パソコン工房新製品レビュー
デスクトップCPUを載せたミニPC「I-Class Multi」。高性能で静音性もピカイチ
2023年11月8日 06:27
非常にコンパクトで場所を取らないデスクトップPCである「ミニPC」の隆盛にともない、いわゆるメーカー製PCでも小型化の流れが勢いを増しているように感じる。今回紹介するパソコン工房の「I-Class Multi」も、そうしたコンパクトなデスクトップPCの1つだ。
ミニタワーPCやブックタイプPCと比べると圧倒的にコンパクトなサイズながらも、高性能なデスクトップPC向け第13世代Coreシリーズを搭載しており、性能面も期待できそうだ。
ATX対応電源ユニットに似たサイズ感でインターフェイスも充実
I-Class Multiでは搭載するCPUやメモリ容量、ストレージ容量の異なるモデルをいくつか用意している。搭載しているCPUは、前述の通り第13世代Coreシリーズ(Core i3-13100/i5-13400/i7-13700/i9-13900)で、いずれもプロセッサベースパワー(PBP)が65W設定のモデルだ。
冷却性能が高い大型CPUクーラーを搭載できない小型筐体であることを考えれば、妥当なところだろう。またメモリやストレージの容量は、購入時のBTOメニューでもある程度自由に選択できる。
【表1】I-Class Multiの主な仕様(基本構成時) | |
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製品名 | I-Class Multi |
OS | Windows 11 Home/Pro |
CPU | 第13世代Coreシリーズ(Core i3-13100/i5-13400/i7-13700/i9-13900) |
搭載メモリ | 8GB/16GB DDR4(SO-DIMM PC4-25600) |
ストレージ(インターフェイス) | 500GB/1TB(PCI Express 4.0) |
拡張ベイ | 2.5インチシャドウ×2 |
通信機能 | 非搭載(Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2も選択可) |
主なインターフェイス | 2.5Gigabit Ethernet、DisplayPort、HDMI、ミニD-Sub 15ピン、USB 3.1 Type-C(映像出力対応)、USB 3.2 Type-C、USB 3.1、USB 3.0×2、USB 2.0×2 |
本体サイズ | 80×155×155mm |
直販価格 | 8万7,800円~ |
本機の最大の特徴はそのサイズだ。横置き状態だと幅と奥行きは155mm、高さは80mmと、2段重ねの駅弁のようだ。自作PCユーザー向けにたとえるなら、ATX対応電源ユニットに近い。ミニPCのように手のひらにちょこんと載るようなサイズではないが、普通に片手で持てるし、置き場所も選ばない。前述のBTOメニューで「VESAマウントキット」を追加すれば、VESAマウンタ対応のモニター裏側に設置できる。
前面にあるiiyamaのロゴマークに従って縦置きにすると、左側面と天板はメッシュ構造になっている。左側面越しに組み込まれたCPUクーラーが見え、左側面から吸気して天板方向に排気するというエアフローになることが予想される。事実、後で紹介するベンチマークテスト実行時など負荷が高くなったときは、天板を中心にほんわかと全体に熱を持つ印象だった。
前面にはUSB 3.0ポートが1基と、USB 3.1 Type-Cポートを搭載する。Type-Cはデータ通信のみに対応するタイプのようで、モニター出力はできなかった。
背面にはモニター出力端子としてDisplayPort、HDMI、ミニD-Sub15ピン、さらにDisplayPort Alt Mode対応のType-Cを装備し、合計4台までのモニターを接続できる。
ミニD-Sub 15ピンの隣にACアダプタ用の端子を搭載しているのを見れば分かる通り、本機は一般的な電源ユニットではなく、ノートPCやミニPCで利用されるACアダプタで動作する。本体がATX対応電源ユニットに近いサイズであることを考えれば当然だが、本体の小型化に貢献する仕様とも言えるだろう。付属するACアダプタの出力は、120W(19V/6.32A)だった。
そのほかには2.5Gigabit Ethernetの有線LANポートやWi-Fi 6対応の無線LAN用のアンテナコネクタなど、最近の高性能なデスクトップPCらしい装備を網羅している。一般的な用途であれば、搭載インターフェイスにもの足りなさを感じる場面はないだろう。なお無線LANやBluetooth機能は標準では付属せず、オプションで追加する必要がある。
背面から本体を固定する4つのネジを外し、バックパネルの下にある金属プレートを掴んで背面方向に引っ張ると、マザーボードベースに固定された本機のマザーボードが引き出せる。ただしPCケースの前面ポート用ピンヘッダケーブルがマザーボードに挿さった状態なので、断線させないようにゆっくりと引き出そう。
この状態でアクセスできるのは、表面のメモリスロットとシステムドライブ用のM.2スロットだ。M.2 SSDにはかなり大型のヒートシンクが組み込まれており、CPUクーラーからの風が当たる位置なので冷却に関しては心配はない。将来的により大きな容量のM.2 SSDと交換したくなっても、作業自体は簡単に行なえる。
マザーボードベースの裏面を見ると、2.5インチドライブ用のシャドウベイが2基あった。マザーボードベースに開いている小さな穴からは、マザーボードからSATAケーブルを引き出すポートにアクセスできる。
組み込まれているCPUクーラーは、自作PC市場向けに販売されているIntelのCPUに付属するCPUクーラーだった。CPUクーラーが壊れても、高さが合うようならほかのものに変更して修理することも可能だろう。筆者のような自作PCユーザーから見ると、随所に見られる自作PCらしさやメンテナンスのしやすさがおもしろい。
動作音は非常に静か、Core i5-13400らしい性能を発揮
外観を一通りチェックしたところで、電源を入れて使い勝手を見ていこう。今回の試用機に搭載されているCore i5-13400は、高性能コア(Performanceコア、Pコア)を6コア、高効率コア(Efficientコア、Eコア)を4基内蔵しており、合計16スレッドに対応する。
第13世代Coreシリーズの中でも中堅モデルにあたり、Windows 11の操作やアプリの起動、各種操作に関して不満を感じる場面はない。今回はメモリが8GBのモデルなのでちょっと不安はあったが、実際にはちゃんと使えるものだなという印象だ。ただし容量が大きな画像ファイルや動画ファイルを扱うなら、やはり16GBモデルにするか、BTOでメモリ容量を追加したほうがよい。
また、動作音はかなり静かだった。アイドル時はもちろん、Webブラウズや音楽再生、動画配信サイトの視聴などの軽作業時は、ほぼ無音だ。後述するベンチマークテスト時はファンの回転数が上がって動作音は大きくなるものの、テストが終わればすぐにファンの回転数は低下し、静かな状態に戻る。
さらにいくつか基本的なベンチマークテストを実行し、性能を検証していこう。「PCMark 10」は、日常的に利用されることが多いアプリを実行し、その快適度をScoreとして計測できるベンチマークテストだ。Scoreが高いほど性能が高い。Extendedモードの総合Scoreは4,000には届かなかったが、ビデオカードを利用しない構成のデスクトップPCとしてはまずまずと言ってよい。
【表2】ベンチマーク結果 | |
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PCMark 10 v2.1.2636 | |
Extended score | 3,848 |
Essentials | 10,408 |
Productivity | 7,071 |
Digital Content Creation | 5,271 |
Gaming | 1,528 |
3DMark 2.27.8177 | |
Time Spy | 654 |
Fire Strike | 1,871 |
Night Raid | 8,180 |
TMPGEnc Video Mastering Works 7 | |
H.264/AVC | 2:08 |
H.265/HEVC | 4:06 |
「3DMark」は、PCのグラフィックス性能をScoreで計測できるベンチマークテストで、主にPCゲームの適性を測るためのものだ。また実際のPCゲームについても、「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」でその適性を検証した。どちらもスコアが高いほうが性能が高い。
3DMarkのScoreは、CPU内蔵GPUを利用するPCとしては平均的な数値だった。ただファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマークだと、描画はあまりスムーズではない。さすがにビデオカードを必要とするような負荷の高いPCゲームには適していないものの、演出がハデなものも含めてブラウザゲームや2Dのレトロゲーム系なら、まったく不満はない。
TMPGEnc Video Mastering Works 7は、動画のエンコードソフトだ。主にCPUコア部分の性能を計測できるソフトで、処理にかかる時間が短いほど性能が高い。結果を見るとCore i5-13400を搭載するミドルレンジのデスクトップPCとしては妥当な処理時間である。PCMark 10や3DMarkのScore、そしてこうした実際のアプリの処理性能を見る限りでは、筐体が小型だからと言って性能が押さえられているという印象はない。
最後に、CPU温度の状況をチェックしていこう。動作音が静かでも、発熱をうまく処理できていないようでは長く使う上で不安が残る。今回はいくつかの状況でCPU温度を計測し、それをグラフにしてみた。計測したのはアイドル時、動画配信サイトでの動画再生時、PCゲームのプレイ中を想定した3DMarkのStressTest(Time Spyを20回ループで約25分)時、CPUコア部分に強い負荷が連続的にかかるCinebench R23実行時(約10分間)の温度だ。
アイドル時と動画再生時は、40~43℃といったところ。またこうした軽作業時は非常に静かだが、CPU温度は低い状態だった。CPUと内蔵GPUに高い負荷がかかる3DMark時の最高温度は62℃。CPUに連続的な負荷をかけるCinebench R23時の最高温度は76℃と、こちらもCPUの負荷の状況を考えればまったく問題はない。
さまざまなユーザーのニーズにマッチする完成度高めのミニPC
コンパクトで置き場所を選ばず利用でき、しかも性能はビデオカードを搭載しないスタンダードなデスクトップPCと同等と、使い勝手に優れるPCだ。しかも動作音も非常に小さいため、ユーザーの近くに設置することが多いミニPCとしても使いやすい。
大画面のモニターを接続して効率的に仕事をしたいビジネスマンはもちろん、比較的安いので新入学の学生用のPCにも適している。置き場所を選ばないのでリビングなどに設置して大画面TVに接続し、動画配信サービスを楽しむPCとして使うのもよいだろう。
最新のPCゲームをバリバリプレイしたいというユーザーには向いていないものの、逆に言えば「それ以外」のユーザーなら大きな不満を感じることはないはずだ。ベンチマークテストの結果を見ても総じて完成度は高く、幅広いユーザーにおすすめできる優れたPCと言ってよいだろう。