レビュー

控えめな見た目に充実の機能、第10世代Core対応の「SUPERO C9Z490-PGW」をテスト

C9Z490-PGW

 Intelから第10世代Coreプロセッサが正式発売となった。これにあわせて、Supermicroも対応するゲーミングブランドSUPEROを冠したIntel Z490搭載マザーボード「C9Z490-PGW」を投入。今回、製品発売に先立ってCPUとともにお借りできたので、レビューをしていきたい。

ゲーミング向け“6世代目”は質実剛健で見た目控えめに

 Supermicroが“ゲーミング向け”と称するマザーボードは、2013年に投入した「C7Z87-OCE」まで遡る。C7Z87-OCEは有り体に言ってしまえばサーバー向けマザーボードにオンボードボタンとオーバークロック機能をくっつけただけであったのだが、その後BIOSのUIをグラフィカルなものに強化した「C7Z97」や、見た目のデザインを向上させた「C7Z170-OCE」、そしてIntel Z270搭載の「C7Z290」シリーズ、Z390搭載の「C7Z390」シリーズなどを経て、メインストリーム向けとしては今回で6世代目となった。

Supermicroが2013年にはじめてゲーミングとして投入したC7Z87-OCE

 同社のゲーミング向けマザーボードは、一時期は赤や緑をアクセントに取り入れたヒートシンクを採用していたのだが、C9X299やC9Z390世代でグレーやガンメタルを基調としたシックなデザインとなった。これはC9Z490-PGWでも引き継いでおり、今後もこの路線を踏襲すると見られる。

 一方で、「C9X299-PG300」などではI/Oポートカバーやチップセット、オーディオ回路の分離帯にRGB LEDを仕組んでおり、ユーティリティ上からその色をカスタマイズできる仕様であったのだが、C9Z490-PGWではI/Oポートカバーがホワイトに光るだけで、そのほかのイルミネーション要素はすべて省かれた。

I/OポートカバーのみホワイトLEDを搭載
オーディオ回路分離帯のLEDは未実装となっている

 もともとチップセット部はビデオカードに隠れてしまって意味がないし、オーディオ分離帯も、C9Z490-PGWが想定している複数の拡張カード構成では塞がれて見えないのでばっさり省いた、ということだろう。このあたりは潔く好感が持てる。

 しかし完全にイルミネーション非対応というわけではなく、マザーボード上にRGB LED用のピンヘッダを2つ備えており、ユーティリティ「SUPERO Booster」上からカスタマイズできるようになっている。ただ、今回入手したサンプルについてはSUPERO Boosterの用意がなかったため、機能を試すことができなかった。

ハイエンドにふさわしい4スロットのPCI Express x16

 それでは本体のハードウェアとしての実装を見ていく。まずなにより目につくのは、4基のPCI Express x16形状のスロットだろう。メインストリーム向けであるLGA115xのCPUは、長らくのあいだPCI Expressは16レーンしか出ていないので、マザーボード側としても過剰な実装をしないのがほとんどである。x16形状のスロットが3基あるモデルでも、x8×2とICHから出ているx4としているものがほとんどだ。

 その一方でC9Z490-PGWでは、PCI Express 3.0のスイッチであるPLX Technology(現Broadcom)の「PEX8747」を実装しており、CPUから出ているx16をx32に増やしている。4基のスロットを全部埋めても、接続は実質x8×4となる。

 Supermicroによれば、4基のスロットをすべてGPUで埋めた場合、x16×4の構成と比較しても性能低下は6%程度にとどまる。それよりも4 GPU搭載としたほうが3 GPUより性能が上でメリットがあるため、このような構成となっている。

 さらに特筆すべきなのはそのスロット配置で、2スロットを占有するビデオカードを問題なく装着できる点だ。もちろん4スロット分をすべて活用するためには8スロットを有したPCケースが必要となるが、いまや低価格帯でも備えている製品は多いためさほど問題にならないだろう。それよりもマザーボードがこうした配置になっていることのほうが重要だ。

 余談だが、一時期のマザーボードでは、CPUのVRM部の肥大化、および巨大なCPUクーラーとの干渉を避けるために、ATXフォームファクタで最上段となるスロットが使えない、もしくはx1となっている製品が多かった。

 しかしいまはCPUクーラーも周辺とのクリアランスに配慮した製品が多いうえ、簡易水冷CPUクーラーの普及や、Driver MOSFETによるVRM部の実装面積の縮小によって、再び使えるようになった製品が多い。このあたりも拡張性を重視するパワーユーザーにはうれしいポイントだ。C9Z490-PGWもCPUクーラーの大きさにさえ気をつければ、すべてのスロットを使うのは容易だろう。

4基のPCI Express 3.0 x16スロット
PEX8747を実装することでx8×4構成を実現している
x16とx8+x8の切り替えはASMediaのASM1480によって行なわれる

インターフェイスや電源周りの作りもハイエンドならでは

 C9Z490-PGWではこのほかのインターフェイスも充実している。ネットワークはIntelのGigabit Ethernetコントローラ「i219V」に加え、Aquantiaの「AQC107」を搭載し、10Gigabit Ethernetをサポート。USBではASMediaの「ASM3242」を備え、USB 3.2 Gen2x2に対応する。

 このほか、Intel AX201によるWi-Fi 6や、M.2スロットもPCI Express 3.0 x4接続のものが2本用意されており、接続性や拡張性は十分に確保している。Intel内蔵GPUを利用したDisplayPort+HDMIの2系統のビデオ出力にも対応。ちなみにComet LakeではHDMI 1.4による出力しか対応していないが、本機ではParadeの「PS175HDM」を用いることでDisplayPortをHDMI 2.0に変換し、4K/60Hz出力を実現している。

付属品は比較的あっさりしている
部品実装は背面にまでおよぶ
ヒートシンク類をすべて取り払ったところ
Intel Z490チップセット
SATA 6Gbpsは4基のみ
左がIntelのネットワークコントローラi219V。右はUSB 3.2リドライバの「TUSB1002A」だ
ASMediaのUSB 3.2 Gen2x2コントローラ「ASM3242」
M.2スロットは2基
背面に実装された「ASM1543」はUSB Type-Cコンフィギュレーションチャネルロジック回路つきのスイッチだ
背面のインターフェイスは充実している。Type-Cは2つあるが、1つはUSB 3.2 Gen2x2、もう1つはUSB 3.1だ
オーディオコーデックはおなじみのRealtek「ALC1220」だ
ピンヘッダは長尺ビデオカードに干渉しないよう、横に出す仕組み。POSTコード表示の7セグメントLEDも備える

 VRM部はパッと見たかぎり6+2+1+1フェーズで、さほど大掛かりのものではない。しかしCPUコアの電力供給(VCore)に使われるパワーステージ(ハイサイドMOSFET+ローサイドMOSFET+ドライバを統合したもの)はInfineon Technologiesの「TDA21490」であり、これは90Aもの供給が可能なもので、ASUSの「ASUS ROG ZENITH II EXTREME ALPHA」にも採用実績のある高級品だ。単純計算でも540Aもの供給が可能で、オーバークロックにも耐えうる設計となっている。PWMコントローラはInfineonの「XDPE12284C」だが、こちらについてはいまのところ詳細がわからない。

 CPU内蔵GPUへの電力供給(VCCGT)の2フェーズのパワーステージは、同じくInfineonの「TDA21535」である。このほかシステムエージェント用電圧(VCCSA)はMPS(Monolithic Power Systems)の「MPQ8633B」、I/O用電圧(VCCIO)はMPSの「MPQ8633A」が使われている。

CPUのVRM電源回路部
PWMコントローラはInfineonの「XDPE12284C」
メモリ周りの電源回路部
VCoreのパワーステージはInfineonの「TDA21490」。かなりのハイエンドモデルだ

だいぶ使いやすくなったBIOS

 UEFI BIOSは、Z390世代と同一のものとなっている。同社のBIOSのUIの作りは、X299世代までは一癖あり、使いにくい印象であったが、Z390世代以降は表示自体がクラシックな印象となり、余分なステータス情報がなくなって、だいぶなじみやすいものとなっている。

 たとえば以前のBIOSは、日付やCPU、電圧、温度、ファン回転速度などの情報が常時表示されていて、なおかつ設定項目のタブ自体も大きかった。そのため肝心な項目設定のペインは画面の4分の1程度しかなく窮屈で、12行半しか表示できないため、設定項目が多い場合スクロールを強いられた。

 しかし新BIOSでは時計表示以外のステータスを一切省き、設定項目を17行半表示できるようになったため、だいぶ見通しが良くなっている。個人的には、せっかくUEFIで高解像度が出せるので、画面解像度にあわせて表示項目をさらに増やすようにしてほしかったところではあるのだが、昔の状態から改善されただけでも歓迎すべきだろう。

Z390世代から採用されたBIOSのUI。だいぶ操作しやすくなっている。ただ筆者が入手した1.0a版では、設定を保存せずに終了するとエラーで止まったり、ホットリセットだとiGPU優先で起動してしまうといったバグが残っていた。このあたり製品版で改善されるかどうか気になるところ

 ちなみに初期の頃のC7Z87-OCEでは、BIOSのメモリへのチューニングが不十分で、せっかくのオーバークロックメモリを装着しても、XMPが適用できずなかなか動作が安定しなかったのだが、C9Z490-PGWとG.Skillの「Trident Z RGB(F4-3200C14Q-32GTZR)」(DDR4-3200、CL14-14-14-34)の組み合わせで試したところ、なんらトラブルなく安定動作した。

 なお、同社ではオーバークロックメモリの相性検証もかなり進んでいるようで、互換性リストもホームページ上で公開する予定。筆者が事前に入手した互換性リストでは、おおむねDDR4-3600までは動作しそうな雰囲気であった。

期待以上に速いCore i9-10900K

 今回Core i9-10900KのES品とともにお借りできたので、このマザーボードがCore i9-10900Kの性能を引き出せているかどうかを検証する意味で、「PCMark 10」、「3DMark」、「CINEBENCH R20」を走らせてみた。CPUとしての性能評価は同時に掲載しているので、そちらを参照されたい。

 比較用に、Core i9-9900KとNZXTの「N7Z390」で計測した結果も掲載する。CPUとマザーボード以外のパーツは共通で、メモリはTrident Z RGB(9900K環境ではDDR4-2666、10900K環境ではDDR4-2933に設定)、SSDはPlextorの「PX-512M5P」、ビデオカードはColorfulの「GeForce RTX 2080 Advanced OC」、サウンドカードは「Sound Blaster X-Fi Platinum」、電源はASUSの「ROG-THOR-1200」、CPUクーラーはASUSの簡易水冷「ROG RYUJIN 360」といった環境だ。OSはWindows 10 Pro 1909である。

【グラフ1】PCMark 10
【グラフ2】3DMark Time Spy
【グラフ3】CINEBENCH R20

 意外に大きな差が出てびっくりしたのはPCMark 10だ。Core i9-9900Kの環境では総合スコアが6,881であったのに対し、Core i9-10900Kでは7,582と約10%も差がついた。PCMark 10のスコアは、各項目の算術平均ではなく幾何平均から求められているため、CPUという1つのコンポーネントだけ強化しても目を見張るほどのスコア差にはならない。そのなかで10%ものスコア差がついたのはすごいことなのだ。

 具体的に追っていくと、CPUを多用するDigital Content Creationの項目のみならず、Spreadsheets ScoreやWriting Scoreでもそこそこ差がついている。これらの処理は数ミリ秒で処理が終わることが多いのだが、比較してみるとCore i9-10900K+C9Z490-PGWの環境では終始5GHz前後のクロックで動作し、レイテンシを削減できたのが功を奏したようだ。

PCMark 10実施中のクロック遷移。Core i9-10900K環境では終始5GHz前後で動作した

 ちなみに、いずれの環境も電源のプロファイルなどは変えておらず、マザーボードにCPUをポン付けしてメモリのクロックだけをいじったのだが、なぜC9Z490-PGWが高クロックを維持できたのかは謎である。しかも、アイドル時はどちらも110W前後の消費電力で推移していて大差はなかった。

 いずれにしても、C9Z490-PGWのほうが高パフォーマンス寄りのセッティングであることに偽りはないといっていいだろう。このあたりの仕組みは今後時間があれば改めて検証してみたい。

安定性と機能の両立を求めるパワーユーザーへ

配線はSupermicroならでは。眺めるだけでも楽しい

 もう当然のことなので、あえて触れる必要もないと思うが、Supermicroならではの最短配線の設計はこれまでどおりであった。チップセットやメモリ、PCI Expressバスへ伸びる配線は随一で、信号損失や電力損失を最小限に抑えていることがよくわかる。このあたりはサーバー向けのノウハウが息づいている。

 最新のゲーミング向けマザーボードにありがちな派手さは一切ないが、機能はかなり充実しており、パワーユーザーのニーズも満足できる。「あれこれ機能は欲しいんだけど、光るのだけはいらないんだよなぁ」というワークステーションユーザーにピッタリな製品だろう。SkylakeやKaby Lake世代のデスクトップを使い続けているのなら、買い替え先として選択肢に入れておきたい。