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知っておきたいWi-Fi 7とWi-Fi 6の違い。日本ではいつから使える?

6月8日、総務省でWi-Fi 7の検討が開始された

 Wi-Fi 7の動きが活発化してきた。すでにTP-Linkが3月に製品を発表済みのほか、先日開催されたCOMPUTEX 2023やInterop Tokyo 2023でも対応機器の展示やデモが実施され、一見、製品発売もそう遠くないかのように思える。今回は、そんなWi-Fi 7の概要と最新状況を解説する。

海外は2023年夏も視野に入るが日本は……

 2023年6月8日、総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会(第80回)が開催された。

 この議題は、「広帯域無線LANの導入のための技術的条件」の検討開始について」。広帯域無線LANとは、ずばりWi-Fi 7ことIEEE 802.11beのことで、その技術的条件についての検討がようやく“開始”された。

 国内でも、すでに3月にTP-LinkがWi-Fi 7対応製品の発表会を実施しているほか、昨日開催されたCOMPUTEX 2023やInterop TokyoでもASUSやIntel、NETGEARが製品を展示しており、製品の発売も間近のように思えるが、日本ではなかなかそうはいかない。

 同会議の資料によると、今後の予定としては、7月に委員会が開催され、8月から9月にパブリックコメントを受け付け、その結果を受けて9月に情報通信技術分科会が開催されるとしている。

 そこから実際の技術的条件の作成など、いくつかのプロセスがあると考えると、年内に省令で認可されれば順調という印象で、2024年になったとしても不思議はないところだ。

広帯域無線LAN(Wi-Fi 7)の技術的条件を決めるためのスケジュール。9月に技術的条件が決まる予定なので、早くても日本での解禁はそれ以降

320MHz幅の技術的条件とテスト方法が必要

 すでに6GHz帯は昨年9月にWi-Fi 6Eで認可されているのだから、もはや認可は必要ないのではないか? と思うかもしれないが、Wi-Fi 7では通信時の帯域幅を従来の160MHz幅から320MHz幅(6GHz帯)に拡大することで、速度を倍増することができることが、1つの特徴となっている。

 320MHz幅に関する項目は、現状の6GHz帯の法令には記載がなく、技適のテスト方法なども定められていない。このため、同資料でも述べられているように、以下の2点の検討が必要となる。

  1. 2.4/5/6GHz 帯無線LANの新たな技術・機能に必要な無線諸元
  2. 2.4/5/6GHz 帯無線LANと他システムとの周波数共用条件

 具体的には、屋内または屋外の電波の出力をどれくらいにするのかなどが検討されるはずだ。参考までに昨年9月に改正された省令での6GHz帯の記載は「電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第59号)」で確認できる。

 このように「占有周波数帯幅が一六〇MHzを超え三二〇 MHz以下の場合」という項目を追加する必要がある。

 また、技適の認可を得るためのテスト方法なども検討の必要がある。おそらくTELECなどの検査機関から仮のテスト方法が申請され、それによって実質的な技適検査が開始されることになるが、こうした複数手続きが必要なことから、少なくとも、「正式な」Wi-Fi 7対応機の発売は、日本では2023年夏は現実的ではないと言える。

320MHz幅に関する出力などの無線諸元を決めたり、他のシステムと共有する場合の条件などが検討される

完全ではない「セミ ドラフトWi-Fi 7」なら夏登場の可能性はある

 では、2023年夏に「Wi-Fi 7」を謳う製品が登場することはないのかというと、そういうわけでもない。

 Wi-Fi 7には、いくつかの技術的な特徴があるため、その一部、つまり法令に抵触しない機能のみを実装した「セミ ドラフトWi-Fi 7」のような製品であれば日本での発売の可能性もゼロではない。

従来のWi-Fi 6/6EとWi-Fi 7の違い

 ここで、Wi-Fi 7の特徴となる3つの大きな機能を説明しておこう。Wi-Fi 7では、従来のWi-Fi 6/6Eに対して、以下のような機能が追加されることで、最大速度の向上、および遅延の低減が図られている。

①160MHz→320MHzへのチャネル幅拡大

 アクセスポイントと端末が6GHz帯で通信する際に利用する周波数の帯域幅を従来の160MHz幅(8チャネル分)から、倍の320MHz幅(16チャネル分)へと拡大する。帯域が倍になるので、単純に速度も従来の2倍にできる。

②4096QAMによる変調方式の多値化

 データを電波で搬送する際の変調方式を従来の1024QAMから4096QAMへと変更する。

 Wi-Fiでは電波を細かい搬送波に分けて、そのひとつひとつでそれぞれデータを送信するが、1024QAMでは1つの搬送波あたり10bitのデータを送れるところ、4096QAMでは12bitのデータを送れるようになる。これにより、単純に従来の1.2倍の速度を実現できる

③5GHzと6GHzを組み合わせたマルチリンクオペレーション(MLO)

 従来のWi-Fi 6/6Eでは、2.4/5/6GHzの帯域のうち、いずれか1つを選んで接続する方式だったが、Wi-Fi 7では、これら異なる帯域を組み合わせて利用可能になる。

 たとえば、6GHzで320MHz幅、5GHz帯で160MHz幅×2系統を利用すれば(クアッドバンドが必要)、実質的に2倍の速度を実現できる。

 これは最大速度の向上だけでなく、遅延低減にも効果がある。たとえば、5GHz帯が混雑している場合でも6GHzを使ってデータを通信することで、データを遅延なく届けられる。

 このほか、前述した表のようにストリーム数が16サポートされていたり、MRUというOFDMAで複数端末接続時の通信効率を向上させる技術も採用されていたりする。

 これらの技術は、IEEE 802.11beとして規格化が進められており、2023年7月にドラフト4.0が策定予定となっており、正式な策定は2024年12月が予定されている。

 海外では、技術的な仕様がほぼ固まった段階のドラフト規格で製品が発売されるのが、これまでの通例となっており、2023年夏という発売の目標はこうした通例に従ったものとなる。

 おそらく、海外では今年の夏にドラフト4.0準拠の「Draft Wi-Fi 7」として、ほぼ最終規格と変わらない機能と性能を備えた製品が発売されると予想される。

 一方、日本に関しては冒頭で触れたように、①の320MHz幅の壁がある。2023年夏の段階で、320MHz化は不可能と言えるため、これを無効化した「セミ ドラフトWi-Fi 7」対応機であれば、発売は不可能ではない。

 実際にメーカーが、今年の夏の段階でセミ ドラフトWi-Fi 7製品を国内発売するかどうかは、どちらかというとブランディングやマーケティング的な判断に依るところが大きい。

 たとえば4096QAMによる速度の1.2倍高速化(4ストリームで5,760Mbps対応)などを実装して製品を発売することは不可能ではなさそうだ。

クライアントの対応も必須

 もちろん、いずれの機能であっても、アクセスポイントおよびPCやスマートフォンなどの端の両方がWi-Fi 7に対応していないと意味がない。

 つまり、法的な対応がクリアされ、さらに対応クライアントが普及するとなると、やはり本格的な普及は規格の正式策定と同じ2024年末あたりになるのが妥当と言えそうだ。

 なお、前述したように、Wi-Fi 7の規格上の最大速度は46Gbpsとされているが、もちろん、この速度が実際の製品で実現できるとは限らない。

 TP-Linkが発表しているBE24000のスペックを見ると、6GHz帯の最大速度は11,520Mbpsとなっている。これは、320MHz幅、4096QAM、4ストリーム時の速度となる。

 一般的な製品としては、アクセスポイントで10Gbpsオーバー、PCなどのクライアントは2ストリームとなり最大でも5,760Mbpsとなるはずだ。

TP-Linkが公表しているWi-Fi 7対応機BE24000の対応速度

 また、PCは不可能とは言えないが、スマートフォンで、複数帯域を組み合わせたMLOを実現するには、内部のアンテナ設計が複雑になるため、場合によっては対応が見送られる可能性もある。

 フルスペックのWi-Fi 7というのは、ハードウェア的な難易度も高いため、一部の機能から段階的に実装されていくのではないかと予想される。

 いずれにせよ、海外で先行して発売されることは確実なので、我々日本のユーザーとしては、その評判を見ながらゆっくりと準備することになりそうだ。