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M1 Max搭載16インチMacBook Proはどれだけ速いのか?Intel CPUだけでなくGeForceも上回る高性能を発揮
2021年10月27日 07:05
Appleが発表したM1の上位バージョンとなる「M1 Pro」「M1 Max」は、CPUや内蔵GPU、そしてメモリ帯域などが大幅に引き上げられており、性能が大きく向上している可能性が高いことは、以下の関連記事でお伝えした通りだ。
10月26日よりそのM1 Proを搭載した14インチMacBook Proと16インチ MacBook Pro、そしてM1 Maxを搭載した16インチMacBook Proの販売が開始された。今回は編集部が購入したM1 Maxを搭載した16インチMacBook Pro(41万9,800円)を利用して、M1 Maxの性能や使い勝手などに迫っていきたい。
(1) M1ベースでスケーリングしたのがM1 ProとM1 Max
(2) M1 MaxはM1からCPUが59%、GPUは約4倍アップ
(3) デザイン変更で狭額縁化。タッチバー廃止も強化点
(4) MagSafe 3、HDMI、SDカードリーダ追加で使い勝手向上
(5) 使用ソフトのM1ネイティブ対応は知っておきたい
M1ベースでスケーリングしたのがM1 ProとM1 Max
Appleが発表した16インチMacBook Proおよび14インチMacBook Proは、昨年(2020年)登場の13インチMacBook Proに初めて搭載されたM1の性能強化版となる「M1 Pro」および「M1 Max」を採用している。
M1 | M1 Pro | M1 Max | |
---|---|---|---|
高性能コア | 4コア | 8コア | 8コア |
高効率コア | 4コア | 2コア | 2コア |
GPU | 8コア | 16コア | 32コア |
TFLOPS | 2.6TFLOPS | 5.2TFLOPS | 10.4TFLOPS |
ニューラルエンジン | 16コア | 16コア | 16コア |
最大メモリ容量 | 16GB | 32GB | 64GB |
メモリ帯域幅 | 68.2GB/s? | 200GB/s | 400GB/s |
メモリ帯域幅 | 128bit? | 256bit? | 512bit? |
DRAM | LPDDR4x-4266? | LPDDR6-6400? | LPDDR6-6400? |
トランジスタ数 | 160億 | 337億 | 570億 |
製造プロセスルール | 5nm | 5nm | 5nm |
上の関連記事でも触れている通り、M1 ProとM1 Maxの公表されている情報から確認できる範囲では、M1のCPU、GPUをスケーリング(伸長)した製品となる。
現代のCPU、GPUというのは、どんな製品でも大抵はスケーリングできるようにアーキテクチャ的に設計されている。というのも、同じ製造プロセスルールの世代であれば、コストはダイサイズに比例して大きくなるからだ。
このため、CPUなら4コア、8コア、16コアなどに伸縮できるように設計しておき、クライアントPC向けなら4コア製品を製造し、そこから製造後の選別で2コア分を無効にしなければ使えない製品などを、2コア製品として出荷するなどしている。
一方で、コストがクライアントPC向けほどは問われないサーバー向けを8コア、16コアで製造するなどの手法で様々な製品バリエーションを作り出すという手法が一般的だ。
その意味で、M1 Pro、M1 MaxはまさにM1のスケーリング製品という評価が最も妥当だ。
M1では8コアArm CPU(高性能コア4コア+高効率4コア)と8コアのGPUから構成されていたのに対して、M1 Proでは10コアArm CPU(高性能8コア+高効率2コア)と16コアのGPU、M1 Maxでは10コアのArm CPU(高性能8コア+高効率2コア)と32コアのGPUという構成になっている。
高性能コアとGPUという観点で見ると、M1 ProはM1に比べてCPUが倍でGPUも倍、M1 MaxはM1に比べてCPUが倍でGPUが4倍という構成だ。
M1 Pro、M1 Maxは、初代M1と同じTSMCの5nmプロセスルールで製造される。昨年から1年が経過しており、同じプロセスルールの世代でも進化が想定されるが、それでも同じ世代で製造される以上、CPUとGPUのコア数を2倍、4倍にしたことは当然ダイサイズの肥大化を招き、結果としては消費電力が増えることになる。
このため、M1 Pro、M1 Maxは当然M1と比較して消費電力は増えることになるので、それに対してM1に比べるとより大規模な熱設計が必要になるし、より大容量のバッテリを搭載する必要があり、結果として重量増を招くことになる。
ただ、Apple自身が主張しているように、CPUとGPUをSoCにして、巨大チップにしたことは、性能面でのメリットもあるが、どちらかと言えば電力効率面でのメリットの方が大きい。Appleが謳う7倍高効率かどうかは分からないが、CPU/GPUが1チップの場合、電力管理はより容易に、かつ効率よく行なうことができることは間違いないだろう。
M1 MaxはM1からCPUが59%、GPUは約4倍アップ
それでは、早速ベンチマークを利用して、M1 Maxの性能を見ていこう。本誌で通常扱っているWindows機とも比較できるように、Windows、macOS両方で動くベンチマークとして、CPUはCinebench R23、GPUに関してはGFX Bench 5を利用している。以下の以前の記事でも紹介したCPUやGPUの性能も比較対象として掲載しておく。
比較対象は13インチMacBook Proに搭載されているM1、Intelの第11世代Core H45のリファレンスデザインに搭載されていたCore i9-11980HK+GeForce RTX 3060 Laptop、VAIO Zに搭載されているCore i7-11375H(内蔵GPU)、現在の一般的なWindowsノートPCに搭載されているCore i7-1185G7だ。
なお、M1 Max以外の結果は、その製品を利用して記事を作成した段階でのスコアで、その後ドライバのバージョンアップなどで性能が向上したり(逆に下がったり)している可能性があることをお断りしておく。
Cinebench R23によるCPU性能に関してだが、シングルスレッドはIntelの第11世代CoreプロセッサとM1およびM1 Maxの違いはほとんど誤差と言っていい程度だ。つまり、M1系も第11世代Coreもシングルスレッドの性能はそんなに変わらない。
しかし、マルチスレッドではコア数が多い、M1系が第11世代Coreを上回っている。例えば10コア(高性能8コア+高効率2コア)のM1 Maxは、8コアのCore i9-11980HK+GeForce RTX 3060を約10%上回っている。高効率コア2コア分だけM1 Maxの方がコア数が多いことを考えれば、十分正当化される差だと言える。
これだと、先日Intel Architecture Dayで説明された高性能コア6コア+高効率コア8コアというモバイル版のAlder Lakeが登場するとM1 Maxを上回る可能性は限りなく高いのではないだろうか……。
M1とM1 Maxの比較で言うと、マルチスレッドでは約59%、シングルスレッドでは2.5%の性能向上となっている。この結果から、高性能コアは2倍になったが、高効率コアは2コア減っていることなども影響し、単純に2倍になっていないのだと考えられるだろう。
GFXBenchのGPU性能の結果については、非常に圧倒的と言える。
1440p Aztec Ruins(High Teir) Offscreen(Metal/OpenGL)に関しては、M1 MaxはM1の約4倍になっている(ほかの3つのテストはそれぞれ3.67倍、2.38倍、3.75倍)。AppleはM1 MaxのGPUは、M1の4倍の実行ユニットを搭載していると説明しており、確かに4倍の性能が出ていることが分かる。
ただ、通常こうした実行ユニットを増やした場合には、メモリの帯域幅に制限が出たりしてリニアに性能が上がらないものだが、ちゃんと性能が上がっているということは、CPUとGPUがシェアするメモリの帯域幅が400GB/sと十分過ぎるほど確保されているからだろう。
なお、Core i9-11980HK+GeForce RTX 3060との比較では1440p Aztec Ruins(High Teir) Offscreen(Metal/OpenGL)が約2.2倍、1080p Aztec Ruins(Normal Teir) Offscreen(Metal/OpenGL)が約2.27倍、1080p Car Chase Offscreen(Metal/OpenGL)が1.28倍、1440p Manhattan 3.1.1 Offscreen(Metal/OpenGL)が約1.66倍となっており、明らかにGeForce RTX 3060を上回っていることが分かる。
今回はGeForce RTX 3070など3060の上位製品が用意できなかったが、それら3060の上位製品に匹敵するGPU性能をM1 Maxは持っているのは間違いない。
デザイン変更で狭額縁化。タッチバー廃止も強化点
ここからは16インチMacBook Proの外観などを見ていこう。
店頭で販売される16インチMacBook Proとしては最上位モデルで、Appleの型番では「MK1H3J/A」となる。M1 Max(CPU 10コア+GPU 32コア)、32GBメモリ、1TBストレージというスペックで、購入価格は41万9,800円だ。
今回の14インチMacBook Pro、16インチMacBook Proは、従来のMacBook Proシリーズとはデザインのテイストからして違っている。
昨年販売が開始されたM1搭載の13インチMacBook Proまでは、A面カバー(ディスプレイの天板)も、D面カバー(底面)も四隅がなだらかに傾斜しているデザインになっており、より薄さを演出するデザインになっていた。
しかし、今回発売されたMacBook Proは、A面もD面もフラットなデザインになっている。従来のデザインは「より薄い」がイメージに近かったが、この新しいデザインは「より堅牢」という印象が強い。
もう1つ従来のMacBook Proとの大きな違いはキーボードだ。13インチMacBook Proと横幅がほぼ同じキーボードを採用しており、その左右にスピーカーという構造は同じなのだが、キーボードの6列目(ファンクションキーの列)はタッチバーからハードウェアキーへと変更されている。
タッチバーは慣れさえすれば、ソフトウェアを利用して新しいキーを割り当てるといったメリットがあったのだが、なかなか慣れないという声が多かったのも事実だ。
結局の所「慣れこそ最上のユーザー体験」というのが真理である以上、特にキーボードのようなレガシーデバイスをほかのデバイスに置き換えるのは、「Appleでさえ難しかった」というのが筆者の率直な感想だ。タッチバーがしっくりこなかったユーザーにとっては歓迎すべきことだろう。
タッチパッドは160×100mm(幅×奥行き)のサイズで、ノートPCとしてはかなり大型で操作性は良好だ。誤操作防止ができていれば、タッチパッドは大きいほど操作性が上がるので、この点はほかのメーカーもAppleを見習ってほしい。
ディスプレイはAppleが「Liquid Retina XDR」というブランド名を付けている16.2インチ、高解像度、高輝度のディスプレイパネルが採用されている。
解像度は3,456×2,234ドット、1,000cd/平方m(1,000nit)の持続輝度、DCI-P3に対応した広色域となっている。さらにパネル自体が120Hzのリフレッシュレートで、iPhoneと同じようにProMotionテクノロジーという名称が付けられている。
本製品のターゲットユーザーが、AdobeのCreative Cloudを利用するようなユーザーであることを考えると、こうした高性能で広色域、高解像度、高輝度のディスプレイを採用していることは非常に重要だ。
なお、従来のMacBook Proシリーズでは、いわゆる狭額縁のディスプレイはなかったが、この新型14/16インチMacBook Proでは、3辺狭額縁になっている。
上辺に関してはWebカメラがあるので、Webカメラの部分だけiPhoneのように切り掛かれており、いわゆる「ノッチ」デザインだ。MacBook Proのディスプレイは狭額縁ではなかったため、やや時代遅れ感が否めなかったが、それが改善された形である。
本体の底面積はほぼ従来の16インチMacBook Proと同じだが、狭額縁になったことでディスプレイサイズは16.3インチへと大型化しており、同じ底面積でより大きく文字などを表示できる。
MagSafe 3、HDMI、SDカードリーダ追加で使い勝手向上
ここ数年は頑なにUSB-C(USB Type-C)端子とヘッドフォン端子のみをMacBook Proシリーズのインターフェイスとして採用していたAppleだが、今回の16インチMacBook Proではそのポリシーが変更されている。
2019年の16インチMacBook ProではUSB-C(Thunderbolt 3にも対応)が左右に2つずつの合計4つが用意されていた。しかし、今回の新16インチMacBook ProではUSB-C端子(Thunderbolt 4)は左に2つ、右に1つの合計3つに減らされている。
その代わり16インチMacBook Proには、MagSafe 3ポート(マグネットで固定されるACアダプタ専用端子)、HDMIポート、そしてSDXCカードスロットが追加されている。
MagSafeはUSB-C以前にMacBook Proなどで採用されていたACアダプタ専用端子だ。電源ケーブルに足を引っかけてしまうといった強い力が掛かった時などに、マグネットのコネクタ部分が外れて、本体の落下などを防げるようになっている。
なお、本体にはMagSafe用の140Wアダプタが付属しているが、ACアダプタ側の端子はUSB-Cとなっており、付属のUSB-CからMagSafeの端子が両端に付いているケーブルで本体と接続する形になっている。つまり付属しているのはUSB-CのACアダプタだ。
今現在はまだラインナップされていないが、USB PD 3.1で規定されている140Wの電送に対応したUSB-Cケーブルが登場すれば、MagSafeではなくUSB-C端子に接続して充電可能になるだろう。
なお、3つのUSB-C端子はThunderbolt 4に対応している。Thunderbolt 4の最大転送速度は40GbpsとThunderbolt 3と同じだが、USB-CのHub機能を備えるなど、いくつかの点で拡張されている。Thunderbolt 4に対応したことで、Hub機能を備えるThunderbolt 4ドックなどが利用可能になるので、拡張しやすくなっているわけだ。
SDXCカード(フルサイズ)スロットが復活したことは、コンテンツ作成マシンとして使われるであろう本製品の特長を考えると、うれしい心変わりと言っていいだろう。
写真編集や動画編集が、本製品を使うユーザーの主要なアプリケーションになると考えられるだけに、デジタルカメラに使われているSDカードを、外部のカードリーダを必要とすることなく、読み込めるのは使い勝手が良い。
ただ、SDカードを入れると、カードは完全に本体に収納されず、カードははみ出したままの状態になる。このため、内部ストレージの拡張としてSDカードを使いたいというニーズには向いていない。ストレージをあらかじめたくさん使うと分かっているのであれば、購入時にできるだけ容量の大きなモデルを購入した方がいいだろう。
使用ソフトのM1ネイティブ対応は知っておきたい
以上のように、新しい16インチMacBook Proの特長や性能を、ベンチマークなどを利用して確認してきた。M1 Maxの性能は、Appleが主張する通りの高い性能で、スピードキングであることに疑いの余地はないだろう。
こうした高性能のメリットを享受できるのは、ズバリAdobe Creative Cloudなどのコンテンツ作成ツールを利用しているコンテンツクリエイターだ。こうしたコンテンツ作成ツールは、いち早くM1対応が進んでおり、Armネイティブコードのサポート、さらにはM1に内蔵されているGPUへの最適化などが進んでいる。
例えば、写真編集ツールのPhotoshopや動画編集ツールのPremiere Proなどがその代表例と言え、そうしたツールで作業しているようなユーザーであれば、M1 ProやM1 Maxを搭載したMacBook Proに乗り換えるのはありだろう。
ソフトによってはArmネイティブ版がないものもあり、x86からArmへのバイナリ変換機能(Rosetta2)を利用する必要があるため、性能に不安があるというユーザーでも、SoC自体がこれだけの性能を発揮していれば、バイナリ変換機能を利用しても十分に速いと分かるはずだ。
M1 Maxの性能をフルに発揮するためには、ソフトがArmネイティブに対応している以外に、GPUにも対応している必要がある。しかし、既にAdobeのPremiere ProなどはM1のGPUをサポートしているため、この性能を手に入れたいのであれば、早速検討してみることをおすすめする。