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結局、M1 Pro/Max版MacBook Proで“作業”が速くなるのか?動画編集者が試したら驚きの結果に

業務として動画を編集している大下幸治氏に最新のM1 Max搭載MacBook Pro 16インチモデルを試してもらった

 Appleが2021年10月に発売したMacBook Pro 16インチモデル。新しいM1 Pro、もしくはM1 Maxプロセッサを搭載し、従来のIntel Core iシリーズにはなかったそのパフォーマンスの高さは、PC Watchのレビューを始めとして各所で話題になっている。

 ベンチマークテストでは従来製品を圧倒するこの新MacBook Proではあるが、実際の作業においてどれくらい速くなるのか気になる方も多いのではなかろうか? もしかしたら“ベンチマーク番長”では……などという思いも浮かんでくる。

 今回は、そんな疑問を解消すべく、普段からIntel Macを使って作業している動画クリエイターの大下幸治氏に、M1 Max搭載MacBook Pro 16インチモデルを使っていただいて感想を聞いてみることにした。

M1 Max搭載MacBook Pro 16インチモデル

 今回用意したM1 Max搭載MacBook Pro 16インチモデルはCPU10コア、GPU32コア、メモリ64GBと、CPU/GPU/メモリ周りはBTOで指定できる最高スペック。大下氏が普段使っている従来機はiMacの2020年モデルだ。

 世代が異なるとは言え、デスクトップPC、方やノートPCということで、これまでの感覚ではノートPCであるMacBook Proが不利になりそうなところ。とは言え、実際にデスクトップより速いことを確認できれば、革新的な速さを裏付けられるはず。リアルクリエイター、リアルMacユーザーがどう評価するのか注目したい。

【表】MacBook Pro 16インチモデルと従来機の主なスペック
MacBook Pro 16インチモデルiMac (Retina 5K, 27-inch, 2020) 大下氏従来機
CPUM1 Max(10コア)第10世代Core i7(3.8GHz、8コア)
GPUM1 Max(32コア)Radeon Pro 5500 XT 8GB(オンボード)
Radeon RX Vega 64 8GB(Thunderbolt 3ボックス経由)
メモリ64GB72GB

仕事用マシンにMacを選ぶ理由

――普段使っているiMacではどのような作業をされていますか。

大下氏(以下、敬称略) もともとAdobe IllustratorやInDesign、Photoshopなどを使った雑誌のページレイアウトとロゴデザインをやっていますが、近年では動画編集をすることも増えてきています。このところはAdobe Premiere Proを使って、4K(3,840×2,160ドット)60fpsの動画を扱うことが多いですね。あとは趣味の楽器演奏で、ヤマハのSYNCROOMというサービスを使ったオンラインセッションをすることもあります。

――Macを使っているのには何か理由があるのでしょうか。

大下 過去には会社の経理処理でWindowsマシンを使っていたこともありましたし、自動車レースをしていたときにクルマのECUのプログラムを書き換えるのにWindowsマシンが必要だったときもありました。

 ただ、DTPを始めた当時はWindows環境で使えるフォントが少なく、仕事用としてはMacしか選択肢がありませんでした。それからずっとMacを使い続けてきたのは、慣れているから、というのが大きいですね。

 今となってはWindowsでもフォントの問題は解決していますが、Macはどの機種でもディスプレイの発色などの面で一定以上のクオリティが得られますし、モデルや機器構成が限定されているので、万一トラブルに遭遇しても原因を特定しやすいのも利点ですよね。

“体感的には8コアiMacの数倍速い”脅威の動画編集性能

――そのM1 Max搭載のMacBook Pro 16インチモデルを1週間ほど使っていただきましたが、従来のiMacと比べてみていかがでしたか。

大下 まず感じたのは、動画編集におけるM1 Maxの力強さですね。体感からしてiMacの数倍は速い。

 iMacでは、ソースとなる動画データを取り込んで編集し始めた最初のうちは、プレビューを確認しようとスライダーをドラッグしても映像がまったく動かなかったりします。編集し続けているうちに自動でキャッシュが作られるので、徐々にマウス操作にプレビュー表示がついてくるようになりますが、何らかの効果を加えたりするとまた動かなくなる。

 でもM1 MaxのMacBook Proだとそういうことがない。キャッシュが作られる前からすぐにマウスの動きに追従してプレビュー表示してくれるんです。しかも、通常は解像度を落として簡易表示しても重いプレビューですが、MacBook Proではプレビューをフル画質に設定した状態で滑らかに動いてくれます。iMacと比べたらまるで別物ですね。

プレビューをマウス操作で早送り、早戻しするときなど、通常ならすぐには映像が出てこないが、MacBook Proならドラッグ操作に合わせて即座に表示される

 それと、iMacでH.264形式の動画を複数トラック扱うような場面ではPremiereのプロキシ(中間ファイルを生成して高速に編集処理できるようにする機能)を利用することが欠かせませんが、MacBook Proだとプロキシを使うまでもなく、ストレスフリーで編集できてしまいます。素のデータのまま編集作業して完パケにもっていけるのは、作業効率の面でものすごく大きなアドバンテージになります。

 一方で、IllustratorやInDesign、Photoshopなどの操作は、iMacでも十分に高速なので、MacBook Proとの違いはほとんど体感できませんでした。やっぱり一番差を感じるのはPremiereで4K動画を編集するときです。

――エンコードの速さはどうでしょうか。

大下 エンコードについては、動画ソースや使用している特殊効果などに応じて変わってくる印象です。ものすごく高速にエンコードできることもあれば、わずかな時間短縮にしかならないこともあります。

 いずれにしてもiMacより高速にはなりますが、ソフトウェアエンコードとハードウェアエンコードの両方を試してみたところでは、MacBook Proはハードウェアエンコードの高速さが際立ちますね。ハードウェアエンコードだとiMacの6倍以上高速で、かつ元々の尺の4分の1程度の時間で処理できるケースもありました。

4K動画のエンコード時間比較
【エンコード設定】ビデオ : 3,840×2,160ドット/59.94 fps/7分46秒、オーディオ : AAC 320 Kbps/48 kHz/ステレオ、ビットレート : VBR 1パス/最大60Mbps
※MacBook Proはパターン1と2で適用するフィルタを変更、iMacは内蔵GPUとeGPUとで結果に差異はなし

CPU性能を測る「Cinebench R23.200」の結果。M1 Max搭載MacBook Proは8コアの第10世代Coreプロセッサを搭載したiMacを確実に上回っている。1年前のモデルは言え、デスクトップ超えの結果はちょっとインパクトがある

CPUと一部GPUの性能を測る「Geekbench 5.4.2」の結果。特にマルチコアでの性能向上が著しい

GPU性能を測る「GFXBench」の結果。M1 MaxのGPU性能の高さがよく分かる

性能以外の面でも高評価

――インターフェイスの構成が従来のMacBook Proからかなり変わりましたが、どのように感じますか?

大下 SDカードスロットとHDMI出力があるのはありがたいですよね。デジカメのデータを簡単に取り込めますし、映像を外部ディスプレイに表示させたいと思ったときにも変換コネクタなどを用意することなくすぐに出力できる。自分としては周辺機器をできるだけ持ち歩きたくないので、こういうインターフェイス類は標準的に内蔵してほしいと思っていました。

右側面にはSDカードスロットとHDMI出力端子が設けられた

 内蔵スピーカーのサウンドクオリティも驚くほどです。低音が普通に出ているし、オフィスのデスクに置いてあるモニタースピーカーの意味がないかも、と思うくらい。

 少し残念なのは、USBポートがType-Cのみで、Type-Aがないことでしょうか。バックアップ用のHDDを使ったり、ほかの人からデータをUSBメモリで受け取るようなこともあるので。ただ、周辺機器もそろそろType-Cに移行し始めているから、ここは問題ではなくなりつつあるのかなとも思います。

左側面にはUSB Type-Cポート×2など。Type-Aポートはないが、これからはType-Cだけでも問題ないだろうと見ている

 個人的には16インチモデルは重さや大きさがネックに感じるので、頻繁に持ち運ぶような用途であれば自分なら14インチモデルを選ぶと思います。それと、以前のMacBookシリーズからそうなっていますが、将来的にメモリ不足を感じたときに増設できないのは、やはり気になるところかもしれません。いっそCPUを含むチップセットごとモジュール交換できるようになるとうれしいんですが(笑)。

仕事場に導入するときに選ぶスペックは……

――最後に、もしMacBook Proを仕事場に導入するならどんなスペックを選択することになりそうか、お聞かせいただければ。

大下 外でもオフィスでも使うとして、お金に糸目をつけないのなら、16インチモデルの場合は今回の仕様がベストに近いですね。電車や飛行機などでの移動が多くなるようなら、先ほども言ったように14インチモデルを選択すると思います。

 ストレージはOS、フォント、Adobeのソフトなど必須データをインストールしている状態で少なくとも500GBは消費するので、1TBだと心もとない。ここは2TBは欲しいところです。メモリ容量は今回64GBで、iMacの72GBに近い容量ですが、もしかするとM1 MaxのMacBook Proではここまでの容量は必要ないかも、と感じるところがあります。

 というのも、macOSのアクティビティモニターを見ていると、Premiere使用中はiMacだと大量にメモリを消費するんですが、MacBook Proだとかなり少ないメモリ消費量で問題なく動作しています。これまでのIntelチップのMacとは、メモリ容量については違う考え方で捉えるべきかもしれません。

 メモリを効率的に使えるようになっているとすれば、むしろ32GBなど少ない容量を選んで、それで浮いた分をCPUやストレージなどのグレードアップに使うのもアリかもしれませんが、先ほどの触れたメモリ増設ができない仕様もあるので、将来性も考えながら慎重に検討したいですね。

――今回のMacBook Proをもし大下さんが導入するとしたら、どんな影響を与えてくれると思いますか。

大下 性能に関しては文句のつけようがないですし、外出時用とオフィスワーク用の両方を兼ねられるパフォーマンスを備えているのは理想的な形だとは思います。撮影現場でも編集することがある人なら、すべてを1台でカバーできるメリットは大きいでしょうね。

 ただ正直に言うと、自分の場合は常にオフィスで仕事をしているから、ノートPC 1台に統一する必然性はあまりないんです。オフィスだけで使うことを考えるとどうしても割高感が出てしまう。それでも、MacBook Proのパフォーマンスを体感した今となっては、今後登場するだろうM1 MaxやProを搭載したiMacなどのデスクトップPCには期待せざるを得ないですし、おそらく即買いすると思いますね。

場所を選ばず最大限の生産性を発揮するM1 Max搭載MacBook Pro

 体感でも、ベンチマークテストでも、M1 Max搭載MacBook Pro 16インチモデルの性能の高さを見せつける形となった今回の結果。デスクトップ機との比較であるにも関わらず、動画編集においてこれほどまでに明らかな差が生まれるのは、少し予想外に感じるところもあった。

 大下氏のようにオフィスでしか仕事をしない人にとっては、確かにノート型のMacBook Proよりも、いずれ登場すると思われるM1シリーズ搭載デスクトップ機のiMacなどを待ちたいところ。

 とは言え、外出先で使うような用途が少しでもあるのなら、M1 Max搭載MacBook Proは購買意欲に直結する魅力を持っており、期待通り最大限の生産性を発揮してくれるに違いない。