSPを持つDirectX 11.2対応GPUだ。720MHzで動作し、AMD独自の新API「Mantle」や、「True Audio」をサポートする。

 A10-7850KのTDPは95W。プロセッサーナンバーに付与された「K」のサフィックスは、従来のAMD製APU同様、CPU倍率やGPUクロックの変更が可能なアンロックモデルであることを意味している。

A10-7850K本体
CPU-Z 1.68実行画面
本体裏面のピン配置。右のA10-6800Kよりピンが増えており、Socket FM2には取り付けられない
A10-7850Kの化粧箱
A10-7850K付属のCPUクーラー。ヒートシンクはアルミ製
【表1】スペック表

A10-7850KA10-7700KA10-6800K
製造プロセス28nm28nm32nm
開発コードネームKaveriKaveriRichland
モジュール数222
コア数444
CPUクロック(定格時)3.7GHz3.4GHz4.0GHz
CPUクロック(TurboCORE時/最大)4.0GHz3.8GHz4.4GHz
内蔵GPUコアRadeon R7Radeon R7Radeon HD 8670D
Streaming Processor512基384基384基
GPUコアクロック720MHz720MHz844MHz
TDP95W95W100W
対応ソケットSocket FM2+Socket FM2+Socket FM2/FM2+

A10-6800K、Intel Core i5-4670Kと比較

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回、A10-7850Kの比較対象には、RichlandベースのAPU「A10-6800K」と、AMDがA10-7850Kの競合製品として挙げている、Intelの第4世代Core プロセッサー「Core i5-4670K」(以下i5-4670K)を用意した。

 なお、メインメモリのクロックについては、A10-7850KとA10-6800Kは、両製品がサポートするDDR3-2133。i5-4670Kは、同CPUがサポートする最高クロックのDDR3-1600に設定している。

【表2】テスト環境
CPUA10-7850KA10-6800Ki5-4670K
マザーボードASUS A88X-PRO(BIOS:0704)MSI Z87A-GD65 GAMING
メモリDDR3-2133 8GB×2 (10-12-12-31、1.65V)DDR3-1600 8GB×2(9-9-9-24、1.5V)
ストレージIntel SSD 510 シリーズ 120GB
グラフィックスドライバCatalyst 13.30 RC2Catalyst 13.1215.33.8.3345
電源Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD)
OSWindows 8.1 Pro 64bit

 まずは、CPUとメモリ周りのパフォーマンスをチェックするベンチマークテストの結果から紹介する。実施したベンチマークテストは、「SiSoftware Sandra 2014」(グラフ1、2、7、8、9、10)、「CINEBENCH R15」(グラフ3)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ4)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)だ。

 クロックあたりのパフォーマンスを改善したという新CPUコア「Steamroller」を備えるA10-7850Kは、x264 FHD Benchmark 1.01や、Super PIなどのベンチマークテストで、動作クロックで約1割ほどA10-7850Kを上回るA10-6800Kのスコアを凌駕した。1割というクロック差は大きく、A10-6800Kの後塵を拝するベンチマークスコアもみられるが、A10-6800KのPiledriverコアより、クロックあたりのパフォーマンスが向上していることが、多くのテストで確認できる。

 クロック当たりのパフォーマンスを改善したSteamrollerコアだが、競合製品となるi5-4670Kとの比較では、多くのテストで6割以上の差をつけられている。CPUコアの性能については、IntelのHaswellベースCPUとの間に、依然として大きな差が存在するようだ。

 メモリ周りのパフォーマンスについては、キャッシュの速度が多少向上している他は、RichlandベースのA10-6800Kと間に大きな差は見られなかった。

【グラフ1】Sandra 2014 20.10(Processor Arithmetic/Processor Multi-Media)
【グラフ2】Sandra 2014 20.10(Cryptography)
【グラフ3】CINEBENCH R15
【グラフ4】CINEBENCH R11.5
【グラフ5】x264 FHD Benchmark 1.01
【グラフ6】Super PI
【グラフ7】Sandra 2014 20.10(Memory Bandwidth)
【グラフ8】Sandra 2014 20.10(Cache Bandwidth)
【グラフ9】Sandra 2014 20.10(Cache/Memory Latency - Clock)
【グラフ10】Sandra 2014 20.10(Cache/Memory Latency - nsec)

 Kaveriのパフォーマンスについて、AMDが特に強調しているのが、PCMark8でのパフォーマンスだ。実際、OpenCLを用いるテストを行なった場合、A10-7850Kは、「HOME」と「CREATIVE」の2項目で、i5-4670Kを上回っている。

 なお、このPCMark8のベンチマークスコアは、1月14日現在、Futuremarkからダウンロード可能なバージョンではなく、AMDからレビュアー向けに配布された「PCMark8 v2」のものだ。現在Futuremarkのサイトからダウンロード可能な「PCMark8 v1.2」とは、テスト結果に互換性が無い点に注意してもらいたい。

【グラフ11】PCMark8 v2
【グラフ12】PCMark7

 続いて、3Dベンチマークテストで内蔵GPUの性能を確認する。実施したテストは、「3DMark」(グラフ13、14、15)、「3DMark11」(グラフ16、17)、「3DMark Vantage」(グラフ18、19)、「3DMark06」(グラフ20、21)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ22)、「PSO2ベンチマーク ver.2.0」(グラフ23)、「ファイナルファンタジーXIV」(グラフ24)。

 比較製品中、最も強力なスペックのGPUコアを持つA10-7850Kは、特に描画負荷の高い「3DMark - Fire Strike」や「3DMark11」で、A10-6800Kやi5-4670Kとの差を広げている。GPUコアのスペック差を考えれば、これらの結果は順当なものだ。

 一方、描画負荷が比較的軽い「3DMark - Ice Storm」や「3DMark06」など、A10-7850KがA10-6800Kを下回る結果となったベンチマークテストもみられる。現時点では、ドライバの成熟度の面でA10-6800Kに分があることもあるのだが、3DMarkシリーズのCPU ScoreやPhsics Scoreを見ると、CPU性能の面でA10-7850KがA10-6800Kを下回っていることが、A10-6800Kに逆転を許す要因となっていることが伺える。

【グラフ13】3DMark - Fire Strike[Default/1,920×1,080ドット]
【グラフ14】3DMark - Cloud Gate[Default/1,280×720ドット]
【グラフ15】3DMark - Ice Storm[Default/1,280×720ドット]
【グラフ16】3DMark11[Default/1,280×720ドット]
【グラフ17】3DMark11[Extreme/1,920×1,080ドット]
【グラフ18】3DMark Vantage[Default/1,280×1,024ドット]
【グラフ19】3DMark Vantage[Extreme/1,920×1,200ドット]
【グラフ20】3DMark06[Default/1,280×1,024ドット]
【グラフ21】3DMark06[1,920×1,080/8x AA/16x AF]
【グラフ22】MHFベンチマーク【大討伐】[フルスクリーン]
【グラフ23】PSO2ベンチマーク ver.2.0[フルスクリーン]
【グラフ24】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編[フルスクリーン]

 最後に、ベンチマークテスト実行時の消費電力を比較する。消費電力は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を用いて、各テスト実行中の最大消費電力を測定している。

【グラフ25】システム全体の消費電力

 アイドル時の消費電力は、A10-7850KとA10-6800Kが35Wで並んでいる。APU以外が同じ機材構成であるA10-7850KとA10-6800Kの消費電力が並んでいることから、両APUのアイドル時消費電力は同程度であると考えて良いだろう。なお、i5-4670Kは、両APUより6W低い29Wを記録しているが、プラットフォームが異なり、メモリクロックも異なる点に注意が必要だ。

 ベンチマークテスト実行中の消費電力については、いずれのテストでも、A10-7850KがA10-6800Kを下回っている。特に注目したいのが、CPUベンチマークテストであるCINEBENCH R15実行中の消費電力で、シングルスレッド時に11W、マルチスレッド時には17Wの差がついている。3D系ベンチマークテスト実行中の消費電力には、当然ながらCPUの消費電力も含まれる。全体の省電力化に寄与するCPUコアの省電力化は歓迎できるポイントだ。

 競合製品のi5-4670Kとの比較では、CPUコア部分のワットパフォーマンスで圧倒されている。3D系ベンチマークテスト実行時については、グラフにするとi5-4670Kの消費電力の低さが際立つが、消費電力差に見合うだけのパフォーマンス差をつけているテストも多く、消費電力が高いからと言って、必ずしもA10-7850Kが劣っているというわけでは無い。

真価を発揮できる環境の整備に期待したいKaveri

 以上の通り、KaveriベースAPU最上位モデル、A10-7850Kのパフォーマンスをチェックした。A10-6800Kとのクロック差を覆すSteamrollerコアのパフォーマンスや、強化されたGPUコアがもたらすGPU性能に一定の魅力は感じられるものの、A10-6800Kを過去の物にするほどのインパクトが感じられないのが正直なところだ。

 もっとも現時点でA10-7850Kの価値を判断するのは早計だ。CPU、GPUに留まらず、全面的に設計を刷新したKaveriと、現行のRichlandでは、マザーボード側のUEFIやドライバの完成度に大きな開きがある。加えて、FPS「Battlefield 4」のパフォーマンスを45%押し上げると言われるMantleや、OpenCLの活用でi5-4670Kを上回って見せたPCMark 8など、AMDが進めるHSA構想や独自APIが目論み通りに展開すれば、Kaveriはより面白い存在となるだろう。

(三門 修太)