瀬文茶のヒートシンクグラフィック
【番外編】Godavariの殻割りで、隠された改良を明らかにする
(2015/6/12 11:55)
先日、A10-7870Kとして発売された第5世代AシリーズAPUことGodavari。Kaveri Refreshなどとも呼ばれるGodavariは、既存のKaveriベースの製品よりも動作クロックを高めたマイナーチェンジモデルなのだが、なんと「ダイとヒートスプレッダ間のTIMがハンダに変更された」という情報がもたらされた。
この予想だにしない情報に驚愕した筆者は、さっそく秋葉原に飛んでA10-7870Kを購入。その中身を自らの目で確かめることにした。
ソルダリング仕様に備えてヒートガンを導入
動作確認を早々に終わらせ、早速殻割りに取り掛かる。まずはいつものように、ヒートスプレッダ外周部にカミソリを這わせ、基板とヒートスプレッダを接着しているシール材を切り裂いていく。A10-7870Kでは、0.25mm厚のカミソリでもスムーズに刃を入れることができるが、勢いよく滑らせすぎて基板上に実装されている部品類を切り飛ばさないように注意したい。
おおよそ全周に渡って刃を滑らせ終えたが、ヒートスプレッダに剥がれる気配はない。ヒートスプレッダと基板を接続するシール材を全て切り裂いてもなお、ヒートスプレッダが微動だにしないこの状況は、Core i7-5820Kの殻割を行なった時とまったく同じだ。このまま無理に剥がそうとすれば、あの時と同じ結果になるだろう。
そこで今回は、ハンダを溶かすことのできるヒートガンを用意した。ヒートガンの熱風でヒートスプレッダを加熱し、ダイとヒートスプレッダを強固に接続するTIMを溶かしてしまおうというわけだ。
本来なら万力などを使ってAPUの基板を固定するところだが、何かの拍子に基板裏面のピンを曲げてしまうのも嫌なので、今回はマザーボードを使って固定してみた。長時間熱を掛け過ぎればマザーボード側にダメージが発生する可能性もあるが、スプレッダを剥がす程度の短時間なら、直接熱風があたらないようにすれば大丈夫だろうと判断した。
ヒートスプレッダをレンチで掴み、ヒートガンの熱風をじっくり当ててやると、熱せられたヒートスプレッダが基板から浮き上がった。
外れてしまうとあっけないものだが、APUやマザーボードを壊してしまうというプレッシャーからか、熱風を当てている時間は実際よりも長く感じられた。おかげで、4回ほど熱してはAPUの状態を確認するという無駄な作業を行なっている。
熱を加える作業でもたついてしまったため、壊れていることも覚悟していたが、幸いなことにUEFIの起動までは確認できた。ただ、殻割りしたA10-7870Kを使えるようにするためには、ダイ表面に残った半田を溶かして平面にするなど追加作業が必要だ。
なぜGodavariでグリスからソルダリングに変更されたのか
以上の通り、Godavari採用のA10-7870Kでは、ダイとヒートスプレッダをソルダリングしていることが確認できた。では、なぜKaveriではサーマルグリスを使用していたところを、ソルダリングに変更したのだろうか。その理由を探るべく、Kaveriの最上位モデルA10-7850Kを用意して、殻を割らなかった方のA10-7870Kと比較してみることにした。
比較テストの内容は、それぞれの定格動作設定を「A10-7870K相当」、「A10-7850K相当」の動作とし、それぞれの動作設定でストレステストを実行した際のCPU温度を取得し、比較するというもの。
各動作設定については以下の表のとおり。CPUクロックはTurbo COREを無効化した際のクロック。電圧は両製品が標準で要求するCPU電圧(VID)に基づいて設定した。ただし、GPUクロックについては、各APUの標準設定に準じるため、完全に同じ動作設定というわけでは無い。
A10-7870K相当 (3.9GHz@1,487mV) | A10-7850K相当 (3.7GHz@1,325mV) | |
---|---|---|
ベースクロック | 100 | 100 |
CPU倍率 | 39 | 37 |
CPU電圧 | 1,487mV | 1,325mV |
GPUクロック | 各APUの定格値 | 各APUの定格値 |
ストレステストには「Prime95 v28.5」のSmall FFTsを利用。CPU温度は、ストレステスト開始から20分間の最高温度を「HWMonitor 1.27」で測定した。検証機材はケースに収めず室温27±0.5℃の環境に平置きで設置。CPUの冷却は、ファンをフル回転で固定した「CRYORIG R1 Ultimate」で行なった。
【表2】テスト環境 | |
---|---|
マザーボード | ASUS A88X-PRO |
メモリ | DDR3-2133 4GB×2 (11-11-11-31、1.65V) |
CPUクーラー | CRYORIG R1 Ultimate |
グリス | Prolimatech PK-3 |
ケース | ケース無し |
ストレステスト | Prime95 v28.5(Small FFTs) |
モニタリングソフト | HWMonitor 1.27(CPU-Package) |
室温 | 27.0±0.5℃ |
テストの結果をまとめたものが、以下のグラフだ。
3.7GHz@1,325mV動作と3.9GHz@1,487mV動作の温度差に注目してみると、A10-7850Kが16℃であるのに対し、A10-7870Kは9℃だった。本来、異なる個体のCPU温度は横並びにすべき数値ではないが、2つの動作条件で生じたCPU温度の差を見ると、ソルダリング仕様のA10-7870Kの方が効率的に熱をCPUクーラーへ伝えられていることが伺える。
また、A10-7850Kの3.9GHz@1,487mV動作時の温度が80℃を超えていることにも注目したい。Prime95 v28.5のCPU負荷が一般的なアプリケーションよりはるかに高いものであることを考慮しても、空冷上位の冷却能力をもってしてこの温度では、純正CPUクーラーでの冷却は厳しいだろう。
これらの結果から、A10-7870Kのソルダリング仕様は、倍率アンロックモデルとしてオーバークロッカーのために採用されたというより、A10-7870Kの動作を実現するために必要だったから採用されたものであると考えられる。TDP据え置きでありながら、付属する純正クーラーが強化されたのも、ソルダリング仕様の採用と同じ理由だろう。
何はともあれ、ダイとヒートスプレッダをソルダリングしたA10-7870Kが、従来のKaveriベースのAPUよりも冷却しやすい製品となっていることは間違いない。記事執筆時点でA10-7870Kの販売価格はA10-7850Kより3,000円ほど高い。だが、性能差に加えてソルダリング仕様という付加価値もあることを考えれば、価格差相応の魅力は十分にあると言える。今A10シリーズの購入を検討しているのであれば、A10-7870Kを是非おすすめしたい。